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筋肉のABC 4

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月刊ボディビルディング1969年11月号
掲載日:2018.06.12
渡 辺 俊 男
第1図

第1図

筋肉を収縮させる刺激

 刺激を加えれば変化する--というのが生物の本態のようです。

 ナメクジに塩をかけますと、それはちぢんでしまいます。土の中から掘り出したミミズを熱いセメントの上に投げ出しますと、ミミズははねだします。

 筋肉も、これと同じであって、取り出した筋肉の上に塩をのせますと、筋肉はちぢみます。また、熱い火ばしでさわっても、つめたい火ばしでさわっても、同じようにちぢみます。針でつついても、金づちで軽くたたいてみてもこれと同じ状態がおこります。私たちが腕の筋肉(上腕二頭筋)をたたきますと、ぴょこっと筋肉が盛りあがってくるのがわかります。

 これは、たたくという物理的変化(刺激)によって筋肉がちぢんだのです。そのほか、薬物による化学的刺激、電気的な刺激によっても、筋肉はちぢみます。生きている人間の体の中の筋肉は、神経の刺激によって収縮するのですが、いまからそのカラクリを調べてみることにします。

筋肉と神経の接合部

 骨格筋、つまり随意筋には運動神経が接合しています。運動神経の軸索突起の端が分かれて、1本1本の筋線維に接着しているのです。そして、この部分を神経終板といっています(第1図)。終板をさらに拡大したものが第2図です。
第2図

第2図

 神経が興奮しますと、その先端(軸索の糸粒体)からアセチールコリンという薬物(あるいは、ホルモンといってもよいでしょう)が分泌されます。この薬物が終板の表面にひろがりますと、やがて筋線維は収縮します。これは、前に申しましたように、筋肉の表面に何か変化(刺激)を加えると、筋肉は収縮する、という原則に従っているわけです。なぜこのような現象がおこるのかについては、あとで説明することにしましょう。

 2本の神経線維の連絡の役目をするものをシナップスといっています。神経線維どうしの連絡はシナップスで、神経と筋肉の連絡は神経終板で、というわけですが、その働き方は、どちらのばあいもたいへんよく似ています。

 1.伝わり方は、かならず神経から筋肉へと、一方通行です。したがって筋肉が興奮しても、運動神経の方に伝わっていくことはありません。

 2.神経から筋肉に伝わるばあいには、長い時間を必要とします。その時間はだいたい1/2000~1/1000秒です。皆さんはこれをひじょうに短かい時間だと思うかもしれませんが、1本の神経線維内を興奮が伝わっていく時間からみれば、シナップスを通って伝わっていくのに要する時間は、はるかに長いものなのです。

 3.ある薬を用いますと、シナップスの連絡を断ち切ることもできます。

 4.シナップスは疲労しやすいものです。たとえば、神経のほうから何度も何度もくりかえし刺激が伝わってきますと、はじめのうちこそ、いつも終板は興奮し、筋肉は収縮しますが、やがてこの部分が疲労して、筋肉は収縮しなくなります。この場合でも、直接筋肉を刺激しますと、やはり筋肉そのものは収縮するのですから、疲労している部分は神経と筋肉の接合点、つまり終板部にある、と考えなければなりません。

筋収縮の原理

 いま、第3図のように、リンゴを1個使って実験してみましょう。

 リンゴを切って、その切った面と皮の面とを電線でつなぎ、その間にひじょうに感度のよい電流計をおきますと皮のほうから切面に向かって電流の流れることがわかります。
第3図

第3図

 そのうちに、リンゴの切面はしだいに褐色に変わってきますが、同時に電流の流れもおとろえていきます。このばあい、切面に食塩水をうすく塗っておきますと、切面の色は変わりませんし、電流も流れません。皮をむいたリンゴを、うすい食塩水にひたしてから、くだもの皿にのせておくと、なかなか色が変わらないことは、皆さんよくご存知のはずです。

 これと同じことが、筋肉についてもあてはまります。第4図のように、筋肉の表面とケガをした筋肉の切面を電流計をはさんでつないでみても、同じことがいえます。
このように、筋肉の健常部から負傷した部分に流れる電流を負傷電流といい、そのときの電圧の変化を負傷電圧といいます。
第4図

第4図

活動電位

 筋肉のこうした現象は、とくに神経ではくわしく研究されておりますが、この現象は神経だけのものではなく、筋肉についても、また他の細胞についても同じことなのです。
韓国“ミスター京畿道”劉会植選手(29歳)のみごとなフィジーク

韓国“ミスター京畿道”劉会植選手(29歳)のみごとなフィジーク

 いま、筋肉をとり出して、リンゲル液の中にひたしておき、第5図のように、電流計をつないでみます。そして電極の両端を筋肉の膜の上に接着させますと、電流は流れません。これは、筋肉の膜の電位が等しいからです。次に、一方の電極を筋線維の内部の方にさしこんでみます。もちろん、このとき電極は十分に細くしなければなりません。細い電極が膜を通り越して、筋細胞の中にはいった瞬間、電気の流れるのを電流計で認めることができます。
第5図

第5図

 これは、筋細胞の外部、つまり膜面のほうが、内部に対して電位が高いことを物語っているのです。つまり、静止している細胞や筋肉でも、細胞膜を境として電位差がある、ということでこれを静止電位といい、また、このとき流れる電流を静止電流といっています。

 静止電位は、筋肉の細胞では90mV(90/1000ボルト)前後です。細胞の中の電極を動かしてみても、その先端が細胞内にあるかぎり、この電流も電圧も変わりません。いいかえれば、細胞膜を境として内部と外部とでは、電気的にまったく分離され、外部がプラス(+)内部がマイナス(-)となっている--つまり、分極されているのであって、この現象を起こす本体はナトリウム・イオンなのです。先に実験したリンゴのばあい、これを食塩水にひたすというのは、外にナトリウム・イオンを塗ることになるわけです。

“全か無か”の法則

 “われに自由をあたえよ、しからずんば、死をあたえよ”--とは有名な言葉です。細胞は生物としての最小単位ですが、この細胞もこれと同じような主張をしています。

 つまり、細胞は興奮するときは完全に興奮し、静止しているときは完全に静止しているのです。興奮が途中で終わったり、半分量の興奮をするなどということはけっしてありません。
第6図

第6図

 筋線維(または細胞)の膜になんらかの変化、たとえば、機械的、化学的、熱的、電気的変化をあたえますと、膜の外にあったNa+(ナトリウム・イオン)で代表される陽イオンが内側にとびこんできます。そのために、その部分はマイナスになり、その対面はプラスになりますから、第6図の①はただちに②ようになります。そして相隣りのプラスのイオンは移動して、そのかわりにマイナスのイオンでおきかえられるのです。そして、イオンの移動は②から③、③から④と移ります。

 こうしたイオンの移動が進行しているうちに、1度マイナスのイオンが占めていた膜の外側はふたたびプラスのイオンにおきかえられ、ごく短時間のうちに、ふたたび①のイオン配置にもどります。

 ①では、細胞膜を境として分極していたのですが、刺激によってプラス、マイナスが入れかわりました。これを脱分極といいます。そしてふたたびもとのイオン配置にかえります。これを再分極というのです。

 したがって、刺激によって脱分極をおこすことを興奮といってもよいでしょう。この脱分極は、電気の流れを生ずるので、これを活動電流また、脱分極によって生ずる電圧を活動電圧といいます。
(筆者はお茶の水女子大学教授・医学博士)
月刊ボディビルディング1969年11月号

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