フィジーク・オンライン

トレーニングスケジュール 〜 その作り方と考え方[1]〜

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1969年1月号
掲載日:2017.12.08
吉 田 実 (第1ボディビル・センター)
記事画像1

良いスケジュールと悪いスケジュール

ボディビルのトレーニングに励んでいる人達の目的を大別すると、[1] 専門的にボディビルに取り組み、出来ることならばコンテスに出場し、ミスター日本などのタイトルを狙いたい。[2] 健康管理のために、[3] 体重を増加させて、せめて人並の体にしたい。[4] ゼイ肉を落して体重を減らし、体を引き締めたい。[5] スポーツマンの基礎体力づくり、[6] 余暇を楽しむため、等になりますが、そのいずれにしても、それぞれ目的に合った練習方法でトレーニングしなければ、十分な効果は期待出来ないものです。


たとえば、健康管理のためにトレーニングしている人が、専門的にボディビルに取り組んでいる人のスケジュールを真似するのは、効果的な練習方法とはいえません。ところが、その誤りを犯している人が意外に多いものです。


オーバー・ワークや誤った練習方法でないかぎりは、規則正しく練習していれば必ずその効果があらわれるものですが、良いスケジュールでトレーニングしたときと、悪いスケジュールでトレーニングしたときでは、その両者のあいだに、歴然とした成果の差がつきます。ましてやその期間が5年〜10年と長くなれば、とてつもなく大きな差になろうというものです。


良いスケジュールで行なったときも、そうでないときでも、同じ努力と体力の消耗が要求されます。同じ努力をするならば、誰しも、より多くの成果をあげたいものです。


ミスター日本、あるいはミスター・ユニバースといえども、その体は毎日のトレーニングの積み重ねによって出来たものです。ひいては1セット1セットの効果が寄せ集まった結晶と言っても良いでしょう。「千里の道も1歩から」ーーその1歩を軽んじてはいけません。


そこで、このシリーズの始めに、読者の皆様が1日も早く立派な体になれるように、トレーニング・スケジュールの作り方とその考え方を解説することにいたします。

初心者のためのスケジュール

初心者の練習コースとトレーニング法の選択には、とくに細心の注意をはらわなければなりません。


ボディビル・センターに通うか、自宅で練習するかの違いはあっても、ボディビルをやり始める人は多いものです。だが、その大半は始めてから僅か数日から1カ月の間に挫折してしまうようです。


これは、一大決心をしてバーベルを手にしたが、翌日から体のあちこちが痛くてまったく仕事にならない、ボディビルがこんなに苦しいものだとは知らなかったーーこのまま続けていたのでは体がバラバラになってしまうのではなかろうかーーと恐れをなしてしまうのでしょう。


これでは、誰にでも手軽に行なえて体力増強に、あるいは健康管理に非常に効果の大きいボディビルの恩恵に浴する人が少なくなってしまいます。


出来るだけ沢山の人にボディビルの効果と良さを認識してもらい、健康で楽しい日々を送っていただくことが、私達関係者の喜びとするところです。


それが、わずか数回の経験でボディビルに見切りをつけられてしまったのでは、大変残念なことと言わなければなりません。


何事も最初が肝心です。そこで、初心者用のトレーニング・コースを作ってみました(表)。このコースを番号の順に、1日おきのペースで3カ月間練習してください。


まず最初の日は、極めて軽いバーべルを用いて、体を慣らすことと、正しい運動方法を覚えるつもりで各1セット。以後1週間は、体が痛くなかったら各種目とも2.5キロ程度の増量をして各1セット。その後、体力に余裕がある人は、2〜3種目を2セットずつ、他を従来どおり1セット。それで数日練習して体力に余裕が出たら、また、2〜3種目を2セットに増やすという要領で、体に無理をかけずに少しずつ練習量を増やしましょう。


その時、*印のものは特に重要な種目ですから、他に優先してセット数を増やしてください。この期間の練習量は、各人の体力によって違いますが、一般には各2セットで十分と申せましょう。よほど体力に自信がある人でも各3セットを越えてはいけません。


使用重量は、正しい運動姿勢で、所定の回数が割合と楽に遂行できる程度のもので、歯を食いしばらなければ持ちあげられないような重いものを用いてはいけません。
記事画像2

初心時の考え方

学生時代は運動部に入っていなくとも、スポーツに接する機会が多いものですが、社会人として生活するようになると、仕事に追われてなかなか思うように運動できず、各部筋肉は、想像以上に委縮し衰えているものです。


この弱っている筋肉にいきなり激しい運動をさせたのでは、筋肉がビックリし過ぎて発達するどころか、かえって、筋肉炎を始めいろいろな傷害を起こそうというものです。


最初の2〜3カ月間は、運動から遠ざかっていたために眠っている各部筋肉を呼び起こして、次からの本格的なトレーニングに備える準備期間のつもりで、無理な練習はくれぐれも避けて、急がずあわてず、のんびりとした気持で練習しましょう。この期間は、体力以下の軽いトレーニングでも、筋肉は十分に発達するし、体重も顕著に増加し、各人とも満足すべき結果の出るときです。


ただ、なにごとにも個人差はあるもので、ボディビルもその例外ではありません。2〜3カ月間熱心に練習しても、他の人にくらべて発達の度合いの少ない人や、極端な場合には、外形面では練習前とほとんど変わらない人も、数のうちには1人〜2人いるものです。


そんなときには“大器は晩成するもの”と考えて、次回からの効果に期待すべきです。人によって「わせ」もあれば「おくて」もあります。これから長い間ボディビルのトレーニングを続けようとする貴方なのですから、わずか3カ月間の結果だけで自信を失ってはいけません。


また、ボディビルというと、世間ではとかく筋肉面、外形面にのみ焦点を合わせて、その内面にあるものを見ようとしませんが、あなたは規則正しく練習を行ってみて、毎日の体の調子が、練習開始前とは較べものにならないほど素晴らしいものになったということを、すでに身をもってお気づきになったはずです。


もう少し経験を積めば、一人黙々と物言わぬ鉄のバーベルを相手にして、自己との戦いにうち克って心と体を鍛えて行く、ボディビルの禅的な一端に触れることが出来るでしょう。


一部の認識不足の人々がいうように、ボディビルが単に筋肉を発達させるだけのものであるならば、私は皆様に貴重な時間を犠牲にして練習に励め、などとは、とても申し上げることはいたしません。


ボディビルのトレーニングからどれだけのものが得られるかは、貴方自身の心構えと、努力によって決まるのです。

このシリーズのテーマ

昨年中は、「中・上級者のための初心者のための集中的トレーニング法」を、こ愛読いただきまして、まことにありがとうございました。


本年は、それに引き続く第2弾といたしまして、どなたでも一番知りたがっている問題だと思いますが、“立派な体を作るにはどうしたら良いのか”という大きなテーマで、1年間おつきあいいただくことになりました。


ボディビルに限らず、あらゆるスポーツで、成功する要素は「練習、栄養、休養」といわれているのは、皆様もすでに良くご存知のことでしょうが、その中でもとくに重要なものは言うまでもなく練習です。


このシリーズでは、栄養、休養についても出来るかぎり紙面を割き、初級者向けの解説もするつもりではおりますが、やはり中・上級者を対象とした練習方法を中心にして稿を進める予定です。


また、客観的な解説ばかりではなく「私は、どのようにしてミスター日本になったか」ということを、からみ合わせて、主観的な書き方をするところも多分にあるでしょうし、自分自身でも疑問に思うことや、研究中で、まだ結論の出ないところはクエスチョン・マークつきで、皆様と共に研究して行きたいと考えておりますので、どうぞ悪しからずご了承下さい。
月刊ボディビルディング1969年1月号

Recommend