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’69ミスター東京 末光健一の人とトレーニング

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月刊ボディビルディング1969年9月号
掲載日:2018.04.02
吉 田 実
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 6月29日、東京池袋ハタ・プール・センターで行なわれたミスター東京コンテストで、末光選手の体を見たときには、ほんとうにびっくりした。

 昨年のミスター東京コンテストのときにくらべて、一回り半から2回り大きくなっていたし、それでいて、ディフィニションが落ちるどころか、ノミで刻みこんだようなみごとな筋肉の切れは、昨年にもまして冴えていた。

 「ウーン」と私は思わずうなった。

 この一年間にたいへんな成長をとげたものが。たいへんなビルダーになったものだ。

 「昨年のミスター東京から今年のミスター東京までの一年間で、これほど急激に私の体が変化した大きな要因は第一に練習量の増加、第二に練習内容の向上、つまり、正しい運動方法を身につけたこと、第三にタンパク質を中心とした食事に切りかえたこと、第四には、まだまだ先の話ですが、ミスター・ユニバースに出てみたい、という大きな目標を持ったことです」

 と語る末光選手の顔は希望に輝いていた。

超人的なトレーニング

 何はともあれ、別表をご覧いただこう。

 「スケジュール表の全部を行なうと合計202セットですが、そんなにはやりません。スプリット・システムを用いるときには、第1日に胸、広背、腕、腹を合計150セット、第2日は脚、肩、腹を合計150セット。それを6日間つづけて1日休み。1週間の練習量は900セット。1日に全身をトレーニングするときは、重量を少し軽く、回数を少なくして、1日150セット。それを6日間つづけて1日休み。1週間900セットの練習量は、スプリット・システムのときと同じです」

 末光選手からこう聞かされたときには、私の小さな“目ん玉”が飛び出しそうになったものである。

 昨年のミスター日本にそなえてトレーニングした私の練習量は、1週間に約400セット。それでも、自分では人一倍の努力をしたつもりだった。それなのに、なんとこの人は、その倍以上の練習量を消化しているのである。

 --この練習は、コンテスト前の特別スケジュールですか?

 --いいえ、1年を通してこの程度やっています。コンテスト前には特別にスケジュールを変えません。

 “恐れ入谷の鬼子母神”とは、こんなときにこそ使う言葉であろう。

 おまけに、その所要時間が3時間から4時間と聞かされて、またまたびっくり。3時間として1時間平均50セット。4時間としても38セット平均である。

 インタビューの前に、1時間ほど練習を見せてもらったが、そのインターバルの短かいこと!。まったくイダテン顔負けのスピード練習である。1セット終わってバーベルを置くまもあらばこそ、またすぐに、次のセットにはいっていく。

 --毎日、こんなスピードで900セットもやって疲れないのですか?

 --自分でもふしぎに思うのですがぜんぜん疲れません。睡眠時間は毎日6時間ぴったりで翌朝はさわやかに起きられます。熟睡できるからでしょう。

 ケロットしたものである。

 驚きの止まぬ私を横目に、さらに続ける。

 --私のスタミナの原動力になっているのは、やはり食べ物じゃないかと思いますね。

 それほど超人的なスタミナがつき、短期間に筋肉が発達する食事法を、公開してもらおう。
信じられないようなスピードでスケジュールをこなす

信じられないようなスピードでスケジュールをこなす

末光健一選手のトレーニング・スケジュール表

記事画像3

ナマ肉でスタミナを

 --食事で気を付けることは、第一に消化のよいもの。第二にタンパク質の多いもの。第三に全体的に栄養分のバランスのとれたもの。この三つです。

 --食事の回数は?

 --1日4回。朝7時半、10時、12時、それから夜食の11時半まで時間があるので、練習中に20本くらい牛乳を飲みます。

 --1回の量と内容は?

 --ナマ肉を1日に3回、それぞれ100~200グラムずつ、それにセロリ、レタス、キャベツなどの野菜類。ジュース、果物とチーズなどの乳製品が主なもので、米飯、パンなどの炭水化物はぜんぜん摂りません。

 --肉をナマのままで食べるのですか?

 --はい、そうです。

 --それは何の肉ですか?

 --豚ならレバー。牛ならモモの最上肉です。

 --肉をナマのままで食べて気持悪くありませんか。

 --おいしいですよ。

 --下痢しませんか?

 --しません。そのためタンパク質の消化・吸収を促進する酵素を服用しています。

 --食費がずいぶんかかるでしょうね?

 --1ヵ月に最低35,000円から40,000円かかりますね。収入のほとんどが食費に化けてしまいます。

 ここまで聞かされると、もう何も言うことなしである。
あふれる迫力はナマ肉で

あふれる迫力はナマ肉で

トレーニングは量より質

 末光選手の練習量の多いのは、すでに紹介ずみだが、どのような方法でトレーニングを進めているか、微に入り細に入り解剖してみよう。

 --あなたの練習量は、すこし多過ぎるのではないか?

 --自分でもすこし練習をやり過ぎているのではないかと思います。やればやるほど筋肉が良く発達すると考えていたのですが、最近になって、そうじゃない、練習は量よりも内容なんだと感じるようになりました。

 --内容とはどんなことですか?

 --ひとつひとつの運動を、姿勢を良くして正確に行なうということ。それから忘れてはならないことは、鍛えようとする筋肉に精神を集中して運動することです。

 --専門的なトレーニング法を試みましたか?

 --昨年のミスター日本コンテスト以後に、集中練習とスーパー・セット・システムを採用しましたが、それ以外は行なっていません。

 --その時の種目の選択は?

 --別表のスケジュール表の中から選んで、それ以外のものはやりません。

 --ひとつのトレーニング・スケジュールは、どのくらいの期間続行しますか?

 --短かくて1ヵ月半、長くて2カ月です。練習していて刺激を感じなくなったら、重量を変えたり、種目の組み合わせを変えたりして常に新鮮な刺激を筋肉に与えるようにしています。

 誰でもタイトルを獲得するまでには無茶苦茶なハード・トレーニングを経験する一時期があるものだ。だが、いつまでもそんな無茶を続けてはだめだ。科学的な根拠に裏付けされたすじ道の通った練習方法に、一日も早く切り換えることである。さもなければビルダーとして大成しようとする望みは、なかなかかなえられるものではない。

 最近の日本のボディビル界は、ひと昔前のように、虚弱な体を人並みにしようとボディビルを始めた人達ばかりがそろっているわけではない。もともと運動能力に優れている人が、専門的にボディビルに取り組み、ミスター日本などを目指したり、あるいはその造形的で男性的な美しい肉体に憧れて、その道を極めようとする者が、まだまだ少数ではあるが現われ始めた時代なのである。

 能力的に優れた者が、合理的なハード・トレーニングで着々とその成果をあげているときに、旧態依然としてめくらめっぽうな練習を続けていたのでは、どうしてそれらのビルダーに対抗できよう。末光選手も、わずか1年7カ月の短い期間に、本能的にそれを感じ取ったのだろう。

 「私の練習は、今までの“量のトレーニング”から“質のトレーニング”に移りつつあります。それから最近ではからだ全体の発達を狙わずに、脚と腕を集中的に鍛える方向にスケジュールを組んでいます」

 --パンプ・アップと筋肉発達の関係についてはどう思いますか?

 --やはりパンプ・アップしないと発達し難いと思いますね。私はパンプ・アップするまで練習します。

 --繰り返しの回数が6~8回というのはパンプ・アップし難いのではないか?

 --種目を多くやれば、十分にパンプ・アップします。

 --あなたの体の長所は、ディフィニションがあることだそうだが、そのディフィニション獲得の最大の要因は何だと思いますか?

 --第一に集中して練習を行なうこと。それからバーベルとダンベルをうまく使い分けることです。

 --バーベルとダンベルを使い分けるとは、具体的にいうとどんなことですか?

 --バーベルは大きい運動をするのに用い、小さい筋肉を鍛えるのはダンベルを使用する。それによって、ディフィニションが出るのだと思います。

 --パンプ・アップのところと同じ質問ですが、繰り返しの回数が6~8回というのは、常識的にはディフィニションが出にくいと言われているが?

 --回数は少ないが、ひとつひとつの運動を正確にやっているのでディフィニションが出たのでしょう。私の体は、重いもので回数を少なくして行なってもディフィニションが消えないのです。

 --あなたの、そんな体質や体形は努力によってできたのですか。それとも先天的なものですか?

 --先天的なものもあるでしょうが、最初の基本がそうさせたのだろうと思います。
トレーニングは鍛える筋肉に精神を集中させて

トレーニングは鍛える筋肉に精神を集中させて

勝っておごらぬチャンピオン

 ミスター東京コンテストの戦前の目標は?とたずねると

 「上位に食い込めばそれで満足。でも3位入賞をしてみたいと思いました」

 と、あくまでも謙虚な好青年である。私のように、戦う前から勝つ計算でいる図々しい男とは根本的に違うようである。同じ中野ボディビル・センターで練習している小沢幸夫選手を目標に今日までトレーニングに励んできた。と告白するこの青年は、ミスター東京のタイトルを手中に収めた表彰台の上でも

 「小沢さんに勝ってミスター東京になったとは信じられない気持だった。ただ喜しさで一杯で、そのほかは茫然として何が何だかわかりませんでした」ということである。

 その勝利の夜、凡人ならば勝利の美酒に酔いしれるところだが、酒も煙草も一切口にしなかったとのこと。

「生活の目標は第一にボディビル、第二に仕事です」

 はっきり言い切るこの新ミスター東京は

 「上京以来8年間、親代りになって面倒をみてくれた会社の社長さんの家で、ジュースで乾杯しました。ミスター東京コンテストの優勝を一番喜んでくれたのは社長さんです」

 とは、まったく修身の教科書に載せたいくらいである。だが

「それから夜遅くまで、学校時代の同級生と遊び歩きました」

とのこと。ちょっぴり安心した。
昨年度ミスター東京では5位入賞

昨年度ミスター東京では5位入賞

 --あなたの当面の目標は?

 --今年のミスター日本では、自分の体がどの程度まで通用するか試してみたい。それ以後は、遠い将来のことですが、ミスター・ユニバースで好成績を収めたい。

 --そのユニバースでの自信のほどは?(遠慮してなかなか答えないのでしつこく催促して、無理に答えてもらった)

 --ショートマン・クラスで……3位くらいでしょう。

 --今年のミスター日本でマークする選手は?

 --全員をマークしますが、小笹さんが出場すれば、特にマークします。

 --小笹選手とあなたは体質が似ていますが、対戦する自信は?

 --やはり貫録負けしますね。
本年度ミスター東京で念願の優勝

本年度ミスター東京で念願の優勝

バックと腹筋は天下一品

 コンテストでは、肉体そのものはもちろんだが、選手の実力が接近すればするほど、ポージングによって優劣がはっきりする。立派な肉体を持っていても、それを十分に表現することができなければ、見るものにその価値を十分に認識させることはできない。コンテストでは、ポージングが優劣を決める大きなファクターとなるのである。

 末光選手のポージングは、始めから終りまでの1~2分間を流麗につなぎ、全体の流れを重視するタイプのものではない。ひとつひとつのポーズを確実にきめて、筋肉の迫力、量感を訴え、見る者を強く印象づけるタイプのポージングである。つまり、美しいと感じさせる前に、鍛えあげられた体の力強い魅力をアッピールさせるポージングで、ポーズがきまったときの迫力は末光選手ならではの、ものすごいまでの力強さがある。

 --ポージングで一番アッピールしたいのは何?

 --私の体はバックのディフィニションが売りものだから、それを最大限に印象づけようとしています。(確かに、この人のバックは天下一品である)それから、現在の自分の体の中で、他のビルダーと明確に区別できる最大のものは腹筋の違いですから、それも常に忘れないようにしています。

 --腹筋が他のビルダーと違うというのは?

 --ウェストが細く、普通の状態で72センチ、ひっこめると62センチくらいになります。その細い腹の中央が極端にへこんでいて、周囲がよく発達し段違いでもなくバランスがよいということです。(なるほど、末光選手のポージングはバックと腹筋を強調したものが多い)

 --ポーズ練習は毎日しますか?

 --ふだんは練習の合間にする程度ですが、コンテスト前1カ月間は、毎日完全にきまるまで続けます。
腹筋のキレには定評がある

腹筋のキレには定評がある

 --ポーズ練習は、鏡を見ながらですか?

 --バック・ポーズは自分で見えないので、だれかに見てもらって、きまったといわれる角度を体で覚えてしまうのです。正面ポーズなどの鏡を見てできるものは、観客の前に出ると崩れてしまうことがあります。ですから、なるべく他人に見てもらいながら体で覚えるように努めています。

 --ポージングで一番苦労するのはどんなことですか?

 --足の位置を決めてからポージングするということです。上体に力を入れると足の力が抜けるので、それが苦労のタネです。それに目の位置でしょうか。

 私自身もポージングの難しさについては、昨年1年間つくづくと身にしみて思い知らされたものだが、全身にくまなく力を入れて、それでいて他人にそれを気取らせないのは、なかなか難しいものである。
みごとなバック・ポーズ

みごとなバック・ポーズ

将来の夢はモダン・バレー

 末光選手は、栃木県帚根(ホウキネ)中学時代に、栃木県中学体操大会の鉄棒の部で第2位に入賞したことがある。だが、それ以後はスポーツにまったく縁がなく、社交ダンスに熱中していた。3級のライセンスを持ち、アマチュア・メダリスト・ダンス大会に出場したほどだが、成績は振るわなかったそうだ。その社交ダンスが、ボディビルを始めるキッカケになったというから、わからないものだ。

 「当時通っていたダンス学校の通路を挟んだ向い側に、代々木トレーニング・センターがありました。ダンス学校からボディビルをしているところが見えたのです。これはおもしろそうだなと思い、すぐに入会して谷川明コーチの指導を受けました」

 --今のあなたの体付きからは、社交ダンスとイメージがなかなか結びつきませんが、当時の体重は?

 --52kgでした。

 --現在は?

 --72kgです。

 ボディビル開始後1年7ヵ月で、実に20kgの体重増加をみたわけだが、これもすべて努力のたまものであろう。

 --さきほど、ボディビルを生活目標の第一にしているとうかがったが、ボディビルのどこに最も魅力を感じていますか?

 --ボディビルそのものに魅力を感じますが、強いていえば、やはり鍛えあげられた体の美しさでしょうか。
この鍛えあげた体で将来はモダン・バレーを

この鍛えあげた体で将来はモダン・バレーを

 40歳になるまでは、何としてでも現役選手として精進してみたい。できることならば、ボディビルで鍛えた体を生かしたモダン・バレーをやっていきたい。また大変な努力をして築きあげたこの体を大勢の人に認めてもらい、ボディビルの素晴しさを広く世間に伝えたい。と語る末光選手は最後に

「すべてのスポーツ界についていえることですが、ボディビル界でもプロとアマチュアの区別があやふやなように思います。アマチュア選手がどの程度まで行動してよいものか、はっきりと基準を定めてもらいたい。それによって今後はモダン・バレーに取り組んでみたいと思っています」

 ボディビルダーは、ボディビルという小さい殻の中に閉じこもらずに、鍛えあげられた肉体と精神を、広く社会生活の中に生かすべきである。ボディビルダーが、あらゆる面で社会をリードする指導者になって欲しい。これが私達ボディビル関係者すべてが持っている共通の願いだと思う。末光選手に心から励ましの言葉を送ろう。

 それではこのページを結ぶ前に、末光選手が現在所属している、中野ボディビル・センターの栗山コーチから見た末光健一像を

 「いやあ、たいしたものですよ。その一言に尽きますね。今までいろいろな人を見てきたが、こんな努力家は始めてです。ミスター東京で優勝した時には、ここで崩れるのではないかと少しは心配したのですが、その心配はまったく無用でした。ミスター東京のタイトルを取ってからほんの数日の間に人間的にグーッと成長しました」

 勝っておごらず、ますます成長していくこの青年ならば、ボディビルで鍛えた体を生かした新分野のモダン・バレーを開拓していくことであろう。末光選手の今後の精進と成功を祈ってやまない。
(筆者は第一ボディビル・センター・コーチ)
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月刊ボディビルディング1969年9月号

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