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チャンピオンへの道
く心理学によるトレーニングの効果> 1976年10月号

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月刊ボディビルディング1976年10月号
掲載日:2018.07.12
川股 宏

知恵を出せ!

知識と知恵、同じような印象を受ける言葉であるが、その意味には大きな相違がある。小学校から大学まで、先生から教えられる一般知識、学問知識それから目や耳から吸収した知識。つまり、このように外部から導入されたものが知識である。
これに対して知恵とは、知識をもとにして、自分自身の体験を通しての生きた経験、自分だけが理解できる経験を経て、自分の心に内在するものを意味している。
世の中には、体験なくして知識だけをふり廻し、それを売り物にする人がよくいる。
数年前、経営学の大家が、自分で会社を経営したところ、間もなく会社は左前に傾き、ついに倒産したという実例がある。また、医学界でその名を知られた有名な博士が、簡単なカゼをこじらせてあっけなく死亡したということもある。さらに、高カロリー提唱の栄養学の大家が糖尿病と肥満からくる心臓病で亡くなったのは耳新しい。診にある「医者の不養生」「灯台もと暗し」のたとえどおりである。
身近な我々の生活に例をとってみてもいろいろなことがある。学生時代,あんなに苦労し、徹夜までして頭につめ込んだ数学や物理が、社会に出てしまうと何んの役にも立たずじまいの人が多い。優秀な成績で一流大学を出た人より、高校を落第すれすれで卒業した人の方が出世した話などよく聞く。つまり、前者は確かに知識は豊富であったが、経験からきた知恵という面で後者の方がすぐれていたのかも知れない。つまり知識と知恵の差なのだ。
現代は、昔と違って時代が生きている。きのうの知識、常識では、きょうは生きられない。時々、刻々変化しているのだ。
ではその知恵はどうしたら得られるものだろうか。知恵は知識を越えたところにあると見てよい。その知恵を用いることにより、人を指導し、人より優位に立ち得るのだ。といって、もちろん知識が重要なことはいうまでもない。知恵が知識をもとにしているからである。知識をもとにして、毎日毎日の生きた経験を積み重ねてはじめてそこに知恵が生まれ、それをもとにして成長、進歩していくのである。
結婚したり、親元から離れた人たちが、料理学校で教えられた新妻のみそ汁や食堂のみそ汁を味わったとき、はじめておふくろのつくったみそ汁のうまさを知る。料理学校に通ったことのないおふくろは、自分の経験をとおし
て、おいしいみそ汁をつくりあげたのだ。それがすなわち知恵である。
小学校しか出ていない松下幸之助氏が世界の松下電器をつくりあげ、経営の神様といわれるのは、知識ではなく知恵があったからである。意欲と目標を持ち、知識を吸収する努力と、体験を大切に心し、その経験をもとにして知恵を得たとき、そこに栄光が待っている。わかり易い実例を示そう。
日本民族は外国人にいわせると、実に物まねが上手だという。事実、島国の日本は、仏教伝来を始めとし、思想はいうに及ばず、文化、経済、工業と端から端まで物まねをしてきた。ところがどうであろう。現在の日本は、輸出競争力、技術水準、外貨準備高等、物まね日本が世界の先進国を追い越してきたのである。
また、人々はよく松下電器のことを〝まねした電器〟という。この松下電器は、創業者、松下幸之助氏が裏長屋の一室で、既製のソケットを改良したことから始まった。最初はいろいろな物まね的製品でも、その時代の推移を的確にとらえ、改良に改良を重ね、最高の製品として完成させる。その経験と知恵で育てた製品こそ、世界に通用するナショナルが誕生したのである。ボディビルにおいても同じである。まずはじめは、世界のトップ・ビルダーたちがどうしてへラクレスのような逞しい筋肉をつくりあげたかを、こまかく研究し、それをどん欲にまねすることだ。そしてその中から自分にもっとも適した食事法やトレーニング法をえらび出すのだ。つまりそれが知恵なのである。それをつかんだとき、その人はすでにライバルを一歩も二歩もリードしたことになる。
知恵の宝庫はいうまでもなく〝潜在意識〟だ。知識、行動、反省、それを意欲的にくり返し、行動したとき、知恵は必ず生まれてくる。そうして得た知恵こそ、自分だけの心に内在するものなのだ。
よくいわれる言葉に〝名選手、名監督ならず〟〝名人、人に教えず〟つまり宮本武蔵の剣は宮本武蔵だけの剣だったのである。人に教えることのできない武蔵だけが知り得た技であり知恵なのである。
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月刊ボディビルディング1976年10月号

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