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ボディビルの基本[その4]
運動法の変化

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月刊ボディビルディング1972年1月号
掲載日:2018.06.16
スーパー・セット法、チーティング法、ハーフ・レインジ法
竹内威(NE協会指導部長 '59ミスター日本)
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 ボディビルの修練期間が長期におよび、からだがかなり発達してくると、なかなかそれ以上の発達が得られなくなる。

 このことは、筋肉の発達が各人の肉体的な限界に近づくためと考えられるが、そればかりでなく、ボディビルの運動にからだが馴れすぎてしまうことにも原因があると考えられる。

 からだが運動に馴れすぎてしまうということは、運動によって与えられる抵抗に筋肉が馴れてしまうということで、このような状態では筋肉は充分に刺激されなくなる。この傾向は、修練の年月が長期になるほど強くなる。
 
 一流と称せられるボディビルダーたちは、この運動とからだの対応関係をよく考慮して、つねに充分な刺激が筋肉に与えられるように配慮してトレーニングを行なっている。トレーニング・コースを変えたり、運動にいろいろな方法をとりいれて行なうのもそのためである。そのほか、運動種目を変えたり、反復回数(レピティション)を変えることでも、筋肉に新たな刺激を与えることは可能であるが、運動そのものを変った方法で行なうことも、筋肉に充分な刺激を与えるためには必要である。

 そのような意味で、今回はスーパー・セット法、チーティング法など、運動そのものの変った方法について述べることにする。

 トレーニングの面で行きづまるような場合が生じたら、これから述べるような方法を試みてみるのも決して無駄なことではないと思う。

スーパー・セット法

 スーパー・セット法は、トレーニングの密度を高めることにより、筋肉に充分な刺激を与えるための方法で、具体的には2種目の運動をひと組として1セットずつ交互に行なう方法である。いわば2種目の運動を1単位(スーパー・セット)として続けて行ない、休息は2種目を行なってからとるようにする。

 このような方法によれば、同時に2つの部分をトレーニングすることも可能であり、また、特定の筋肉の運動密度を高めることもでき、筋肉を充分に刺激するという効果がある。

◇種目の組み合わせ方

 もっとも一般的な方法としては次のような方法がある。

 1 作業的に相反する2種の運動による組み合わせか、または、使用筋が重複しない2種の運動を組み合わせる方法で、比較的に体力のないひとに向いている。

 作業的に相反する組み合わせ方としては、
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 等の組み合わせがある。

 使用筋が重復しない2種の運動の組み合わせとしては、とりわけ深く考えることもなく、使用筋が重復しないように配慮して組めばよい。しかし、以上に述べた方法は、トレーニング時間を短縮するという意味では便利な方法であるが、筋肉に充分な刺激を与えるという点では、さほど有効ではない。

 筋肉を充分に刺激し、トレーニングの効果を期待できるという点ではいくぶん体力的にきつくなるが、次の方法によるほうが有効である。

 2 同一の部分を鍛える運動種目の中から、上腕二頭筋と上腕三頭筋を使用して行なう運動を、各1種目選んで組み合わせる方法で、たとえば
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 等の組み合わせがある。このように、腕の使用筋を交互に使用するように組み合わせることで、同一の部分の運動を2種目連続して行なうことが容易になり、1種目だけを単一に行なうよりも筋肉を充分に刺激することができる。

 3 同一の部分を鍛える種目の中で、比較的重い重量を使用して行なう運動と、軽い重量を使用して行なう運動の組み合わせによる方法。

 この方法では、2の方法のように腕の使用筋に対する配慮が、ことさらなされないので、だれにでも向く方法とはいえない。たとえば
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 以上のように組み合わせればよくまたは、次に述べるように行なってもいっこうかまわない。たとえば上腕三頭筋を鍛えるとすれば、まずフレンチ・プレス・スタンディングを丁度よい重量で行ない、次いで、プレンチ・プレス・ライイングなど他の上腕三頭筋のための運動を、軽い重量を使用して念入りに行なうというようにすればよい。

 他の部分についても同様に考えて行なえばよい。この方法では、種目の組み合わせも変化に富んだものになるので、トレーニングにかなり活用することができる。

 ただし、この方法で注意することは、2種目の運動を行なうとき、筋肉に充分な刺激を与えるように、使用筋に意識を集中しながら、ていねいに行なうことである。

 4 心肺機能を促進し、胸部を拡張するために、運動量の大きい種目と、それを助長する種目を組み合わせる方法。たとえば
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 等の組み合わせである。この方法では、大胸筋の発達を意図するのではなく、胸部の拡張を促すのが目的であるから、2番目の運動は、ごく軽い重量を使用して、深呼吸をしながら15〜20回の多回数を行なうようにするのがよい。

 以上、スーパー・セットについて説明したが、目的に応じて各人の好みによって組み合わせればよい。しかし、スーパー・セットを全面的に採用することは、かなりの体力がいるので、最初は1部分か、せいぜい2部分のみに採用するにとどめるほうがよい。

 採用する順序としては、いきなり3の方法で行なわずに、1の方法から採用して、なれてきたら2の方法、3の方法というようにするほうがよい。

 チーティング法

 一般に、運動はストリクト(反動を使わない方法)で行なうものとされている。ことに初級者の場合は、正しい姿勢をマスターするためと、無理な重量を使用することで起こる事故を防止するために、ストリクトで行なうことが原則とされている。しかし、充分な経験のある上級者においては、あえてストリクトで行なうことにこだわる必要もなく、ときによってはチーティング(反動を利用する方法)による運動を試みるのもよかろう。

 チーティングの目的は、ストリクトで行なえない重量を使用することによって、より強い刺激を筋肉に与えることにある。

 ストリクトによる場合、挙上あるいは引き上げの動作において、重量が重く感じる位置と軽く感じる位置がある。たとえば、カールについていえば、肘の角度が大きい位置では重く、小さい位置では軽く感じる。このような重量に対する軽重感は、すべての運動において感じることができる。このことはいいかえれば、重く感じる位置では抵抗が強く、軽く感じる位置では弱いということになる。

 チーティングは、以上のようなストリクトによる筋肉に対する抵抗の強弱をなくすために行なう方法で、ストリクトの場合より重い重量を使用して、挙上あるいは引き上げに困難な位置のみを、いくらか反動の助けをかりて通過させ、運動中の筋肉に対する抵抗を均等にする方法である。

 したがって、チーティングだからといって、むやみに反動を利用するのではなく、反動を必要とする位置のみを助けるために行なうものである。
 
 また、筋肉に対する抵抗が阻害されないように、反動の助けを最少限度にとどめるように留意して行なわなければならない。初級者のなかに、いたずらに重い重量を用いて、大きな反動を使って運動をしているのを見かけるがこのようなやり方は、疲労するだけで発達を意図する部分に、充分な抵抗を与えることはできない。

 やはり、ストリクトによるトレーニングをつむことで、運動中に使用筋を充分に意識できるようになってから、このチーティングを用いるようにしなければならない。

 ハーフ・レインジ法

 ハーフ・レインジ法とは、ふつう行なわれているように可動範囲いっぱいに運動するのではなく、可動範囲の半分だけの動作を反復して行なう方法である。

 たとえば、ベンチ・プレスならば、おろした位置から完全に挙上せずに、半分(ハーフ)だけの動作を反復して行なうか、または、挙上した位置から完全におろさずに運動を行なう方法である。

 先にチーティングの項で述べたように、筋肉は運動中に同じ強さで働かない傾向があるので、このハーフ・レインジ法を採用することは、筋肉を充分に刺激するために非常に有効と思われる。というのは、筋肉が強度に働く位置と軽度に働く位置との半分に分けてそれぞれに適した重量で運動が行なえるので、充分に筋肉を刺激することが可能になるのである。

 また、ハーフ・レインジ法は、次に述べるような筋肉の性質からいっても非常に有効な方法といえる。

 筋肉は、その両端がそれぞれ異なった骨に付着しており、しかも、動作を行なう場合、その動作について比軽的動かない骨と、よく動く骨とに付着している。たとえば、上腕二頭筋についていえば、一方は前腕部の骨に付着しており、いま一方は肩に付着している。したがって、上腕二頭筋の収縮によって、前腕が肩の方に引きつけられて動くわけである。このような付着の傾向は、どの筋肉についてもいえる。

 つぎに筋肉の収縮についても、ある一定の傾向がみられる。つまり、収縮するときに筋肉全体が同じように緊張するのではなく、運動を開始したときの筋肉が長い状態では、動く骨の付着部に近い部分の緊張度の方が強く、収縮して短くなるにつれて、動かない骨の付着部に寄った部分にも緊張が強くおよぶようになる。

 カールのような運動では、肘の角度が小さくなるにつれて、上腕二頭筋の収縮による筋肉の緊張度が、前腕に近い方から肩に近い方へおよぶようになる。したがって、上腕二頭筋のピーク(盛りあがり)を良くするには、肘の角度が直角より狭い位置でのハーフ・レインジ法によるカールが有効になるわけである。

 同様に、三角筋についていえば、完全に肘をおろさないで、肘が肩と水平の位置からのハーフ・レインジ法による、プレス・ビハインド・ネックを行なうほうが、肩のつけ根を発達させるには有効と考えられる。

 また、ベンチ・プレスにおいて、両手の間隔を狭く握ることによって、大胸筋の中央に近い部分の発達を促すことができるということは、とりもなおさず、狭く握るほうが、広く握るよりも、大胸筋がより短い状態で収縮し,胸骨に近い部分まで緊張が強くおよびそれによって充分な刺激が与えられることにほかならない。

 このように、筋肉の性質をうまくとらえてハーフ・レインジ法を採用すれば、一段と筋肉を発達させることができる。
 イラスト●平井ボディビル・センターコーチ熊岡健夫

 イラスト●平井ボディビル・センターコーチ熊岡健夫

月刊ボディビルディング1972年1月号

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