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3人のMrボディビルディング

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月刊ボディビルディング1972年10月号
掲載日:2018.06.01
原田隆正
尊敬される人、人気のある人、好かれる人は、第三者から呼び捨てにされるものであり、また、本人もそれを当然と心得ている。
ミケランジェロ、ベラ・チャスラフスカ、S・オリバみな然り。彼らの共通点の最たるものは「ウヌボレず、知識を鼻の下にブラ下げずに自分を表現している」ことである。

1 東北神和"1粒の種子"

昔、みちのくは緑濃き山の麓、夕陽を浴びた1人のエトランゼが歓びを隠せぬ表情で佇立していた。彼はB・E・マーチンという筋肉の学究で、世界行脚の途次、憧れのニッポンに立寄り念願どおりの土塊を発見したのである。
純粋な1コの土塊は、土齢x年、形状は素朴、色彩は褐色、光沢はツヤツヤしており、欧米では決して見られぬワンダフルな素材だった。
ボルネオの地肌がやや近似するが、此の肌の著しい浅黒さ、労働者特有のO型脚部の力感、小粒でもピリリと辛い気魄………同じ東洋でもさすがは神秘の国日本!彼は戦慄して呟いた。
「ココハ空気モ水も澄ミ豊カナ所。土塊ヲ固ク強クキレノヨイ筋肉ニ変エルニ理想の土地デス。ミケランジェロ顔負ケノデフィニショント、大和魂ヲMIXサセ、コノ世デ最善ノバランス創ル。ソレガワタシノライフ・ワークデス。神サマノ思シ召シ」
やがて春は幾年か巡り来たりて種子(土壌)はスクスク育ち、ピチピチ張り裂けんばかりの筋力を備えた若者に化身した。
乳(父)親、目を細め何度もうなずき「ワタシ役目オワリマシタ」旅装を整え、何処へともなくヒョウヒョウと立ち去る。
この若者がキンヤ・フジワラ(藤原勤也)であり、後に宮城県ボディビルディングの育ての親と成り、JBB界のスイスを築き上げた。
今、バートン・E・マーチン師の播いた種子から芽ばえた”孫”の人数たるや仙台市中に、いや、世界中に数え切れない。

2 関東新話

J・B・B 凛耳新頭である。今春設立早々の関東BB協会が、第2回ミスター関東ボディコンテストを来る10月8日(日)、東京・両国公会堂で開催すると発表。同協会副理事長兼競技部責任者の
記事画像1
が語る今大会の構想は
―コンテストの目的は、あくまでBBのヨリ広範な普及にあるわけです。今回は、関東在住ビルダーなら、誰でも自由に参加資格を得られることにしたいと思っています。
特に学生ビルダーは出場選手として迎える他、本年度学生チャンピオンの吉見君(K大)をゲスト陣に、学連からどなたか1人を審査員にそれぞれ参加して貰うよう交渉中です。なお民間より2人のエキスパートも招へいしております。両名は、実行部の要員として大会内容の刷新に強力な協力をしてくれます。
関東協会は今後B・Bの伝統に新しい実験を重ね、B・Bのポピュラー化を目指し、明日のJ・B・B界に大いに寄与していきたく思いますーー

ナヌ、社学交流? カッコイイ!オレ、開催要項(本紙64ページ)を調べて10月8日、両国公会堂でガンバラナクッチャ!

3 関西心話

ミュンへンは終ったが、日本のシーズンはこれからである。体育の秋、栄養の秋、ボディビルディングの秋!
私は健康管理を目標とするボ歴15年の自宅ビルダーだ。最初の10年間は、もっばらB・B誌を教師代りに自習していたが、独学って奴は直ぐ壁にぶつかる。独善に陥り易い。自信と希望を失う……。これじゃアカンと5年前より半月に一度、必ずジムへ通うことにした。自宅ビルダーのスクリーングである。
ボディビルS館が私に与えてくれたプラスは、体への程よい刺激、斬新な気分転換、その他いろいろあったけど一番大きな収穫は、"This is Body Builder"といいたい体格と人格を兼備したH・I君の存在であった。
26才のH・Iがもたらしてくれた好影響を38才の私は独占できない。
Iのマッスルおよびトレーニング状況に関しては本誌2月号グラビアに詳しい。
人が自分の筋肉を一変し得るのも、「1マイルの道も一歩から」の心がけであるのと同じく、精神はいつも肉体より優先する。Iが、男からも女からも誰からも好かれている秘訣が、5年間のジム通いで判った。それを羅列する。
先ず”実るほど頭を垂れる稲穂”で決して慢心しない。いくら空気を入れられても”柳に風”である。オダテられて忽ちフクラム者は、やがてパンクし笑われる。筋肉の成長も直ちにストップする。
また、他からの讃辞がいつまでたってもこないので、テメェでテメェを賞める奴がいる。「均斉なんかメじゃない。自分のマッスルはいつだって100点だぞ」「俺は知性ビルダーだ」ナンチャッテ。知性は痴性の誤りだろうし”人間の最高評価は99点に決ってる”ということを認識しているIの謙虚さが先ず美しい。
次に、非常の際以外B・Bのために職業(川崎重工)をおろそかにしない。
B・Bは水や日光のように地味で堅実で、そして末永く健康を保証してくれる。B・B一筋まっしぐら、マラソン・ランナーの如く走るIの姿は尊い。
その次はS館のコーチの言で、「決して他人の邪魔をしない」「ボ歴10年今も初心を忘れていない」
最後は第三者からのH・I評
A 仮に、Iにヤミ取引を申し込むとする。答は「拒絶」である。なぜって?顔みりゃわかるんだよ(S館の練習生で経営者・30代)
B 体重を支えるべき脚がガッチリ固定されているから、ポージングにもグラつかず、歪んだ顔にもならない。安定感は人間性にも通じている。(他競技関係者・40代)
C H・Iのとこお嫁にいかせて!(私の娘・10代)
私は普段、1日おきに自宅の庭でトレーニングに励む。2週おきに通うボディビル修志館のように、大きな鏡はないけれど、もっと巨きな鑑を私は持っているわけだ。
H・I 石神日出喜という名の鑑である

X Χ X

「自宅ビルダーの鏡」を最後に今回の私作を終わります。第2話のイラスト(遠藤光男)には、平井BCの熊岡健夫画伯を煩わせました。
月刊ボディビルディング1972年10月号

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