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チャンピオンへの道
<心理学によるトレーニングの効果> 1976年6月号

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月刊ボディビルディング1976年6月号
掲載日:2018.06.27
川股 宏
 ではここで、前号でちよっとふれたガッツ石松の苛酷なまでの減量の模様を記してみたい。すでに1ヵ月ちょっとで約9kg減量し、試合までの1週間にあと4kg減量するのである。それもトレーニングしながら、しかも試合当日の15ラウンドの長丁場を戦い抜くスタミナも考えなくてはならないのだから並大抵のことではない。
石松の試合前1週間のメニュー

石松の試合前1週間のメニュー

 文章にすればこんなようになるが、言葉でいいあらわせない精神的な苦痛や疲労も多いことであろう。要は、絶対にチャンピオンを防衛するという強い自信と精神力、そして計画性をもって常識を打ち破り、頑張り抜いたガッツ石松であった。

 しかし、このガッツ石松も去る5月9日、プエルトリコのへスス選手に破れ、世界チャンピオンの座を追われてしまった。

 ボクシングの選手とボディビルダーの減量は目的も方法も違ってはいるが何かの参考になるかも知れない。

 10数年前のコンテストでは、圧倒的なバルクを持っていれば優勝できたかも知れない。しかし、ここ数年の傾向はバルクとともに筋肉のキレ、つまりデフィニションがなくては絶対に上位入賞はできない。ただ自分の筋肉の大きさに酔わず、減量による独創的な自分をつくってほしい。
 次に目を各分野に転じ、常識を打ち破ったエピソードを記そう。発明、発見はいうに及ばず、芸術や音楽の世界でもこのような話が沢山ある。

 月光のセレナーデ、茶色こびん等。数々の名曲と独特のサウンドで有名なグレンミラーは、自分自身のハーモニーとサウンドを作るためにいろいろ考えた末、ついにそれまでの楽器の種類に、その当時、タブーとされていたクラリネットを入れ、あの特徴あるサウンドを作りだしたといわれている。いまとなっては、コロンブスのタマゴよろしく常識的になっているクラリネットにもこんな時代があったのである。

 ビートルズにしても、おそらく百年前だったら、気狂い扱いされたに違いない。それまでの落ちついた重厚のクラシックからみれば、なんとも軽薄なさわがしい音楽と思われただろう。

 絵画の世界も同じである。長い間の暗い色彩の宗教画、その写実性から脱皮し、キャンパスの中に、空気と水と温さを色で描いた印象派のモネーも、それまではおそらく1本の線も無駄にしなかった写実主義から、大胆な線を描く色彩中心の画へと、常識を打ち破った結果、世界の美術界に大きな影響を与える巨匠となったのである。

 ピカソも、若い時からどん欲なまでに自分の色、独特の線を求めてさまよったといわれている。いかなる世界の人でも、基礎を十分に会得した上で独特の着想が実行されたとき、はじめて世間の人々から注目をあびるのです。

鹿島守之助二十訓(抜書)

 さきになくなった鹿島建設の鹿島守之助氏は学者としても、また経営者としても有名だったが、氏の著書の中にその経営哲学とでもいえる二十訓がある。経営の達人が残した真理ともいえるもので、またその真理は、ボディビルにあてはめて考えても大いに参考となる。

 第1条 旧来の方法が一番良いという考えは捨てよ。

 第2条 絶えず改善を試みよ。できないと言わず、やってみよ。

 第3条 有能な指導者を作れ。

 第4条 人を作らぬ事業は亡ぶ。

 第5条 どうなるかを考えるよりはどうなるかを研究して、どうするかの計画を樹立せよ。

 第15条 1人よがりは仕事を損ずる。

 第17条 欠陥を改良せよ。

 第19条 無駄をみつける眼を開けよ。

 第20条 仕事を道楽とせよ。

 なるほど、簡単な言葉の中に、大成するためのおしえがある。以上の訓話をボディビルのトレーニングに言いかえてみると、道は違っても身にしみる真理となる。
月刊ボディビルディング1976年6月号

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