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あなたは体力に自信がありますか?
体格と体力と年令

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月刊ボディビルディング1971年3月号
掲載日:2018.01.31
野沢秀雄

大きいことはいいことだ

「立派な体をしているね!」と、まわりからほめられるとうれしい。とくに苦労してつくった場合はいっそうである。大きな体にしておく効用は予想よりはるかに大きい。
アメリカの広告業界について話をきく機会があった。「視覚から訴える強さは何よりも大きい。テレビ・マンガ・グラフ・...。現代は目でみて直感的に判断する時代だ。だから、どのメーカーも刺激の強い画面で消費者を説得する」そんな話であった。
たとえば身長が高いというイメージは「立派な青年だ」「堂々とした青年だ」というように、その人間の内容にまで信用度をつけ加える。また「たのもしい人だわ」「強そうな人ね」と、いうように女性の恋愛感情を刺激する。街を歩くときは、すくなくとも「学歴」よりも「大きな身体」のほうがモノをいう。
本論に入ろう。第1表はある経済雑誌に発表された日本人の体格に関する基準表である。また、第2表は厚生省発表の身長・体重・胸囲・上腕囲の年令別平均値である。参考のためにスポーツマンの体格を第3表に示した。
第1表 体格基率表

第1表 体格基率表

第2表 年令別平均值(44年度)

第2表 年令別平均值(44年度)

第3表 スポーツマンの体格(石河ら)

第3表 スポーツマンの体格(石河ら)

身長に関しては「戦前よりも5センチ高くなっている」「いや成長する早さが早くなっただけだ」と議論がかわされているが、成人男子を見るかぎり確かに5センチは高くなっている。平均より低い人でも22才までは必ず伸びる。またそれ以上の年令の人でも4センチ伸びた人を知っている。運動と栄養の条件が大きい。
「胸囲1メートル・上腕囲35センチ」を第一次目標にあげるビルダーが多い。この水準が達成できれば普通の人よりもかなりすぐれた体格になっているだろう。胸囲1メートル以上の人は500人に1人くらいの確率だという。個人差はあるが約1年の鍛練で到達可能と思われる。

強いことはいいことだ

体格を表面のレッテルとすれば、体力は実戦的な内容を意味する。
目の前をスリが逃げていく―格闘して捕まえるには、力の自信が必要だ。「車内で娘さんがからかわれてる!救いたいが...」こんな場面でも単に勇気だけでなく、やはり腕力がものをいう。現代社会の不正や悪に挑戦するためにも一人一人が体力をつけておきたい。第4表に現代人の体力を、第5表にスポーツマンの体力を示す。
スポーツ選手も筋肉力から見ると一般の人々とあまり変らない。外国選手の体力は背筋力190kg前後、握力は58~60kgもあり、体力的に相当のハンディがある。
第4表 年令别体力(44年度)

第4表 年令别体力(44年度)

第一図

第一図

第5表 スポーツマンの体力

第5表 スポーツマンの体力

第6表 上腕屈筋の単位断面積当たりの筋力(猪飼ら)

第6表 上腕屈筋の単位断面積当たりの筋力(猪飼ら)

第6表は、腕の太さと、出す力の関係を見たものである。柔道選手がもっとも腕が太く、力強い。ところが出した力を腕の太さの数字で割ると、どの人も大体同じ数字になる。女性の場合も子供の場合も、6.1土0.8ぐらいになるという。すなわち体のサイズの大きい者ほど大きな力が出せることを意味する。
ボクシングやレスリングに重量別の階級が存在する理由である。そうでないと日本の金メダルの数は激減してしまう。
ボディビルの練習でAが70kgを上げるのにBは60kgしか上らないといった場合、筋肉の量を調べると、やはりAの方がよく発達しているはずである。またBが70kgのバーベルを上げるようになれば、やはりそれだけ、筋肉がついた証拠とみてよい。
ただし、一つの動作でもいろいの筋肉が動員されるので、それらの総合した結果が「体力」として出てくる。また脂肪のために、それほど表面に出てこない場合もある。顕微鏡で筋肉を調べると、一つ一つの筋肉細胞がトレーニングの結果、太く大きくなっていることが、はっきりとわかる。
いずれにしろ、体を大きくするためには、より重い重量へ増やしていく必要がある。同一重量ではいつも同じ体格のままだ。陸上の選手、バスケットボールの選手、そのほかどんなスポーツの選手でも、ウェイト・レーニングをしないかぎり、びっくりするほど筋肉がふえるということはない。

老化をどう考えるか

苦労してつくりあげた筋肉や体力も年令とともに低下していく。太陽が西に沈むのをとめることができないように、老化は生物としての宿命であり、自然の摂理である。
体細胞を調べると、無数の微細な粒からできている。細胞によって、色素粒の多いもの、たんぱく粒の多いもの脂肪粒の多いものといろいろの細胞があるが、どの粒もそのまわりに水をくっつけて親水性コロイドとなっている。赤ちゃん、子供の細胞は水をくっつける力が強く、みずみずしい。
思春期の青年や少女は皮脂がのり、はりがあって美しい。ところが中年・老年になると、水を引きつけるコロイドの力がだんだん弱くなる。そして皮脂の分秘もへり、皮ふにたるみができ、ついにはカサカサに乾いてシワとなる。
血管もまた細胞からできているが、年令とともに硬くなり、弾力性がなくなる。またコレステロールが管の中にたまり、血液が通りにくくなる。これらの理由で血圧が上昇してくる。
老化現象をまとめると次の9項目になるという。①組織の脱水②組織細胞増殖の減少③酸素消費量の低下、全体としては基礎代謝の低下④細胞の萎縮と変性、脂肪と色素の沈着⑤組織の粘性の減退と結合組織の変性⑥骨や筋の強度の減少⑦反射力の減退⑧視力・聴力・注意力・記憶力その他神経機能の低下⑨ホメオスタシス(恒常性)の障害、適応能力と抵抗力の減退。
しかしながら老化ほど個人差の大きいものはない。80才の高令でありながら50才の肉体年令を持ち、バリバリ事業の指揮にあたっている社長さんがいると思えば、40才ですでにふけこんでいる気の毒な人もいる。何を幸福と考えるかは人によってちがうだろうが、
少なくとも、つねに健康体であり、いつでもどこでも自分の身体を自在に動かせるようにしておくことが基本になる。やりたい仕事をする。やりたいレジャーをする。人を愛する。人に奉仕する。すべて体力的な余裕がないとできることではない。「気がやさしくて力持ち」というが、実は「力があるから気もやさしくなる」と解釈したい「美しい老人になる」という目標がわれわれにある。
「美しい老人」は、社会的によき仕事をし、後輩の人たちから尊敬されている。また若い世代を理解する寛容な心を備えている。アンドレ・モロク氏は、そのような美しい老人になるためには、いつも体のトレーニングを忘れないことだと指摘している。
実際に70才をこえてなおボディビルを続け、哲学の大研究をしているおじいさんを知っている。いずれ本誌に紹介したいと思う。
そんな老人の段階まで考えなくても現代日本のビジネス社会、実業の世界はきびしい。とくに40才、50才になってからが勝負の分れ道になる。どんな職業を選択するにしろ、現実に体力が要求される。「体力のない者は去れ」と企業はつきはなす。体力のない者は脱落する。
先日のニュースに、欠勤が多いばかりにクビになり、労働基準局に抗議したが、全然同情されなかった男の話があった。体力は財産であり、若いときから貯蓄すべきものだ。鍛えおしみしていると、のちのちにひびいてくる。現在40代、50代の人間は軍隊経験や軍事訓練、戦後の買出しなどで体力をたくわえたという。
さて体力の低下は一般に26才からだといわれる。もちろん三島氏のように30才からとりくんで肉体の大改造に成功した人もある。
けれども普通の場合仕事の重要度が増し、思うようにトレーニングの時間がとれないのが実情であろう。この場合、きっぱりトレー二ングを打切るのは得策でない。週に1回の練習で体力は維持できる。とくに若いときから貯えてきた場合は、長期間にわたって筋肉も体力も維持される。これを第1図に示す。
ビルダーのみなさん、いつの年令でもバーベルを手離さないでおこう「筋肉をつくっても一円の得にもならない」などという評論家は近視眼だ。体力が必ずモノをいう年代がくる。また美しい余裕のある老人になるためにも...。
(サンライトハウス代表)

海外だより☆☆☆☆☆☆☆南国フィリピンから

三井物産に勤務する石川信男氏は昨年末、海外派遣でフィリピンのマニラ市に赴任した。
石川氏は、2~3カ月前からボディビルをやり始め、ようやくボディビルの楽しさがわかり始めた時なので、フィリピンに行ってからも何とか継続してやりたいのだがと、赴任を前のあわただしい中を日本協会にみえた。そして玉利理事長の紹介状をもって勇躍赴任の途についた。
その石川氏から最近、日本協会あてにフィリピンのポディビル・ジムについての手紙がきたので紹介しよう。
石川氏は着任後、すぐ市内の中心地にある、かなり大きい設備のととのった「システアム・へルス・クラブ」を訪れた。ここの経営者はコーチも兼ねるトム・オルテガ氏で、オルテガ氏は、1967年度ミスター・ユニバースの審査員をつとめたこともあり、当地でもかなりの名士だそうだ。早速、紹介状を見せて来意をつげると、親切に入会の手続きをとってくれた。
入会申込書には、いろいろな記入事項や、トレーニングに対する一般的な注意事項等が書いてあった。それらを簡単に紹介すると、
①入会に当って、詳細なアンケートを行ない、食事、睡眠、運動量、精神状態、その他生活面等について記入する。
②身長、体重はもとより、身体各部の測定検査を行ない、ジムでそのデータを管理して定期的に検査する。
③トレーニングについては、すべて個人別指導で、本人に適したコースを組む。
④トレーニングは笑顔を見せ、常にリラックスして行なうよう指導される
以上のようなもので、とくに、健康管理に重点がおかれているようである
オルテガ氏によると、私の身体は比較的に固いとのことで、1~2カ月は筋肉ほぐしから始め、バーベルはせいぜい5~20kgぐらいまでとのことだった。そのほかは日本のトレーニング・ジムとほとんど同じである。
以上が石川氏の手紙の内容であるが次にはもっと具体的なトレーニング法等について知らせてくれるそうである
月刊ボディビルディング1971年3月号

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