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武本宣雄の初心者用トレーニング・コース 2

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月刊ボディビルディング1969年11月号
掲載日:2018.02.13
武本 蒼岳
 武本コーチの初心者用コース2回目
今月のテーマは、休養と栄養のはたす役割と価値、そして、中胚葉型(筋肉質)の人を対象とするトレーニング。
ツー・ハンズ・カール

ツー・ハンズ・カール

フレンチ・プレス

フレンチ・プレス

 先月号で皆さんは、筋肉(筋力)づくりについて若干の知識を得られました。

 さて、筋肉づくりの運動ですが、それにはかならず、多少とも精神的、あるいは肉体的、神経感覚的症状の疲労をともないます。ボディビルディングその他のスポーツによる体力増進は、疲労をともなわないトレーニングでは望めません。そしてこのばあい、私たちがどのようにして、疲労から回復し過労を予防することができるか--が重要なポイントになります。

 これは、なにもボディビルディングやスポーツにかぎったことではなく、自分の両足をしっかりと大地にふみしめて仕事をするための“備え”であるといえましょう。

口疲労から回復するには

1/精神的疲労 気分転換に読書をしたり、散歩その他のレクリエーションをするとよい。

2/肉体的疲労 健康人であれば、体の自然調整による適当な休息をとればよいし、入浴やマッサージなども効果がある。局部的疲労はふつう短時間で回復するが、できれば適当な軽い運動をすることが望ましい。

 3/神経感覚的疲労 このばあいは睡眠をとるのがよい。睡眠中は、中枢神経系統の機能は停止し、内臓諸器官機能は減退するので、大脳作用に充分休息をあたえることになり、体内の分解作用が低下し、体が回復する。

 目ざめと眠りとが交互にくりかえされて成立するのが睡眠であって、それには3つのタイプがあります。第1のタイプが宵型、第2のタイプが朝型、第3のタイプが混合型です。

 混合型は第1と第2を合わせたような型で、夜中に眠りにはいり、その不足分は明け方におぎないます。第1の型は寝ついてから2時間ほどで深い眠りにはいり、第2は目ざめるまえに眠りが深くなります。

 皆さんは、自分の睡眠の型をよく知り、つねにそのリズムを乱さないように心がけることが大切です。

ロタンパク質とビタミンのこと

 健康を保持し、より活動的な生活をいとなむには、栄養生理学にかなった食品組合せや調理にも配慮しなければなりません。

 今日の食生活では、カロリーの高低はそれほど問題ではありません。食品のアルカリ度と栄養のアンバランスがさまざまな欠乏症状をまねきます。

 いっぱんに、肉類、魚介類、穀類、豆類の一部、乾のり、酒カス、ビール、清酒は酸性食品で、なかにはひじょうに酸度の強いものもあります。それを中和させ、体液をつねに弱アルカリ性に保つためには、たくさんのアルカリ性食品をとらなければなりません。アルカリ度のとくに強い食物は、ワカメ、ホウレン草、みかん汁、大根等です。
ウォーム・アップ(2分間)

ウォーム・アップ(2分間)

左からスタンディング・プレス、アップライト・ロウ、チンニング

左からスタンディング・プレス、アップライト・ロウ、チンニング

 私たちの食生活で必要欠くべからざる栄養素は、糖質、脂肪、タンパク質、ビタミン、無機塩類、水等ですが、この解説ではビルダーを対象としていますので、とくにビルダーの関心のまとであるタンパク質とビタミンをとりあげて書いてみます。

 タンパク質は筋肉、血液、内臓器官等の主成分であり、ビタミンは、これが欠乏すると、たとえ他の栄養分が充分であっても、体を正常に維持していけないほどの重要な働きをもっています。

 タンパク質は80種のアミノ酸から成っており、そのうちの8種の必須アミノ酸が支配的役割をはたします。したがって、タンパク質が良質であるかどうかは、それが必須アミノ酸を含んでいるか、また、その含有量が多いか少ないかによって決まります。

 しかし、植物性と動物性のタンパク質では、アミノ酸組成に大きな違いがあり、動物の種類によっても、それを作りあげているアミノ酸の構成が異なっているので、肉だけを“タンパク質のかたまり”だと思って食べるのは、カタテオチといわなければなりません。

 効率を上げるためには、それぞれ単独では栄養価が低くても、おたがいの欠点をおぎない合って、1つのすばらしい栄養価の高いものを作り上げるように、2種類以上のタンパク質を組み合わせてとることが必要なのです。また、そのばあいでも、それらを同時にとることが大切であって、1つはお昼に、もう1つは夜にとるというのでは高い効率は望めません。

 次に、その摂取量ですが、これはタンパク質の種類によって決まるので、ここではその計算法にはふれないことにします。

 次の表は、私たち日本人男性の年齢別による1日のタンパク質最低摂取量ですが、皆さんはこれ以上の量をとることを考えなければなりません。
記事画像5
 この表では、日本人の食物の関係から、タンパク質栄養価(70%)、消化吸収率(80%)、充分な貯蔵タンパク質のばあいは、タンパク質の安定率(2倍)の3点を見こんで考慮してある。また、このばあい体重による差異も当然考えなければならない。

口食品献立の1例をあげると

 ボディビルディング初心者のばあいは中くらいで、一般の人と同じ70g程度にし、中級者は90g、上級者は110~120gの摂取量が適当ではないでしょうか。その量の1/3を動物性タンパク質、残りの2/3を植物性タンパク質という配合がいちばんよく、タンパク質をたくさんとることが、より早く筋肉を増強させるコツです。

 次に示す食品献立はほんの1例にすぎません。

<朝>
 a)パン2切れ、卵2個、牛乳1本、野菜サラダまたはくだもの海草類、または
 b)ご飯、つけもの、魚(または肉類)、とうふ(またはワカメ)入りのみそ汁、くだもの

<昼>
 牛乳2本、ご飯、卵(1個)入りみそ汁、魚1切れ半、豆類、とうふ、くだもの

<夜>
 魚料理を主体に、獣、鳥、鯨肉、貝類をとる。ワカメ類、大豆(小豆)、野菜サラダ
左からベンチ・プレス、ダンベル・プルオーバー、ベントオーバー・ロウイング

左からベンチ・プレス、ダンベル・プルオーバー、ベントオーバー・ロウイング

左からスクワット、シット・アップ、カーフ・レイズ

左からスクワット、シット・アップ、カーフ・レイズ

 消化・吸収の効率、あるいはビタミン類、カルシウムの含有量からいっても、魚介類はけっして肉に劣ってはいませんし、比較的安価に手にはいるという点は何よりも大きな魅力です。九州の小笹君のばあい、彼のタンパク質の源はほとんど魚のタンパクであることをつけ加えておきます。

 卵は半熟がいちばんよいといわれていますが、胃腸の消化吸収力が弱っている人は別として、どんな調理法によっても、ほとんど同じように吸収されます。牛乳は中性食品で、栄養素のバランスがよく、これ以上すぐれた食品はありますまい。

 それから、米やパンのタンパク質ですが、これは必須アミノ酸が少なかったり、欠如していたりして、バランスがたいへん悪いので、むだが多いのです。それで、私などは1食に軽く1杯とる程度にしています。1日に牛乳2本、卵2個以上とるように心がければよいでしょう。

 皆さんは、1日最低牛乳1本、卵2個、果実類を欠かさないことです。
バーベル・リスト・カール

バーベル・リスト・カール

 では最後に、動物性食品に含まれているタンパク質の量を書いておきましょう。これを参考にして、残りの2/3は植物性食品からとればよいのです。ただし、質の悪いタンパク質食品では、よほど多量にとらなければならないので、平均70gのタンパク質所要量よりももっと多くなります。

 牛肉50g タンパク質10g
 魚1切れ      14g
 牛乳1本       5.4g
 卵1個        6.4g

口中胚葉型の人へ

 さて、お約束どおり、今月は中胚葉型(筋肉質)の人のトレーニングを書いていきます。

 中胚葉型の人は、筋肉の発達がひじょうに早く、私たちもときにはおどろかされることがあります。この体質の人は、胃腸・心臓・肺臓が強いので、努力しだいによっては、おもしろいほど早く立派な体になります。ボディビルディングの金科玉条である“規則正しい運動”と“規律正しい生活”を念頭において、さらに中胚葉型の利点を充分に生かしてトレーニングにはげめば、すばらしい健康とたくましい体づくりへのパスポートを手にすることも可能です。

 では、具体的なトレーニングの例をあげてみましょう。
記事画像9
 腕、肩、胸、背、脚、腹、腓腹筋の順になっていますが、ベつにこのとおりに行なう必要があるというのではありません。例外もあろうし、練習生の体に合った組み合わせが何よりも大切ですから、上述のトレーニング例はあくまでも基本型であると考えてください。

 たとえば、私のばあいは、腕の発達は早いが、胸部の発達が遅いので、胸部のトレーニングを先にします。

 皆さんがいちばん発達させたいと思う部位、あるいは、苦手とする種目を優先的に行なうのも、1つの方法です。

 とくに前腕や腓腹筋等の体の末部は長期計画でその発達の効果をねらわなければなりません。前腕や腓腹筋は日常生活によく使われる部位なので、運動による刺激に対する反応がひじょうににぶくなっていて、他の部分よりも発達は遅く、がんこになっています。この部分の発達を望むなら、毎日のプログラムの中に組み入れて、コツコツと努力をつづけることです。

 ある程度疲れてきても、自分の好きな種目なら平気で実行できますが、苦手な種目では、なかなかそんなわけにはいきません。この実行力の差が、効果の個人差となってあらわれてくるのです。身体発達のアンバランスを防ぐ意味で、これはぜひとも考慮に入れていただきたいと思います。

 なお、今回の写真のモデルは、多和清彦君にお願いしました。
   (筆者は大阪武育センター指導主任)
月刊ボディビルディング1969年11月号

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