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JBBAボディビル・テキスト㉟
指導者のためのからだづくりの科学
各論Ⅱ(栄養について)

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月刊ボディビルディング1976年8月号
掲載日:2018.04.15
日本ボディビル協会指導員審査会委員長 佐野 匡宣

<5ー3ー7>脂質摂取上の考慮

 前回で脂質についての大要をつかんでいただいた事と考えるが、しかし、油(脂)と言うと、沢山食べると太るとか、消化が悪くて胃にもたれたり、血中コレステロール量が増加して動脈硬化の原因になる等々の考え方が一般には根強く、ビルダーの中にもこのように考えている人が少なくないようである。
 
これは、油(脂)と言うと他の栄養素(糖質、蛋白質)が1g当り4カロリーの熱を出すのに対し、その2倍以上の9カロリーもの高カロリーをもっているから太るとか、心筋硬塞や狭心症のような動脈硬化性の心臓疾患になり易い等と思うのもいたし方のない事かもしれないが、これらに対する正しい認識をもっていただく事が重要であると考え、今回は、脂質摂取上、ぜひ知って置いていただきたい事を記していく。
 
脂質と言っても前回記したとおりその内容はいろいろと違っており、それらの内容如何により、それぞれ利点もあれば欠点もあり、単に油(脂)として、一率に考えるところに幣害も起ってくる。

◇脂質の利害得失

 先づ脂質の利点を考えて見ると、
 ①炭水化物(糖質)に比し、高カロリーを発生するため、同一カロリーを摂取する場合、摂取量が少なくてすみ、量的に胃腸に対する負担を軽くする。
 ②胃内停滞時間が長いので、空腹感が糖質よりおこりにくい。
 ③脂肪には、ビタミンA、D、F、K等が溶けこんでいる(脂溶性ビタミン)。
 ④有色野菜を油いためすると、カロチンの吸収効果をよくし、ビタミンA効果を増進させる。
 ⑤油いためする事により、いためものの栄養分の破壊が少ないことが証明されてきている。
 ⑥糖質を摂る場合、ビタミンB1が絶対に必要であるが、脂肪を摂るとビタミンB1は糖質に比し少なくてすみ、ビタミンB1の節約になる。
 ⑦とくに必須脂肪酸の多いもの(植物油)を摂ると動脈硬化や高血圧の予防になる事が実証されてきている。
 
 次いで脂肪の害を考えてみよう。これは、ほとんど動物性脂肪の摂りすぎによるものである。
 ①動物性脂肪はコレステロールが多いため、多量摂取は動脈硬化を起す原因になる。
 ②摂りすぎると肝臓でアセトン体と言う酸が出来、血液を酸性化し疲労し易くなる。
 ③肥満の人は大低油っこいもの(特に動物性脂肪)を好むようで、ますます体脂肪がつき、肥満し、血管や心臓負担を多くしている。
 以上のような利害が考えられる。すなわち、ラード、へッド、バターと言った動物性脂質は飽和脂肪酸を多く含んでおり、これは血中コレステロール量を増加させるので動脈硬化の原因になる。
 
これに反して、てんぷら油とかサラダ油等に代表される植物油(その他、べに花油、大豆油、ゴマ油、コーン油等)は、リノール酸のような不飽和脂肪酸を多く含んでいる。リノール酸等の不飽和脂肪酸は、体組織にとっては不可欠な成分であり、またこれは体内で作る事が出来ない成分なので、どうしても食物として摂らなければならないものである。
 
植物油の中に含まれているリノール酸等の成分は、最近の研究によって様々な効用のある事も次第に解明され、認識を改めて重要視されてきている。

X X X

 アメリカやイギリス等欧米人の脂肪摂取量は、われわれ日本人の摂取量の2~3倍と言われており、これらの諸国では、死亡原因の第1位は心臓病になっているようだが、ここで注意していただきたい事は、単に脂肪の多量摂取イコール心臓病と考えるのは誤りであると言う事である。
 
われわれ日本人の場合、1日平均50gの摂取量の内、約50%が動物性脂肪であるが、欧米人の場合は、日常肉食を主体としているため、1日平均約130〜150gの脂肪摂取量の内、動物性脂肪が約70%に達していると考えられ、動物性脂肪だけを取り出して比較して見ると、日本人の約25gに対し、欧米人は約90~105gとなり、その摂取量比は平均4倍となっている事に注意していただきたい。すなわち動物性脂肪の多量摂取が原因である事を示している。
 
リノール酸の多い植物油は逆に血中コレステロールを下げる働きのある事が、動物実験等でも明からかにされてきており、必須脂肪酸を多量に含む植物油の効用は、国立栄養研究所の研究でも次第に解明確認されてきている。
 
たとえば、植物油をうまく使用している例として、中国料理を考えて見ると認識を改めていただけるであろう。
 
中国では古くから、「医食同源」と言う言葉があるが、これは日常の食事で、病気を予防し、そして治療し、健康を得ようとする事を意味しているが、このように、昔から食事を大切にし、食事により健康を保とうと言う考え方が非常に根強い事を示し、不老長寿とか、強壮強精と言った願いがこめられ、味の面でも栄養の面でもすばらしい中国食をつくりあげてきている。
 
その中国料理には、ほとんどすべて油が使われており、油こい食事ばかり摂っているようであるが、欧米やわれわれ日本人に比し、脂肪による害が少ないのは何か矛盾のように見えるが、それは彼らが日常使っている油(とくに植物油が多い事)が大いに関係しているように考えられる。
 
つまり、脂質の内、とくに植物油(不可欠脂肪酸)の効用についての認識を長年の事実によって示しているのが中国料理と考えて間違いないようである。
 
ここで、リノール酸等、不可欠脂肪酸を含む植物油についての効用を記してみる。
 ①リノール酸を多く含む植物油は逆に血中コレステロールを下げる働きがある。
 ②皮脂腺の機能を正常に保つ働きがあり、皮脂の分泌を円滑にして、皮膚にしっとりしたツヤとうるおいを与える働きがある。つまり、これはビタミンAやE等の油性ビタミンの吸収をよくする働きを示している。
 ③アブラは、腸管の滑りをよくし、またアブラが分解して出来る脂肪酸が腸管を刺激するので、緩下剤の役目をする。すなわち、便秘の治療には繊維の多い野菜や酢が効果的であると言われているが、同時に植物油を充分にとるようにすると、便通を促すのに好結果が得られる。
 ④植物油がスタミナをつけると言われる理由は、リノール酸が副腎皮質の機能を高める働きから、細菌によるストレスに対しても抵抗力を強めるとか、その他いろいろの効用が明らかにされて来ているため、ビタミンB6を多く含む肉、魚、卵、牛乳、レバー等の蛋白食品を植物油で調理したものはスタミナづくりに絶好の食べものと言われており、夏バテ防止や、寒さに対する抵抗力等、スタミナ料理として重視されている。
 ⑤肥満の予防や減量に効果を示す働きがある。肥満の大敵は糖質が第一で、動物性脂肪も注意しなければならないが、植物油はかえってこれを利用する事によって肥満の予防に好結果が得られる。
  これは植物油に含まれているリノール酸が、糖質が体脂肪に変わる作用を抑制する働きをもっているのではないかと言われている。
  要するに、植物油を使用した副食を摂っていると、腹もちが良く、したがって間食等をしなくなり、食べすぎを抑えられるために、植物油を使用した油料理をバランス良く摂っていると、次第に大食出来なくなり、肥満の予防や減量に役立つ。

 
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以上、脂質を摂る場合の利害を考えとくに植物油の上手な利用を考慮すべきである事を記して来たが、これらは私自身が過去2回、6~8カ月間に35kg強の減量をした際に、食事面で留意した体験を含めてのものである。
 
これは独り私の減量体験における食事に限らず、あの油こい中国料理の印象とはおよそ正反対な中国女性のイメージを思いうかべていただければよい
 
曲線美をそのままに表わす中国服に代表されるスラリとしたスタイルと脚線美、油こい食事ばかりとっている割に中国人は概してスマートなスタイルの多いのはなぜであろう。
 
高カロリーの油を沢山摂っていながらスタイルの良さを保つと言うのは何か矛盾を感じ、おかしな理屈のように考えられるかも知れないが、現実に油こい料理を摂っている中国人が、日本人に比べて肥満者が少ないのは事実である。
 
香港に住む中国人を例にとると、動脈硬化に原因する心臓病による死亡率が、アメリカ人に比べその1/7と言う低さ、また20歳の女性を例にとって見るとき、日本人平均と香港在住中国人を比較してみると、日本人女性の平均身長153.7cm体重50.2kgに対し、香港女性は身長158.6cm、体重46.3kgとなり、平均身長で約5cm、平均体重で約4kg近い差があるが、何故このような事が起るのであろうか。民族的差異と言ってしまえばそれまでかもしれないが、体格、体質、をつくる大きな原因の一つは日常の生活習慣、とりわけ、毎日の食事が大いに影響しているものと考えられる。すなわち、中国人が日常の食事で植物油を充分に活用しているからだと考えても決して的はずれではないと考えられる。
 
要するに、毎日の食事の中で、糖質を過剰摂取にならぬよう、その量を考慮し、その代りにサラダ、いためもの、いため煮、揚げもの等と言った植物油を使った料理を多くとり入れ、味つけを薄くして、腹八分目に食事をとっておれば、自然と大食出来なくなり、それに比例して減量効果もあがり、自然と肥満の予防や減量につながるものである。
 
油こいものを食べると、何となく胃にもたれたり、ゲップが多く出たり、中には吐き気がする等々の徴候をうったえる人があるが、その原因は、食べすぎやラードやへッド等の動物性の油を使用したためと言うのがほとんどである。
 
肥満の予防や減量に、また美しい肌づくりに、さらに血中コレステロールの低下等のために植物油の上手な活用を考慮される事が、食生活に於ける一つの方法であり、それがためには油料理をもう一度見直す必要がある。

◇植物油使用上の注意すべき事項

 おいしくて、さっぱりとした油料理をつくるためにも、また、油嫌いの人に油料理を見直してもらうためにも、いつも新鮮な植物油を使用する事が大切で、使用法やその保管等にも注意する必要がある。
 何も料理の専門家ではないが、一般的な注意事項を記しておく。
 ①出来るだけ新しい油を使用する。開封後は1~2カ月以内に使い切るようにする。
 ②高温使用は油の疲れを早くするため、一般には160℃~180℃前後で使用するのが適温である。油温度の見分け方は、温度計ではからなくとも、次のように油の中にころもを一滴落として見れば大体の見当が見分けられる。
  ㋑ころもが底まで沈んで仲々あがってこない一150°C
  ㋺一度底まで沈んでゆっくりと浮き上がってくる一160°C
  ㋩底までつかないうちに浮き上がってくるー160℃~170℃
  ㊁中程まで沈んですぐ浮き上がってくるー170°C~180°C
  ㋭油の表面で飛び散る一200°C
   以上
 ③使用後は不純物を取り除くため、よくこしてから保管する。
 ④使用後の油は出来るだけ別に保管し、新しい油と混ぜない方が良い
 ⑤光は油をいためるため、冷たくて暗い場所に保管する。
 ⑥酸化も油をいためる原因となるから、開封後はふたやキャップを完全にする。とくにサラダ油は風味も大切であるため、大容器のものは使用しないで、出来るだけ早く使い切れる程度の容量で、いつも新鮮なものを使用するように心掛ける。
 
ただし、植物油の中でもヤシ油は飽和脂肪酸が主成分となっているので、動物脂質と同様に考え注意する事が必要である。

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 以上、植物油についてその利点と使用上の注意を記したが、何となく植物油健康法のような説明になったかも知れないが、脂質に対する認識と植物油の上手な利用を考慮していただきたいためである。
 
しかし、植物油が身体に良いからといって、必要以上に摂りすぎたり、他の栄養素とのバランスをくずしたりしないよう、くれぐれも注意することが肝要で、要は各栄養素の摂取上の量的バランスと、その質が大切である事を強調したい。

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 一般の人が考えている健康法には2つのタイプが考えられる。
 
その一つは、健康を保つために、または体力を増強しようとして、運動やスポーツをなし、自分の意志を支えとして鍛練にはげむものであり、また食事にしても、種々研究や工夫をし、自分で食生活の習慣を改善し、日常のひずみを正して、生活に組み入れたものを健康法として実践し、またはしようとするタイプのもの。
 
今一つは、ただ何かにたよるだけの追随型とも言うべきもので、何々健康法がよいと言えばそれに飛びついてみたり、また、ある食品が健康食品として良いと聞けば、それがあたかもすべての如く感じて盲目的に摂取しすぎる等、生活のバランスをくずし、何らかの幣害を生ぜしめるタイプのもの。これは心理的効果や、錯覚に近い効果程度である内はまだよいが、それがマイナスの作用のあるものや、いかがわしい点が究明されないものについてはとくに注意しなければならない。
 
われわれはこのあたりの要点をつかむ事も必要であり、出来るだけ第一のタイプになるように指導アドバイスする事が大切であろう。
(次回は蛮白質について)
月刊ボディビルディング1976年8月号

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