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会社訪問 その名も「ビルダー商事株式会社」 社長以下全員がビルダー

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[ 月刊ボディビルディング 1973年2月号 ]
掲載日:2017.10.17
 日本で本格的にボディビルが始まってから約20年。ついに「ビルダーによるビルダーのためのビルダーの会社」ともいうべきユニークな会社が誕生した。
 本誌11月号のBBニュースにこのことを報じたら,全国のボディビル・ファンから,この会社についてぜひもっと詳しく載せて欲しいとの要望が多数よせられたので,暮れもおしせまった12月12日,カメラマンと一緒にこの会社を訪れた。

キクスイ・ボディビル・ジムと一心同体

 この日,ビルダー商事株式会社と姉妹関係にある横浜市鶴見区のキクスイ・ボディビル・ジムで社長の斎藤さんと待ち合わせた。斎藤さんはこのキクスイ・ジムの代表者兼コーチでもある
 約束の2時につく。鶴見駅前のビルの3階にあるこのジムは,オープンしてまだ2年半であるが,スペースも38~40坪と広く,トレーニング器具類も豊富にとりそろえてあり,実に明るくて立派なジムである。
 まず斎藤さんに会社の概要について聞いてみる。
 ビルダー商事株式会社といっても,商品を売ったり買ったりする会社ではない。この会社の主な仕事は,ある大きな会社の輸出センターでの構内作業が中心である。すなわち,全国の各工場から集まってくる部品や,船積みするために梱包されたものを積みおろしするわけだ。そして,これらはすべてフォークリフトによって行われる。だからビルダー商事の社員はみんなフォークリフトの免許をもっている。
 私はきょう始めてこの会社を訪ずれるまでは,きっとボディビルで鍛えた筋力がなくてはとてもできないような力仕事をしているのだろうと考えていた。しかし,いまはすべてが機械化されていて人間の力などそれほど必要としなくなっているという。
〔27才の若き斉藤社長さん〕

〔27才の若き斉藤社長さん〕

ゴツイ体にゴツイフォークリフトまさにビルダーにぴったり

 さっそく斎藤さんに案内してもらって作業現場を見に行くことにした。現場は横浜市の本牧埠頭にある輸出センターの中にある。16名の社員のうち12名が現在ここで働いている。
 輸出センターの入口には,いかめしい守衛さんが何人もいて厳重なチェックを受ける。
 前もって斎藤さんから取材と写真撮影の許可を申請してもらっておいたのだが,企業秘密が洩れるのを心配してか,なかなか許可してくれない。われわれはただビルダー商事の社員たちの働いている様子を撮影するのが目的だし,どう見たって,スパイ映画に出てくるようなスゴイ腕ききには見えないと思うのだが,守衛さんにしてみれば,職務上そうやすやすと許可することはできないのだろう。
 さすがにボディビルで鍛えた大きな体と根性の斎藤さんのねばりも守衛さんには通じない。やむなくカメラをそこにあずけて,ただ現場を見るだけは許可された。(あとで輸出センター専属カメラマンのご厚意で,ここに載せた2枚の写真を撮影していただいた)
 そのとき,黄色い大きなフォークリフトがいきおいよく走ってきた。運転している人はどこかで見た顔であるが思い出せない。
 「ちょうど3時の休憩時間で,雑誌社から取材に来るというのでみんな集まっているんですが,どうしたんですか」と心配して迎えに来てくれたのである。
 あとでわかったのであるが,さっき迎えに来てくれた人は吉田純久君('72ミスター神奈川2位,'72ミスター日本出場)だった。いままでに何回かコンテストで見たことはあるが,へルメットをかぶっていて,しかも,小雨がパラつきだしたためコートを着ていたので,ポーズしている吉田選手とはまるで別人のように見えた。
 どのくらいあるか見当もつかないほど広い輸出センターの構内を,車で3分ほどいったところに12人の社員たちは顔を揃えていた。みんな若くて元気そうだ。いちばん年長者が川村(兄)さんの30才で,そのほかはほとんど20歳前後。それもそのはず,社長の斎藤さんがまだ27歳なのだから。
 ここであらためて1人1人紹介してくれた。
 まず川村(弟)さんと林さん。この2人はビルダー商事の幹部社員であると同時に,キクスイ・ジムのコーチでもある。もちろん,フォークリフトの運転もベテランで,新入社員の運転指導もしている。
 つぎに吉田純久君。さっきもちょっと紹介したが,最近メキメキ頭角をあらわしてきた大型新人で,ビルダー商事とキクスイ・ジムの代表選手である。ことしのミスター日本では惜しくも予選で落ちたが,来年はなんとか決勝に残りたいという。身長178cm,男らしいマスクとバツグンのプロポーションという天性の素質があり,あとはこれにバルクさえつければ必ず近い将来日本のトップ・ビルダーになることは間違いない。
 続いて若手三羽烏は亀山君,宮本君笹木君の3人。亀山君20才,あとの2人はまだ18才でこれからが大いに楽しみなビルダー。斎藤さんも「吉田君に続いて,この3人の中からきっと全日本級の選手を育ててみせますよ。3人とも素質があり練習熱心だから私が太鼓判をおしますよ」といっていた。
 休憩時間を利用しての取材だったので,あまり細かい話もできなかったが全員が明るくハツラツとしており,まったく感じのいい若者ばかりだった。
 ビルダー商事の本社は鶴見区小野町にあるのだが,いままで述べてきたように,この会社の仕事はいまのところほとんど契約先の大きな会社の中でしているので,本社では事務関係しかしていない。
〔ずらりとならんだフォークリフトの前に,カッコイイ作業服で整列したビルダー商事の社員たち〕

〔ずらりとならんだフォークリフトの前に,カッコイイ作業服で整列したビルダー商事の社員たち〕

〔逞しい体に力強いフォークリフト、まさにビルダーにはぴったり。〕

〔逞しい体に力強いフォークリフト、まさにビルダーにはぴったり。〕

ビルダー商事ができるまで

 強い雨になってきたので現場をひきあげ,またキクスイ・ジムに戻る。社員たちは夕方5時ごろ仕事が終わるといったんジムに寄ることになっているが,それまでにまだ1時間ばかりあるので,斎藤さんから会社設立などのいきさつをうかがうことにする。
 「私は福島県いわき市出身ですが,小さい時からスポーツが好きで,それこそなんでも手がけたもんです。社会人となって東芝に勤めてからは,なかなかスポーツをやる時間と場所がないんです。それでいろいろ考えたあげく場所もいらず,相手なしでいつでもできるボディビルに目をつけたんです。
 はじめは休み時間などに1人でやっていたんですが,そのうちにだんだん仲間がふえてきたので昭和42年に正式なクラブ活動として発足させたわけです。それがいま実業団などで活躍している東芝ボディビル・クラブです。
 その後,昭和45年5月にキクスイ・ボディビル・ジムができ,私がこれをまかされるようになりましたので,昼は東芝,夜はジムのコーチということになったわけです。ボディビルが好きだったものですから,仕事とボディビルが簡単に両立すると考えていたんですが,いざやってみるとなかなかたいへんなんです。いままではやりたいときだけのトレーニングでしたから楽でしたが,両方とも仕事となるとそう簡単にはいきません。
 なんとかもっとうまく両立させる方法はないものかと私なりにいろいろ考えたものです。そのころ,ちようどジムの会員の中にも私と同じように仕事とボディビルの両立に悩んでいるものが何人かいたわけです」
 「どうだ。こうして一緒にトレーニングしているのも何かの縁だ。仕事とボディビルを両立させるために,ひとつビルダーだけで何か事業をしてみようじゃないか。若い人の中にだってきっと共鳴する人がいると思うよ」ある日何人かの人に斎藤さんがいままでひそかに計画していたことを打ちあけると「やりましょう! そしてボディビルで鍛えた肉体と根性でどこまでやれるか試してみましょう。お互いにみんなまだ若いんだから」
 というようなわけで衆議一決。このユニークなビルダー商事株式会社が誕生したのである。
 「もちろん,私たちの若さとファイトだけで会社ができたわけではありません。会社をつくるにあたっては多くの先輩や友人たちの尽力があったからです。
 正式に会社ができたのは今年3月ですが,そのときは私を含めて社員は5人でした。みんなの努力のおかげで現在は社員も17人となり,ようやく軌道にのりかけたところです」
 だから社長さん自身いまでもみんなと一緒にフォークリフトに乗っている。よその社長さんのように事務所にフンゾリかえっているわけにはいかない。

他の会社がうらやむ勤務状態

 「本牧の輸出センターには私たちのほかにもいくつかの会社が入っておりますが,勤務状態のいいことではビルダー商事が№1です。仕事の性質上1人休むとフォークリフトも1台遊んでしまい,作業計画が大きくくるってくるんです。この点,うちの社員に限ってズル休みはもちろん,病気で休むなんてこともほとんどありません。それに,寮や自宅から会社の自動車に分乗して一緒に出勤しますので遅刻もありません。
 私たちのように設立して間もない会社にとって,勤務状態のいいことが信用を得るもっとも近道なんです。それに,みんな明朗でよく働きますので評判はバツグンです。
 また,ボディビルをやっているためかフォークリフトの免許をとるのも早いですね。普通まったく経験のない人は免許をとるのに1ヵ月ぐらいかかりますが,うちの社員は早い人で2週間遅い人でも20日あれば充分です。日頃からスポーツをやっている人と,やっていない人ではこんなところにも差がでるんですね」
 さっき実際に現場で見た感じからして,斎藤さんの話に少しの誇張もないことはよくわかる。
〔昼は幹部社員だが夜はコーチに早がわり。左から川村(弟)さん林さん〕

〔昼は幹部社員だが夜はコーチに早がわり。左から川村(弟)さん林さん〕

〔ビルダー商事の若手三羽烏。左から宮本君,亀山君,笹木君〕

〔ビルダー商事の若手三羽烏。左から宮本君,亀山君,笹木君〕

〔ビルダー商事とキクスイ・ジムの代表選手,吉田純久選手〕

〔ビルダー商事とキクスイ・ジムの代表選手,吉田純久選手〕

仕事とボディビルは両立する

 こうして会社の事業の方は順調に伸びているが,では仕事とボディビルは果してうまく両立しているのであろうか。この点について斎藤さんは,
 「うまくいってますよ。ただ誤解してもらいたくないのは,うまく両立させているからといって,仕事とボディビルを50%ずつの比重でやっているということではありません。あくまでも本業はビルダー商事の社員としての仕事です。自分たちの生活を支えていくのは職業なんです。生活を豊かにするためには,みんなで協力して会社を大きくしなければなりません。
 ただ,よその会社と違うところは,みんながボディビルを愛し,会社はボディビルを実践するためには最大の便宜をはかってやるということです」
 もちろん,ジムの会費は無料。独身寮もジムの近くにある。寮長はコーチの林さん,寮には現在7人が入っており,自炊であるが全員がビルダーであるから,毎日の献立も当然タンパク質が中心になることはいうまでもない。
 社長もコーチもいつも一緒に仕事をしているから,トレーニングの打ち合わせや,スケジュールの相談にもこと欠かない。そして,社員の誰かがコンテストに出るときなど全員で応援に行く。こうしてお互いに注意し合ったり励まし合ったりしているのだから,会社の中はいつも和気あいあいとしており,体の発達も早いわけだ。
 ここでちょっと気になったのは,みんなまだ若いのだから,なかにはきょうは彼女とデートがあるからトレーニングは休みたいとか,きょうはなんとなくトレーニングをしたくない,といったようなとき,いつも社長やコーチと行動を共にしていると,つい遠慮がちになるんじゃあないかということである。この点について斎藤さんは,
 「いや,ぜったいに強制なんてことはありません。年令や体力にも差があるので,1週間に3日の人もいれば6日やる人もいます。また人間ですから常に体調が一定しているわけではありません。きょうは休養をとりたいとか軽くやりたいとかいう日があるはずです。そんなときは各個人の自由意志にまかせています。
 会社はトレーニングしたいときに充分トレーニングできるような環境をつくってやっているだけです」
 やがて5時半を少しまわったころから一般会員もだんだん多くなってきた。しばらくするとビルダー商事の社員たちもドヤドヤと一緒に帰ってきた。見ればさっき現場で会ったときと同じ作業服のままだ。仕事の帰りにジムによって一汗流してから寮や自宅に帰るのだろう。川村さんと林さんは早速コーチに早がわり。若手三羽烏も懸命にトレーニングしている。
 一般のビルダーにとって,仕事とボディビルを両立させることはなかなかむずかしいだろうが,このビルダー商事の社員たちを見ていると,それがなんとなく自然に両立しているような気がする。これは社長さんや2人のコーチの若さと人柄にもよるのだろうがこれが会社設立の趣旨であり,それを着々と実現しつゝあることに敬意を表さずにはいられない。
 取材を終わってキクスイ・ジムに別れを告げたあとも,仕事とボディビルを楽しく両立させている様子をみて私の頭の中は久しぶりにすがすがしかった。
 このビルダー商事が刺激となって全国にもっともっとこのような環境の会社ができたら,ボディビルの普及のためにも,ビルダーのためにもどんなにいいことだろう。
 全国のボディビル・ファンや関係者は,みんなでこの会社を応援し成功を祈ろうではないか。
 なお,もっと細かく紹介したかったが誌面の関係であとは割愛させていただくが,直接いろいろお尋ねしたい方はぜひ下記に連絡されたい。

◇ビルダー商事株式会社
事務所 横浜市鹤見区小野町25
電 話 (045)~511~2561
代表者 斎藤 浩
◇キクスイ・ボディビル・ジム
所在地 橫浜市鶴見区鶴見町252~2
(045)~581~2581
〔仕事がすむと、ここキクスイ・ジムでトレーニングに励む〕

〔仕事がすむと、ここキクスイ・ジムでトレーニングに励む〕

[ 月刊ボディビルディング 1973年2月号 ]

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