フィジーク・オンライン
Weekly Monthly Shopping

やさしい栄養シリーズ⑤
健康食品とビタミン剤について

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1971年1月号
掲載日:2018.07.01
明治製菓食料研究所 野沢秀雄

好き嫌いは許される?

 前回に、動物はすべて本能的に不足しているものを知って、それをおぎなうと書いた。だからビタミンや、ミネラルについては、それほど神経質にならなくていいと説明した。たとえば、猫を飼って様子をみているとよくわかるが、たまに悪いものを食べて苦しんでいるときがある。そのようなとき、庭や畑の雑草をけんめいに食べて、そのあと2〜3日は何ひとつ食事を食べない。そうしているうちにまた元気になり、もりもり食べだす。何が自分の体にいいか知っていて、あとは自然に回復するのを待つわけだ。
ところが、人間の場合はダメだという専門家がいる。「動物たちは嗅覚でかぎわけて、どの草に有効な成分があるかを知る。人間は高等になりすぎたために鼻がきかなくなっている。においで食べ物を選択する人はいないだろう。」というのである。また、「食事というのは習慣による。おいしいということは別である。と唱える人もいる。
 ニューギニアを探検し、人喰い土人の生活を調査してきた農林省の西丸氏の説である。(毎日新聞45年10月16日)
 よくお母さんが「にんじんを食べないと体が大きくなりませんよ。」「ミルクを飲まないと、じょうぶにならないよ。」などなど無理をいって子供を困らせている光景をみかける。子供は迷惑で、まわりからうるさく言われたらいっそうまずくなってしまう。「にんじんがダメならほうれん草があるさ。ほうれん草がダメでもバターがあるよ。」水前寺清子の歌じゃないけれど、ビタミンAが多いのは、決してにんじんだけじゃない。
 また、ミルクが嫌いでもトマトジュースや、ヘム、魚肉ソーセージが好きなら何も文句をいうことはない。それ
を食べないとどうしてもダメだ、などという食品はない。そのあたりが薬品とちがうところだ。代替するものが必らずある。
(子供にムリに食べさせようとするのはよくない)

(子供にムリに食べさせようとするのはよくない)

楽しく食べれば消化しやすい

次に、おいしいと感じて食べたものほどよく消化され、吸収されることだ。このシリーズの第1回に、空腹でたまらないときにおいしいと感じて食べると、わずか3秒間で消化される。それに対して、心配事があってまずいと感じながら食べると、同じものを消化するのに15分もかかる。3秒と15分の差は大きいと説明した(本誌45年9月号)イヤイヤ食べたものは胃にもたれあとの消化・吸収・同化に決して良い結果を与えない。おいしいことイコール栄養だと私は考える。
 ニワトリが先かタマゴが先かの議論があるように、栄養があるからおいしく感じるのか、おいしいから栄養になるのかの問題である。おそらく両方とも正しいと思うが、いずれにしろ、楽しい雰囲気でおいしく食べることがいいのに決っている。ヨーロッパでは、百万長者になると、食堂に楽団を雇いきれいな音楽を流させるという。
 現代のように豊富に食べ物が手に入る時代では、よほどのことがないかぎり、ペラグラ・壊血病・夜盲症・かっけにならないと考えてよい。戦争中とか、動物の飼育実験のように、特殊な状況におかれた場合のみに観察される病気なのだ。

世界で一番うまいものは

 りんご・みかん・ぶどう・柿・バナナ・グレープフルーツ・・・・・・・・・・・・果物はどれもおいしいが、世界で一番うまい果物は何かご存知だろうか?熱帯地方のインドネシアでとれる、ドリアンという果実が一番だと食べた人は誰でも認めている。マンゴーに似た黄色の果実だが、何よりその臭いの強烈なこと、まるでトイレの汚物のにおいだ。だから、最初は気分が悪く敬遠するが、一口たべるとそのうまさにびっくりし一度食べたら忘れられないという。
 コカコーラがはじめて日本に入ってきたとき、すべての人が「ダメだ。こんな薬くさい飲み物が、日本人の口に合うはずはない」と言った。まったくわけのわからない変な味だったが、夏の暑いときに飲んでいると、だんだんうまくなってくる。その結果が、今では1年に48億本、売り上げ額一千億円の人気商品になってしまった。

ヌルヌルしたものは

 何でもうまいものはくせがある。ホルモン焼・レバー・納豆・生たまご・たらこ・うに・とろろいも・・・・・。どれも最初は何だか気持ちが悪い。けれども食べているうちに好物にかわってしまい、こんなうまいものはないといいだすようになる。不思議なものだ。おそらくそのような食品には栄養があるのだろう。体の要求に一致しているのだろう。「ヌルヌルした食品はあの方も強くする。好き者ほど、うまいうまいといって食べる。」などと俗にいわれている。何かの連想か、あるいは、長い間の言い伝えの真実か、あるいはまた、そう思いながら食べるから強くなるのか、そこのところはよくわからない。
 原始以来、あれを食べ、これを食べ、失敗をいくつも重ねて、今のような食事を確立してきたのだ。毒のある魚・キノコ・木の実などを食べてずいぶんたくさんの人びとが命を落としたのだ。新しい味のものを食べるには決死的な勇気がいるわけだ。チョコレートを食べることを発見した土人、魚をさしみで食べるうまさを発見した日本人の先輩に、ありがとう!と心からお礼をのべよう。

まちがいだらけの健康食品

 ちかごろどこのデパートでも「自然食品コーナー」とか「健康食品売場」とか名づけて、クコ・コンフリー・朝鮮人参・くま笹・はぶ茶・にんにく・酵母・小麦の肧芽・はちみつ・黒パン...実に多種多様に陳列されている。
 そしてそのどれもが、「スタミナがつく」「元気が回復する」「疲れない体質をつくる」「発育にいい」とうたっている。漢方薬の処方で気ながに使えば良いものもあるがほとんどのものはビタミンとかミネラルの多いことを、セールス・ポイントに置いたものである。ビタミンはあくまでもアシスタントである。主役となる、でんぷん・脂肪・たんぱく質をおろそかにして粗末なものですませ、こういう自然食品さえとれば充分であるかのように宣伝するのはあまりよくないように思う。とくに困ったパンフレットだと感じたものがあるので、これについて検討してみたい。
第1表はあるメーカーが、コンフリーの販売用につくったもので、コンフリーには、こんなにたくさんのたんぱく質や、ビタミンが含まれていますよ、というつもりのものである。
 第一表を見たら誰だってびっくりする。ところがこの表にはいくつも落し穴がある。
第1表まちがった栄養価比較表

第1表まちがった栄養価比較表

第2表正しいと思われる比較表

第2表正しいと思われる比較表

※一完全乾燥粉末として計算したもの
※※一ほとんど0であるが、調理や加工上重要である
※※※ーの単位はふつうIuで示すものだが

[まちがい1]

 まず牛乳の中にたんぱく質5.4%、脂肪5.8%、炭水化物8.1%...等の割合で含まれているとあるが、こんな高濃度の牛乳は日本で市販されていない。われわれの飲んでいる牛乳は、たんぱく質2.9%、脂肪3.3%、炭水化物4.5%…程度である。表の数字は牛乳1本(180グラム)中のグラム数のまちがいだ。また、ビタミンの量や、単位もまちがっている。なお一の書いてあるところは、分析がしていないことを意味し、決して皆無というわけではない。念のために。

[まちがい2]

 次にコンフリーであるが、たんぱく質・脂肪・炭水化物・ミネラルを合計すると約64.6%となる。残りの35.4%が水分ということになる。ところが、野菜はどんなに水分が少ないものでも水分は80%以上持っている。実際に栽培している人からコンフリーの葉をもらって分析すると、90%以上が水分だ。この点をメーカーに問い合わせると、乾燥したからだという。ところが水分35%の乾燥物というと、切り干し大根か、かんぴょうくらいの状態だ。実際デパートで売られているコンフリーは水分5%ぐらいまで乾燥し粉末にしたものだ。どうしてこんな中途半端なデータを出しているのだろうか?
 あるいは印刷のミスで、炭水化物が37.620%でなく、73.620%のまちがいなのだろうか?そう考えると、水分がほとんど0となり、完全乾燥した粉末100グラムの分析値となりそうである。
(楽しいフンイキで食べると消化によい)

(楽しいフンイキで食べると消化によい)

[まちがい3]

 最も大きな落し穴は、牛乳100グラムとコンフリーの半乾燥物あるいは、乾燥物100グラムを並べた点である。この2つはまるで状態がちがう。片方は水分が88%もある牛乳。片方は水分の少ない乾燥物。そんなものを比較するのがおかしい。そのうえ1回に食べる量がまったくちがっている。ふつう、牛乳びん一本は180グラムだから、誰でもかんたんに飲む量だ。ところがコンフリーの粉末を、一度に100グラムも食べる人はいないはずだ。説明書を見るとスプーン一ぱい(約5グラム)を水で薄めてジュースのようにして飲みなさいとある。もしそうならば、牛乳一本(180グラム)とコンフリー粉末5グラムを同時に並べて表をつくり、それを消費者に示せばいい。ためしに作ってみると第2表のようになる。
 なおこのメーカーは、コンフリー入のあめ玉を売っている。ところがその中にはコンフリーの粉末が4%しか入っていない。1個約1グラムとすると0.04グラムしかコンフリーがないことになる。第1表のようにコンフリー100グラム摂取するためには100÷0.04=2500。すなわち2500個も食べなければならない。まったく馬鹿げている。

[まちがい4]

「この表は国立栄養研究所・北里大学・英国ダブルディ研究所の分析資料を総合した成分表である」とパンフレットにある。一見いかにもそれぞれの研究所で同時に牛乳と、コンフリーを分析したように思えるが、どうもそうではないらしい。なぜなら、権威ある機関がこんなでたらめの数字を出すはずがないからである。牛乳のデータは、公式の食品成分表からとり(これは国立栄養研究所が関与している)コンフリーのデータは、北里大学や英国のものを使い、その2つを都合の良いように並べたとしか考えられない。

データは信用できない

 このようにいい加減なデータだからビタミンや、ミネラルについて数字が並んでいても、全然信用する気になれない。コンフリーそのものは、決して悪いものでない。おそらく大根の葉かそれ以上によい成分を持っているだろう。それなのに、でたらめな販売方法をされたのでは、お客さんも、コンフリーもかわいそうだ。
 自然食品・健康食品の中には、栄養バランスも、味も、すぐれた製品が存在する。しかし、数字が並べてあっても、よくよく考えないとだまされるので、見分ける注意が必要である。スポーツマンのために、というならば、スポーツマン・シップにのっとり正々堂々、よい品質のものを、正しい方法で販売してもらいたいものだ。

天然ビタミンと合成ビタミン剤

 食品の中に含まれて体内に入るビタミンは、吸収されて効果を発揮するが薬品として飲む、いわゆるビタミン剤は、あまり意味がない、という説がある。アメリカの雑誌「ミスター・アメリカ」でもキャンペーンとして、この問題をとりあげている。食品中のビタミンと、化学工場で合成してできるビタミンは、その構造も性質も、まったく同じで、決して合成品が劣るわけではない。最近は技術の進歩により、ビタミンCや、B2は、ぶどう糖からわりあい簡単な方法で生産できる。
 業務用のビタミンCは、1キロ千円くらいの安い値段で買うことができる。1日の必要量は60ミリグラムといわれるから、たったの6銭でまに合うわけだ。昭和12年ぐらいは、当時の金で1グラム150円。時価になおすと6万円ぐらいしていたのと比べると、たいへんな進歩だ。ビタミンC以外のビタミンもどんどん合成されて、1グラム2円〜100円くらいで製造できる。コストが高いビタミンは、必要量が微少ですむ。どれも1〜60ミリとれば充分だ。だから本当は、ビタミンを錠剤で飲めばいちばん安く手数もかからない。
(ビタミンの価格については「原価の秘密」参照)

ビタミン剤は大量にのんでもダメ

 ところが、ビタミン剤を飲んでもあまり効かないという人が多い。なぜだろうか?私は、一時に大量に飲んでも消化・吸収される時間がないからだと考える。食べた食品が分解され、小腸で、毛細血管にジワジワと吸収されるわけだが、それは流動性のある栄養物が、小腸をゆっくりと通過する間におこなわれる。エスカレーターが動くように、移動しながら栄養分が吸いとられていく。
(ビタミンは短気者、自分が吸収されないとわかると、すぐ人間の体内からにげてしまう)

(ビタミンは短気者、自分が吸収されないとわかると、すぐ人間の体内からにげてしまう)

 ビタミンCの場合を考えてみよう。100グラムのいちご(ちょうど一皿分ぐらい)の中に、ビタミンCが80ミリ含まれている。0.08%という、うすい濃度である。それ以外は、水分や、せんいなどである。ビタミンCはせんいの上や、中にまざって、ゆっくりと小腸を通る。通過時間がたっぷりあるのでかなりの量が血液に吸収されていく。
ところが一方、薬として入った場合、特急列車のように、あっけなく体内を通過してしまう。たとえば、タケダのハイシーは、1錠1グラム中に、300ミリもビタミンCが入っている。濃度30%だ。とうてい瞬間的に吸収できるはずはない、ほとんどが体内へ排出されてしまう。
 ビタミンB1錠(アリナミンなど)・総合ビタミン錠など、すべて同じことがいえる。空腹でたまらないときなど通過はもっと早い。だから、朝食がわりにビタミン剤を飲んでもあまり効かないわけだ。食事のあとすぐ飲めとか、寝る前に飲めとすすめられるのはこういう理由のためであろう。食事といっしょなら割合通過はゆっくりおこなわれる。
 ビタミンB1は、1日に1.0〜1.5ミリあればいい。それ以上とっても排出されるだけだ。ところが、製薬会社では、5ミリ・25ミリ・50ミリと大型錠を販売する。客の方でも、つい効きそうなので多い方を買ってしまう。無駄なことだ。
 ビタミンA・ビタミンDは過剰にとると障害をおこす。Dが多すぎると、体内にカルシウムと、りんご酸ができすぎ、腎臓病になるという。

健康な人にはビタミン剤は不要

 アメリカでは、42年1月からビタミン剤のびんに「健康人にビタミン剤は不要である」と書いたラベルを貼らせているという。さすがアメリカ政府、重要な決定が早い。日本では、政治に対する製薬会社の圧力が強く、早急には実現しそうもない。消費者が正しい判断を下す以外にない。ビタミン剤を飲むと、心理的な暗示がかかって、なんとなく調子がいい場合もある。もともと病気はすべて気持の持ち方からくるものだ。よくなると決心したら良くなるし、悪くなると思っていると悪くなる。そんな微妙さは確かにある。
 名医は薬でなく口でなおすとよく言われている。効くと思ってビタミン剤や、ドリンク剤・健康食品・スタミナ食品を飲んでいる人は、それはそれでいいだろう。けれども、積極的に運動をおこなえば、気分の転換ができ、食欲が増進し、何でもおいしく食べられるようになる。ずっと健康的である。
月刊ボディビルディング1971年1月号

Recommend