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■栄養座談会■
体力づくりと栄養

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月刊ボディビルディング1972年5月号
掲載日:2018.03.08
<出席者>
❜66ミスター日本
東京ボディビル協会理事長
 遠藤 光男
明治製菓食品研究所
 野沢 秀雄
ラッピー蛋白化学研究所
 江本 軍四郎

治療医学から予防医学へ

野沢 最近、健康管理の重要性ということが再認識されてきましたね。
昔は病気になってからあわてて医者にみてもらったり、薬を飲んだものですが、最近は病気にかからないようにする健康管理とか、予防医学が重視されてきてなかなかいいことですね。
江本 そういえば昔は薬といえば治療用と決っていたが、いまは予防用の薬が多いですね。
遠藤 確に健康という観念から違ってきたんですね。昔は腹の出っ張った肥満体がカンロクがあっていい体だなんていっていたんですからね。
それで栄養のことなんか考えないで、ご飯を腹いっぱいつめこんで少しでもふとろうと努力していたらしい。
野沢 まあ栄養ということは新聞や雑誌などにもよく出ていますし、毎日3回ずつ食べることですから、各家庭でも相当神経を使っているんですが、もう1つ健康に必要な運動をおろそかにしている傾向がありますね。
もっとお金をかけて健康を買うという考えにならなければほんとうの健康は得られません。
遠藤 私のところのジムをみても、最近は30代、40代という人もボツボツくるようになりましたが、ほとんど20代までですね。中高年といわれる人ほど積極的にやらなければいけません。
アメリカでは、普通ボディビルとはいわないでフィジカル・フィットネスといっていますが、こういったクラブで会社の重役とかご婦人たちがずいぶんトレーニングしています。
日本ではまだまだそこまでいっていませんね。
写真、左から江本軍四郎氏、遠藤光男氏、野沢秀雄氏

写真、左から江本軍四郎氏、遠藤光男氏、野沢秀雄氏

栄養を肉だけに頼るのはあやまり

江本 遠藤さんはミスター日本になる前には栄養には相当神経を使ったと思いますが、その当時の食事法を話していただけませんか。
遠藤 栄養という面よりもっと神経を使ったのは、どうしたら3度の食事がおいしく食べられるか、ということでした。イヤイヤ食べたのでは栄養になりません。
食事は1日3回ですが、その3回とも空腹の状態になるように心掛けました。
栄養源としては、納豆、とうふ、魚が主で、ご飯はもっぱら玄米を食べていました。
江本 ビルダーは肉類をたくさん食べるようですが、どうして肉類を食べなかったんですか。それに何か栄養剤のようなものは。
遠藤 別に理由はないんです。魚が好きだったのと、安かったからです。栄養剤としてはエビオスを常用していました。
江本 野沢さんエビオスというのはどんな栄養があるんですか。
野沢 これはビールの酵母カスからとったものですが、約55%が蛋白質でそのほかカルシウム、鉄、りん、などのミネラルやビタミンB1B2などのビタミン類も豊富でよい栄養食品です。
ビールの副産物だから比較的安いし、もっとおいしく食べられるように工夫すれば素晴らしいと思います。
江本 毎日同じものを食べていてあきませんでしたか。
遠藤 もちろんあきないように料理も工夫しました。しかし、納豆なんかはそう変った料理法もないし、普通にごはんにかけて食べたんではすぐ満腹になるし、こ飯の前に納豆だけを先に食べるようにしました。
野沢 料理にはおいしくするのと、栄養をアップする2通りあると思います。同じ材料を使っても、工夫次第で栄養はうんと違ってきます。
例えば、魚をただ焼くよりも、油いためにするだけでカロリーがグーンとアップするんです。
江本 専門的な立場からみて、ビルダーがプロティンなどの栄養剤をとることについてはいかがですか。
野沢 すべて栄養というのは普通の食事からとるのが自然ですが、ビルダーのように一般の人より多くの栄養を必要とする場合は、普通の食事だけからとろうとすると、相当たくさんの量を食べなければならないんです。
例えば、体重70kgの人なら1日に純タンパクで140gくらい必要なんですが、これを肉から補給するとすれば約700gも食べなければならない計算になります。
これをうまく配分してタマゴや魚、豆類、ご飯などからとるように工夫すればよいが、それでも不足するときに、補助手段としてプロティンなどの栄養剤をとるのはいいことだと思います。
遠藤 要するにいい体をつくるには適切なトレーニングと、バランスのとれた栄養が必要なわけです。それも、普通の食事からその栄養をとるのが理想的なんです。
だから栄養剤はオヤツがわり程度でいいわけです。ビルダーの中には、栄養剤さえ飲んでいればいいと錯覚している人もいますが、それは大きなまちがいです。
また、野菜がきらいだから、そのかわり果物を食べているという人もいますがこれもまちがいです。さっきもいったようにバランスのとれた食事をしなければいけません。

再認識された大豆

江本 ビルダーにはハイプロティンを使っている人が多いですね。この原料を調べてみるとほとんど大豆とか小麦なんです。私も最初は肉からとったものだと思っていました。
また、大豆が再認識された面白い話があるんです。東京オリンピックのときのことですが、アメリカ選手団に栄養補給として秘密に飲ませていたものがあったんです。
よく調べてみると、これが日本に昔からあった豆乳なんですよ。栄養源、スタミナ源として大豆が非常によいということがその当時アメリカでは再認識されていたわけです
遠藤 日本人が肉を信奉して、アメリカ人が大豆を認識していたとは皮肉ですね。江本さんのところで大豆からラッピーをつくり始めたのは、それにヒントを得たからですか。
江本 いや、うちはもっと古いんです。大豆がスタミナというか持久性にすぐれた食品であるというデータは古くからあったんですが、大豆独得のクサミがあって、なかなか一般向きの食品にするのがむずかしかったんです。
うちで研究に着手したのは約15年前ですが、ようやく1昨年完成したわけです。
野沢 アメリカでもフィールド・ミルク(畑のミルク)ということで豆乳に目をつけ、多くの大企業が研究していますが、脱臭技術の点が障害になっているようです。
その点、ラッピーの技術は画期的だと思います。
それに化学的な食品添加物を一切使用していないのが好評ですね。
江本 大豆の蛋白質がスタミナづくりによいということは、鈴木梅太郎博士の実験でも証明されています。
牛肉類蛋白を与えた犬は32分12秒しか全力疾走できなかったが、大豆蛋白を与えた犬は40分45秒も全力疾走できたんです。
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すべてバランスが大切

野沢 ジムではトレーニングの指導のほかに、栄養などの指導もするんですか。
遠藤 もちろん指導します。ボディビルはトレーニング、栄養、休養が三大要素ですから。でも、健康管理にボディビルをやっているような場合は、あまり神経質になる必要はありません。
いつもおいしくなんでも食べていればそれでいいわけです。コンテストに出るような人はある程度積極的に蛋白質をとらなければいけないでしようが。
野沢 栄養のバランスも大切ですが運動と栄養のバランスも大切ですね。ということは、摂取カロリーと消費カロリーとの関係です。
うんとカロリーをとっていながら運動が足りなければいわゆる肥満体になってしまう。
江本 いま小学校ではクラスで3~4人ぐらい肥満児かそれに近い子供がいるそうです。これなどはその典型的な例ですね。
そして、懸垂が1回もできない子供が20〜30%近くもいるそうです。栄養ばかりとって運動が足りないから、ふとってはいるが体力が伴なっていないんです。
角力とりはみんな肥満体の部類に入ると思いますが、彼らが食べているチャンコなべに原因があるんですか。
野沢 チャンコなべは非常にバランスのとれた栄養食だと思います。ただご飯を食べ過ぎていますね。元来、角力とりは体力というよりも、体重を増やすことを重要視していましたから、
それでご飯をたくさん食べるようになったわけです。
遠藤 うちのジムにも最近は角力とりがトレーニングに来るようになりましたが、体が大きい割に体力がありませんね。確に角力の基本は押しですから、目方の多い方が有利なんです。
しかし、いまは出羽海部屋や二子山部屋のように、牛乳を飲ませるとか、バーベルなどを使ったトレーニングを併用して科学的にやるようになりました。
野沢 ビルダーはとかく蛋白質ということに執着しすぎるきらいがありますが、骨をつくるカルシウムとかビタミンB2などにも神経を使わなければいけません。
普通の食事ではどうしてもこの2つが不足がちになります。
いわしの丸干し、小魚のつくだ煮、生あげレバー、それから新鮮な野菜類にこれらが多く含まれていますので、つとめて食べるようにしたいですね。
要するにバランスのとれた食事をすることが大切です。
遠藤 そのほか動物性の蛋白質ばっかりとっていると、体が酸性になってバテやすくなったり、おこりっぽくなる。
江本 先日の連合赤軍の事件などもアジトでの食事が片寄って、それが原因でイライラが起こり、だんだん過激になり、ついにはあのような気違いじみた行動になった、といっていた学者がいましたね。
野沢 そのほか現代病といわれる高血圧、糖尿病、ガン、神経痛、ノイローゼなどの人を調べると、体質が酸性になっています。
肉や魚ばかりでなく、野菜や果物もバリバリ食べることですね。
江本 それから日本人の体質というか体の構造が菜食向きにできているんですね。日本人の腸の長さは身長の7倍ぐらいあるのに、アメリカ人は4倍から5倍だそうです。
これは必然的に植物性の食べ物が日本人に向いているということだそうです。
遠藤 なるほど。
江本 それからアメリカのタイムライフという本に出ていたことですが、昔の人間はイノシシの肉を食っていたんですが、獲物をとるのに何日も追いかけなければならない。
それで栄養と運動のバランスが保たれていたからコレステロールの問題が起らなかった。
それが今は自由に食べられて運動が足りないからコレステロールの問題が起きてきたというんです。
本誌 ではこのへんで、どうもありがとうございました。

今月のカバー・ビルダー
’71ミスター日本5位
須藤 孝三

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須藤選手を初めて見た人は、誰でもその素晴しい脚に目を見張る。
それもそのはず、彼は昨年のミスター日本コンテストで並いる強豪をおさえ、見事脚の部分賞を獲得しているのである。
比類ない均整美とたくましさを感じさせる脚をもつイガグリ頭の好青年が、今年も各地でセンセーションを巻き起こすだろう。
 撮影は四日市市競技場のグラウンドで行なわれた。(撮影・本誌小沢誠、カバーデザイン・田中延之、撮影協力・三泗ボディビル・ジム)
月刊ボディビルディング1972年5月号

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