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第五十八回新サプリメント・トピックス
水抜き

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月刊ボディビルディング2015年1月号
掲載日:2018.05.11
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 この号が発刊されるタイミングにおいては、水抜きをする選手はほとんどいないかもしれません。しかしコンテストシーズンに入ると、様々な情報を冷静かつ客観的に判断しにくくなったりもするので、今回は敢えて季節外れ感の否めない水抜きについて触れてみたいと思います。

 ボディビル以外でも体重別の競技者は水抜きをして体重を調整する選手が少なくありません。特に最近は大きな試合の場合は前日計量のケースが多いので、最後は水分量で体重をコントロールして、試合当日にはその分を戻しておくという方法をとることもあります。

 もっとも古くからこの水抜きをやっていた競技はボクシングかもしれません。『あしたのジョー』の力石徹が水抜きに苦しむシーンは、ボクシングファンでなくても知っているくらい有名なシーンです。

 アニメだから大袈裟に描かれているのではく、実際本当に眠れないほどの苦しみを味わいます。世界戦の前日は緊張のために眠れないであろうと周囲からは思われがちですが、実際は計量の前日、つまり試合の前々日がもっとも眠れない日なのです。

 逆に試合前日は水分がたっぷりと体内にいきわたっているため、意外にも選手は熟睡できるものです。また、空腹で眠れないであろうと思われがちですが、直前の場合は空腹よりも喉の渇きが辛いため、空腹の辛さは二の次であったりもします。

 一方、ボディビルダーの中にも水抜きをする選手がいます。利尿剤などを使用するのでなければ、ドーピング違反ではありませんから、決して非難する行為ではありません。ただし、ボディビルダーの場合はボクサーとは少し理由が異なり、いわゆる「キレ」を求めての水抜きとなります。

 これはアナボリックステロイドを使った場合、その副作用として抗利尿効果がでてしまうため、コンテストの前に水抜きをして(多くの場合は利尿剤を使用)、筋肉の細胞外に含まれた水を排泄することをしています。加えてボリュームが少なくなった筋線維(細胞内)に水を戻すためにカリウムと水を摂取することもあります。

 このアナボリックステロイド使用者が取り入れているテクニックだけを、そのままナチュラルな選手も真似をするようになったのではないかと推測しています。ボディビルはトレーニング方法やサプリメントなど、圧倒的に海外からの情報が多いカテゴリーです。その中で、海外のトップ選手の様々なノウハウの一つとして水抜きも取り入れられているのではないかと思います。

 ではナチュラルな選手にとっての水抜きは、どういったやり方をすればいいのでしょうか?

  まずボディビルに限らずですが、長期間の水抜きはしないことです。特にボクサーの場合は、体重が落ちなくなってくるとその不安感も手伝って早々に水を控えたりする選手がいます。確かに最初は水分の量だけ体重が落ちてきますが、水分は身体にとってはもっとも重要な要素となるため、やがて逆に水が抜けなくなってきます。それどころか体内における様々な化学反応がスムースに進まなくなるためにパフォーマンスの低下が顕著となります。水抜きはせいぜい直前の3〜4日間で完成させるようにするべきでしょう。

 細胞は外にナトリウムイオン、内にカリウムイオンが含まれています。この比率はざっと1:1です。このナトリウムとカリウムが細胞を出たり入ったりする際に電気が生まれて脳や心臓も正常に活動しています。心電図や脳波の測定はまさにこの電気の測定です。

 筋肉も同様に細胞外にはナトリウムイオン、細胞内にカリウムイオンが中心に存在していて、浸透圧を保つと同時に筋肉が正常に動く原動力となっています。仮に〝水抜き〟と呼ばれるような水分を制限する状態を作ると、細胞の内外からは水とナトリウムとカリウムが失われてしまうため、神経や筋肉の興奮性に支障をきたします。いわゆる脱水状態です。

 そこで塩抜きという発想が生まれます。塩抜きとはナトリウムの制限のことですが、ナトリウムが足りなくなると浸透圧を保つために、細胞の中からは水が、そして細胞の外からは水とナトリウムが排泄されていきます。つまり極端な水分制限をしなくても自然と水が抜けていくのです。

 食塩1gで約150㏄の水が排泄されると言われていますので、体内の食塩(NaCl)を20g減らせば約3㎏の水分が抜けて行くことになります。これを3〜4日間かけて行っていくイメージです。

 この場合も水分の制限をしている時と同様に神経や筋肉の興奮性が低下する危険性がありますから、くれぐれも体調を鑑みながら慎重にやる必要があります。

 そしてコンテストの直前にはカリウムと水分を摂取することで、細胞内の筋線維に水をしっかりと戻して体積を戻してやるようにします。筋肉が張って、かつカットが出る状態です。

 日本ではカリウムの単独のサプリメントは販売されていませんから、カリウムリッチな食材を摂るようにするといいでしょう。

 いずれにしても、体内のミネラルバランスを意図的に操作することは慎重に行わなければなりません。ましてや水分という最も重要な成分を制限するという点においては、パフォーマンスのみならず健康を害する危険性もあります。

 高度なノウハウのように感じるかもしれませんが、最終的な調整の枝葉であるという点を十分に認識しておく必要があります。

桑原塾・主宰 桑原弘樹
月刊ボディビルディング2015年1月号

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