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☆末光健ー選手にインタビュー☆驚くべき発達ぶりのナゾを解く

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月刊ボディビルディング1971年10月号
掲載日:2018.02.03
 昭和43年10月、始めてバーベルを手にしてから、わずか9カ月後の44年6月には、早くもミスター東京コンテストで5位となり、さらに11カ月目でミスター日本コンテストの13位に入賞するという、すばらしい発達ぶりを示した末光選手は、1年8カ月後にはミスター東京の栄冠を手中に収め、アッという間にトップ・ビルダーの仲間入りを果してしまった。そして、3年目の昭和46年度ミスター日本コンテストではベテラン武本選手に破れたとはいえ第2位という、まことに驚異的な躍進ぶりをみせたのである。

 過去にも数多くの有名ビルダーはいるが、これほどまでに短期間でスターダムにのし上った選手はほかに見たことがない。そしていまやミスター日本はおろか、ミスター・ユニバースをも制覇しようと虎視タンタンとねらっている。

 もちろん、末光選手には生まれながらの素質も多分にあったのだろうが、恵まれなかった子供時代に培かわれた不屈の根性と、常識はずれの食事法と、気違いじみたハード・トレーニングが、今日の末光選手をつくりあげたに違いない。
 きょうはそのナゾを解こうと、中野トレーニング・センターに末光選手を訪ねた。私が訪れたとき、末光選手はすでにベンチ・プレスでトレーニングをしている際中であった。

 私はしばらく彼のトレーニングを見ることにした。

 まさに"滝のように流れる汗"という表現がピッタリの末光選手は、1セットおわり、大急ぎでバーベルを増量して、休むことなく再びベンチ・プレスを開始する。見れば、バーベルの重さはなんと170kgである。

 やがて牛乳を飲みにきた末光選手に来意を告げると、いつもならトレーニングは中断しないのであるが、きょうは特別にスケジュールを変更してインタビューに応じてくれた。

 逞しい体つきとは反対に、インタビューに答える末光選手は、いつもの人なつっこい顔と、やさしい言葉づかいで、じつに気持のよい青年である。

 しかし、食事法やトレーニング法の質問に、ときどきとび出してくる人間ばなれの答えに、私は一瞬、耳を疑ってしまった。いくぶんオーバーなところもあるのではないかと思ったが、さっき見た170kgのベンチ・プレスから想像して、そうでもないらしい。

 まず、最初に末光選手の体格と、コンテスト歴をあげて、インタビューの模様を紹介しよう。
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◇体格
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◇コンテスト歴
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末光選手とくいのバック・ポーズ

末光選手とくいのバック・ポーズ

ダンスからボディビルに転向

−−子供のころはどんな体格をしていましたか?

末光 身長も低く、どちらかといえば細いほうでした。しかし、骨格はがっちりしていました。

−−ボディビルを始める前に、何かスポーツをした経験がありますか?

末光 栃木県の箒根中学校時代に体操の選手をしていました。その関係で僧帽筋や大胸筋などは普通の人より発達していました。いまでも逆立ち空中転回、大車輪ぐらいならできます。

−−ボディビルを始めた動機は?

末光 中学を卒業して、東京の三井精密工業に入社したのですが、なんといっても田舎者ですから、少しでも早く都会の空気になれようと思って友達と一緒にダンスを習い始めたんです。たまたまダンス教習所の隣が代々木トレーニング・センターでしたから、トレーニングをしている光景がよく見えたんです。毎日見ているうちに、これは面白そうだというんでボディビルを始めたわけです。

−−会社ではどんな仕事をしていますか? よかったら給料も教えてください。

末光 三井精密工業といって、測量器や電波関係の機械をつくっている会社ですが、私はそこでフライス盤、旋盤、ミーリングなどの仕事をしています。もう入社して10年になりますから、熟練工とまではいきませんが、それに近くなりました。

 給料は8万円弱というところです。

常識はずれの食事法

−−ところで、末光選手の食事法はボディビル・ファンの間でも興味のまとになっており、いろいろの噂や誤解されている面もあると思いますので、実際に現在食べている1日の食事の献立をあげてください。

末光 1年中ほとんど同じような食事をしています。(といって説明してくれたものを整理すると次のようになる)
◇食 事
記事画像5
−−いや、まったく驚きましたね。変った食事をするとは聞いていましたが、これほどとは思いませんでした。ごはんやパンは食べないんですか?

末光 ごはんとかめん類、パンなどのような炭水化物はほとんど食べません。せいぜい1年に1〜2回ぐらいです。あくまでも蛋白質中心です。

−−肉はナマで食べると聞いていますが?

末光 いつもナマで食べているわけではありません。たいていバターでいためたり、焼いたりして食べていますが、いい肉が手に入ったときなどナマで食べます。

−−こういう食事法は、栄養士とか医者に相談してつくったんですか?

末光 いいえ、いろいろの本を読んだり自分で研究したりして、これが一番自分の体に合ったものだという結論に達したわけです。

−−ちょっとどのくらいの量になるのか見当がつきませんが、一般の人の食事と比較できますか?

末光 量的にははるかに多いと思います。人間の消化吸収能力には限度がありますから、私も消化剤を大量にのんで、その助けを借りているわけです。消化剤はトータミンといってエビオスのようなものですが、食事のあとには必ず100錠ぐらいのんでいます。

−−1カ月の食費はどのくらいですか?

末光 6万円から6万5千円くらいかかります。給料はほとんど食費にかかってしまいますから、洋服を作ったり、レジャーを楽しんだりすることはほとんどありません。

−−タバコやアルコール類は?

末光 一切やりません。自分でいうのはなんですが、私は意志が強い方ですから、体に悪いとわかっていることは絶対にしません。

トレーニングは最高重量で極限回数

−−すごいハード・トレーニングをしているそうですが、そのスケジュールを教えてください。

末光 トレーニングは週6日です。日曜日は完全休養をとります。

 1日のトレーニング時間は2時間半から3時間半です。そして、この間はほとんど休憩なしです。(といって説明してくれたのが別表のスケジュールである)

−−ずいぶん重いウェイトでやっているんですね。

末光 私のモットーは、最高重量で極限回数までやることです。筋肉がケイレンする寸前までやります。長い間の経験で、これ以上やればケイレンが起きるというのがわかるようになります。それでもトレーニングをやりすぎて、ジムの帰りやアパートに着いてからケイレンを起こして、救急車で病院に運ばれたことも何回かあります。
−−ケイレンを起こすのは、トレーニングのほかに食事との関係も考えられますが?

末光 食事との関係はないと思います。その証拠には、日曜日とか、トレーニングをする前にはケイレンを起こしたことはありません。

−−いよいよミスター日本コンテストですが、コンテスト前にはトレーニング・スケジュールを変えますか。

末光 ふだんとまったく同じです。よく軽いウェイトで回数を多くやればデフィニションがつくとか、重いものでゆっくりやればバルクがつくといいますが、私の体は特異体質なのか、まったく関係ありません。

−−さっき最大重量で極限回数までやるといっていましたが、種目別の使用重量は?

末光 ベンチ・プレス100〜170kg、スクワット100〜180kg、ラタラル・レイズ35kg、ディップス50〜60kg、バック・プレス100〜140kg、バーベル・カール60kgです。

−−それはスゴイ!それならパワーリフターとしても超一流ですね。来年は全日本選手権に出たらどうですか。

末光 近い将来ぜひ出たいと思っています。ベンチ・プレスはいいんですが、スクワットがせめて200kgまでいかなければダメですね。腰が小さいからなかなか伸びません。

−−これからどこを重点的に鍛えたいと思っていますか?

末光 腹と背はまあまあですが、これからはクビと脚と腕をうんと鍛えたいと思っています。

 日本のビルダーは、欧米の一流ビルダーと比較するとクビが細いように思いますね。少くても顔の幅以上にしたいと思います。現在はちょうど顔の幅と同じです。

 次に脚ですが、片方の脚とウエストが同じくらいで、胸囲はウエストの2倍以上なくてはいけないと思います。私は現在、大腿囲が62cmでウエストも64cmです。ウエストはトレーニングのときでも、ふだんでも64cmのベルトを締めていますから、それ以上太くなることはありません。

−−いま、あなたが目標としているビルダー、あるいは№1だと思うビルダーは誰ですか?

末光 セルジオ・オリバです。バルクデフィニションとも非のうちどころがありません。ほんとうにビルダーらしいビルダーだと思います。プロポーションという点ではシュワルツェネガーの方が上だと思いますが、筋肉のもの凄さという点では、オリバに軍配があがりますね。

−−将来プロ・ビルダーになる気はありませんか?

末光 具体的にはまだ考えていませんが、ぜひプロ・ビルダーとしてやっていきたいと思っています。

 私は、ボディビルを始めたとき5年計画でトップ・ビルダーを目指しました。今年は4年目ですから、まだ1年ありますが、この間に何とか世界で認められるビルダーになりたいと思っています。プロ・ビルダーのことはその先のことですから、いまはとにかくトレーニングに打ち込むだけです。

−−最後に日常生活、趣味、等についてお聞かせください。

末光 日常生活といっても、私の場合は、朝8時半から夕方5時半まで会社で働き、6時からジムでトレーニング。アパートに帰って寝るのが12時。まったくこの繰り返しです。さっきも話しましたように、私のトレーニングは異常なほどハードですから、疲れてしまって勉強する意欲も起きないくらいです。

 趣味は、たまに社交ダンスをするくらいですが、それも時間がなくてなかなかできません。

× × ×

 インタビューを終ってジムをあとにした私は、しばらく心地よい夜風にあたりながら、混乱した頭を冷やした。まさに狂人的である。いかにボディビルのためとはいえ、これほどまでにやる必要があるだろうか。ボディビル本来の目的である健康管理という面から逸脱し、逆に健康をそこなうことになるのではないか。

 このインタビューを率直につたえたならば、全国のビルダーは何と思うだろうか。あるいは、一般大衆からボディビルそのものが誤解されはしないだろうか。私はそれが心配だった。

 しかし、末光選手の目的は、あくまでもプロ・ビルダーであり、その執念に燃えてボディビル一筋に生きる姿を見るとき、そこに尊い1人の人生があるような気がした。

−−勝村−−
まさに筋肉のかたまり、末光選手の前面ポーズ

まさに筋肉のかたまり、末光選手の前面ポーズ

末光健一選手のトレーニング・スケジュール表
(ダンベルによる運動の重量は片方の重量)
記事画像7
月刊ボディビルディング1971年10月号

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