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☆私の指導法☆
理論よりも体験
自信ある指導がモットー

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月刊ボディビルディング1972年2月号
掲載日:2018.01.04
国分寺ボディビル・クラブ
会長 関 二三男
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ジムにはそれぞれ特色が必要

「私の指導法」を書くにあたって、まず、ボディビル・ジムの運営と特色ということについて述べてみたい。
私の愛するチッポケなプレハブ建15坪のこのジムは、中央線・国分寺駅南口にある。東隣の小金井市には2つのジムがあり、また、西隣の国立市に1つ、さらに、同じ国分寺南口、しかも私のジムから徒歩1分ぐらいのところに最近都立の無料のトレーニング施設ができた。
つまり私のジムは、まわりを4つのジムに囲まれていることになる。こういった厳しい条件のもとでジムを経営し、さらに、家族4人の生活も支えなければならない。
会員が長くトレーニングを続け、新入会員を多く迎え入れるためには、なにか強烈なジムの特色をもたなければならない。それと同時に、一般的な幅広い健康管理のための練習場、さらにビルダーの頂点にたつコンテスト・ビルダーやパワーリフターも同時に育てていくというのが理想的なジムのあり方だと思う。
このような観点から、私はボディビルの中でもっとも競技性のあるパワーリフティングの指導に力を入れ、これをジムの特色として打ち出している。もちろん、会員の目的とか素質によって、一般的なボディビルの指導をすることはいうまでもない。

新入会員に対する指導

ほとんどの新入会員は「太りたい」「健康になりたい」等のごく平凡な目的で入会してくる人が多い。そして、このような平凡な目的の場合は、数ヵ月である程度その目的が達せられるとそれ以上の進歩を見出すことができずついにはジムに顔を見せなくなってしまう。そこで、なにか目標をもたせて意欲を盛りあげ、つねに前向きな気持でボディビルと取り組むようにもっていかなければならない。それには目標が比較的はっきり打ち出しやすいパワーリフティングが最適ではないかと思う。
では、まず新入会員に対する私の指導法を具体的に述べてみよう。
採用種目は次の8種目とし、運動の順序としては、重量物を扱う種目を始めに行ない、軽量物を扱う種目は後にするようにして、しかも、同じ筋肉を続けて使わないように配慮して①~⑧の順に行なう。
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以上の8種目であるが、各種目の重量を選ぶにあたっては、各人の体力を考慮して、その運動が完全に10回できるくらいを目安にしている。したがって1セットの回数はだいたい10回ということになる。そして、これに要する時間は約1時間20分前後である。
以上のようなトレーニングを1週間(3回)マンツーマンで指導する。もちろん、この間のトレーニング方法はいっさい反動などを用いることなく完全なストリクト・スタイルで行ない、各種目の基本動作を充分マスターさせるのである。
そして、この1週間のうちにパワーリフティングの素質があるかどうかを見て、素質があると認めた場合は、当人とよく話し合って、本格的なパワーリフティングのトレーニングをするかどうか決める。
もちろん、専門的にパワーを鍛えるといっても、競技種目だけをトレーニングするわけではなく、あらゆる運動種目を採用して、均斉のとれた逞しい体をつくることに留意することはいうまでもない。パワーを強くする運動をとくに重視してトレーニングするというわけである。
筆者のデッド・リフトを見守る左から因幡君、井上君、岩岡君

筆者のデッド・リフトを見守る左から因幡君、井上君、岩岡君

S君の発達状況

では、ここで体格と体力が比較的順調に伸びたS君(学生19歳)の入会日からその後2ヵ月間の記録を紹介しよう。なお、私のジムでは全会員が必ずトレーニング日記をつけることにしている。
S君の場合は、入会当時は全体的に細身で、とても力技などには不向きに見えたが、トレーニングを実施してみると、基本姿勢をマスターするのも非常に早く、しかも、S君の希望が、体重を増やしてパワーをつけたい、ということだったので、これがためのトレーニングを指導することにした。
そして、パワーをつけるためには重い重量で低回数、フォームをマスターして運動に馴れさすためには軽量で多回数という両面からのトレーニングを実施した。その結果、次にあげるような記録となって出てきた。
体格測定(トレーニング後に測定)

体格測定(トレーニング後に測定)

トレーニング日記

トレーニング日記

S君がこのままトレーニングを続けていけば、1年後にはまだまだ相当な記録の伸びが期待できる。
このように、パワーリフティングは素質があって、適切な指導さえすれば1年半~2年のトレーニングで各地区協会の大会では楽に入賞可能な線まで効果をあげることができると思う。
こうして、記録が伸びてくるとともに、パワーリフティングに対する興味もいちだんとわいてくる。もうこうなれば、あとはときどきアドバイスしてやれば、自身で目標をたて、その目標にむかって努力するようになってくる。
スクワットの基本を指導する筆者

スクワットの基本を指導する筆者

〝肌で感じて、味わった〟
自信のある指導がモットー

とくにパワーリフティングの強化を目的として、効果をあげるためには、ジムの設備と環境が大きく影響すると思う。
すなわち、設備でいうならば、床面などはうんと頑丈なものにして、会員が思い切って練習に打ち込めるようにしなければならない。もちろん、頑丈にしたからといって、器具を乱暴に扱うことのないように注意することはもちろんである。また、バーベルについても公認バーベル(各200kgセット)を3セットは備えつける必要がある。
つぎに環境としては、何をおいてもまず、指導者が先頭に立って会員を引っ張っていくという心構えがなくてはならない。
私のジムには因幡君、岩岡君、井上君ら全日本級の選手をはじめ、パワーリフターを目指す会員が数多くいるがそうかといって、新しく入会してくる会員が、最初から将来パワーリフターになろうとして入会する訳ではない。そこで、会員の素質を見分ける目が問題となってくるのである。
ただバーベルを使っての「動作」を知っていて、これをコーチするだけではなく、各人の体(とくに骨格)と筋肉の特徴を見逃がさないようにすれば素質をもった人材はけっこういるものである。このような会員に対しては、先にも述べたように本人と話し合って専門的に指導をするのである。
指導のしかたについては、本や雑誌で覚えたものをただ教えるのではなく自分の〝肌で感じて、味わった〟自信のもてるものでなければ私は教えないようにしている。これがまた会員たちを納得させるもっとも良い方法だと確信している。
そうした私の指導方針が果(み)を結んで1971年度全日本パワーリフティング選手権大会では、総合入賞者5名を出すことができた。そして、現在ジムの会員数122名のうち、ベンチ・プレスで100kg以上を記録したもの24名、スクワット150kg以上が15名、デッド・リフト180kg以上が12名、というのが現状である。
この中には、バンタム級で世界記録も期待できる因幡選手、ミドル級でスクワット日本記録保持者の岩岡選手、また、全日本ミドル・へビー級で優勝が予想される井上選手等がいる。そして、他の会員たちもこういった優秀な選手に感化されて、パワーリフティングに興味をもち、高い目標に向ってトレーニングに励む、という好循環が繰り返されている。
私の可愛いチッポケなジムで恒例の記録挑戦会のあと会員たちと記念撮影(前列中央が私)

私の可愛いチッポケなジムで恒例の記録挑戦会のあと会員たちと記念撮影(前列中央が私)

チーム・ワークと親しみ

これもまた環境づくりの1つだと思うが、〝チーム・ワークと親しみ〟ということを私は大事にしている。
たとえば、新入会員が入会手続をとった時点で、その場に居合わせた全会員にひとりひとり紹介する。これはお互いに助け合ってトレーニングする、いわゆるチーム・ワークをつくるために非常に大きな効果を上げている。
また、ベンチ・プレスのときなど、「あのーちょっと」などというよりも「誰々さんサイドについてください」とハッキリ名前を呼んだ方が、ほんのちょっとしたことであるが、親しみが増してくるように思う。
こうしているうちに、ベンチ・プレスの時は、重量・軽量にかかわらず、ごく自然に必ず誰かサイドにつく習慣がつき、トレーニングするものにとっても安心して精いっばい力を出しきることができる。したがって記録の伸びも早く、面白さがでてきて長続きもする、という好結果につながるのである。
また、ジムは一種の社交場であってもよいと思う。他のジムから遊びに来た人が、私のジムを見てまず驚くのは女性のヌード写真(ポルノではない)がいっばい貼ってあることらしい。しかし、会員たちがヌード写真に見入ったり、エロ話をするようなことはまったくない。まじめなビルダーにとっては、トレーニング後のほんの目の保養にすぎないのである。
さらに、楽器(テナーサックス、トランペット、ギター、マラカス)等を鳴らして歌を唄ったり、テレビを見たり、世間話に花を咲せることもあるがこれが直接トレーニングに支障を及ぼしたようすはない。しかし、誰かが最高重量に挑戦するような、集中力を必要とするときは、いつの間にか全員動きを止めて注目している。これも先に述べたチーム・ワークということに原因しているのではないかと思う。
こういう雰囲気から、私にとっては会員に対するカウンセリングも容易に行なえるのである。

パワーリフティングの面白さ

なぜ私がパワーリフティングに力を入れるかというと、ジムのカラーを打ち出すということの他に、これからのボディビルの普及・発展を考えたとき現在の健康管理といった方法だけでなく、スポーツとして発展させた方がより効果的だと思うからである。
ボディ・コンテストも一種のスポーツかも知れないが、世間一般の誰が見ても競技性があり、客観的にその勝負が判定され、競技する場所が違っても同じルールで行なうことによって、記録の比較ができるというスポーツの条件を備えているのがパワーリフティングだと思う。
以上のような考えから、私はパワーリフティングに力を入れて指導している。しかし、最初にも述べたように、入会者全員にパワーリフティングを強制しているわけではない。あくまでも本人の意志と素質によって、目標をもたせて、意欲的にトレーニングしているうちに、多くの優秀なパワーリフターが育ってきた、というのが実状である。
うちの会員は壁の写真には目もくれない

うちの会員は壁の写真には目もくれない

月刊ボディビルディング1972年2月号

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