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IPF 33th Women´s & 42th Men´s World Powerlifting Championships 2012 吉田進のぶらりパワー旅・プエルトリコ編 世界パワーリフティング選手権大会 10のビックリ!!

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月刊ボディビルディング
掲載日:2017.08.01
2012 年10 月29 日〜11 月4日/プエルトリコ・アグアディーヤ

文と写真=吉田進
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ビックリ1:プエルトリコはアメリカだった!

 今回の旅は長旅になる。なんせ遠いし、大会は1週間だし、その前に理事会もあるし総会もある。
 2012年10月26日土曜日。珍しく羽田発のアメリカン航空。朝早い便なので4時に家を出る。ニューヨーク経由でプエルトリコのサンファンまでの長い長い旅。飛行機の中で映画を4本見たが、すでに何を見たかを忘れているということは、あまり印象的なものを見ていないということか。日本時間では昼間に移動だから、ほとんど眠れないままニューヨーク。乗り換え時間はそんなに長くなく、今度はプエルトリコの首都サンファンを目指す。

 一人だけ早めにサンファンに着くから迎えが来ていなければヤバい。サンファンはプエルトリコの一番大きな都市。しかし試合はプエルトリコ島の反対側にあるアグアディーヤ。高速道路を使って3時間。サンファン空港に迎えがいなければ、(不可能ではないが)ホテル名だけでプエルトリコを横断して無事たどり着けるかどうか?

 ちょっと心配していたが、迎えはすぐに見つかった。見覚えのある若い選手。昨年の世界選手権にも出場していた59kg級の選手だ。ペルーから来ていた女性選手を加えて3人でアグアディーヤを目指す。

 高速道路で見かける車はほとんどアメ車。高速を降りたところに点在しているファーストフード店は全てアメリカ資本。日本で見かける店と変わらない。まるでアメリカ。そう言えばプエルトリコはアメリカの属国。その意味が日本人にはピンと来ないが、アメリカが支配しているのだろう。途中お腹が減って入ったドライブインのハンバーガーの味も完全にアメリカ。ほとんどの人が英語をしゃべるのもアメリカ。

 どうやらここは中米、あるいはカリブ海の独立国というわけではなく、アメリカそのもののような雰囲気だ。ただし、アグアディーヤは400年前にコロンブスが上陸したところで、小さなダウンタウン(というより商店街)はスペインの雰囲気あふれる古い町だった。
会場から見えるカリブ海。きれいな海だが、泳いでいる人は誰もいない。

会場から見えるカリブ海。きれいな海だが、泳いでいる人は誰もいない。

福島友佳子が殿堂入り!

 27日はIPFの理事会。今回の話題の中心は、昨年再選されながら途中で降板したアルブリングス会長に代わる新会長の選出。これは理事会で選ぶわけではなく総会決議。理事会では立候補しているガストン・パラージュ理事とジョニー・グラハム理事の立候補意思が変わりないことを確認するだけ。知っている人同士の戦いになるので、みんななんだか居心地悪そう。

 日本注目のベンチプレスシャツやベンチプレスに関わるルールの変更は、理事会では特に大きな話題とならず、変更しないまま現状で行こうという合意。

 2012年から始まったクラシック・ワールドカップは成功だったということで、来年からの続行が決まり、名前もクラシック世界選手権とすることになった。さらに2015年までの開催地はすでに立候補があり、全て理事会で承認された。つまりクラシックはIPFの中で正式に市民権を受けたということ。しかもかなりの人気だということがはっきりした

 28日はIPF総会。最大の議題、新会長選びは盛り上がった。選挙の前に候補者の5分間演説が許される。ジョニー・グラハムは落ち着いて自信たっぷりの演説。それを聞いているガストン・パラージュは珍しく緊張している。私の隣に座っているので観察していると、指は震えているし、あたりをきょろきょろ。挙動不審状態に陥っている。

 そして、ガストンの演説。緊張して早口でちょっと変な英語を喋りまくるので、実は何を言っているのか意味不明。しかし、エネルギッシュであることと、I P F の財政を担当して10年、赤字のI PFを黒字にした実績がみんなに伝わっているようだ。

 続いて投票。配られた紙に、二人の名前が書かれているので、自分の推薦する方にチェックを入れて投票箱に入れる。

 結果はガストン34票、ジョニー18票でガストンの大勝。アジア選手権に顔を出し、南アメリカ大会に出席し、世界中に足を運び、自分を売り込んできた成果がここで出た。やはりエネルギーあふれる人間に人々は投票したくなる。

 すこし心配な事は、日本のベンチプレスに過去10年間いちゃもんをつけてきた張本人がガストンだということ。しかし逆に会長になったら、一つの国だけを攻撃するわけにはいかなくなる。日本にとっても良いことなのかもしれない。

 総会でのもう一つの大きな話題。今年のIPF殿堂入り選手の承認。実は前日の理事会ではすでに承認されていたが、総会の承認もなければ本決まりではない。

 女子は日本の福島友佳子。世界パワー3回優勝、世界ベンチでの連続制覇。それが評価され満場一致で承認。日本では因幡、伊差川に続き3人目。女子では初めて。

 男子はポーランドのオレック。2000年に入ってから世界選手権で負けたことがない。スクワット、トータルで何度も世界記録を更新してきた。彼も全員一致で承認。海の見える素晴らしい会場で行われたIPF総会は、途中夕食タイムをはさみながら和気あいあいに進められ、そして無事に終了した。
IPF総会。新会長に選ばれたガストン・パラージュ。

IPF総会。新会長に選ばれたガストン・パラージュ。

ガストンの入れ歯がすっ飛ぶ!

 無事でなかったのは、総会が終わった後、試合が進行する日も続行された理事会。一番もめたのは会計を誰にするかだ。

 今まではガストンが会計。組織の中でお金を握る人間は徐々に力も持っていくのは当然。ガストンがいきなりIPFの会計になったのは確か2000年ごろ。その後しっかりとお金を集め、使い方を絞り、赤字ぎりぎりの組織を黒字にしたばかりか、年間予算を大きく伸ばすことに成功。

 ガストンは新会長になるにあたって、IPFのお金を自分のコントロールできる範囲においておきたい。そこで今まで通りにルクセンブルクの銀行に金を預けたまま、自分のいいなりのノルウェーの役員を会計に指名。これに多くの理事が反発。IPFのお金をガストンから引き剥がす案を提出。

 ここで、ガストンとジョニーが机をたたきながらの大応酬。特にガストンは目に涙を浮かべながらも、「俺のお金の使い方がそんなに信用できないのか!」と怒鳴る。ジョニーは「お金の使い方の不必要な疑いを避けるためにも、会長の国にお金を置くのではなく、会計の人の国にお金をおけ!」と。ガストンは怒鳴りすぎて、入れ歯が一本すっ飛んで机に落ちる一幕も。

 私は笑いそうになったが、誰も笑わず。いや、笑える空気ではなかった。

 あまりにもガストンが頑張るので、ガストン案で決着。しかし、これからみんなで新会長の動きに注目するので、変なことにはならないだろう。お金をコントロールしてきた人間に対して周りの目は厳しいんだと再認識。

ビックリ4:殿堂入り選手が優勝できない!

 女子の47kg級から世界選手権がスタート。会場はアグアディーヤの海の横に建つ、アグアディーヤ唯一の体育館。海の眺めがとてもきれい。でもだれも泳いでいない。

 このクラスはいつもの二人が大激戦。一人は日本の福島友佳子。今年のIPF殿堂入り。もう一人は台湾のチェン。彼女も過去に殿堂入りしている。彼女のすごさは、ウェイトリフティングでも北京五輪で銅メダルを獲得していること。この二人が直接対決するときはいつも接戦になる。福島が1度勝ち、2度負けている。今年は?

 チェン、相変わらずスクワットが好調だが、いつもとちょっと違うことが。試技が終わるたびに足を引きずって、顔も痛みで歪んでいる様子。ウェイトリフティングで痛め、手術した膝が完治していないよう。それでも強い!

 福島の得意技はベンチプレス。世界ベンチでは何度も連続優勝してきている。しかし、今回は1本目、2本目と失敗。後のない3本目でようやく成功。ベンチで大きく記録を伸ばすことができなかった(それでもサブトータルで福島が17.5kgリード)。

 デッドリフトではチェンが2本目で180kgを決めたところで、福島は重大な決心をしなければならなかった。5kgアップで安全に成功することを狙う。これは一つの方法。この方法はチェンが第3試技を失敗したら優勝が決まる。別の方法は10kgアップを狙う。チェンも逆転をするには大きくジャンプしなければならなくなる。自分の成功の可能性は五分五分になるがチェンの成功の可能性も低くなる。自分さえ成功させれば優勝が転がり込む。

 考えた末、10kgアップでチェンを追い込むことにする。大切な福島の167.5kg。引けば優勝が見えてくるはず。しかしこの日の福島にはこの重量は重すぎた。途中で止まってしまい、失敗。

 チェンも10kgアップの190kgに挑戦するが失敗。福島は5kgアップでよかったのかと悔やんだが、試合途中にそこまでの計算は難しい。殿堂入りした福島、痛恨の2位。

 同じく殿堂入りした不敗の王者オレック。74kg級で独走と思えたがブルガリアの24 歳ペコフに接戦の末敗れた。オレックがスクワット2本目に355kgを成功した後、いきなり17.5kgジャンプして372.5kgの世界記録に挑戦し失敗したのが悔やまれる。私の記憶でもオレックがスクワットで立てなかったことがないのに、今回はつぶれてしまった。ここで、常勝オレックの歯車がずれ始めたのだろう。オレック約10年ぶりに世界選手権で優勝を逃した。

 それにしても優勝したペコフ(弱冠24歳)の891kgという記録はすごい!
殿堂入りを果たした福島。女子では日本初。

殿堂入りを果たした福島。女子では日本初。

だが、優勝は台湾のチェン(写真中央)にさらわれてしまった。

だが、優勝は台湾のチェン(写真中央)にさらわれてしまった。

もう一人殿堂入りしたオレック(写真右)。しかし、大会では弱冠24歳のペコフ(写真左)に敗れる。

もう一人殿堂入りしたオレック(写真右)。しかし、大会では弱冠24歳のペコフ(写真左)に敗れる。

ビックリ5:女子で体重4倍スクワット!

 女子で体重の4倍以上のスクワットを成功させた選手が二人いた。一人は47kg級のチェン。46.29kgの体重で190kg(世界記録)。膝が痛くて泣きながら成功させる姿には鳥肌が立つ。

 もう一人は52kg級のオチョア(エクアドル)。51.88kgの体重で215kg(世界記録)。男子の52kg級がなくなって久しいが、因幡選手が世界選手権で連勝を続けているときにこのクラスで200kgを超えていたのは彼しかいなかったことを考えると、如何にこの記録が突出しているかが分る。実に体重の4.15倍。君にこの倍数のスクワットができるか?

 そういう特別すごい試技は別にしても、世界の女子のレベルは上がっている。世界のレベルが上がったことをものともせず、63kg級で戦った北村真由美は堂々5位入賞。スクワット207.5kg。ベンチプレスは157.5kg(世界マスターズ新)でトータルは557.5kg(世界マスターズ新)の日本最強記録。優勝はウクライナのソロビオーバで記録は633kg。600kgを超えたのは彼女ひとりなので、このクラスで北村はまだまだ順位を上げられそうだ。

 52kg級で戦った寺村美香。M2だが一般の世界大会で戦っている。ベンチプレスでマスターズ世界記録となる95kgを上げ、トータルは387.5kg。なかなかの記録だがレベルの上がった世界大会では12位。400kg台へのジャンプアップが望まれる。

 57kg級には寺田幸枝(加藤幸枝)。スクワットとベンチプレスでは普段の力が発揮できないで苦労していたが、デッドリフトで発奮、175kgの自己新記録で世界大会を終えた。トータルは425kg、10位。いつでも450kgを超える力を持っているので入賞も可能なはず。今後の試合展開が期待される。
体重の4.15倍のスクワットを上げたオチョア(写真右)。M2ながら一般で戦っている日本の寺村。

体重の4.15倍のスクワットを上げたオチョア(写真右)。M2ながら一般で戦っている日本の寺村。

ビックリ6:あまりにも美しいフォーム!

 数年前から気が付いていたが、世界選手権のトップ選手のフォームが徐々に変わってきている。しかも見たことのあるフォームに。

 スクワット。まずワイドスタンス。膝はあまり前に出さない。腰はやや後ろに引くが極端ではない。背中の前傾もあまり大きくない。印象としては腰高。

 そう、私が『パワーリフティング入門』で理想のフォームとして書いてきたフォーム。膝、腰などの関節の可動範囲をなるべく小さくし、バーベルの移動距離をできるだけ小さくする。

 例えばスーパーヘビー級で460kgの世界新記録を(軽々と)達成したロシアのコノバロフ。私はこのフォームを見て、「最高!」と叫びながら写真を撮ったぐらい。

 93kg級で377.5kgのスクワットに成功したウクライナのブラニーのスクワットもほれぼれする。

 日本の久保もこのクラスで355kgの日本記録を達成した。長い間破られずにきた前田選手の90kg級、100kg級のスクワットの記録を超えた。若い久保のフォームにも膝を完璧に割るという共通点が見られる(膝が少し前に出ていて、外人選手たちほど体の後ろ側の筋肉に頼っていないが)。

 スーパーヘビー級で10人の選手が400kgを超える時代。超高重量スクワットフォームにはある一つの方向性が見えて来ている。
あまりにも美しいスクワットのフォームだったロシアのコノバノフ。460kgの世界新。

あまりにも美しいスクワットのフォームだったロシアのコノバノフ。460kgの世界新。

93kg級の久保もスクワットの日本記録樹立。

93kg級の久保もスクワットの日本記録樹立。

ビックリ7:あまりにも接戦、105kg!

 どのクラスも接戦に次ぐ接戦。接戦が最近の世界選手権のキーワードになる。オリンピックを見ていても、あるスポーツが成熟してくると、人間の力やスピードはだんだんある一点に近づいてくる。その一点の記録が徐々に高まっていくのも共通。パワーリフティングもそういう時代に入ったようだ。だから、見ている方は手に汗を握り、選手の方は一瞬たりとも油断が出来なくなっている。

 その代表的なクラスが男子の105kg。スクワットは3人が400kgオーバー。恐ろしい世界だ。

 ベンチプレスはウクライナのドブガニュックが300kg、310kg、315kgと3連続世界記録。恐ろしいレベルだ。

 ベンチプレスが終わった時点で1位ドブガニュック735kg。2位ロシアのレベッコ695kg。3位ルクセンブルクのコインブラ660kg。コインブラは昨年のチャンピオン。しかしサブトータルでちょっと差が開きすぎた。レベッコは信じられないぐらい筋肉の塊。身長は私より低いから170㎝無い。後ろから見るとまさに冷蔵庫。デッドリフトでどんどん記録の伸ばしドブガニュックを抜いてトップに立つ。優勝が見えた。

 ここで3位につけていたコインブラがコーチとやり合っている。近くに寄ってみると、コーチは確実に2位を狙いに行けと指示。それを聞いたコインブラが怒っている。「俺は優勝を狙いにここに来たんだ。何キロでもいい、逆転の重量を申請しろ!」とうとうコインブラの気迫に負けたコーチが第3 試技の重量を変更に行った。387.5kg。第2試技より32.5kgアップ。あり得ない重量選択だ。彼のベストは確か370kg程度。自己ベストより20kgも高い!

 怒りにまかせて、ステージに立つコインブラ。信じられないことにバーベルは上がり続ける。ゆっくりゆっくり。そしてフィニッシュ。赤1白2で成功。世界選手権でもめったに見られない大逆転劇だ!

 しかし試合はここで終わらなかった。フィニッシュが明らかに甘いとロシアのコーチが抗議。そのまま約20分、審判員、陪審員、ロシアのコーチを巻き込んで激論が続いた。サイドから見ていた私には補助員が邪魔であまりクリアーに試技を見ていない。会場の観客の印象は失敗じゃないの? という感じ。

 結局陪審員判定は赤2、白1で割れて、審判員の判定を覆すことができなかった。コインブラの優勝が決定した。
105kg級表彰。コインブラのデッドの甘い判定で2位となってしまったレベッコは明らかに不満。

105kg級表彰。コインブラのデッドの甘い判定で2位となってしまったレベッコは明らかに不満。

ベンチで315kgの世界新を出したドブガニュック。

ベンチで315kgの世界新を出したドブガニュック。

ビックリ8:あまりにもハイレベル+120kg

 どのクラスもレベルがどんどん上がっている。特に今年その印象が強かった。

 一番びっくりしたのは+120kgのスーパーヘビー級。下馬評ではロシアのコノバロフがスクワットで他を引き離して優勝では? というのが有力。

 一方アメリカ陣営からは新人のブレイン・サマーがスクワットで世界記録を出すのは確実との情報。さらにノルウェーからは久々に超ド級の新人が登場とのうわさも。

 ふたを開けてみると、アメリカのブレインはしゃがみが高め。1本目の440kgを高さで失敗し、2本目にようやく取るが3本目の450kgは失敗。ベンチは300kgに届かないのでトップ争いから脱落。

 一方ノルウェーの新人はすごかった。弱冠22歳。身長は190㎝以上、体重は163kg。あどけない顔と只者ではない巨体の組み合わせが不思議なクリステンセン。スクワット445kg、ベンチ330kgでサブトータル3位。

 ロシアのコノバロフはうわさ通り、世界記録2連発のスクワットとベンチプレス340kgでサブトータルトップ。サブトータルで800kg行ったのは彼だけ。

 ウクライナのテストフはスクワット435kg、ベンチ357.5kg(世界記録)でサブトータル2位。

 そしてデッドリフトに突入。誰が優勝するかわからない中でやっぱりデッドリフトが強い方が勝ち残っていく。コノバノフが345kgでトータル1145kgの世界記録でトップを奪うが、それをテストフが355kgの成功で逆転。トータルは1147.5kg。これも世界記録。

 ここで、2本目を軽く成功させた22歳、クリステンセンが最後のデッド375kgで逆転優勝をかける。成功すればトータル1150kg!

 375kgはじわじわと上がり、ひざを過ぎ、ほぼフィニッシュ。だが右のグリップが外れそう。主審それを見てなかなかダウンと言わない。そのうちグリップが外れ、バーベルは床に落ちてしまった。ノルウェーは抗議をしたが、グリップがゆるみつつあって動いているうちはダウンの合図は送れない。ここでは問題は起こらず、クリステンセンは3位。しかし私の眼には、近い将来この若者が夢の1200kg台で世界を制覇する姿が見えた。
弱冠22 歳のクリステンセン。+120kg級で3位だったが、近い将来彼が 世界を制覇するだろう。

弱冠22 歳のクリステンセン。+120kg級で3位だったが、近い将来彼が 世界を制覇するだろう。

ビックリ9:ドーピングテスト38検体!

 総会でも報告があったが、IPFはIOCの公認を目指している。もし公認種目になったからといってもすぐにオリンピックに入れるわけでない。逆に公認になればそれだけ厳しい目でパワーリフティングがIOCからチェックされる。

 その項目の一つがアンチドーピング。すでにIOCからの厳しい注文で、WADAの下、ドーピングテストに励んできた。全ての結果をホームページで公開し、違反の多い国は1年
間の出場停止。2度目の陽性選手は追放。ここ2・3年は抜き打ち検査の量を増やしてきている。

 今回の世界選手権では世界記録達成者を含めて38名のテストを実施した。ドーピング違反者は絶対に許さないという徹底した姿勢がここに表れている。この記事を書いている12月上旬、まだテストの結果は公表されていない。ということは、陽性者がいるのかもしれない。IPFはそういう場合でも全ての結果を公表している。

ビックリ10:どう戦えばいいんだ日本選手団!

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 日本男子で入賞したのは唯一66kg級の佐藤義宏選手のみ。体重を1クラス上げて地力が増してきている。スクワット255kg、ベンチ202.5kg(種目別銅メダル)、デッドリフト235kgの692.5kg6位。レベルの上がる世界選手権でメダルを狙うには700kg台半ばの記録が必要だ。

 59kg級に初出場した飯村武人はトータル590kgで9位。スクワットもベンチプレスも1本目しか取れなかったのは残念。トータル記録を伸ばすためには各種目で成功試技を積み重ねるしかない。試合の進め方も参考になったのではないか?

 デッドリフトのフォームは素晴らしい。

 75kg級の大谷憲弘。スクワット297.5kgとかなり思い切ったスタートをしたが3本とも失敗、失格。スタート重量はウォームアップと考えられるほど楽に出たほうが後が楽になる。

 83kg級森昌宏。スクワット、ベンチプレスと確実に試技を重ねて行ったが、最後のデッドリフトで疲れが出てしまったようだ。トータル812.5kgで11位。

 93kg級荒川孝行。安定したフォームと確実な試技の積み重ねに定評がある。若いと思っていたがいつのまにかベテラン選手と言われるようになった。トータルは825kgで11位。

 同じクラスに出場の久保公平。日本選手団若返りの一人。スクワットの日本新記録はすばらしいの一言。今後はベンチプレスとデッドリフトの強化。トータル805kgで13位。

 105kg級の阿久津孝仁。スクワットの1本目こそ赤判定だったが、そのあとは全て成功。そしてそれがトータル870kgの自己新記録につながった。素晴らしい記録だがそれでも12位。世界は一体どこまで伸びて行くのか!

 120kg山本たつま。スクワットでは1本しか成功せずに心配しながら見ていたが、得意のベンチプレスでは3本とも失敗で苦い初出場失格を経験してしまった。身をもって学んだのが「世界ではまずは確実な試技。それを重ねて行けば自己新記録につながる」ということだった。

 日本選手団は徐々に若返っている。しかし世界はもっと速いスピードで若返り、そして記録を伸ばしている。記録の伸びの一つの要素は彼らがベンチシャツを完全に着こなしてきていること。かつては日本人だけが自分にジャストフィットしたシャツを着て、フォームの研究から大きなゲインを得ていた。しかし今では誰もがベンチシャツで日本人並み(あるいはもっと)記録を伸ばしている。ドーピングテストが徹底すれば日本人は有利になるはず。しかし現実は徐々に世界において行かれるかのような勢い。

 今回の世界選手権は、日本にとってはつらいレッスンの大会だった。
[ 月刊ボディビルディング 2013年3月号 ]

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