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ボディビルの基本⑮
初心者のための基礎知識と実技

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月刊ボディビルディング1972年12月号
掲載日:2018.05.18
竹内 威(N協会指導部長'59ミスター日本)
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 体に適度な刺激を与えることで体力を強化することができる。このことがボディビルの原則であり、バーベルやダンベルなどの重量物や、エキスパンダー、ハンド・グリッパーなどのバネによる負荷が、体に刺激を与える役割をする。

 体には、負荷が与えられるとそれに適応するために強化される性質がある。しかし、そのような性質が体にあるからといっても、ただ負荷を与えれば、体力が強化されるというものではない。人間の体が生きものであるかぎり、負荷を与える方法は生理的に許容できるものでなければならない。

 生体の機能を無視した方法では体を強化することはできない。負荷を与える方法が、生体の機能を越える過度な場合は、体を疲弊させるばかりか、むしろ体力を低下させる。そればかりではなく、そのような方法をなおも継続するときは、身体の失患をもたらすことにもなる。

 ボディビルを行うものは、このことをよく肝に銘じて、絶対に無理なトレーニングを行うことのないよう注意しなければならない。早急な効果を狙ってボディビルを行うことは、ともすればトレーニングが過度になるので、あまり欲ばらず、焦らずにじっくりとトレーニングにいそしむようにすることが大切である。


◇ボディビルを始める際の心構え
 ボディビルのトレーニングは前述したように、過度にならないように適度に行わなければならない。そのためには、まず、現在の自分の体力をよく自覚したうえでトレーニングに臨むことが大切である。

 実施者が多分にボディビルの経験を積んでいる場合ならば、自分の体力を自覚することは容易であると思われるが、経験が浅いか、または未経験な初心者にとっては、ボディビルのトレーニングに対する自分の体力的な適応度を自覚することはかなりむずかしい。したがって、初心者はそのことを考慮して、基本に忠実に、かつ段階的にトレーニングを行うようにしなければならない。

 つまり、開始時においては、あくまでも初歩的なトレーニングを行い、体力の向上につれて無理のないように徐々にトレーニングの強度を強めていくようにする。たとえ体力的にかなり自信をもっていても、初心者であるかぎりは、やはり初歩から段階的に行うことが必要である。

 「ローマは1日にして成らず」ということわざがあるが、ボディビルとて同様である。ごく短期間で多大な効果が得られるものではない。基礎から積み重ねていってこそ、強い体力とみちがえるような体格を我がものとすることができるというものである。

 いたずらに焦って無理なトレーニングを行うことは、思わしい効果が得られないばかりでなく、トレーニングを続けることが苦しくなり、挫折してしまうことにもなる。せっかく始めたボディビルを途中で止めてしまうことで体力の強化と体位向上の機会を失ってしまうことのないよう、まずは基本から忠実に行い、ボディビルになれ親しむよう心掛けて欲しいものである。

知識編

 ボディビルを実施する場合、単にトレーニングを行うだけでなく、基礎的な知識を身につけておく必要がある。そうすることが、保健のための運動、または体力強化のための運動としてのボディビルに対する理解を一層深め、正しいトレーニングを行うのに役立つのである。

◇ルーの法則

 ボディビルの理論的な基礎をなすものは、フランスの生理学者ルーが提唱した「人体における三原則」である。すなわち、
①体は使わなければ、その機能はおとろえ退化する。
②体は適度に使えば、その機能は強化されるか、もしくは維持される
③体は使いすぎれば、その機能は弱化するか、もしくはそこなわれる

 この「人体における三原則」は、提唱者ルーの名をとって「ルーの法則」ともいう。

 すでにボディビルを行なっている者にとっては、この「ルーの法則」は常識的で新鮮味のない理論と思われがちであるが、たとえ10年のキャリアを有している者でも、これからボディビルを始める者と同じく無視することのできない理論である。

 初心者は初心者としての肉体的な能力に応じて、また、経験者は現在の体力に応じて、2番目の「体は適度に使えば……」の原則に当てはまるトレーニングを行うようにしなければならない。トレーニングが軽すぎては思わしい効果をあげることはできない。だからといって強すぎては、体が刺激に耐えられなくなり、回復もスムーズになされなくなって、体力も体位も減退してしまう。

 したがって、ボディビルのトレーニングは、体が刺激に耐えられて、しかも回復がスムーズになされる範囲で、かつ充分な負荷が体に与えられるように行うことが肝心である。

◇適度に行うということは

 「人体における三原則」によれば、トレーニングは適度に行うのがよいということであるが、この適度ということは、実際にトレーニングをする場合に非常にむずかしい問題を含んでいる。どのように行えば適度であるのか、なかなかつかみずらい。では、そのために考慮しなければならないことがらについて述べてみよう。

㋑トレーニングは個別性を重視する

 個別性を重視するということは、実施者の体力に応じてトレーニングの強度と量を定めるということである。自分と他の人との体力差を自覚することは、ボディビルを行ううえでもっとも大切なことである。他の者にとって適度と思われるトレーニングの強度と量が、自分にとっては過度である場合もある。

㋺生活状態を考慮する

 仕事の内容と時間、労働度の強弱、食生活、睡眠時間など各人の生活状態などを考慮して、過度にならないようトレーニングの強度と量を定める。日常生活における消耗度が強い場合は、当然のことながらトレーニングはひかえめにしなければならない。そして、まず食事と睡眠に気をくばって、体力的な余裕がもてるように生活状態をよくすることが必要である。

㋩段階的に行う

 初心者の場合は、たとえ体力的な余裕を感じても、初めはひかえめにトレーニングを行い、なれるにつれて少しずつトレーニングの強度と量を増すようにする。多少経験を有する者でも、未経験な運動を行う場合は、トレーニングが過度にならないように、やはり初めはひかえめに行う。ボディビルは、常にステップ・バイ・ステップ(一歩一歩)の精神を忘れずに行うことがなにより大切である。

㋥過度と感じたら即座に改める

 種目数、使用重量、セット数は上述のことがらを考慮して定め、過度と感じたときは即座に減らすことである。いかに根性をもってトレーニングを行なっても過度な状態を続けているかぎりは、効果の面で効率が悪いばかりでなく、体の失患をまねくことにもなりかねない。

 トレーニングが過度にならないためには、常に自制心が要求される。あの種目もやりたい、もっと重い重量を使用したい、もう1セット、もう1回無理しても反復したいなど、過度なトレーニングに結びつくことがらを我慢するには自制心が必要である。

 考えようによっては、根性のままにトレーニングを行うよりも、自制心をもってトレーニングを行うことのほうがむずかしいともいえる。自制すべきところで自制することができれば、もはやボディビルの効果を半ば手中にしたも同然である。(次号へ続く)

実技編

◇衣服

 トレーニングを行うのに、運動着を着用しないで普段着や作業服のままですませているのを見かけるが、トレーニングに際してはできるだけ運動着を着用するほうがよい。運動着に着がえることは、気持をひきしめトレーニングに対する意欲を高めるのに役立つ。

 着用する運動着は、暑いときならランニングシャツに短パンでもよいが、気候の寒暖に合わせて、筋肉を冷やさないように考慮して身につける必要がある。寒いときは2〜3枚重ねて着用してもいっこうかまわないが、体の動きがそこなわれる服装では、運動がしにくく危険であるから、この点を考えて伸縮のよいものを着用する。

 履物は、ビーチ用のゴムゾウリでもよいが、あまり軟らかいものはよくない。ゴムの軟らかい履物は、重心の安定が悪くボディビルの場合は危険である。プレートを足に落とすなど不測の事故を考えれば、やはり運動靴をはいて行うにこしたことはない。

◇ウォーム・アップ

 トレーニングに先だって必ずウォーム・アップを行う。筋の収縮性と神経の伝達は、このウォーム・アップをすることで促進される。またウォーム・アップは、循環器が本運動においてスムーズに働くように、準備態勢をととのえるためにも必要である。

◇ウォーム・アップの要点

㋑ 肩・肘・手首・股間接・膝・足首などの間節、および腰・頸等を入念に屈折・伸展し、また旋回する。ボディビルの運動は、その性質上、肩・肘・手首・膝・腰などを痛めやすいから、とくにそれらの箇所は入念に行う。

㋺ 始めはゆるやかな動作で行ない、体があたたまるにつれて徐々に動作を強める。また、肘・腰・膝などは始めからいきなり深く屈折しないで徐々に深くまげるようにする。

㋩ 体があたたまってきたら、本運動における負荷に対処して、ウォーム・アップの段階である程度の負荷を体に与えてならしておく。たとえば腕立て伏せ、ジャンプなどを行う。

㋥ 循環器の準備態勢をととのえるためには、少なくとも5分間のウオーム・アップが必要である。

㋭ 夏期にくらべて冬期は体があたたまりにくいから、充分に時間をかけて、体があたたまるまで行う。

◇ウォーム・アップの例

<頸>
・肩をすくめる。すくめながら両肩を前から後へ、後から前へと回す。
・前後に頸を屈曲。
・左右横へ頸を屈曲。
・頭を起こしたまま、顔を左右へ向ける。・頭を前から横、後ろへと、ころがすように回す。これと同じ方法を逆方向からも行う。

<手首>
・手を振る。手のひらの開閉。

<肘>
・狭い角度での屈折と伸展。
・なれるにつれて、徐々に可動範囲いっぱいに動かす。

<肩(胸)>
・両腕を伸ばして前から上にあげることをくりかえす。
・両腕を肩の高さで前から横へ開く
・体の前で交差するように左右の腕を大きく回す(逆にも回す)。
・両腕を前後に大きく回す(逆にも回す)。
・軽い足踏みから、徐々に膝を高くあげる。

<足首>
・片足ずつ浮かして、足首の屈伸と旋回を行う。
・両足の踵を床から浮かさないようにして両膝を軽くまげ、アキレス腱とふくらはぎの筋を伸ばす。
・つま先に多少体重をかけて、左右交互に踵をあげ、足首を充分に伸ばす。

<膝>
・両膝に手のひらを当てて、始めは浅く、なれたら徐々に深くまげ、膝の角度が80度くらいまでの屈伸を行う。
・膝の角度が80度くらいまでの範囲で円を描くように屈伸する。
・完全な屈伸を行う。

<腰(胸·背)>
・両足を開いて上体を左右へ軽くひねる。・上体を左右横へ屈曲する。始めは浅く、徐々に深く屈曲する。
・体前屈を行う。始めは浅く、徐々に深く屈する。
・体後屈を行う。手を腰に当てて徐々に深くまげる。
・両足を開いて上体を左右横へ大きくひねる。
・上体を前から左→後→右→前へと腰を支点にして屈曲しながら回す(逆方向からも行う)

<股関節>
・両足の間隔を広くして両膝を屈する。
・両足の間隔を広くして、片脚を屈し、もう一方の脚を横へまっすぐ伸ばし、手で押しながら内股を伸ばす。

<背>
・床に仰臥して、両脚をあげ、頭ごしに床につま先をつける。

<胸>
・両腕を伸ばしたまま、肩の高さで左右横へできるだけ開く。
・壁に両手をつき、体重をかけて腕の屈伸を行う。

<腕立て伏せ(プッシュ・アップ)>
<その場かけ足>
<垂直ジャンプ>
<前方足あげ(フロント・キック)>
<横への足あげ(サイド・キック)>
<後方足あげ(バック・キック)>
(次号へ続く)
月刊ボディビルディング1972年12月号

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