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第四十六回 新サプリメント・トピックス 合成と分解

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[ 月刊ボディビルディング 2013年11月号 ]
掲載日:2017.08.22

合成と分解

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腕が太くならない、胸がなかなか発達しない、そういった悩みと日々格闘するのもボディビルダーの宿命かもしれません。
ミスターユニバースの杉田茂会長が経営していたミスターUジムでは16インチクラブというものがあって、腕周りが40センチを超えると入会が認められていました。この40センチというのが微妙に高いハードルで、特にコンテストビルダーの場合は減量によって腕周りも細くなりますから、測る時期やタイミングにも工夫をしたものです。
そもそも筋肉とは簡単につかないものと認識しておいた方がよさそうです。
もちろん、どんどんと食べて体重を増やせば、扱う重量も伸びていって筋骨隆々に見えるかと思います。しかし実際は筋肉の中と外にそれなりの脂肪がついて身体は大きく見えているわけです。減量期に入って腕周りが40センチを切ってしまいガッカリしたり、オフになって40センチを超えて大喜びしたり、その気持ちは十二分に理解できますが、正味の筋肉自体はそれほど大きく変わっているわけではないのです。
筋肉に限らず体内でのタンパク質は常に合成と分解を繰り返しています。
例えば一日に300gのタンパク合成が行われた場合、ほぼそれと同じ量の300gが分解されています。食事に関しても同様です。70gのタンパク質を摂取して、70gのタンパク質が消費されています。
筋肉はどれだけあっても無駄にならないと考えてしまいますが、これは飽食の時代にあっての話です。我々は食べたいものが食べられるという奇跡の時代に生きています(全地球的にみれば飢えに苦しむ国や地域もありますが)。
ところが人類の歴史は飢餓との戦いの歴史といっても過言ではありません。常に飢えに対してどうやって対応していくか。これに対応できた人間が生き延びてきたのです。
従って我々のDNAには飢餓への備えという情報がかなりの優先順位をもって満載されています。その一つが筋肉です。
確かに狩猟をするにも荒野を開拓するにも筋肉は必要不可欠です。しかし筋肉は大量のエネルギーを消費します。ダイエットを成功させるためには筋肉をつけましょうと女性にも話をします。その理由は筋肉をつけることによって代謝の高い身体へ変わり、安静時においても大量のエネルギーを消費してくれるからです。飽食の時代においてはありがたいことですが、飢餓の時代においては避けなくてはならない状態でもあります。
つまりある一定以上の筋肉はつかないように仕組まれているのです。
私たちの体内は細胞レベルでユビキチンプロテアソームシステム(UPS)というシステムがあって、体内のタンパク質の不良品や傷ついたタンパク質を分解する仕組みを作っています。常に体内の不良品や過剰なタンパク質を分解してくれるのです。しかしこういった分解のシステムが、筋肉をある一定の範囲内に維持するシステムでもあるのです。
もちろん分解があれば合成もありますから、合成に役立つシステムも備わっています。
mTOR(エムトール)と呼ばれる、細胞内のシグナル伝達に関与する酵素があります。このmTORは筋肉の合成に影響を及ぼします。
つまり極端な分解も極端な合成も起こしにくいのが我々の通常の肉体であるということであります。
ホメオスタシスという言葉があります。日本語で恒常性と呼ばれます。ある一定の状態を維持するという機能のことで、筋肉の分解と合成のバランスはまさにそれを意味します。
筋肉は簡単にはつかないというとボディビルダーには悲観的な響きをもつかもしれませんが、決してつかないわけではありません。
トレーニングは筋肉の合成を活性化させますからさらに積極的に行うべきですし、BCAAは様々な役割の中でmTORに働きかけて筋肉の合成を強めることが確認されています。
食事だけでのタンパク質量が足りない場合は(ボディビルダーの場合は基本的に食事のみのタンパク質量ではまかないきれないはずですが)、プロテインを利用するなどして、少なくともタンパク質が足りないという状態を作らないことです。
最後に合成と分解を脂肪に当てはめた場合も同様のことが言えます。
しかし脂肪の場合は、飢餓の時代にはなくてはならないエネルギーの貯蔵庫ですから、筋肉とは逆の現象となり、合成に傾きがちであります。
つまり使われなかったエネルギー源や過剰に摂取したタンパク質も、最後の最後は脂肪として体内に貯えられていきます。
如何に筋肉を合成に傾けて、脂肪を分解に傾けるのか。人類の歴史、ホメオスタシス、体内の様々なシステムの壁を乗り越えて少しずつ少しずつ実現させていく行為であります。
決して急いだり焦ったりするのではなく、漸進的向上を目指す分野なのでしょう。
だから鍛え上げられた肉体は、その機能性とは別の次元で、時には神々しくさえ感じられるのかもしれません。
江崎グリコ株式会社スポーツフーズ営業部
桑原弘
[ 月刊ボディビルディング 2013年11月号 ]

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