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2015 世界フィットネス選手権大会 安井友梨の世界フィットネスビキニ出場記

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[ 月刊ボディビルディング 2016年2月号 ]
掲載日:2017.05.16
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【特別寄稿】2015 世界フィットネス選手権大会 2015 オールジャパンフィットネスビキニ総合優勝者 安井友梨の世界フィットネスビキニ出場記

9月22日に、オールジャパンフィットネスビキニ選手権大会が終わり、2015年世界フィットネス選手権大会の日本代表選手として、選出していただくまでの数週間は、毎日、朝起きてから夜寝るまで“今日、ご連絡いただけるかもしれない”とスマホを何処へ行く時も、いつも肌身離さず持って、ワクワクしながら、スマホと何度も何度もにらめっこを繰り返しました。

しかし、連絡はいただけず、オールジャパンが終わってから、今日か明日かと日が経つにつれて、大きかったはずの期待感が、次第に、抑えきれない不安感に代わっていき、『やっぱりだめなのかな?』と半ば諦めムードになっていきました。

そして、ついに、10月に入り、日本ボディビル・フィットネス連盟から、念願の日本代表として正式に選出していただいたというご連絡をいただきました。うれしかったのは言うまでもありませんが、正直ほっとしました。

興奮冷めやらぬ中、指の震えが止まらず、何度もスマホの操作を誤りながら、お世話になっている方や応援していただいている方に、「世界大会に行けることになりました、ありがとうございます」と片っ端からご連絡を差し上げ、みなさんから代わる代わる『よかったね、世界大会がんばってね』と温かい激励をいただきました。

オールジャパンの大会以降、私だけではなく、私を応援してくださる多くの方が、まさに、私と一心同体かのように、その世界大会出場のご連絡をどれだけ心待ちにしてくださっていたかが、みなさんの感極まった声でわかりました。これほどまでに、私のことを応援してくださって、支えてくださることがうれしすぎて、ありがたすぎて、胸の奥がじーんと熱くなり、電話口のみなさんの顔を一人一人思い浮かべながら、右手がスマホでふさがっていた私は、左手だけでは涙を拭うのが間に合わないほど感激の涙を流しました。
『支えていただいていることへの感謝の気持ちを世界大会の結果でお伝えしたい、そして、応援してくださっているみなさんと再び喜びを分かち合いたい』

オールジャパン以降、もちろん、世界大会に備えて、トレーニングやコンディショニングを続けていましたが、日本代表にご選出していいただいたとわかってからは、気持ちの入り方がそれまでとはまったくかわりました。

世界大会までのカウントダウンが始まるとともに、モチベーションのギアが数段あがり、木澤選手から教えていただいた、「そろそろ“全力で!”のレベルではなく、“命懸けで”全てに向かう時期です、魂を込めてやりましょう」という言葉に従い、集中力を極限まで高めていきました。
『越えられない壁はもうない、壁などもとから何もない』とばかりに、今まで限界だと思っていたものは、なんだったかと思うほど、トレーニングで、おもしろいぐらいに自己記録を更新していきました。

ポージング練習はというと、ポージングセンスがまったくない、そのうえに、競技経験の浅さからの過度の緊張といった、オールジャパンでの反省から、頭で考えながらのポージングではなく、体で覚えるポージングを課題として取り組みました。
同じフィットネスビキニに出場した新井選手(左)と

同じフィットネスビキニに出場した新井選手(左)と

女子フィジークに出場した山野内選手(左から二人目)

女子フィジークに出場した山野内選手(左から二人目)

大沢選手(中央)は女子フィジーク163cm以下級で10位に入る

大沢選手(中央)は女子フィジーク163cm以下級で10位に入る

メンズフィジーク174cm以下級で3位に入った佐藤選手(右端)

メンズフィジーク174cm以下級で3位に入った佐藤選手(右端)

大会までの1か月あまり、時間の許す限り、自主練やレッスンでポージングの練習を繰り返しました。平日は、エクサイズの柏木先生の空いている時間をお聞きしては10分でもあれば仕事が終わった後に駆けつけて1ポーズ見てもらい、その後3時間同じポーズを自主トレして、目をつむってでもできるまで体に覚えさせました。

週末には、斉藤マドカさんのレッスンを受けるため大阪に行き、海外の大会でのステージングを徹底的に習得するように毎週末のように特訓していただきました。マドカさんは、世界大会が近づくにつれ、私が緊張で地に足が着かない様子であるのを見て、しばしばポージングレッスンの足を止めて二人でスタジオに座り込み、大会への心構えをご自身の経験も交えて、とても穏やかな口調で丁寧に語ってくださりました。マドカさんとのやり取りの中で、繰り返される「ゆりちゃん、大丈夫だから。ゆりちゃんなら大丈夫だから」という心温かいキラーワードによって、緊張に凝り固まっていた私は、体だけでなく心の奥までも、確実に解きほぐされていきました。『マドカさんが、大丈夫だと言ってくれたんだから、大丈夫』帰りの新幹線の中、一人で何度もマドカさんの言葉を思い返しました。それを繰り返すうちに、その安心感からか、張りつめていたものから解放され、マドカさんの心やさしさへの感謝が胸にあふれ、それとともに、目に涙が止めどなくあふれてきました。
『なんとしてでも、是が非でも、マドカさんに結果で恩返しをしたい!』という強い気持ちがわいてきて、レッスンで習ったことを一つ残らず自分のものにしようと復習しながら帰りました。

減量については、夏とは勝手が違い、寒くなってきていたので思うように減量が進まなくなり、身体がずっと浮腫んでいたのでMCTオイルを導入したり、普段行わない有酸素を取り入れたり、1か月前くらいから、かなり塩分を控えめにしておりました。世界選手権では、オールジャパンの時よりも一段厳しい絞りが必要と言われておりましたので、目標体重なども引き下げました。

柏木先生からは、身体が浮腫んでいるのが気になると日々言われており、かなり厳しい減量生活となりました。何より、海外の大会でかつ移動時間が長くなるため調整が難しく、体が浮腫む事が予想されていましたので、日本にいる間に、しっかり仕上げていくことを心がけていました。

こうして多くの方のサポート応援を受けてのハンガリーで開催されました、2015年世界フィットネス選手権大会に日本代表として、出発の日を迎えることができました。

11月12日木曜日(大会まであと2日)

朝から、ボディカラー。柏木先生から世界選手権ではスプレーが出来ない可能性もあるから日本でやっていこうとのことでやりました。体のカラーリングはできても、心のカラーリングはできません。大会への不安をかきけそうと、淡々と前もってきめておいたスケジュールどおり準備を進めていきました。

≪最終のポーズ練習!≫

出国するギリギリまで練習をしたかったので、休館日だったジムでしたが、お休みのなか無理をして会長もきてもらいました、あまりの緊張感で普段のジムの景色が全く違うものに見えました。脚が震える緊張感、柏木先生からは、「いつもとポーズが全く違うんだけど!?」とひとつひとつ修正してもらいながら、少しずつリラックスしていきました。

終わって駅まで送っていただき、車をおりた降りた先生が初めて心の奥に大切にしまっていた言葉を口にしました。「今やるべきことは全てやりました。あとは最後の調整をしっかりして、楽しんでこい!」そう言いながら、先生は、私の方にそっと手を差し出しました。

私も、自然に手が出ました。すると先生は、その温かい手で、ぎゅっと私の手を握り、そっと私の目をみつめ、私にありったけの激励を言葉以上に目で伝えようとしました。先生の澄んだ瞳の奥には、やさしさがあふれていました。心が震えるほどになってしまった私は、気の利いた言葉や感謝の言葉も何も出ず、「はい」と小さく頷きながら答えるのが精一杯でした。
「先生には、感謝してもしきれません、先生の期待に応えるような結果を必ず出してきます」とちゃんと思いをお伝えしたかったのですが、電車の時間になり、 “私のことを誰より理解してくださっている先生なので、どんな言葉より、結果で先生を笑顔にしたい”と気持ちを大会モードに切り替え、関空に急ぎました。

関空に到着! 関空で新井敬子選手、佐藤正悟選手、木下コーチと合流し、ドーハへ!ドーハで関東組と合流しました。辻本俊子監督、山野内里子選手、大澤直子選手、中村厚志選手、横川尚隆選手、衛藤佳代子選手と合流。全員で自己紹介と今回の意気込みを話し、ミーティングを行いました。皆んなの並々ならぬ意気込みが! いよいよ、始まるんだ…と思いました!

ブタペストに到着。選手が続々と到着していました。スペインチーム、スウェーデンチームなどヨーロッパのチーム!見渡すかぎりビキニ選手に見えました。まさかこれ全員ビキニ選手じゃないですよね?私が以前からインスタグラムでフォローしている選手もいて、まるでスター見物のような…見たこともないような絶世の美女が…、凄い!

ロビーにも、あふれかえっていて、ビキニ選手らしき若い見たことがない美しい女性が多く驚きました。9頭身金髪お人形のような美しさ! どの女性を見ても、みんなビキニ選手に思え、日本では身長が高い私と同じくらいの、もしくはそれ以上の身長の人ばかりで圧倒されました。アジア人は日本と中国人くらいで、あとはヨーロッパ勢が開催国でもあり占めていました。

計量が始まり、1人ずつ身長を測ります。日本では身長が高いはずの私が、、目線が同じ女性もしくは私より背の高い人ばかりで不思議な感覚でした。私は普段173cm前後ですが、20時間の移動時間もあったのか171cmちょいになり、172cm以下級となりました。どの選手も普段より1・2cm小さくなってしまっていました。

その後ジャッジミーティングを終えた監督コーチと合流し、ホテルで夕食の時間となり、味あり、味なしのコーナーに分かれており、味なしチキンとサラダを食べました。食事のときに、辻本監督からジャッジミーティングの解説がありました。フィジークでは、ボディビルではない身体の美しいアウトラインをマッスルビューティが、ビキニはプロポーションの良さとアスリートの身体が審査のポイントとなるようでした。

さらには、ピックアップ、セミファイナル、ファイナルを同時に行うため、大会初日の土曜は男子フィジーク171cm以下/横川尚隆選手、174cm以下/佐藤正悟選手と中村厚志選手、女性フィジーク/山野内里子選手、大澤直子選手、2日目にボディフィットネス/衛藤加代子選手、フィットネスビキニ169cm以下/新井敬子選手、172cm以下私、172cm超が行われることになったと発表になりました。

日本にいるときから、土曜の大会に向けて調整してきていたのですが、世界大会においてスケジュール変更はよくあることらしく、やるしかない! と頭を切り替えました。

大会1日目は、他の日本選手のサポートとフィットネスビキニ160cm以下、163cm以下、166cm以下の大会観戦をすることとなりました。長時間のフライトで疲れたせいか、眠くて早々に就寝しました。
フィットネスビキニ各階級優勝者。総合優勝はロシアのオルガ・プトロバ(右端)

フィットネスビキニ各階級優勝者。総合優勝はロシアのオルガ・プトロバ(右端)

ビキニ169㎝以下級に出場した新井敬子選手(中央)

ビキニ169㎝以下級に出場した新井敬子選手(中央)

ビキニ172㎝以下級に出場した私、安井友梨(中央)

ビキニ172㎝以下級に出場した私、安井友梨(中央)

11月14日土曜日(大会まであと1日)

朝8時半に集合し、バスに乗り、会場へ。会場は想像以上に小さくて驚きました。きゅりあんの小劇場くらいでしょうか。

フィットネスから大会は幕開けしましたが、まるで体操選手の床競技をみているかのような、高度なアクロバティックに驚き、ストーリーとテンポの早い演技に、シルクドソレイユを見ているかのような気分になりました。

女子フィジークは、山野内里子選手、大澤直子選手。世界の舞台に日本人選手が立っているのを初めて見たのですが、全身鳥肌でワクワクとドキドキで、私も明日なんだと急に緊張感が増してきました。

監督やコーチから、ポーズの指示が飛び、ジャパンチームからは「山野内さん! いいよ!」などと大声援を送り、チームジャパンが一丸となり選手を盛り上げサポートする、その熱さは他のどこの国より際立っていました。辻本監督からは、「エジプトよりも声が出てたよ」とのお褒めの言葉をいただきました。

男子フィジークが始まり、横川選手は、新人にもかかわらず余裕のある生き生きした表情でポーズをとり続け、とても爽やかでした。21歳ながら、その堂々とした振舞いから、早くも大物のオーラが伝わってきました!

次の階級は日本人2選手が出るので、応援にも力がはいります。佐藤正悟選手は誰より美しいVシェイプがしっかりと表現され、体のバランスが際立っていました。ピックアップには、2選手とも残り、セミファイナルへ!

セミファイナルでは、佐藤選手がファーストグループへ!日本応援団のテンションは最高潮に達し、鳥肌がたつような興奮状態でした。世界の舞台で日本人選手が評価されたということがあまりに嬉しくて、チームジャパンみんなが席を立って喜びあいました。ここがまるで、日本であるかのように、気付けば、声がかれるほど、大声援を送っている私がいました!

続いて、フィットネスビキニの160cm、163cm、166cm級のカテゴリーが始まりました。今回の大会は、ハンガリーというヨーロッパでの開催ということもあったからか、参加選手が想定をはるかに超え、急遽大会直前にオフィシャルホテルが変更になったほどでした。特に、ビキニ競技の参加選手が多く、ステージに上がり続ける選手は1列、2列と列を重ね、遂には三列目までにもなり、ステージは、選手で埋め尽くされました。見たこともないその圧巻の光景に、思わず息を飲みました。

“この人数だと、ピックアップを通過することすらも至難の業で、短時間のステージングで、審査員に見ていただくには、よほどアピールが必要になる”しかも、“想定外の規定バックポーズまでも変更になってる。日本でやったことがないよ。どうしよう、どうしよう!明日までに間に合うか?”不安がどんどんつのり、ステージへの恐怖感すら感じてきました。

さらに、ビキニ競技は進み、この階級だけがこうなのかと思っていたら、次の階級はさらに増え、次はもっと増えていました。そして、どの階級も甲乙つけられないほど、選手は皆、筋量が多く、ウエストラインの絞り込みはすごく、腹筋ははっきりと浮き出ておりバキバキで、顔が小さく、足は長く、プロポーションが抜群でした。私がフォローしていたセミプロの有名選手も数々出場しており、あまりのレベルの高さに、選手であることも忘れてしまい、一ビキニファンとしてステージを食い入るように見てしまいました。
“これが世界大会、これが世界の選手のレベル! 動画や写真では何度何度も繰り返し見ていたつもりだったけど、目の当りにすると、桁外れにとんでもないレベル、そして、世界のビキニの人気は凄い! 明日、私はこの選手たちと同じ舞台に立てるんだ!”

フィットネスビキニ・メンズフィジークの競技が始まると会場は超満員になり、歓声が飛び交い熱気が凄くなりました。

期待と不安が交錯しながら、時は過ぎ、これは、大変なことになったなと思いながら、私と新井さんは翌日の大会に備えて、佐藤選手の決勝を残して、ホテルへ先に帰りました。新井選手と2人でお互いにジャンタナタンを塗りあい、いつものようにチキンとサラダだけを食べ、明日の大会にそなえて、夜9時過ぎには就寝しました。
舞台裏で出番を待つ私

舞台裏で出番を待つ私

11月15日日曜日(大会まであと12時間)

夜中の3時に目が覚めました、木下コーチからの連絡で、佐藤選手が3位になったことを知り、見事メダル獲得となった写真を見た瞬間、思わず絶叫してしまい、横のベッドで寝ていた新井さんを起こしてしまいました。新井さんとチームジャパンの快挙に嬉しさが爆発したとともに、二人で佐藤さんに続きたいという思いが沸いてきて、「私たちは、派遣していただいてここにきているんやから、なにがなんでも結果を残さなあかん! もう寝ていられないから、準備しよう。最善をつくそう。ここまできたらやるしかない。二人で頑張ろう!」と新井選手から熱い言葉をかけていただきました。

朝方3時から準備を始めましたが、次第に緊張感が高まり、そわそわと落ち着かなくなってきました。今の私と同じようなプレッシャーを佐藤選手も感じていたであろうに、結果を残したんだと、改めて佐藤選手の世界選手権3位の重みを感じました。メイクとヘアーは、オールジャパンのときはプロに任せていましたが、今回は日本で何度も練習してきたとおりに、自分でノートを見ながら慎重に行いました。自分のファンデーションを塗ると、新井さんから「そんなんでは白すぎるわ、私のは日本に売っていないラテン系の人が使うようなファンデーションだから、これ使ってみて」とやさしく声をかけてください
ました。「これでどうですか? こんな感じはどうですか?」と何度も新井選手に確認しながら、メイクとヘアは8時になんとか完成しました。
ボディフィットネス総合優勝者はドイツのレナタ・ウィルキルセン(右から二人目)

ボディフィットネス総合優勝者はドイツのレナタ・ウィルキルセン(右から二人目)

ボディフィットネス158㎝以下8位に入った衛藤佳代子選手(右から二人目)

ボディフィットネス158㎝以下8位に入った衛藤佳代子選手(右から二人目)

≪大会まであと7時間≫
出番は夕方3時でしたが、会場に早めに入り、スプレータンニングのブースでタンニングを行いました。女性も男性も同じ場所で裸になることに驚きを隠せませんでしたが、次から次へと選手たちが押し寄せてくる中、恥ずかしいとも言える空気ではありませんでしたので、うつむいたまま順番を待ちました。

≪大会まであと5時間≫
身体を動かしたり、汗を出して水抜きを行いました。辻本監督と新井選手と3人で、昨日のビキニの大会を見て、対策を話し合いながら1時間ほどウォーミングアップをやりました。

海外選手の腹筋はすごく、ミドルセクションの厳しさがかなり際立っていたため、腹筋を出すためのアップを辻本監督に習い、繰り返し繰り返し腹筋を意識できるまで調整をしました。

≪大会まであと3時間≫
辻本監督と新井選手と前日に見たバックポーズの変更部分のポーズ練習を行いました。午前中の大会であった衛藤選手に、自身の競技が終わってから、山野内選手と一緒に、ポージング練習を見ていただきアドバイスをいただきました。お尻は突き出してはいけない、片手を腰にあて、重心は片方にのせる、お尻を突き出すと減点対象となるとのこと。ステージ上で、かなり多くの選手が注意を受けているのを前日に見ていたので、しっかりポーズを取れるように何度も繰り返し練習しました。

初めてのポーズに慣れないながらも、監督や他の選手に何度も練習を見てもらい修正していきました。気を抜くと、ついつい、日本でやっているポーズをとってしまう、練習を重ねてきたことで体が自然に反応してしまう。片方の手を腰にあてると、どうしても背中を広げにくくなり、何度も注意され、その都度直し、辻本監督にアドバイスいただき、なんとかポイントを習得しました。

他の外国選手は、ポーズをとらなくても肩はモリモリと盛り上がり、脚は大腿四頭筋がくっきりとしていてしっかり鍛えられ、サイドをとったときのウエストの薄さ、肩胸のボリュームから、ウエストの薄さ、そして、お尻のS字カーブがかなり強調されていたので、周りの選手を見ては、自分の身体を見て、その差の大きさに愕然としてしまい、同じ舞台に立ったときにどうなるか不安は止めどなく募っていきました。

≪大会まであと1時間≫
パンプをかなりして肩や脚を出していこうと思い、時間をしっかりかけ入念に備えました。辻本監督がかかりきりになって、背中のマッサージや肩のパンプのお手伝いをしていただいたおかげで、緊張や長時間のフライトでガチガチにかたまった背中が、かなり楽になり動きやすくなりました。

ステージの時間が近付くにつれて、緊張で足が震え、頭が真っ白になっていき、監督と言葉をかわす余裕もなくなってしまいました。

≪大会まであと10分≫
出番が近づくにつれ、鼓動が高鳴る、どくどくと心臓が音をたてるのがまるで聞こえてくるようでした。舞台袖に招集されると、世界の舞台に立つこの日を夢みてきた毎日を思い返しました。
“ここまで来させていただいたのは、いったいどれだけの多くの人たちから、サポートや応援をしていただいたおかげだろうか?”

今この瞬間を迎えた幸せをかみしめると同時に、心からの感謝が湧き上がり、スマホで日本からの応援メッセージや動画を何度も見て、気持ちを整え、ステージへ集中力を高めていきました。
“感謝の気持ちは、無限の力をくれる。みなさんに恩返しを”

辻本監督と固い握手をして、いよいよカテゴリーのコールがかかりました。『もうやり残したことはない、全てを出し切ろう、世界の舞台を楽しもう』前のカテゴリーで新井選手のステージを舞台袖で見ていました。監督やコーチ、そして、チームジャパンの大声援が会場に響き渡り、それに新井選手も応えた、見事なステージでした。

≪大会まであと1分≫
そう思いながら階段をあがり、いざステージへ! オールジャパンのときのような、頭が真っ白になって、怖くて、足がすくみ震えるような感覚ではなく、審査員、観客も、会場をゆっくり見渡せる適度な緊張感でした。

私のカテゴリーは29人。まず15人ずつ2組にわかれてラインナップしフロントポーズを。次に、5人ずつ呼ばれて比較審査をし、クォーターターン。次は、私の番だ。クォーターターンは、日本でこの1ヶ月間マドカさんと毎週とことん練習し御指導いただいてきたので、自信を持って出来ました。なるべく、しつこく動きを多めにしないと海外の選手に埋もれて見てもらう事すら出来ない状況でしたので、日本でやる以上に動きを意識して多めにポーズしました。“やりきった、やり残した事はない”どこの国よりも力強い、チームジャパンの大声援が嬉しかったです。

大会終了。舞台を降りて、予選通過できたのか発表を待つこと数分。私は494番。49、6498、488…呼ばれません。“終わった。終わっちゃったんだ…”目標だったベスト6はおろか、ベスト15にも入れない完敗でした。世界の壁は高く厚かったです。

なにがダメだったのか、監督やコーチ、他の日本の選手応援団に聞きました。どのくらい世界の選手と差があり、今後どうしたら差を縮められるのか、知りたかったのです。夢見た舞台は一度しか上がる事を許されなかった、あっという間に終わってしまった、幻のように…。

世界の選手と、こんなに差がついていることに驚き、世界のビキニ選手のレベルが格段にあがり進化していました。昨年の画像や映像を徹底的に研究してきましたが、とんでもないレベルになっていました。顔は小さく、手足が長く、腰の位置は高い、ポーズをとらなくとも盛り上がる肩や脚。ウエスト周りは全員が薄く腹筋は出ていて当たり前。胸とお尻にボリュームがあり、S字カーブがうまく表現できている。これは、最低条件。これらを舞台袖に立つまでに備えていていなければ、スタートラインにも立てない。

そんな中であとは他の選手より優るポイントをいくつ持てるのか、それをポーズで強調し、舞台でアピールしていく。今回お尻をつきだすポーズは禁止になり、減点対象となっていました。フィットネスビキニとはセクシーなポーズを求めているわけではなく、あくまでも、フィットネスビキニという競技の中で、アスリートとして、鍛えあげられた筋肉美をより美しく表現するためのポーズが求められ、上位の選手ほどシンプルなポーズでより筋肉美をうまく強調して表現していました。

今回、世界のビキニトップ選手を実際に見る事ができ、また、一緒に並ばせていただき、ここまでフィットネスビキニという競技が発展し、爆発的な人気があるということを実感しました。日本代表として、派遣していただいたので、必ず結果を手にして、帰国しなければいけないと強い責任感を持って大会に臨みました。

しかし、結果は伴わず、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。そんな気持ちでホテルに戻り、すぐに、アフターパーティに参加しました。各国の選手が一同に集まっていました。間近にみる選手は本当に迫力があり、ドレスアップをした選手たちは、まるでハリウッド女優のようでした。しかし、完璧なスタイルの選手たちも、大会が終わりると、お皿に山盛りの食事を何回でも取りに行く姿を見せていました。やはり身体を作るには食事が大切で、食べなければあの身体は作れないのかと思って見ていました。

パーティーが終わり、部屋に帰ったら、あまりの疲れに爆睡し、夜中に目が覚めました。大会会場では、泣くことはなかったのですが、緊張感から解き放たれたのか、悔しさが後から後から止めどなく込み上げてきて、布団の中で一人でわんわんと泣き続けました。

そして、今年の3月からずっとポーズ指導して下さった齋藤マドカさん、行きの関空から、リアルタイムで時差関係なく調整を指示し、口に入れるもののタイミング全てを管理して調整を進めてくださった柏木先生などに報告の連絡をしました。応援、サポートをしてくださった皆さんに恩返ししたかった。結果で返したかった! 涙はとまることなく、悔しさと自分の無力さがぐるぐると頭をかけめぐりました。

トレーニングをスタートして、11ヶ月。この世界選手権の舞台に立たせていただいたことは、まるで夢のようですが、現実の話です。11ヶ月前の私は、まさかこうして、ずっと憧れてきた日本のトップフィットネスビキニ選手である新井さんの隣のベットで寝て、日本代表として世界に挑戦できることを想像していませんでした。雑誌の中の憧れの人とこうして世界に挑戦できたこと! 今回の素晴らしい経験は、絶対に無駄にしない。必ず世界にリベンジする。次はメダルを獲得する。来年絶対にまた戻ってくる、必ず!

そんな気持ちが悔しさと共に湧き上がり、世界で通用するフィットネスビキニの選手になるため、すぐに始動するんだという熱い思いがこみあげてきました。今回の負けをバネに深く沈んで、大きく飛躍して見せるんだ…。もう、次の闘いは始まっています。
“一年あれば必ず身体は変えられる”と帰りの飛行機で佐藤選手が私に言いました。

世界3位という輝かしい成績を残しながらも「悔しい気持ちが9割、絶対次は負けない。チャンピオンになる」と話す様子に、心打たれました。実際に世界大会を見て、明確な目標を持ってトレーニングし、今回の経験を糧に来期バルクアップします。
“一年あれば必ず身体は変えられる。一日だって決して無駄にしない”と強い決意をしました。

このような素晴らしい経験をさせていただく機会をいただいたJBBF関係者の皆様、応援して下さった皆様、齋藤マドカさん、柏木先生、そして、チームジャパンの皆様、本当にありがとうございました。ボディビルやフィットネス競技は、ステージにおいて一人で戦うものだと思っていましたが、今回の世界大会において、チームジャパンとして全員一丸となって戦う中で、心と心の絆を実感するという一生の宝物になるような経験をさせていただきました。

このような心と心の絆を大切にして、皆様にフィットネスビキニというすばらしい競技をさせていただいていることを心より感謝し、今後ますますボディビル・フィットネス競技が発展し盛り上がりますように、微力ながらお役に立てればと強く思っております。
今回のチームジャパンのメンバー

今回のチームジャパンのメンバー

  • 安井 友梨(やすい・ゆり)
    ビキニアスリート・外資系金融機関営業職
    1984年1月13日生まれ
    愛知県名古屋市市出身/身長173㎝

    <主なコンテスト歴>
    2016年 JBBFオールジャパンフィットネスビキニ選手権大会総合優勝
    2015年 JBBFオールジャパンフィットネスビキニ選手権大会総合優勝

写真:
川口真輝
[ 月刊ボディビルディング 2016年2月号 ]

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