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月刊ボディビルディング1976年11月号
掲載日:2018.07.28

指導者のためのからだづくりの科学 
各論Ⅱ(栄養について)5-栄養素

日本ボディビル協会指導員審査会委員長 佐野 匡宜

<5ー6>ビタミン

<5ー6ー1>第五の栄養素

 昔は、糖質・脂質・タンパク質・無機質の四大栄養素のみで生きていくことが出来ると考えられていた。しかし、壊血病・クル病・脚気などの病気をある種の食品を摂ることによって、予防し、または治療出来ることが16世紀頃からわかり出してきた。
 
 その後、たとえば、1897年にオランダの生理学者アイクマンは、鶏に白米を与えて脚気の症状を起こさせ、これに米ヌカを与えて治療し、動物に実験栄養欠乏症を起こして観察した。

 また1906年、ホプキンスは白ネズミに純粋な糖質・脂肪・タンパク質・無機質の混合飼料を与えて飼育すると、正常な成長をしないのみか、死亡するが、これに全乳をわずか与えることにより、より成長のよくなることから、全乳中には四大栄養素の他に何か未知の副栄養素が存在すると推定した。しかし、全乳の中の何が副栄養素であるかを知るまでにはいたらなかった。

 1910年、わが国の鈴木梅太郎博士が米ヌカの有効成分から脚気の治療に有効な抗脚気因子の濃縮に成功し、これを米の学名にちなんでオリザニンと命名した。(これがビタミンBである)

 その翌1911年、イギリスのフンクは同じ物質を酵母から得て、これを生命(Vital)に必要なアミンの性質を持っているもの、という意味からビタールアミン(Vitalamine)と名付けた。

 その後、バターから微量栄養素として脂溶性A因子を、また、青草や野菜を与えることによって懐血病が治療できることから、微量栄養素が分離されて水溶性Cと命名された。

 これら一連の物質は、微量ではあるが、生命に不可欠の因子であり、生理的に重要な作用を有する栄養素で、その他まだ数多く存在することを予想して、その後発見されるものにアルファベットの符合をつけることをドルモンドが提案すると共に、これらがすべてアミンであるとは限らないので、フンクのビタールアミンを略してビタミン(Vitamin)と命名した。

 このようにして、1900年以前は四大栄養素とされていた糖質・脂質・タンパク質・無機質に加えて、第五番目の栄養素としてビタミンが登場した。

<5ー6ー2>ビタミンの種類と分類
 ビタミンBの発見以来、相ついで研究され、現在までに発表されているビタミンは40数種類に達している。

 その中には、なお本体不明のものもあり、さらに、ビタミンはそれぞれ化学組成や生理作用が異なるので、他の栄養素のように系統的に分類を行うことは出来難いといわれており、一般にその溶解性により、脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンとに分けられている。

 数多くのビタミンのうち、一般にわれわれの人体に関係深いものとして興味を持たれているのは20種類程度で、とくに日本人として問題になるものとしてはA、B1、B2、C、D、ニコチン酸等があげられている。

 脂溶性ビタミンとはA、D、E、F、Kのように脂肪によく溶けるもので、体内からの排泄がおそく、体内に蓄積し、多量に摂ると過剰症を起こし易くなる。動物の肝臓や脂肪組織に多く認められる。

 水溶性ビタミンとは、B1、B2、ニコチン酸、C、パントテン酸、葉酸、B12等のように水によく溶けるもので、大量に摂取しても大部分はすぐに尿中に排泄されてしまうもので、過剰症は起こらない。

 通常、ビタミンは発見された順に、アルファベットの大文字で表わされているが、化学的な研究が進むにつれてそれまで単一物資と考えられていたものが、何種類もの物質であることが明らかになったりして、ビタミンB1、B2等のように細分されたり(これらをビタミンB群、またはB複合体と呼ぶ)歴史的にビタミンB3と命名されたものがパントテン酸であり、B5と命名されたものがニコチン酸であったように、純粋化されるに及んで消えていった名称もある。

 その他、A効力をもつ天然のものが1種類でないことがわかり、これをAl、A2と分けたり、同じようにD、KについてもD2、D3、K1、K2等と命名されている。これらはそれぞれ生理作用は同じビタミンであるが、その構造の異なるものである。しかし、B1、B2、B6、B12等の区別は、化学構造はもちろん、生理作用も全く違う独立したビタミンに対する区別である。

 このほかに、発見順序に関係なく、そのビタミンと関係深い名称の頭文字を採用しているものも多い。

 たとえば、ビタミンKは凝血の頭文字を、ビタミンMは実験動物として用いた猿の頭文字を使っている。また、パントテン酸は動物界に広く分布するという意味のギリシャ語から採用するなど、ビタミンの種類の発見が増すにつれて、命名も統一を欠いて不便や混乱を招いているようである。

 このような混乱を防ぐため、最近では化学構造、あるいは主要な生理作用を基礎とした固有名を採用するようになってきた。たとえば、ビタミンB1を化学構造よりチアミンと呼び、生理作用よりアノイリンと呼ぶようにである。(ただし製薬会社の商品名とは混同しないように注意すること)

◎プロビタミンとは
 ビタミンそのものではないが、摂取されたのち、生体内で変化を受け、あるいは光の作用を受けて体内でビタミンに変わるような前駆物質をプロビタミンという。たとえば、植物の中の黄赤色の色素群の中でカロチンといわれるものは、体内に吸収後ビタミンAに変わるのでプロビタミンAという。
 また、エルゴステロールやクデビトロコレステロールが紫外線によりビタミンDとなるが、これをプロビタミンDという。あるいは、アミノ酸のトリフトファンは、いくつかの体内代謝過程をへてニコチン酸を生成することができる。これらの物質はビタミンの前駆物質と呼ばれている。


<5ー6ー3>ビタミンの定義
 ビタミンとは「生体内で、糖質・脂質・タンパク質等の新陳代謝を円滑に進めるために必要な微量栄養素で、体内で合成することができず、食品から摂取しなければならないもの」と一応定義づけられている。

 これをもっとわかり易く個条書にしてみると次のようになる。
①体内に入ると助酵素の働きをし、きわめて微量で栄養生理現象を調節したり支配している有機物質。
②体内で生合成されないもの。
③欠乏すると成長が停止したり、各種ビタミン特有の欠乏症状を呈する。
④摂取すればするほどよいというものではなく、少しずつ補えばよいもので、とくに脂溶性のビタミンは過剰症に注意しなければならない。
⑤身体を構成したり、カロリーを出したりはしない栄養素である。
⑥すべてのビタミンのバランスが保たれていると効力が大きいが、アンバランスに沢山とると、かえって副作用がでるおそれがある。
⑦適切な食事をしておれば、とくに補給する必要はない。
 以上のように重要な働きをもっているものであるが、日常生活においては次の2点に注意しなければならない。
①偏食によって不足し易いこと。
②調理や加工によって損失しやすいものもある。


<5ー6ー4>人体とビタミン
 最近では病気の治療や予防などに、薬剤のように用いられたり、また栄養強化食品用として添加したり、あるいは神経炎に対するB1のように大量投与療法等が行われるようになってきているが、ビタミンのほとんどが食物中に含まれているので栄養学的なバランスのとれた食事をしているかぎり、とくに医薬品として常用する必要はない。

 所要量についても問題が多く、人体に対する正確な所要量を決定することは仲々困難なことである。これは、ビタミンの生理的な解明が充分行われていない面もあり、また、食品中の含有量の測定が困難なビミタンが多いことや、食品成分の腸内醗酵や腸内細菌によって生合成されるビタミンも多く、さらに、腸内細菌がビタミンを集積する能力を持っており、重要なビタミン供給源である等々、最新の研究がこれらを次第に明らかにしてきているが、未だ不明の点が多いためである。

 人体がいかに多様の化学反応をなし得るといっても、“ただ1種の生物が他の生物と全く独立して生存することはできない。たとえば、動物と植物はあまりにも違った種類の生物であるが、動物の生存を植物を抜きにしては考えられないことは、改めて論ずるまでもない”ということと同様に、われわれの身体と細菌(微生物)との関係もまた同じである。

 細菌というと、すぐ病気や病原菌を連想しがちであるが、確かに害作用を及ぼすものも少なくないが、その反面もし抗生物質を長期間使用して、大腸内の細菌を全部殺したとしたら、やがて種々の障害が身体に起こってくる。

 その主なものはビタミン欠乏症だと報告されている。これは生体が、自己が必要とする物質をすべて体内で合成できるほど完全ではなく、腸内細菌といえども互いに足りないものを補い合って協同しなければならない存在であることを示している。
 
 すなわち、腸内細菌がビタミンの集積能力をもっている重要な供給源であるからである。つまり、ビタミンは体内で生合成できない微量有機栄養物としてホルモンと区別されているが、腸内細菌のカを借りて腸内でつくられるビタミンもあることを忘れてはならない。

 また、ビタミンはアミノ酸との関係も深く、ビタミンB群に属するニコチン酸は生体でトリプトファンから合成され、コリンもセリン、メチオニンを材料として生成され、葉酸にはグルタミン酸が含まれる。またビタミンDは皮下にあるステロイドから太陽光照射によって合成される。

 このように考察してみると、一括してビタミン類と称される物質は、とくに化学構造に類似したものがあるわけではなく、非常に多くの構造、性質をもっているもので、ただその生理的効果からのみ一括され、一応生物の正常な機能にごく少量が必要な天然に存在する有機物であるとされているわけである。

◎アンチビタミン(抗ビタミン)またはアンチメタポライト(代謝拮抗物質)とは
 ビタミンのうちには、類似構造をもった化合物によって、その作用を仰制されるものがある。これは構造が近似しているためにビタミンの関与する酵素系に入り込んで、ビタミンとの間にせり合いを生じるために、酵素の作用を妨害する。このようなものをアンチビタミンという。
 たとえば、細菌の成長を促すビタミンの1つにパラアミノ安息酸(PABA)があるが、この代謝に拮抗するのがサルファ剤であり、これはサルファ剤の構造がPABAに似通っているため、細菌体内のPABAの代謝領域に競合して入り、代謝をかくらんしてビタミン欠乏症におとし入れるためであると報告されている。このサルファ剤は医療用に応用されている。

◎最少必要量とは
 その量以下の摂取では欠乏症状が起こる量で、欠乏症状を起こした被検者が回復するのに必要な最少量をいう。

◎飽和量とは
 ビタミン欠乏被検者にビタミンを投与しても、組織中に保留されて尿中への排泄量は比例して増えないが、ある臨界点以上になると、急に排泄量が摂取量に比例して増加するようになり、組織中のビタミン保留効果は劣ってくる。この点を、組織がビタミンで飽和された臨界点と考え、この量を飽和量という。
 一般にビタミンの所要量は、飽和量に一定の安全率を加えたものとして定めているようである。


<5ー6ー5>ビタミン各論
人体に関係深い主要なビタミンについて、その要点を一覧表にまとめて別表として略記する。
〔注〕※印は腸内細菌により合成される

〔注〕※印は腸内細菌により合成される

〔注〕※印は腸内細菌により合成される。◎以上がビタミンB群として補酵素の働きをしている主なもの。

〔注〕※印は腸内細菌により合成される。◎以上がビタミンB群として補酵素の働きをしている主なもの。

以上のほか、ビタミン様作用因子および類似因子として、カルニチン、パラアミノ安息香酸や、脂肪肝予防因子としてのコリン、イノシトール、オロット酸(ビタミンB13)等々あるも詳細は後日にゆずる。

以上のほか、ビタミン様作用因子および類似因子として、カルニチン、パラアミノ安息香酸や、脂肪肝予防因子としてのコリン、イノシトール、オロット酸(ビタミンB13)等々あるも詳細は後日にゆずる。

月刊ボディビルディング1976年11月号

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