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ベンチ・プレスとスクワットの危険防止台の試作について

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月刊ボディビルディング1976年7月号
掲載日:2018.06.22
埼玉大学教授 松尾昌文

はじめに

バーベルによるウェイト・トレーニングは、今日では体力づくりの一環として広く実施され、とくにスポーツ・トレーニングの重要な手段としてますます重要視されている。まことによろこばしいことである。

しかし、一方、それに伴ってこれら実施によって起こる傷害事故もまた増えているように思われる。ウェイト・トレーニングを指導する者にとって、これは大変残念なことであり、なんとかして事故による傷害を未然に防止したいと常々考えていた。

さて今回は、バーベル・トレーニングの中でも、とくに一般に広く実施され、パワーリフティングの競技種目でもあるベンチ・プレスとスクワットの2種目について、その起こり得る危険を防止する方法について報告してみることにした。

ベンチ・プレスとスクワットの危険性について

ご承知のように、ベンチ・プレスとスクワットは、いずれも全身の筋肉を強化するのに極めてよい運動種目とされているが、その実施に当って、時として致命的傷害を惹き起こす危険をもっている。以前、本誌にも窪田登教授によって、アメリカで起きたベンチ・プレスによる死亡事故が報告されたのをご記憶の読者も多いと思う。相当なエキスパートでもその危険があることが重大である。

まずベンチ・プレスにあっては、胸や顔の上へのバーベル・シャフトの落下が考えられる。いずれの場合も補助者がいなければ致命的な事故となる。時としては補助者がいても重大な事故となることもある。とくに重いバーベルに挑戦したり、極限回数まで実施したような場合にその危険がある。

もっとも、バーベル・シャフトが挙上できなくなって、胸上へ落下する場合は、考えるほど危険はない。経験的にも、このときは再挙上を試みることなく(胸の上にのせて再挙上しようとすると、首の上にくることが多い)シャフトを直ちに下腹部の方へ転がして移動することにより逃れることが、それほど困難ではないからである。

 次にスクワットであるが、これは過度の膝・腰の屈曲と上体の前傾による腰椎の損傷が最も多いようにおもわれる。その他、頸椎の損傷や膝、足首関節の損傷などが起こることがある。これも補助者が両側についていなければ致命的な損傷になる危険性をもっているが、時として補助者がついていてもその危険がある。私の経験した例でも両側に補助者がついていながら腰椎を損傷したり、膝を痛めたことが何度かあった。とくに、スクワットの途中で脚部に肉ばなれやけいれんを起こしたときは危険である。

危険防止台試作の動機

以上のような危険を未然に防止するためには、もちろん実施者が十分にウォーム・アップをやり、その運動に習熟した上で、よく注意し、緊張してやることが大切であるが、加えて両側に補助者を必ずつけるということも必要であろう。しかし、それだけではなお不十分な場合もあり、何らかの対策がぜひ必要と思われる。

スクワット・ラックの中には階段式構造のものが多い【写真1】参照。これはスクワット実施中に立ち上がれなくなったときシャフトをその横棒の上に落とすようになっているが、その横棒の高さが調節できないし、幅も適度でないため、かなり危険が伴う。それにシャフトの損傷が著しいという欠点もある。したがって、危険防止台としては十分とはいえないと思う。

私は経験的に、ベンチ・プレス実施中、ベンチ・プレス用のベンチの両側に、そのベンチよりも約5cm低いベンチを2台平行におき、その上にバーベルの両側のプレートがのれるようにしておくことによって、シャフトが首の上へ落ちるのを防ぐと共に、挙上できなくなったとき、シャフトを下腹部へ移動させて両側のプレートを台の上にのせて、楽にバーベルの圧迫から逃れることを知った。

そのとき、両側の2台のベンチの高さが、各個人の胸の厚さに応じて自由に調節できたら一層うまくいくだろうということに気づき、次に紹介する装置を考案試作したわけである。
[ 写真1 ]

[ 写真1 ]

危険防止台について

装置そのものは極めて簡単なものであるが、実際に使用してみた経験からいうと、適切に使えば先にあげたような危険のすべてを未然に防止できることがわかった。

【写真2】がその装置の全景であるが、2台のベンチの下にはそれぞれ車がついていて移動は自由である。この車を上にあげれば(簡単にあがる)、台は床の上に固定するようになっている。

台(B)は幅45cm、長さ90cmあり、台(C)は幅45cm、長さ30cm、高さ10cmあって台(B)の先に接続している。両側のハンドル(A)を回転させることによって、台(B)の高さは30cmから75cmまで、台(C)の高さは40cmから85cmまで自由に変えることができる。

さて、ベンチ・プレスを実施する場合には、【写真3】のように台(B)の高さを、バーベル・シャフトが胸上に接触する状態で、両側のプレートの下端部が台(B)から5cmないし10cm程度離れておくように調節する。

また、ベンチ・プレス用ベンチのスタンドは、台(C)の内側の端の延長線よりさらに5cmないし10cm程度内側にくるようにセットする。こうすると、ベンチ・プレス実施中にバーベル・シャフトが胸上に触れたとき、両側のプレートは両側のベンチに触れることなく、したがってスムーズにベンチ・プレスを実施することが出来る。

しかも、もしシャフトが首の上にくれば、両側のプレートが台(B)の上にのるため、シャフトが首を圧迫することがない。またもしシャフトがスタンドの反対側に落下し、顔面へきたとしても、両側のプレートは台(C)の上にのり顔面への直接の落下は阻止される。【写真4】参照。

また胸上に落下し、挙上不可能になったときは、直ちにシャフトを下腹部の方へ転がして移動すれば【写真5】にみられるように両側のプレートが台(B)の上にのるので、容易に逃れることができるわけである。

次にスクワットの場合は【写真6】にみられるように、希望する膝腰の屈曲と上体を前傾したときの両プレートの下端部より5cmないし10cm下の高さに台(B)を調節しておけば、過度の膝腰の屈曲と上体の前傾によって起こる危険は未然に防止されることになる。

このように2台のベンチを適切にセットすることによって、ベンチ・プレスとスクワットの際に起こり得る危険を未然に防止することができるわけである。とくに重量挑戦をするパワーリフティングにあっては、この台を使用することによって、安全にトレーニングができるように思われる。また同時に超重量を試みるエクセントリックスにあっても、この台は極めて有効に使うことができることをつけ加えておく
[ 写真2 ]

[ 写真2 ]

[ 写真3 ]

[ 写真3 ]

[ 写真4 ]

[ 写真4 ]

[ 写真5 ]

[ 写真5 ]

[ 写真6 ]

[ 写真6 ]

危険防止台の改良について

なお、この装置を私自身約6カ月間使用してみた結果、今後さらに改良すべきいくつかの点を見出した。そこで現在、改良台の試作にとりかかっているが、最後にこれらの改良点を列挙してこの報告を終ることにする。

①ベンチ・プレスとスクワットとそれぞれ別個の専用台を作製した方がよいように思われる。

②現在の台は、耐圧を1トン程度としたため、1台のベンチの重量が100kgを越えたので、耐圧を500kg程度にして、台をもっと軽量化した方がよいように思われる。

③台の高低調節を両側のハンドルで操作するのは幾分不便なので、片側のハンドルで操作できるようにした方がよいと考える。

④台(B)の桁の中央部の厚さをもっとうすくして、橋型にすれば、膝腰の屈曲状態がより見易くなると思われる。このことは、パワーリフティングにおけるスクワットの判定にはぜひ必要である。将来はスクワットの客観的判定台としても利用できるものを作製してみたい。

⑤油圧を利用して、胸上のバーベル・シャフトを上昇させる装置を工夫すれば、もっとよいものになると思う

読者の皆様の忌憚のないご批判をお待ちしている。

(この稿の概略は、昭和50年9月16日、第26回日本体育学会に窪田登教授と共同研究として発表した。)
月刊ボディビルディング1976年7月号

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