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【スタミナ・メニュー】
食事の量

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月刊ボディビルディング1975年3月号
掲載日:2018.04.18
野沢秀雄

1.カネやんの哲学

 不調だったロッテオリオンズを,今日あるように活力あふれたチームに仕上げた監督のカネやんは,ときどき愉快でおもしろい発言をすることで有名だ。「人生は2つのことをするためにある。それは食べることと,アレすることや。そういう意味でワシはキャンプ中でも一日だけ“生理休暇”を選手にやって,カアちゃんのところに帰らすんや……」
 たしかにユニーク。どのチームもまだやったことのないような制度をつくり,あっといわせている。そのカネやんが何よりも大事にするのが「健康な体」であり,その体をつくる食事法については,とても気を使っている。今月はカネやんの意見を参考に,食事のとり方について研究しよう。

2.みんな体に不安を持っている

 スポーツマンだけでなく,芸能人,会社の経営者,学者,セールスマン,熟練工――どんな仕事でも一流といわれている人は,その独特の意見や哲学をもっていて,不思議なことにその意見は単にその分野で通用するだけでなく,広く共通に誰にもピーンとくるものがある。だからジャイアンツの長嶋選手と美空ひばりが親友であったり。松下幸之助氏が,池田大作氏と話があったりするわけだ。
 カネやんの発言が注目され,よろこばれているのも,きいてみるとわれわれにも役立つことが多いからだ。たとえば,体力づくりについてこういっている。
「最近は,本当の健康体の人間がいなくなったわ。自分の体は自分がまもり,自分がつくらんならあかんのに,すぐエレベーターや車にのって,アシを使いよらん」「いまの若者は強靭な健康体の人間に一番威圧を感じるはずや。頭ばかり刺激してもあかん。体づくりが基本やで。ワシはチーム所属のマッサージ師も選手と一しょに走りこませるんや」――まったく同感。よくわかる意見ではないか。
 さらにこうもいう。「これから仕事につくなら,絶対に食いもの屋か健康産業やで,みんな一人一人が自分の健康について考える時代や。ワシも実業家のはしくれとしてサウナを去年の暮にオープンしたが,みんな体に不安を持っているんやろ,おかげでまずまずの入りや」
 さて,食事についてはこういっている。「食べることが資本や。ええもんを腹いっばい食わんとあかん。最上級の肉に一番新鮮な野菜,食いたいものを食う――人間にはオアシスが必要なんや」――たしかにロッテの合宿や,ホテルの食事については,どのチームより格段に豪華である。カネやんにかわってから食事の支出をどかっとふやして,選手の体づくりと,やる気づくりに成功したのだ。

3.オーバーになってもいけない

 だが,やたら食べればいいというものでもない。皮下脂肪がついて,体が重くなると,かえって動きがとれなくなる。1月の終りから,どのチームも自主トレーニングを開始して,体力づくりにはげんでいるが,新聞に阪神タイガースの江夏らがバーベルをウンウンあげている写真がでている。それほど重くもなさそうなバーベルなのに,苦しそうで,階段上りではとうとう田淵選手も江夏投手もへたばって両手をついてしまったという。
 そして体重測定では,なんと田淵が93.5キロ,江夏が90キロ。どちらもタイコ腹がでっぱりこれでは耐久力(スタミナ)がないのは当り前。健康管理がうまくいっているとはおせじにもいえない。単純に食べればいいというものではなく,その人の体質,年齢,トレーニング状況やトレーニング経験にあった食事法がある。
 カネやんのひきいるロッテの場合も,同時にスパルタ・トレーニングを課しているのでなんとかバランスがとれているが,それでもみたところ腹囲がぶくぶく太めになっている選手もあるようだ。合宿では同じようなメニューが並び,ついつい食欲旺盛な若手選手のペースになってしまうが注意したいものだ。ときには飯や牛肉を残しても「みんな食あんとあかんで」と叱りとばさないように,ねがいたいものだ

4.食事分析を紹介すれば

 すでにお気付きの人も多いと思うが去年の秋,広告のページに「食事分析サービス」をのせている。これは毎日の食事で口にしたものをすべて書いて送ってもらい,同時にトレーニング状況や,体を発達させるうえでの問題を知らせて,私自身が数字により分析し,返事をおくっているものだ。
 現在までに何人もの人びとから応募をいただいているが,それを見て感じることは食事のとり方は人さまざまで,同じ身長,同じ体重でも,ある人は食べすぎていたり,ある人は食べようと思っても食べられなくて苦しんでいたりする。食べすぎている人には不要なものを指摘してこれらをのぞいてもいいとアドバイスするし,逆に胃腸がはって食べきれない人は,内じボリューム(量)を食べてカロリーのあがる方法をお知らせしている。
 こんな例もある。甲府市の浅川さん(20歳)は,身長170センチ,体重55キロの体を大きくしようとして,アルバイトした金のすべてを食費につぎこんだ。「肉・魚・ハム・チーズ・納豆など,腹いっばいでそれ以上はいらないと思っても,太りたい一心で人の2倍くらいずつ食べました」――この努力のおかげで体重がどんどん増え,なんと1年後には82キロまで増えたという。けれど,よくよくスタイルをみると,腹まわりが大きくて,かっこうがわるい。それで70キロぐらいにへらそうと,今度は一日に牛乳1本だけの生活をはじめ,そして3~4カ月で目的を達したというから,浅川さんの努力と意志の強さに敬服させられるが,問題は,このころから下痢と便秘がおこり体調をすっかりこわしてしまったことだ。
 浅川さんは現在も不調で,食べることに対して恐怖感さえいだいてるという。早速,送られたメニューを分析すると,腹いっばい食べていたときは4380カロリーで,タンパク質が242gなのに対し,やせようとしていたときのメニューは約1000カロリー,タンパク質50g。これでは体がこわれてしまうのは当然だと思われた。このような失敗は,決して浅川さん一人ではないだろうし,計算をしないで,無知のまま無理をすると,本来,体や健康をつくるはずの食事が逆に不健康をつくり,病気になったり,スタミナがなくなりバテやすい体にしたりする。
 食事分析の費用は,本誌の読者には2000円で,かつ,応募された人には3カ月後に無償でもう一度分析して結果をお知らせするという方法をとっている。一人の人の食事分析をするのに,4~5時間ぐらいかかってしまい,簡単な計算のようだがなかなか面倒なものである。別の指導センターでは5000円くらいの費用がかかることを考えれば,割安と考えられる。トレーニングする割には効果のあがらない人や,バテて疲れやすい人,最近だんだん腹がでてきたという人,胃腸の弱い人,肌にツヤがない人など,この機会に応募し,チェックされてはいかがであろうか。

5.不要なものは食べなくてよい

 食事分析させてもらった人のうち,みんなの参考になり役立つものや,よい成果をあげた選手のメニューなどについて,本誌のこの欄に広く紹介してゆきたいと考えているが,共通して気づくことは,タンパク質についてはすでに十分すぎる場合が多いことだ。ボディビルをやるからには,タンパク質が重要にちがいなく,だからこそ,タンパク質中心の食事法をおすすめしているが,タンパク質の過剰は逆に体に負担をかけ,バテやすく,ムダになることだ。
 タンパク質には,ちっ素やいおうが含まれており,これらは最近,大気汚染や,車の排気ガス公害で問題になっているように人体に有害な毒物である。これを体内で無害化するために肝臓や腎臓にたいへんな負担がかかっている。またとりすぎたときは,タンパク質でも糖にかわり,さらに脂肪へと変化して皮下脂肪になる。そのまま排徐されてしまうのでなく,その過程において,体をいためつけるのだ。だから,体重1キロ当り2gまでを目標に,毎日のメニューを考えていただきたい。不要なものを無理に食べて,無駄をしているのはバカらしいことである。自分の体にちょうどよい量を知っていることが望ましいのだ。
月刊ボディビルディング1975年3月号

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