フィジーク・オンライン

第四十三回
新サプリメント・トピックス
ウォームアップ

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[ 月刊ボディビルディング 2013年8月号 ]
掲載日:2017.08.08
 みなさんは日々のトレーニングを行う前にウォームアップ(ウォーミングアップ)はされているでしょうか。必ず入念なストレッチや体操を行われる方もいれば、一切何もしないと決められている方もいるかもしれません。ただ、多くの方は、実際のトレーニング前には、少なくとも何らかのウォームアップはされているかと思います。今回は、ウォームアップには本当に意味があるのか、また効果のある方法について触れてみます。

 ウォームアップとは、字の通り〝運動を行う前に体温を上げて、目的とする本来の運動(本運動)を行う準備をすること〟です。ウォームアップの効果としては、精神面・身体面の両方について有効とされます。精神面的には、本運動を行う前に中枢神経を刺激することでアドレナリンの分泌を促し、運動を行う前に気持ちを高める効果が期待できます。身体面での効果としては、筋肉への血流量の増加、筋肉への酸素供給量の増加、代謝効率の増加、神経伝達速度の加速などが挙げられ、これらの結果パフォーマンスの向上につながると言えます。では、実際にウォームアップはパフォーマンスに影響を与えるのでしょうか。ウォームアップを行った時と行わなかった時について、その後のスクワット運動におけるパワーを比較した試験があります(1)。この試験では、適度な自転車運動を約15分間行い、その後スクワットジャンプを行った時のパワーを比較しました。この試験の結果では、ウォームアップを行った時の方が大きなパワーを発揮した結果となりました(図1)。ウォームアップで筋温が上がり、筋肉中のATPが効率良く分解されエネルギーが産生されて、筋肉の収縮速度が速くなりパワーが上がったと考えられます。
図1

図1

 このように、適度に筋温を上げると筋肉の能力を十分に発揮できることとなります。逆に言えば、ウォームアップを行わないと、効率良く本来もっている力を発揮できないと言えるでしょう。みなさんの場合で言えば筋肉への刺激を事前に増やすことで、パワーを上げてトレーニングの効率を上げることができます。

 体温を上げるという点について考えると、ウォームアップの種類は大きく2つに分けられます。軽い運動を事前に行うことで体温を上げる積極的ウォームアップと、外から熱を加えることで体温を上げる受動的ウォームアップの2種類に大きく分けられます。体温を上げるという点ではどちらとも同じですが、パフォーマンスの向上という目的においては、積極的ウォームアップの方が優れています。理由は筋肉を動かすことで筋温上昇だけでなく、筋肉につながる神経系を刺激することになるため、目的の運動の際によりスムーズな動きを行うことができるようになるからです。筋トレを行う場合であれば、軽い重りでスクワットやベンチプレスなどの動作を何度か行ってから、トレーニング用の重さに移ったほうが、筋肉や神経が事前に刺激されてスムーズな動きで効率よく動けるというわけです。

 では、一体筋温を何度まで上げるとパフォーマンスが上がるのでしょうか。体温とパフォーマンスの関係では平常状態の36℃前後よりも38℃付近の方が発揮されるパワーが上がることを示した研究があります(2)。逆に、40℃を超えるといわゆる熱中症と同じ状態になってしまうため、パフォーマンスが低下することが分かっています。また、筋温を上げる要素としてはウォームアップの強度と時間に影響を受けます。強度の高い運動では短い時間で体温も急激に上がりますが、一方弱い強度では緩やかに体温が上がります。どちらでも体温は上がりますが、トレーニング時のウォームアップとしては短時間で強度が高い方が適しています。その理由は、筋温の最高値は運動強度に比例することによります。強い強度では筋温が短時間で高くなり、一方弱い強度では長い時間を行ってもあまり体温は上がらないということです。みなさんのように、瞬時に強いパワーを必要とする競技を行う場合、短時間である程度強い強度でウォーミングアップを行なって必要な筋温まで上げた方が、強い力を出すための体の準備ができるということになります。

 積極的ウォームアップについて多く述べましたが、外から熱を加えたり保温したりする受動的なウォームアップには意味はないのでしょうか。神経系の刺激は加わりませんが、意味が全くないわけではありません。外的要素で体温をあらかじめ上げておくことで、その後の積極的ウォームアップの準備をすることができます。言うなれば、ウォームアップ前のウォームアップにあたります。また、一度上がった体温を維持するという点でも効果を発揮します。補助的な要素として、入浴・上着による保温・食品による体温上昇効果などをうまく使うことで、体温をコントロールしてコンディション維持をすることができます。

 以上のような効果を知った上で、トレーニング前のウォームアップを習慣付けて、普段のトレーニング効果をさらに上げていただければと思います。


江崎グリコ株式会社スポーツフーズ営業部
桑原弘樹
参考文献
(1)Stewart D, Macaluso A, De Vito G., Theeffect of an active warm-up on surface EMG andmuscle performance in healthy humans, Eur JAppl Physiol. 2003 Aug;89(6):509-13.
(2)P a v l o v A S , M o l o s h t a n V S . , P o s s i b i l i t y a n deffectiveness of increasing the work capacity of humansby warming the body, Kosm Biol Aviakosm Med. 1988May-Jun;22(3):42-5.
[ 月刊ボディビルディング 2013年8月号 ]

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