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JBBAボディビル・テキスト㉖
指導者のためのからだづくりの科学
各論Ⅱ(栄養について)

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月刊ボディビルディング1975年9月号
掲載日:2018.06.08
日本ボディビル協会指導員審査会委員長
佐野誠之

5 食物連鎖とは

 植物は草食動物に食われ,草食動物は肉食動物に,またある肉食動物は他の肉食動物に食われるという,食う食われるという繰り返しの食物関係からみて,生物の相互関係を食物連鎖という。

 このような食物連鎖をつきつめていくと,その出発点は緑色植物である。

 炭酸同化によって出された酸素を動物は呼吸に用い,その結果出された炭酸ガスが炭酸同化に用いられているし,空気中の窒素は細菌の働きで窒素化合物になり,これを植物が吸収し,窒素同化により植物の蛋白質となり,これを動物が食べ,動物の排池物や死がいは分解して空気中や土中に入り,これが植物に吸収されて必要なものに合成されている。“窒素同化”というように窒素も循環している。これと同様に,食物連鎖も物質面からみると,いろいろの元素が生物から生物へと次々と移っていく。このように物質交代は循還している。

 食ったり食われたりすることによって生じる生物間のつながりは,緑色植物が,無機物から有機物をつくるという意味で生産者と呼ばれ,直接,植物を食べる動物を一次消費者,一次消費者を食べる動物を二次消費者,二次消費者を食べる大型の動物を三次消費者というように呼んでいる。

 生産者および消費者の死体は,微生物(これを分解者と呼ぶ)によって無機物にまで分解され,再び緑色植物によって利用される。この食物連鎖と個体数との関係は,高次の消費者ほど形が大きく,より高等であり,高次の消費者の個体数は,より低次のものより少なくその割合は1/10あてともいわれている。

 以上を要約すると,緑色植物はすべて光合成により,またある細菌や菌類は化学合成により,無機物から簡単な炭水化物(糖質)を自らつくり,この簡単な炭水化物と窒素化合物等から自分の身体を構成する複雑な有機化合物を合成する能力をもっている。このようなものを独立栄養といい,独立栄養を営むものを生産者と呼ぶ。

 このような炭酸同化作用の働きをもっていない生物は,他の生物,またはその遺体等から必要な有機物をとる従属栄養を営んでいるが,炭酸同化作用を行わないという点で動物はすべて従属栄養である。この従属栄養を営むものを消費者という。

 生態系では,食い食われるの関係で食物連鎖をなし,物質は元素や水として循環している。ただしエネルギーは循環しない。

6 エネルギーの発現

 生物体がどのような物質でできており,これをつくりあげる仕組(すなわち同化作用)はどのような過程を経るかのすじみちを,生物全体を通じての共通事項としてその大略を述べてきたが,次にエネルギーの発現について考えてみよう。

 自動車はガソリンを燃焼させてそのエネルギーで動くし,工場で機械を運転するときには,石炭や石油をたいたり,電流を通じたりして動力を供給するが,生物体内で生活作用が営まれるためにも動力,すなわちエネルギーが必要である。

 養分として外界から取り入れられた物質が,自分の身体に必要なものに合成され,体内に貯えられているが(同化作用により),この貯えられた物質から複雑な変化を経て取り出され,各種のエネルギーとして利用される。

 このことは,物質的に見ると,からだを形づくっている物質が,こわされて外に捨てられることであるが,これをエネルギーの立場から見ると,この働きによって,生活していくエネルギーが現われてくるのであり,そのエネルギーの現われ方の違いによって,いろいろと異なった生活活動が営まれるのである。

 このエネルギー発現(物質の分解過程)を異化作用という。すなわち,単独栄養であろうと,従属栄養であろうと,自分のからだをつくる養分をとり入れて,からだをつくることが同化作用であり,一方,同化作用によって体内に蓄積された有機養分を酸化して,生活に必要なエネルギーを得ることを異化作用という。そして,異化作用に重要な役割を果たしているものが呼吸(酸素供給)である。

 この呼吸には「酸素呼吸」と「無酸素呼吸」がある。酸素呼吸とは,養分を酸素によって酸化分解する呼吸のことで,普通,「呼吸」と呼び,また有気呼吸ともいっている。大部分の生物はこの方法で生きている。

 無酸素呼吸とは,無気呼吸,分子内呼吸,または分解呼吸等といわれており,酸素を用いず,養分を分解してエネルギーを用いる方法で,発酵といわれる現象は主としてこれに属している。

 酸素があれば酸素呼吸を,酸素が欠乏すると無酸素呼吸(発酵)を行う菌類や細菌もある。呼吸により酸化分解される養分を呼吸物質と呼んでいる。

 呼吸運動の最終目的は,全身の組織細胞の活動に必要なエネルギーを生み出すことであるから,呼吸という言葉でエネルギーの遊離を意味していると考えて間違ではない。ではここで,呼吸についてごく簡単に考えてみよう。

 緑色植物では,光合成を営み,炭酸ガスを呼吸して酸素を出しているので呼吸ということを植物についていうと不思議に思われるかも知れないが,しかし,光があたっていても,いなくても,細胞は呼吸をしているので,昼間日光があたっているときには,光合成によって使われる炭酸ガスの量が,呼吸によって出来る炭酸ガスの量より多いから,日光にあたっているとき,植物では差し引き炭酸ガスを吸い,酸素を出している訳である。

 そして次第に光が弱くなると,光合成と呼吸とのガスの出入が等しくなる点がある。これを補償点というが,さらにこれより光が弱くなると,酸素を吸って炭酸ガスを出す。夜間には呼吸に伴うガス交換だけになる。たとえば種子が発芽するときには呼吸が盛んになり,酸素の供給が足りないと死んでしまう。これらの変化は温度の影響もうけている。植物はエネルギーを食物からとるのではなく,光のエネルギーを利用してこれを化学エネルギーに変え,光合成でつくった炭水化物を酸化して得たエネルギーで,成長したり,生活を維持している。その酸化作用が呼吸である。

 無気呼吸だけで生きている細菌や菌類もあるが,高等な動物や植物においても,呼吸のしくみの一部分として無気呼吸が行われている。ただし,同じだけの物質を使用しても,無気呼吸で得られるエネルギーは,酸素呼吸の場合と比べてずっと少ない。

 動物体ではおもにグリコーゲンのような炭水化物からエネルギーをとり出す。グリコーゲンは澱粉と同じようにブドウ糖などの単糖類が沢山結合して出来た物質で,肝臓や筋肉に沢山貯えられている。しかし,グリコーゲンが不足の場合には,脂肪やその他の物質を分解してエネルギーに利用している。

 筋肉のようにエネルギーを盛んに使う組織では,グリコーゲンの分解がとくに盛んで,グリコーゲンとその分解産物である単糖類の分解は,脳の神経細胞にいたるまでどの組織でもおこっている。からだの組織にグリコーゲンや糖が足りなくなると,これらの組織は血糖をとり込んで補いにし,血糖の量が減ると,肝臓に貯えられたグリコーゲンをブドウ糖などの単糖類に分解して血糖として送り出している。

 では,われわれの体内でブドウ糖のような単糖類はどのように分解するのであろうか。ごく簡単に述べてみよう。
 ブドウ糖は少しずつ変化していってビルピン酸になり,場合によっては水素がついて乳酸になる。グリコーゲンから単糖類を経て,このような物質にまで分解される働きを解糖作用と呼んでいる。この解糖作用では酸素による酸化は行われていない。これらの働きは酵素(これについては別項で述べる)の働きによって進められるが,燐酸の働きが加わることが必要で,非常に複雑な反応である。

 解糖に引きつづいて,ビルピン酸の酸化分解がおこる。最後には炭酸ガスになるが,これも多くの段階を経て行われる反応で,この反応には酸素による酸化が伴っているので,有酸素呼吸が必要である。この分解のさまをクエンサン回路とかTCAサイクルとかいうほか,イギリスの学者でノーベル生理学医学賞を受けたクレプス(1901~)がその分解のさまを明らかにしたからクレプス回路ともいう。

 解糖で得られるエネルギーは,グリコーゲンが完全分解して炭酸ガスと水になるまでに出るエネルギーの全量の1/15にみたない。残りはすべてこれに引きつづく酸化過程(クレプス回路による)によって取り出されるもので,これが内呼吸としての酸素呼吸である。

 生物体内で物質が変化していくためには,細胞中のいろいろな酵素によってだんだん分解されていく働きが必要である。

 われわれの生活エネルギーは,以上のように最初,無酸素反応にはじまりついで有酸素的働きによってまかなっている(詳しいことは別項にゆずる)。

 以上のように,生物はすべて外から物質をとり入れ,からだの中でいろいろの化学変化を行なって生活のエネルギーを出したり,自分のからだをつくったりしている。この生体でおこる物質変化が物質代謝であり,その変化をエネルギー面からとらえたものがエネルギー代謝である。

 栄養ということは,「食物を摂取し消化し,吸収し,利用される一連の現象」のことをいう。故に,食物の中にそのような働き(現象)がないから,「これには,これこれの栄養成分があるとか,ないとか,あるいは少ないとか」というなら正しいが,単に何々には栄養があるとか,ないとかいうのは間違いであり,おかしいということが理解できると考える。そのへんを正しく認識しなければならない。

 必要物質を取り入れ,身体に必要なものに組みかえる器官としての消化器系や,エネルギー発生に欠くことのできない呼吸器系,また,全身の細胞が生きていくために不可欠条件をそなえた内部環境としての血液,さらに,いろいろな生活活動を営むのに必要な物質を体内に運び,体内で生じた有害物や老廃物を体外に排池するための物質運搬としての脈管系等々,その関連性を忘れてはならない。個々を一部として考えるのではなく,全体としてとらえることが必要であろう。このような認識をもつことによって栄養状態がよいとか,栄養をよくするとか,栄養的であるとかの意味がはっきりしてくる。

2栄養素と身体

1 栄養素とは

 私たちが生活していくために,いろいろな食物をとって,これらを利用して自分の体成分の合成や,エネルギーの獲得を行なっている。

 すなわち,食物は単に毎日必要とする熱量だけを補うのではなく,筋肉や血液等をつくる蛋白質,骨を構成する無機質,その他身体の機能を調節するビタミン等も必要で,生体内で行われる化学変化が体合成に必要な生体活動のエネルギー供給をしており,食事はこのような生体内での化学反応に必要な材料を取り込むことである。

 故に,日常摂取する食事には,次のような働きを果たす成分が含まれていなければならない。

①エネルギー源となるもの(糖質,脂質,蛋白質)
②体構成の成分となるもの(蛋白質,無機質)
③身体の機能を調節するもの(ビタミン類,無機質)

 これら,私たちが生きていくために必要な食物の成分を栄養素という。

 食物の中には炭水化物(糖質ともいう),脂質,蛋白質,無機質(鉱物とかミネラルともいう),ビタミン等,様々な物質が含まれているが,中でも元素としての酸素,炭素,水素,窒素が含まれている有機化合物である炭水化物,脂肪,蛋白質は,他のものより多く摂取されなければならないので,これを三大栄養素という。

 有機化合物の他に必要な元素としては,カルシウム,カリウム,ナトリウム,塩素,リン等や,微量ではあるが必要なヨウ素,鉄,マグネシウム等の元素を一括して無機質とかミネラルとか呼んでいる。これらの無機質は,各種酵素の作用の発現や抑制に関係し,その必要量は微量であるが重要なものである。

 ビタミンは,酵素蛋白質と結合して生体内での化学反応の触媒として働いている。故に,さきに述べた三大栄養素にビタミン,無機質を入れて五大栄養素と呼ばれる。

 糖質,脂質,蛋白質は,体内で酸化燃焼して炭酸ガスと水,あるいは尿素や尿酸等の低級化合物に分解する。そして,その化学反応の過程の中で熱を出す。これが私たちの必要とするエネルギーを供給するので,熱量素とも呼んでいる。

 これに対して,無機質やビタミンは体内で熱源とはならないもので,骨格形成,体構成成分や身休の機能調節等の人体の保全に働いているという意味で,これらを保全素と呼んでいる。しかし,これらの区分は確然としたものではない。蛋白質は体内で燃焼酸化するので熱量素に入れられているが,蛋白質を構成しているある種のアミノ酸は,体蛋白質の合成に欠くことの出来ないもので,この意味では保全素といえる。

 石炭を燃やすと熱が出てあたたかくなる。燃やすということは酸素との反応であり,石炭は炭酸ガスと水と灰分(もえがら)とに変化する。出てくる熱は,石炭が内蔵していたエネルギーの変化したものである。このエネルギーを利用して,いろいろの仕事に利用する。

 私たちは石炭は食べないが,食物でとった熱量素を,同じ原理で酸素と反応させ,二酸化炭素と水に変化させ,そのとき発生する化学エネルギーを生体が使い易い型のATP(これについては別に述べる)としてとり出す。この過程をエネルギー獲得反応という。

 食物によって内蔵する化学エネルギー量が異なる。一般に炭水化物と蛋白質は1g当り4カロリー,脂肪は1g当り9カロリーに相当するエネルギーを持っている。

 普通,身体は必要以上のエネルギーは生成しない。ところが,エネルギー源が必要以上に摂取されると,それはまさかの時にそなえて体内に蓄積される。この場合,貯蔵には単位重量当りの化学エネルギーが多い脂肪にしておく方が都合がよいので,体脂肪が増加する。その結果,肥えるということになる。故に肥えないためには,余分の熱量素を燃焼させること,すなわち運動をすることであり,また,あまり余分に食べないことである。

 運動をして体重が増加するのは筋量が増えた結果で,俗にいう肥満とは違うことを知ると共に,太ったり,やせたりする原因は,食事や運動の他に,ホルモン等の影響を受けるが,根本的にはエネルギー源の過剰摂取が原因であることを忘れてはならない。

 身体の機能の正常な場合には,太るということと,成長ということは区別する必要がある。

 要するに,三大栄養素以外の物質は必要量が少なくても重要な機能に関係しているので,食事の質と量に栄養学的配慮を欠くことは,成長に大きな影響を与えるばかりでなく,病気の原因ともなるものである。

 私たちは食物をとり入れて体成分を合成し,一方,分解してエネルギーを得ているが,食物成分を栄養素の分類に従って身体の成分と対比してみると次表のようになる。これは食物中の糖質が体成分の糖質をつくるより,むしろ分解してエネルギー発生に用いられていることを示している。
〔注〕基礎代謝1300~1500calとしてみた場合。

〔注〕基礎代謝1300~1500calとしてみた場合。

月刊ボディビルディング1975年9月号

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