フィジーク・オンライン

世界のビルダー・トレーニングの比較⑥
脚のトレーニング

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1971年9月号
掲載日:2018.02.18
高山勝一郎

まえがき

半年にわたって書いてきたトレーニング比較論もいよいよ大詰めである。
 広背・腹筋・肩・腕・胸の順に述べてきたので、残るは下肢のトレーニング法のみとなった。
 首等の部分については特に比較するほどの内容もなく、例えば、レスラー・ブリッジとかネック・フレクションとかの応用において行なわれているので、ここでは割愛させていただく。
 今迄、幾度かご注意申し上げた筈であるが、この項のトレーニング法は、すべて世界の超一流ビルダーが採用している高級者向きのものであり、しかも、その筋肉に集中トレーニングを課している際の方法を多く紹介した。
 従って、これを初心者がそのまま真ねることは、百害あって一利なく、かえって危険なことである。
 中級者以上の方々や、自分の練習方法にいきづまりを感じたビルダーたちが、この中からエッセンスを引き出し、参考にしていただくことがねらいである。
 オーバー・トレーニングをつつしみ自分の体調にあったトレーニングをつづけ、その内容を漸次高めてゆく……これが世界の一流ビルダーの推奨するところであることを、もう一度強調しておきたい。

脚のトレーニングなくしてチャンピオンなし

 「ひところ、私の脚は、巨大な上体を支えるのにあまりに細くみえた。
 私は脚に集中した。そして気がついた。下肢は上体と完全なバランスがとれていなければならない。しかも、両脚間にもバランスのあることが必要である……」と語っているのはアーノルド・シュワルツェネガーである。
 「他のビルダーよりぬきんでようと思う時には、次の三か所をよく鍛えることである。即ち、腹筋、三角筋、下腿三頭筋(カーフ)である。
 とくに、カーフは足全体のカナメであり、これが弱々しいと体全体が弱々しくみえる」というのはハロルド・プール。
 「脚のトレーニングは、他の部位と チェイン・リアクション(連鎖反応)を起すことをビルダーは知らねばならない。脚を鍛えることにより、厚い胸、広い肩、太い腕という副産物が必ず得られるのだ。また、心肺機能の向上にも不可欠のものだ」と語るのはビル・パールである。
このすばらしい脚、この脚の持ち主は? そうですシュワルツェネガーです

このすばらしい脚、この脚の持ち主は? そうですシュワルツェネガーです

スクワットはハイ・レプで
「キモン・ポイッジ」

脚のトレーニングといえばスクワットといわれるほど有名な種目だが、欧米のビルダーでも、このスクワットを何か無理にやらされている体罰のように感じている者が少なくない。
 しかし、このスクワットから得る効果は実に偉大である。
 ミスター・アメリカ・コンテストで常にベスト・レッグ賞をとっているキモン・ポイッジもスクワットの礼讃者である。
 足のトレーニング・スケジュールはスクワット中心に組むべきだし、自分の体重の2倍ぐらいのウェイトで20回は行なえねばならぬ……というのが彼の持論である。
 一般に、へビー・ウェイトでロー・レピティションがバルクを増す方法といわれるが、脚の場合、この原則はあてはまらないらしい。
 スクワットはハイ・レピティションほどバルク、デフィニションともに効 果的という。
 彼は300ポンド(136キロ)のウェイトで50回のスクワットに成功しているほどである。
 通常は、先ずミディアム・ウェイトのバーベルをかついで20回、次に20ポンド増量して15回、さらに20ポンド増量して10回、最後にもう10ポンド足して5回を行なう。
 これ以外に、大腿二頭筋のためにレッグ・カール、アイアン・ブーツ・カ ール、レッグ・プレスを、また、カーフのためにワン・レッグ・カーフ・ストレッチ、ドンキー・カーフ・レイズ、カーフ・マシーン等を一緒に行なっている。

スクワットはハーフで
「スティーブ・リーブス」

 スクワットは別名デイープ・ニー・ベンドと呼ばれるが、これはその名が示すように、深く膝を屈するフル・スクワットのみを意味する。
 スクワットはもっと広い意味の動作に言及し、そのバリエーションも多い。
 レジ・パークをして世界一と賞嘆せしめたのは、ステイーブ・リーブスの脚であるが、彼は、前述のポイッジと違って、フル・スクワットを絶対に採用しなかったことで有名である。
 ただし、彼もヘイ・レピテイション・システムを採用している点はポイッジと同じである。
 フル・スクワットを避けた訳は、彼が大殿筋の発達をきらい、直線的な下半身を好んだためである。
 彼の脚部トレーニング種目は
① フロント・ハーフ・スクワット
 踵を木片にのせて、ウェイトを胸の前で支持し、中腰までのハーフ・レインジで行なう。15回の3セット
② ハック・スクワット
 ハック・スクワット・マシーンで行なう。15回の3セット
③ レッグ・カール
 カール・マシーンで15回4セット
④ カーフ・レイズ
 レッグ・プレス・マシーンを使うかバーベルを使用して20回4セット
⑤ ドンキー・カーフ・レイズ
 パートナーを背にして20回4セット
カーフ・レイズで脚を鍛えるハロルド・プール。ひざを曲げて行なうところに注意

カーフ・レイズで脚を鍛えるハロルド・プール。ひざを曲げて行なうところに注意

フロント・スクワット礼讃
「フランク・ゼーン」

 スクワットの際、ウェイトは普通肩にかつぐが、これを両手で胸の前上で支持するのがフロント・スクワットである。
 この種目は、脚が細く臀部の大きいビルダーにとっては、その両方を短正する福音ともいうべきもの。
 リーブス、ゼーン、レジ・パーク等はこの礼讃者である。
 フランク・ゼーンのトレーニング法は次のように、ねらいとする筋肉別に構成されている。
① 大腿二頭筋用にレッグ・カール
② 大腿四頭筋等前部大腿部のためにフロント・スクワット
③ 大殿筋と大腿を別の角度から鍛えるためにハック・スクワット
④ 下部大腿にレッグ・エクステンション
⑤ 下腿三頭筋用にカーフ・レイズ
 以上を12〜15回で各3セットを行なう。集中時は各5セット。

カーフを重視
「ボイヤー・コー」

前述のハロルド・プールと同じように、ビルダーの生命は肩と腹筋とカーフ(ふくらはぎ)である……と主張しているのがボイヤー・コーである。
 彼は通常、スクワット、レッグ・プレス、ハック・スクワット、カーフ・レイズで構成されるトレーニングを続けているが、とくに注目すべきは、カーフ種目だけは毎日やるというカーフ重視主義である。
 しかも、折々次のようなカーフ集中トレーニングを行なっている。
① スタンダード・カーフ・レイズ
 カーフ・マシーンを用い、膝をロックしたまま流れるような上下運動をくり返す。トウ・ポジションをセットごとに変えて行なう。
② ドンキー・カーフ・レイズ
 つま先にブロックをかませて。
③ カーフ・レイズ・ウイズバーベル
 ブロック使用、足の位置を変えつつ。
④ カーフ・レイズ・オン・レッグ・プレス・マシーン
 コーの最も好んだ種目。
①と②、③と④の種目はそれぞれスーパー・セットに組む。
 各15回ずつ10セットを行なう。
カーフ種目だけは毎日欠かすことがないというボイヤー・コー

カーフ種目だけは毎日欠かすことがないというボイヤー・コー

多セット主義
「ポール・ジョーンズ」

 ボイヤー・コーの10セットも多いが、ポール・ジョーンズも7〜15セットとセットを多く重ねて、逞しい脚筋をねらっている。
① パラレル・スクワット
 足を平行にそろえて。体重の1.5倍のバーベルを使用。10回7セット。
② ハック・スクワット
 あるいはレッグ・エクステンションのいずれか。20回の7セット。
③ レッグ・カール
本人はサイ・カールと呼んでいる。10〜20回で10セット。
④ カーフ・レイズ
 足先に木片をかませて行なう。15〜35回を15セット。

ウェイト・スライド・ システムで
「ビル・グラント」

 ミスター・ニュージャージー、ビル・グラントは、セットを重ねるに従いウェイトをスライドさせてゆくウェイト・スライド方式を採っている。
① フル・スクワット
 65キロのバーベルを支持して15回、75キロで10回、95キロで10回、105キロで10回、115キロで10回、以上5セットを行なう。
② ハック・スクワット
 やはり60キロから110キロまでのウェイトに漸増させつつ5セット。
③ レッグ・カール
 50キロ前後のウェイトで10回ずつを5セット。
④ ドンキー・カーフ・レイズ
 カーフ・マシーンを使い、先ず軽い負荷で15回ずつ3セット、増量してオーバー・ロードで15回の3セットを行なう。

バリエーション多用
「ビル・パール」

 ミスター・ユニバースに3回優勝しているビル・パールは、脚にも多角的な刺戟を与えるため、種目にいろんなバリエーションをつけて、なるべく多種目を採用しようと努めていたようである。
 代表的なものを紹介しよう。
① フロント・カーフ・トー・レイズ
 カーフ・レイズの逆、パートナーに足の先を押えて貰って指先を上方へレイズする。下肢前部(スネ)に効く。
 25回を3セット行なう。
② カーフ・レイズ・オン・ハック・スクワット・マシーン
 マシーンに45度の斜角でうつむけに寝てカーフ・レイズを行なう。つま先の位置はセット毎に変える。25回×3
③ 45度ハック・スクワット
 斜角45度のハック・スクワット・マシーンにあおむけに寝て15回を4セット。大腿部に卓効あり。
④ ローマン・チェア・スクワット
 上体をまっすぐ保ち両手を頭の後で組み、つま先をローマン・チェアのバーにひっかけ、上腿部が床と平行になるまで腰をおとし、また持ち上げる。
 15回を3セット。
⑤ レッグ・エクステンション
 大腿部のデフィニションをねらってウェイトは軽く25回を3セット。
 ゆっくり行なうのがコツ。
⑥ フォワード・ランジ
 直訳すれば「前へ突進」である。
 バーベルをかつぎ片足ずつ大きく前へふみ出し腰をおとす。片足15回ずつで3セット。足につきすぎた肉があればひきしめ、ポージングの際のバランスをやしなうのにも非常によい。

ウォーム・アップは ナワ飛びで
「チャック・サイプス」

 サイプスのミスター・ユニベースになった当時の練習は、毎週6日、朝夕2回ずつという大変なものだった。
 そしてトレーニングを始める前に必ずジャンプ・ロープ(ナワ飛び)でウォーム・アップしたという。
 これは、ジャンピング・スクワットのウェイトをなくしたものと同じ効果があり、脚部デフィニションの養成に、また心肺機能の向上に非常に良いといえよう。
 さて、サイプスの脚部トレーニングは次のようなものである。
① カーフ・レイズ
 4セットを内マタ、4セットを外開き、4セットは足を平行に計12セット
② レッグ・カール
 カール・マシーンで8回の6セット
③ ワン・レッグ・スクワット
 ベンチの上で片足を出して、片足のみで行なう。両足のスクワットよりよく効く。6回の6セット
④ レッグ・エクステンション
 アイアン・シューズをつけ片足ずつ行なう。大腿部によい。8回6セット
⑤ シッシー・スクワット
 50キロダンベルを両手に12回を6セット
50kg のダンベルを両手にもってシッシー・スクワットを行なうサイプス

50kg のダンベルを両手にもってシッシー・スクワットを行なうサイプス

砂浜を毎朝5マイル走破
「フランク・コロンベラ」

 ミスター・オーストラリアのコロンベラは、毎朝海岸を5マイル走ってカーフを鍛えたという。
 彼の脚部トレーニングは週6日、次のようなスプリット・システムである。
一月・水・金曜日一
① フル・スクワット 8×6セット
② ハック・スクワット 8×4
③ カーフ・マシーン 15×8
④ カーフ・レイズ・オン・ハック・スクワット・マシーン 15×4
一火・木・土曜日一
① ドンキー・カーフ・レイズ 15×6セット
② フロック・キック 20×5
 ついでに彼と全く脚形が同じといわれるアマ・ミスター・ユニベースのクリス・ディカーソンのトレーニングを紹介しておこう。
① ハック・スクワット 8×4
② フロント・スクワット 6×4
③ レッグ・エクステンション 8×4
④ ダブル・レッグ・クロス・オーバ
  左右50回ずつ2セット
⑤ ツィスティング・レッグ・レイズ
  同じく左右50回ずつ2セット
砂浜を毎朝5マイル走って鍛えた というフランク・コロンベラの脚

砂浜を毎朝5マイル走って鍛えた というフランク・コロンベラの脚

日本人でもベスト・レッグ
逞しい武本の脚

 昨年ミスター日本になった武本選手は、先天的に筋肉に恵まれた脚を持っていたようである。しかし、脚がただ太いだけでは、世界一の折紙を獲得することはできない。
 前述のフランク・コロンベラが砂浜を走って脚を鍛えたように、武本選手もまたバーベルを肩にかついでグランドを走り、さらには、運搬用の自転車で坂を登ることによって、あのシャープで逞しい脚をものにすることができたという。
 スクワットやカーフ・レイズは誰でもやっている種目である。
 種目とはいえないようなこのランニング、ジョッギング、サイクリング等の中に、意外に脚の鍛練の真理と健康の真理とが含まれているような気がするのである。
世界ーの折紙をつけられた脚の持主、武本蒼岳選手

世界ーの折紙をつけられた脚の持主、武本蒼岳選手

月刊ボディビルディング1971年9月号

Recommend