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西本朱希のスポーツマンのための栄養学

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[ 月刊ボディビルディング 2009年7月号 ]
掲載日:2017.05.29
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セミナー報告 基本的な食事の取り方(三大栄養素を中心に)

みなさんは主食・主菜・副菜をきちんと3食食べていますか?主食とはご飯、パン、麺類など。主菜は肉、魚、卵、大豆製品(豆腐、納豆)。副菜は野菜、キノコ類、海草類を使った料理です。

今回は三大栄養素を中心に基本的な食事の取り方を紹介していきます。これを機にみなさんの食事内容を見直してみてください。

栄費摂取の考え方として

野菜から摂ることができるファイトケミカルや食物繊維は体にとってとても重要な栄養素だ

野菜から摂ることができるファイトケミカルや食物繊維は体にとってとても重要な栄養素だ

三大栄養素とは糖質、脂質、タンパク質。その他、微量栄養素としてビタミン・ミネラルがあります。以前は栄養素としてこれらを摂れていれば大丈夫と考えられていましたが、現在では食物繊維もとても重要視されています。食物繊維は体に入っても消化吸収されないで外へ出て行ってしまうものなので摂る必要はないと考えられていましたが、環境汚染物質など体に不必要なものを全部外に出してくれるという働きがあります。他にも、食べた栄養の吸収をゆっくりにしたり、余分な脂肪などを溜め込まない働きがあります。

そしてここ最近注目されているのが、非栄養素のファイトケミカルです。ファイトは植物、ケミカルは化学物質という意味になります。これは何かというとポリフェノールやカロテノイドなどの植物が本来持っている苦み、匂い、色素などのことを指し、それらは実は体に良いということが分かってきています。ただ栄養素というところまではいかないので非栄養素に分類されます。

これらをすべてバランス良く摂って体作りをしていくのですが、例えば「ビタミンAを摂ってビタミンBを摂って」というような考え方をしてしまうと、「ビタミンA」などと明確に標記されているサプリメントについ頼ってしまいますが、基本的にはバランスの良い栄養を摂るためにはバランスの良い食事を摂ることが大事になってきます。

食品で摂らずにサプリメントで摂っていくと、その一部分の栄養素にバランスが偏り体が余分な栄養素を外に出そうとします。そのときにその他の微量栄養素や非栄養素、そして体に必要な酵素などがムダに使われてしまいます。摂ったサプリメントの栄養素が体に吸収できても、それが他の栄養素の不足を招くことになりますから、基本的には自然の食品で栄養を摂っていくことがベストだということになります。自然からとる食品は基本的にほとんどすべての栄養素が含まれていますからね。

バランスの良い食事とは

主食からは主に糖質。主菜から摂れるのが、タンパク質と脂質。副菜からはビタミン、ミネラル、食物繊維、ファイトケミカルを摂ることができるという考え方をしていきます。これらを組み合わせて食事をとれば、バランス良く栄養を摂っていくことができるのです。

不足反応説

主菜・副菜というものはエネルギーを摂取できるものなので食べないとすぐに体に弊害が現れますが、副菜を摂らないと長期間掛けてからだに対する様々な弊害が現れることが確認されていることから、予防医学として様々な仮説がたてられています。

例えばカロリーとなるものを10摂ったときに、野菜や果物など食物繊維やファイトケミカルなどが含まれている食品も同時に10摂れば、この10というカロリーはすべて体に必要な役割を果してくれます。ところがカロリーを10摂っても、食物繊維やファイトケミカルが3しか摂れなかった場合、カロリーの10はどうなるかというと、体にとって大事な役割をするのは3しか行うことができず、残りの7はまったく使われずに体の外に出て行ったり、余分な脂肪として体に溜まってしまうのでカロリーをたくさん摂ったら、その分、野菜や海草類、キノコ類もきちんと摂らなくてはいけないのではないかという仮説です。

酵素説

エネルギーとなる三大栄養素の摂取について

エネルギーとなる三大栄養素の摂取について

また、酵素説というものもあります。体の中にはさまざまな酵素があります。酵素がホルモンを働かせて、血流が流れて、心臓がうまく動きます。いろんな細胞にそれぞれ酵素がありますが、一生分の酵素の量は決められているのではないかと考えられています。しかし食べ方次第で、酵素の代わりになるものが体に入ったり、節約しながら酵素をうまく使うことができるのです。そこで必要なのが、副菜として野菜からファイトケミカルや食物繊維を摂っていくことになります。体に必要のないものをうまく体の外へ出していく、そうすることで酵素をうまく節約して老化を防いでくれるのに役立つのではないかと考えられています。

そのためにもまずは主食、主菜、副菜を3食そろえて食べることを心掛けましょう。主食は基本的に全ての栄養素を含みますので、間食を取るのであればご飯やパンを食べるのが良いでしょう。

しかしその割合はどのように摂れば良いのでしょうか?【図1】は厚生労働省が発表した一般の人向けの国民栄養調査です。このくらいの割合で栄養を摂っている人が脂肪のつき方などを考えると一番理想的と考えられています。

糖質については、基本的にはいろんな病理学を考えたとき、少なくとも全体の50%は摂らなければなりません。糖質の摂取を50%切ってしまうと、あまり体にいい影響を及ぼさないことが研究の結果で出てきています。62%くらい摂っている人の方が健康的で体脂肪も少ないのです。これはアスリートにも一般の人にも同じことが言えます。

では次にタンパク質はどうすればいいのでしょうか。一般男性の身体活動量が低い人で体重1kgあたり、だいたいタンパク質を1g摂ったとき丁度タンパク質が全体の13%くらいになっていきます。脂質は基本的に20~30%くらいで、脂質を摂らない人でだいたい20%、あまり気をつけていない人は30%くらい摂っていることになります。ジャンクフードなどをよく食べているアメリカ人の平均はだいたい35%で、太っている人は40%くらいあるそうです。そういった統計から25%くらいにした方が良いと言われています。

この比率はあくまでも一般的な基準となる比率であり、総カロリーや、活動量によって多少変化します。たんぱく質は一般の人で体重1kgあたり約1g、アスリートでも基本的には1.5gで十分とされています。運動で失われるBCAAを中心としたアミノ酸不足を考えて、やや多めに体重1kgあたり約2gから3gまで摂っても構わないかもしれませんが、過剰に摂取した分は体外に排出されるわけであり、ここでも様々な栄養素・非栄養素・酵素などの無駄使いがおきると考えた方がよいでしょう。

そして糖質60~70%はできれば主食で摂っていくと良いでしょう。私の場合も、減量中はバランス良く食事をとっていって計算してみたら丁度70%くらいでした。

糖質の役割

糖質の役割はエネルギー源となることだけではありません。食事をして血液の中の糖質の値、つまり血糖値が上がります。血糖値が上昇してそのままにしておくと体に対して負担がかかってきます。あまりいい表現ではないですが″ドロドロになる″と言われたりしていますね。そうなると血液の中の酵素や血小板などそれぞれの役割がうまく働かなくなってしまうため、血糖値をすぐに下げなくてはいけません。

そのために出てくるのがインスリンです。インスリンがすい臓から出てきて、血糖値が上がったものをすぐに下げます。下げるということは、筋肉や肝臓、脳、脂肪、その他いろんな細胞すべてのエネルギー源として糖を送り込んでいきます。

インスリンの役目は合成です。今言ったようにエネルギー源に合成するだけでなく、たんぱく質や脂質の合成にも関わっています。

糖質は種類や食べ方によって血糖値の上がり方が変わってきます。その変化を現わしたのがGI値になります。急激に血糖値をあげるようなものはGI値が高いということです。

糖質の種類

糖質の種類を説明すると、一番小さい単位の分子を単糖類と言い、これはブドウ糖や果糖になります。これが2個以上結合したものを二糖類と呼び、これが砂糖や麦芽糖になります。さらに多数結合したものを多糖類と言い、これがデンプンやグリコーゲンになります。

血糖値(の糖)はブドウ糖のことで、基本的にエネルギー源となります。体の中に溜め込まれている糖質のエネルギー源は、グリコーゲンという形で溜め込まれています。グリコーゲンとはブドウ糖がたくさん集まったものです。体のエネルギー源となるものはブドウ糖がたくさん集まってグリコーゲンというものになります。一方果糖は、エネルギーとなるブドウ糖と基本的に違うものと考えた方が良いでしよう。

血糖値を急激に上げるような(GI値の)高い糖質は、脂質の合成をも促すものなので「減量したいのならGIの低いものを摂れ」とよく言われています。ブドウ糖だけでなく、ブドウ糖に果糖が加わればGI値が低くなります。このようなことから、「果糖を多く含むGI値の低い果物を主食代わりに摂れば脂質の合成を促さないから痩せられますよ」と言われて過去に流行ったのがリンゴダイエットなどの果物ダイエットです。

しかし果物を取りすぎると中性脂肪値が上がる例が多いことを考えると、GI値が低いからと言って安易に取りすぎれば肥満の原因になりますし、血糖値が上がらないものばかり摂っていると、体のタンパク質の合成やエネルギー源としての糖質の合成までも阻害することになります。

タンパク質の役割

タンパク質の役割は筋肉、内臓、血液、骨格、皮膚などの組織や酵素、ホルモン、免疫抗体等の生理機能を維持、調節する物質を作る際の基本的構成成分となり、約20種類のアミノ酸によって構成されています。

私たちの体の30%はタンパク質でできていると言われています。体の60%、若い人だと70%が水分でできているということになるので、水分以外のほとんどはタンパク質でできています。だから″タンパク質を摂れば筋肉ができる″″体が良くなる″と思われがちですが、実はそうではありません。タンパク質の摂取の目安は一般の人で体重の1kgあたり1g。アスリートでは1.5~2g、摂っても3gまでです。

タンパク質の合成は、どんなにトレーニングしている人でも体重1kgあたり1.5g合成できるかどうか……。もしかしたら1gも合成できないのではないかと言っている研究者もいます。

ただ、タンパク質はアミノ酸の組み合わせでできています。アミノ酸はだいたい全部で20種類あり、その中の組み合わせでタンパク質の種類が違ってきます。体に必要なアミノ酸をきちんと摂ろうとして、しっかりバランス良く摂れた状態であれば1gで完璧にうまくいくのかもしれません。しかしアミノ酸のバランス、食品がかたよったりすると、いろんなアミノ酸をバランス良く摂るのが難しくなってきます。であれば1.5g~2gくらいまでアスリートであれば摂っていくべきではないかと思います。

しかし、食事をバランス良くとっていればここまで必要はありません。ゴリラというのは肉を食べないですよね。果物野菜だけであの体を作っていますので、そういうことを考えると人間もほとんど必要ないのではないかと思ってしまいます。私も試合がなければ、いつかはゴリラのような生活を試してみたいと思っています。筋肉が落ちなければ″これが大発見だ!″なんてたまに想像するんです。

必須アミノ酸

アミノ酸の中でも必須アミノ酸というものがあります。20種類のなかの約9種類。年齢やそのときの状態によって8種類やから10種類に多少変わってくるのですが、体の中で他のアミノ酸から変換できないアミノ酸を食品から摂らない限り、体の中からは作れない、このアミノ酸を必須アミノ酸と言います。

またタンパク質を体内で利用するには必要な必須アミノ酸がバランス良く含まれている必要があり、食品中のタンパク質の品質を評価するためのものをアミノ酸スコアと言います。米、豆など植物から摂れる植物性タンパク質はだいたい高いものでアミノ酸スコアが80と言われています。動物性のタンパク質は魚でも肉でもアミノ酸スコアはだいたい100です。それを考えると動物性タンパク質の方が体に良いのではないかと思ってしまいますが、動物性の食品は血液や体の細胞を酸性に傾かせるといわれていて、それを防ごうとしてここでも酵素やビタミン、ミネラルの無駄遣いが起こってしまいます。できれば動物性にかたよらずに、植物性のタンパク質からもタンパク質を摂った方が良いでしょう。アミノ酸スコアだけでたんぱく質の判断し、摂取していくのは体には決して良くはないということです。

脂質の役割

動物性の脂質は、体の中で悪玉コレステロールに変わってしまうので、なるべく控えよう

動物性の脂質は、体の中で悪玉コレステロールに変わってしまうので、なるべく控えよう

脂質を摂ると体脂肪に結びついてしまうので、どうしても悪者になってしまいがちですが、基本的には体に必要なもので、まったく脂質を摂らないでダイエットをするというのは絶対いけません。私は朝と昼にかなりの油を摂ります。魚もわざと脂質の多いものを食べたりします。減量中も同じです。

脂質については2回目で詳しくお話しますが、いわゆる「動物性の脂肪」と呼ばれている肉などの脂肪は摂取を控え、植物性の油は減量中でも適量摂取するようにすることが大切です。

乳製品の摂取について

牛乳は一日一本まで。その他にチーズやヨーグルトを食べるときは牛乳の量を減らそう

牛乳は一日一本まで。その他にチーズやヨーグルトを食べるときは牛乳の量を減らそう

乳製品からはカルシウムを多く摂取することができます。「カルシウムは乳製品から摂りましょう」と昔は言われていました。カルシウムの必要量は男性は一日に650~900mg、女性は600~700mg。牛乳200g (コップー杯分)でだいたい220mgのカルシウムが摂れてしまうので、これを朝昼晩3回摂れば良いんじゃないかと言われていたのですが、現在ではその考えが変わってきているのです。

外国の研究グループが14年のスパンをかけて、牛乳をしっかり飲んでいる人と、飲まない人でどれだけ骨粗鬆症の出方が違うのかを研究しました。そして出た結果は、牛乳を飲んでいた人の方が飲まない人に比べて骨粗鬆症の発症率が非常に高いというものでした。

牛乳は動物性の飲み物、その動物性は体質を酸性に傾ける作用があります。それを中和するのにカルシウムが必要になります。せっかく摂ったカルシウムをここで使っていってしまうことで最終的にカルシウムが足りなくなってしまうという説があります。

もう一つの説は、牛乳を飲むと一気にこれだけのカルシウムが摂れてしまうので、カルシウムの血中濃度が急激に上がってしまい“それは過剰だぞ”と体が察知して外に出してしまう作用が働くからだと言われています。

現在、牛乳は一日一本までと栄養士さんは指導します。牛乳一本までと言っても、「牛乳を一本飲んで、ヨーグルトとチーズを食べて……」では過剰になってしまいます。ヨーグルトやチーズを摂るのだったら牛乳を飲む量を減らさなければなりません。

では乳製品以外でカルシウムをどう摂っていけば良いかというと、植物性のものから摂っていくと良いでしょう。ひじき、こまつな、チンゲンサイ、もろへいや、水菜などなど……。結局はいろんな野菜や海藻類を摂った方が良いということですね。

果物について

果物からは主にビタミンCや植物性化学物質、水溶性の食物繊維などを摂ることができますので、やはり果物は積極的に摂った方が良いでしょう。ただし果物は糖質が多いので中性脂肪が高い人や減量をしなければいけない人は摂り過ぎに注意しなければいけません。私が勧める果物の摂り方は、朝と昼に果物を摂り、夕方以降は控えめにしていきます。中性脂肪が高い人は一日に摂る果物の量を200gまでにしてください。これは小粒のミカン2粒、または小さめのリンゴ1個です。中性脂肪が高くない人であれば多めに摂っても構いません。

嗜好品の摂取について

最後に、嗜好品は基本的に体には必要ないものと考えましよう。ただ控え過ぎるとストレスになってしまうので、ある程度の量でしたら時間や内容を考えてとっていくことも必要かもしれません。
[ 月刊ボディビルディング 2009年7月号 ]

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