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トレーニング・ドキュメンタリー
2013 年ミスター東京優勝者
佐藤茂男の脚

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[ 月刊ボディビルディング 2014年5月号 ]
掲載日:2017.09.08
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 つい2、3年前の佐藤茂男は、まだブロック大会で優勝するレベルの選手であった。しかし、昨年日本クラス別80㎏級優勝に始まり、ミスター東京優勝、そして続くミスター日本でも初出場で見事11位に入るという好成績を残した。その要因の一つとしては、彼の代名詞とも言える脚の凄さがあげられる。単に太いだけではない。前面から見た形、サイドから見たときの幅、そしてバックにおけるハムストリングスと臀部のボリューム、どの方向から見ても隙を与えてさせない。さらに、その極太の大腿部に刻み込んでいるくっきりとしたセパレーション、そして、その1個1個に浮き出た筋肉に無数に走らせるストリエーションとカットの鋭さは、もはや全日本チャンピオン鈴木雅に匹敵すると言っても過言ではないだろう。

 いまでは〝脚男〟との異名までつけられた佐藤茂男の脚トレの全貌を皆さんにご紹介しよう!
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大腿部は2日に分ける

 佐藤茂男の脚トレを語る前に、まず彼のトレーニングルーティーンから紹介したい。①胸、②背中、③ハムストリングス、④肩、⑤大腿四頭筋、⑥腕の6分割で、1週間に1度同じ部位をトレーニングしている。ここでのポイントは、大腿部を2日に分けてトレーニングしているという事だ。「大腿部を2回に分けてトレーニングしだしたのは、2011年の大会に向けてからだったと思います。理由としては、それまでの減量で上半身に比べ下半身の方が仕上がりが遅く、脚の切れを出そうとするとどうしても上半身のサイズが犠牲になってしまいました。そこで、それまで週に1回しか鍛えていなかった下半身を前と後ろに分けて週に2回鍛えるようにして、下半身の運動量を増やしました。オフのうちから脂肪のつきやすい部位を動かすことで、脂肪が乗らないようにし、結果減量に入って脚の仕上がりが遅れるということはなくなりました」

 確かに、多くのトレーニーたちにとって下半身のトレーニングは最も嫌な部位であるとも言え、そんなつらいトレーニングは週に1回で良いと思っているだろう。実際、下半身のトレーニングを前と後ろで分けて行っている人は、トップビルダーですらそうはいない。しかし、彼はこうとも言う。「皆さん上半身は胸・背中・肩というように細かく分けてトレーニングしますが、下半身はせいぜい大腿部とカーフに分けることくらいしかしませんよね。しかし、大腿部は、上体を支えている大きな筋肉ですのでそれを1回のトレーニングですべてを追い込もうなんて到底できないと思います。初心者のように全体的な〝大腿部〟としてトレーニングするならばそれも可能だとは思いますが、上級者になれば大腿部も筋肉ごとに細かく分けて、ポイントポイントで鍛えなくてはなりません。全日本クラスの大会となると、サイドから見た大腿部や臀部、ハムストリングスの仕上がり具合など細かい部分で差がついてきます。ですから、そういった部分を1回のトレーニングで鍛えようとしたら、2時間以上かかってしまいますし、2時間以上のトレーニングすべてに追い込もうとすると、非常にきついです。また翌日にその疲れからか体調を崩したりすることもありました」

 茂男は、大腿部を2日に分けてトレーニングすることを、何も初心者のうちから勧めている訳ではない。実際彼も初心者の頃はバーベルスクワットに、せいぜいレッグ・エクステンションとレッグカールを行っていたくらいだ。しかも、初心者のほとんどが追い求める高重量トレーニングを行っており、自力で5〜6レップスくらい扱える重量で、潰れたらさらに補助をつけて3レップス、これを6セットくらい行うというものだった。彼曰く、「大腿部に効いているというより腰にばかり負担がかかるといった感じで、腰を痛めがちでした」

 しかし、このようなトレーニングでも茂男の大腿部は発達していった。ただし、この時期でのポイントとして〝フルスクワットにこだわった〟ということが挙げられる。彼の大腿部が効きやすかったということもあるだろうが、もし重量にこだわるだけの可動域の浅いスクワットをこの頃行っていたとしたら、現在の〝脚男〟と言われるほどの大腿部を築き上げることはできなかったのではないだろうか?

 さて、重量にこだわっていたトレーニングから効かせるトレーニングに変えたのは2010年からである。「スクワットでは、フォームを崩さないように心がけ、テンポよく10回以上できる重量で行うようにしました。パンプ感が最高で、物凄く大腿全体に効く感覚があり、大腿部全体の迫力が増し、スクワットで腰を傷めることもなくりました。ちなみに、このやり方では190㎏×10回、140㎏×25回が最高記録です」

 そして2011年から変えた、2回に分ける現在の茂男の脚トレのメニューは、以下のようになっている。

◆大腿四頭筋メインの日
①スミスマシン・スクワット
②レッグ・エクステンション
③ハイパーバック・エクステンション
④アダクション
⑤カーフレイズ

◆ハムストリングスメインの日
①ワンレッグ・スクワット
②ダンベル・スティッフレッグド・デッドリフト
③ライイング・レッグカール
④ハイパーバック・エクステンション
⑤アダクション
⑥カーフレイズ

 以前は、四頭筋の種目としてハックスクワットもメニューに入れていたそうだが、現在はスミスマシン・スクワットで大腿四頭筋全体を追い込めているので、徐々にハックスクワットの必要性が無くなりプレス系の種目はスミスマシン・スクワットだけになりつつあると言う。

 ハイパーバック・エクステンションとアダクション、カーフレイズが両方の日に入っているが、ハイパーとアダクションそれぞれ効かせる部位を変えている。カーフレイズは、1回に2種目行い、毎回チョイスするエクササイズは変えているそうだ。

 では、佐藤茂男の脚トレを皆さんにご紹介して行こう。

◆大腿四頭筋メインの日
①スミスマシン・スクワット

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 大腿四頭筋の始めの種目だ。まずは数セットのアップを行い、本セットに入る。足幅が非常に狭い。狭いどころではない、足はほとんどくっついていると言って良いほどだ。この種目は大腿四頭筋のみを集中して鍛えることを目的とし、特に大腿直筋と大腿部の外側の膨らみをつけるために行うという。「スミスマシン・スクワットは2012年のオフからスクワットの代わりに行い始めました。足の位置を色々変えて、効かせたい部位に重量を乗せやすく、さらにそこからパートナーに追い込んでもらいやすい。自力で5〜15回+補助3〜5回、これを5セット行います」

 初心者の頃からフルスクワットにこだわっていたせいか、この種目でも大腿部が床と平行よりも下になるまで十分に下げている。この足幅では、おそらく最高にしゃがみ込んでいるだろう。重量は、先程も述べたが、こだわっておらず、とにかくターゲットとしている部位に効かせることだ。それでもおそらくプレートのみで80㎏はついていただろう。

 この種目の途中で、足幅を肩幅くらいにして数セット行っていた。これは同じスミスマシン・スクワットの中で足幅を変えることにより、多少効かせる部位を変えるためだ。つまり同じスミスマシン・スクワットでありながら違う種目をやっているようなもの。ただし、足幅を変えることでもターゲットとしているのは大腿四頭筋のいずれかになって、決してハムストリングスや大臀筋を使って挙げないようにしている。

②レッグ・エクステンション

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 大腿四頭筋の2種目目はレッグ・エクステンションだ。1回のトレーニングで、足先をまっすぐ、内側、外側、の3方向に変えて行い、大腿部全体を刺激させる。「収縮感の強い種目ですが、しっかりと意識をしないと単なる上げ下げだけで終わってしまいます。爆発的にウェイトを上げて受け止めて思いっきり収縮させます。そして、ネガティブも大腿部から刺激が抜けないようにしっかりとウェイトをコントロールしながら下げて行きます」

 3方向それぞれに自力で10回行い、補助を5回入れるようにする。そして、最後に足の向きを考えずに自力で15回できるウェイト+補助15回入れて、最高のパンプが得えられるようにする。

 スミスマシン・スクワット5セット、レッグエクステンション4セットで、大腿四頭筋はオールアウトできている。

③ハイパーバック・エクステンション

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 大腿四頭筋の日に行うこの種目は、臀部狙いである。プレートなどは持たずに、なるべく上体を反り上がるようにして大臀筋を収縮させるようにする。

 なぜこの種目を2回に分けて行うかというと、まず臀部は脂肪の乗りやすい部位なので、なるべくオフにもそこに脂肪を付けないために動かす。そして、全体的に大臀筋を思いっきり収縮させる種目が他にはないので、採用しているといったところだそうだ。

 自重で20〜25回を2セット。あまり速い動きではないが、リズミカルに、そして確実に臀部に刺激が乗るように動かしていた。

④アダクション

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 この種目も両方の脚のトレーニングの日に採用している種目だが、やり方、効かす部位を変えている。大腿四頭筋の日は、上体を背もたれから離し、骨盤を前傾させた状態で行う。このやり方だと内転筋全体に刺激を与えることができる。「コンテストにおいて、大腿部の内側って結構重要なポイントだと思います。大腿部の外側は膨らみがあるのに、股下に隙ができている人がいますが、非常にもったいないですね。やはり隙ができないように、いろいろな方向から大腿部もきっちり鍛えなくてはなりません。そのためには、やはり週1回ではなく2回に分けてトレーニングした方が良いですね」

⑤カーフレイズ

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 カーフレイズは、脚のトレーニングの日は必ず行う。ヒラメ筋狙いと腓腹筋狙いの種目を1つずつ。彼のカーフのトレーニングで特筆すべきは、必ず補助を入れるということだ。カーフのトレーニングで補助を入れているところを私はあまり見たことがない。いや多くの人は、カーフのトレーニングは脚のトレーニングの最後に、おまけ程度に行っているのではないか。しかし、茂男は違った。「自分は大腿部が太いので、それに負けないカーフを持つことは重要だと思っています。大腿部が太いのにカーフが弱いと、バランスが悪くなり、せっかく太い大腿部が逆に全体で見たらマイナスのイメージになってしまいますから」

 カーフのトレーニングは収縮が大切だと彼は言う。一人で行っていると、最後は反動みたいな感じで挙げてしまうが、そこは補助者に無理矢理挙げてもらって収縮させた方が効きが違うらしい。「カーフって素質が大きくものが言うって言われますが、そうではないと思っています。自分もカーフはどちらかというと細い方でしたが、かなり意識をしてやり込むことでかなり改善できてきたと思っています。カーフって小さな筋肉なので、あまり疲労感は残りませんし週2回やっても大丈夫です。むしろ大きくしたいなら週に1回では足りないのではないでしょうか」

 つまり、カーフが小さいと悩んでいる方は、素質だからとあきらめるのではなく、一度頻度を上げてみてはいかがだろうか!

◆ハムストリングスメインの日
①ワンレッグ・スクワット

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 写真を見てもらえればお分かりだが、スミスマシンの後方にフラットベンチをおいて、片方の足をそれに引っかけるように乗せて行うスクワットだ。一見ランジのようにも見えるが、ランジは両方の脚に刺激が行くように動作をさせるが、この種目では後ろ足は上体のバランスを保つ程度で、動作はすべて前脚で上下をさせるということだ。この種目での狙いは大臀筋とハムストリングスの上部。「最大限に股関節を屈曲させてハムストリングスをストレッチさせ、重量を受けたのを感じてから、かかと重心でハムストリングスを使って挙げて行く。つま先重心になってしまうと、刺激が四頭筋へ逃げてしまいます」

 この種目は、ハムストリングスに重量が乗る感覚が強いので、そこそこ重量を扱えるが、あまりにも重量を追い求めすぎるとターゲットとするハムストリングスから刺激が逃げてしまうので、その辺のさじ加減は慎重にしている。ここでのポイントは、股関節を最大限に屈曲させ、ハムストリングスで動作させるということ。茂男はかかとに重心を乗せやすいように、多少つま先を上げていた。自力で10レップス+補助5レップス、これを左右2セットずつが基本である。

②ダンベル・スティッフレッグド・デッドリフト

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 狙う部位としてはワンレッグ・スクワットと同じハムストリングスの上部から大臀筋にかけてだが、ストレッチ感はこちらの種目の方が強い。50㎏のダンベルを両手に持ち、20レップスを2セット。補助は入れずに高回数行う。「この種目を高重量で低レップスで行ってしまうと、ハムストリングスではなく脊柱起立筋や他の筋肉を使って挙げてしまいます。20レップスぎりぎりで限界を迎えるような重量ですと、ハムストリングスと臀部で挙げることができます」

③ライイング・レッグカール

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 ハムストリングスの膝よりの部分を刺激する。レッグ・エクステンションと同じように爆発的にお尻までパッドを挙げてきて思いっきり収縮させ、ネガティブでも雑に下ろさずにウェイトをコントロールしながら戻して行く。「前の2種目に比べて収縮感が強い種目なので、結構重視しています」 自力で10レップス+補助5レップスを2セット。

 オンに入るとスタンディング・レッグカールをプラスする。これと言った理由はないそうだが、大会が近づくと気持ちが入り、ポイント部分を動かしたくなるらしい。その気持ちわかる。

④ハイバーバック・エクステンション

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 ハムストリングス狙いのバックエクステンション。20㎏プレートを持って、20回×2セット。ハムストリングスに効かせたいので、反り上がるというよりも、やや背中を丸めた感じにして丁寧にハムストリングスを使って挙げてくるといった感じだ。

⑤アダクション

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 四頭筋のときのアダクションとはやり方を変えている。背中をきっちりとパッドに預け、骨盤を後傾させた状態で動作をする。内転筋全体というよりも、内転筋の付け根に効くそうだ。

総括

 茂男の〝脚男〟と呼ばれる所以は、単に脚が太いだけではない。大腿部の前後のバランス、さらには前面から見たときの外側、内側、サイドから見たときのハムストリングスから臀部にかけて、すべてにおいて隙が見られない発達をしているからだ。また、サイズだけではなく、昨年の大いなる躍進は大腿部のカット、セパレーションの凄さの賜物でもある。

 ただ単に効きやすい部位だから発達した訳ではなく、効きやすい部位だからこそ、バランスや形を蔑ろにせず、どうすれば大会で武器になる大腿部を築き上げることができるのかを考えて、トレーニングしてきたのだ。

 最後に、カット出しのために何か特別なことをやっているのか?聞いたところ、取り立てて行っていないそうだ。基本的に有酸素運動は行わない。ただ、オンに入ると週に3回、『踏み台昇降』をやるそうだ。これは一般的な踏み台昇降で、高い台への上り下りである。「確かにやっていることは単純なのですが、意識の仕方が違います。この意識の持ち方って、絶対に仕上がりに関係してくると思いますよ。自分はハムストリングスと臀部に意識を集中させ、他の筋肉は使わないようにしてます。1日僅か20分すが、これを週に3回意識し続けるのと、意識せずにただ上り下りするのとでは、2ヶ月後、3ヶ月後に必ず目に見えてその違いが現れると思います。トレーニングだって、1日やったからといってすぐに効果は現れません。数ヶ月続けて初めて身体が変わってきたとわかる訳ですから、こういった簡単な運動も意識するのとしないのとでは絶対に違うと思いますよ」

 今年はジャパンオープンに初出場するという茂男。そのジャパンオープンにてさらに進化した脚を見せつけ、頂点に立つ姿を楽しみにしていよう。


文= Ben
写真= Yasu Nakajima
[ 月刊ボディビルディング 2014年5月号 ]

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