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★フランク・ゼーンの再来★
スティーブ・デイビスの段階的トレーニング・レベル

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月刊ボディビルディング1977年1月号
掲載日:2018.06.22
国立競技場指導係主任 矢野雅知
 第二のアーノルド・シュワルツェネガーと騒がれながら着実に世界のトップ・ビルダーにのし上ってきたルイス・フェリーノや、第二のセルジオ・オリバと言われて最近めきめきと実力をつけてきたロビィ・ロビンソンのように、フィジーク・コンテストの世界には次々とスターが誕生してくる。同じように、第二のフランク・ゼーンと目されるビルダーに、スティーブ・デイビスがいる。

 彼はバルク型のからだを見事なデフィニション・タイプに変えて、新しいタイプのビルダーとして名をあげている。彼は切れ味するどいデフィニションを持っているが、現今のトップ・ビルダーにみられるほどのバルキーなからだをしているわけではないのに、大きな注目を浴びているということは、彼がたっぶりとアブラののったからだを、シャープなデフィニション型に変えたことと、比類ないプロポーションのよさがあげられよう。それも「ミラクル・シンメトリー」をもっている数少ないビルダーの一人ということである。

 彼のからだを見て、サッと浮かんでくるのがフランク・ゼーンであろう。均整美のよいデフィニション・ビルダーの筆頭に挙げられるゼーンよりも、カメラ・アングルによってはデイビスの得意ポーズの方が「より美しい、プロポーショナルだ!」と感じる人が多いのではなかろうか。

 ゼーンのプロポーションは美しかったが、脚は短かいほうだった。しかし、デイビスは脚も長いし、左右の均整も実によくとれている。だから、主観的な判断をすれば、両者とも共通点を多くもっていながら、ミスター・ユニバースのフランク・ゼーンよりもミスター・カリフォルニアのスティーブ・デイビスの方に軍配をあげる人もいるかもしれない。

 彼はへルス・スタジオを開いたそうだが、オープン前にはロスアンジェルスの80校にものぼるハイ・スクールやジュニア・ハイ・スクールを回って講演したという。それはボディビルディングと食事についてのものであって学生たちに大きな影響を与えたということである。

 彼は言う――「もし君たち若い者が、ウェイト・トレーニングに興味をもって自分のからだを発達させてやろうとしたら、今のように非行に走るようなバカなことはなくなるだろう。650人の学生に対してわずか一人のカウンセラーしかいないような現状では、とても今の社会問題を改善することは望めないだろう。若者たちを健全にするには、もっと肉体を鍛えるようにしなくてはならないと思う」

 ここから「病める大国」の社会問題に取り組もうというデイビスの姿勢がうかがえるところであるが、彼は「悩めるビルダー」あるいは、これからボディビルディングに取り組もうという人々のために、段階的なトレーニング法を伝授している。それはソ連式のウェイト・トレーニングに似ているがボディビルダーのトレーニング・プランの参考にもなろう。そこで以下、スティーブ・デイビスに語ってもらおうと思う。
 トレーニングを始めるにあたってはスタート時から1年間365日のトレーニング計画を立てて、最も重要となるコンテストに出場する最後までを考えてやらなくてはならない。そのトレーニング・プランの基礎となるのは、トレーニング強度を徐々に強くしてゆくように、1年を7つの段階に分けることである。

 このタイプのトレーニング法の生みの親は、フランク・ゼーンである。彼の用いたこの方法は、ボディビルディングでは画期的なものであった。このトレーニング法を採用することによって、私は1975年のミスター・ロサンジェルス4位から、AABAミスター・カリフォルニアとモースト・マスキュラーで1位となり、そしてAABAミスター・アメリカ第2位にまで躍進することができた。

 このトレーニング・プログラムは諸君のからだをまるで別人のように変えてしまうだろう。しかも、他のだれとも異なった個性的なからだにするだろう。各個人の骨格の形で、自分独自のからだを造りあげるのである。

では段階的トレーニング・レベルの概略を示そう――

 <レベルI>
 このレベルは1年間のトレーニングを続けてゆくために、からだ全体の基礎体力をつくる時期である。

 諸君は軽い重量と適切なエクササイズを選び、正確な動作でトレーニングしなくてはならない。それは、1年間のトレーニングを行なってゆくうえで事故を避けることにもなる。

 トレーニング・プランは、一部分にだけかたよらないように肩・胸・上腕三頭筋・上腕二頭筋・脚……、それに各ボディ・パーツをトレーニングする。

 そして、各ボディ・パーツには1つのエクササイズを当てて、3セット行うようにする。トレーニングは1週間に3回行い、1回で全身を鍛える。このレベルのトレーニングは、メジャー・コンテストのあとで始めるような場合は、短いレイ・オフをとってからやるようにするとよい。

 この<レベルI>は5週間続ける。

 <レベルⅡ>
 この段階でも各ボディ・パーツには1つのエクササイズを当てるだけでよい。そしてそれぞれ5セット行うようにする。こうして各ボディ・パーツを1週間に2回鍛えるようにする。1週間に2回鍛えるためには、スプリット・ルーティンを採用したらよい。つまり。上体のトレーニングを月曜・木曜にやり。下体のトレーニングを火曜・金曜に行うようにする。

 この<レベルⅡ>は8~10週間続ける。

 <レベルⅢ>
 各ボディ・パーツは1週間にそれぞれ2回鍛えるように、<レベルⅡ>と同じようなスプリット・ルーティンを用いる。しかしながら、各ボディ・パーツには2つのエクササイズを行い、それぞれ5セット行う。

 この<レベルⅢ>は5週間続ける。

 <レベルIV>
 ここでも<レベルⅡ、Ⅲ>と同じスプリット・ルーティンを用いる。そして、各ボディ・パーツには3つのエクササイズを行い、各エクササイズは5セットやるようにする。

 この<レベルIV>は、5週間続ける。

 <レベルV>
 各ボディ・パーツには2つのエクササイズを当てる。そして、次のようなスプリット・ルーティンにする。

 (月曜、水曜、金曜)

 肩・上腕三頭筋・上腕二頭筋・前腕そしてカーフ。

 (火曜、木曜、土曜)

 胸・背・前腕・脚そして腹。この<レベルV>は、10週間続ける。

 <レベルVI>
 各ボディ・パーツのエクササイズを各人の体力に合せて増やす。

 この<レベルVI>は10週間続ける。

 <レベルⅦ>
 プレ・コンテストの時期である。この<レベルⅦ>はその年のコンテストで満足すべき結果を得られるようにする段階である。

 各ボディ・パーツは20セット行うように増やす。そして、それぞれ週3回トレーニングされるようにする。このレベルになると、全体的にみて、からだは最後の段階に達しているようになるだろう。

 勝利を得るために、この段階の間ではポージングの練習時間を持つことである。

 レピティションについては、たとえば1つのエクササイズを3セット行う場合には12回できるウェイトでスタートする。次にウェイトを加えて10回にする。さらにウェイトを増して8回しか繰り返せないようにする。1種目5セットやる場合には、12回行える軽いウェイトではじめる。そして10回できるウェイトに増やし、8回できるもの、7回できるもの、6回できるもの、というように重量を増やしてゆく。つまり、重量増量方式(ウェイト・インクリーズ・システム)をとるのである。

 セット間の休憩は15~30秒以上とってはならない。セット間の休憩時間が短縮されるほど、トレーニングはキツクなってゆく。

 ところで、私は諸君が採用すべき運動種目については何も言ってないが、その理由は諸君が自分自身に最も適したエクササイズを見つけださなくてはならないからである。諸君のボディ・タイプ、諸君のトレーニング・スタイル、そして諸君のシンメトリーとプロポーションをつくるために最も適したベストのエクササイズを選び出すよう、試行錯誤を繰り返すがよい。
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 食事はボディビルディングの75%である。ウワサにまどわされるな。フィジーク・コンテストで勝利を得るには、正しい食事の知識を持たなくてはならない。そのためには適切な食事の本を手に入れるのがよい。ジムでは耳を傾けて、誰の意見でも聞くようにする。しかし、その意見が正しいかどうかを諸君自身がしっかりと見きわめなくてはならない。

 私はよく、ボディビルダーがいかに多くのプロティンやレバーのタブレットを消費するかと自慢しているのを耳にする。しかしこれは、まったく古い考え方だ。もし1個のレバーのタブレットがからだに良いものならば、150個も飲めばさらに良いことになる。そんなバカな!ナンセンスである。

 初心者の段階では、プロティンやレバーのタブレットのような栄養補助食はできるだけ少なくした方がよい。なぜ普通の食事だけで栄養を摂ろうとしないのだろうか。これこそ、もっとも効率のよい栄養食である。

 まず、そのような栄養補助食は最小限にしてスタートする。そして、どうしても必要が生じた場合だけは増やすというようにする。たとえば、いつもより激しいトレーニングをしたようなときである。

 ヴィンス・ジロンダは――「自分は今だかって計画的に同じ量の補助食を摂ったことはない。自分のからだが必要としている量だけを摂る。食事と補助食を摂ること、そしてトレーニングをすることは毎日毎日が異なって当然である。ところが初心者は毎日同じようにたくさん摂ればよかろう、という間違いを犯している」と私に話してくれたことがあった。

 食事については、つまるところソクラテスのいう「汝自身を知れ」ということになろう。食事で摂取する量は諸君自身がチェックしなくてはならない。そして、どれくらいが適量であるかを覚えなくてはいけない。トレーニングを積むことによって、今日のトレーニングはいつもより少し強いとか弱いとかいうことが本能的にわかってくる。

 このようにして、諸君に最も適したエクササイズと必要とするだけの補助食と自分自身の能力でからだは発達してゆくのである。
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 いかがであろうか。1年間のトレーニング計画を立てて、それに従って予定どおりからだを鍛えあげてゆく。コンテスト・ビルダーであれば、そのトレーニング・プランはコンテストを目指したものである。1年間365日は、たった1日のコンテストのその日のためにだけ存在する。それも、数秒間のポージングのためにひたすらトレーニングを続けるのである。どのような規模のコンテストであろうと、優秀な成績を収めるには長い試練の道があったはずだ。なかには一切の誘惑をはねのけて、その日のために全精力を打ち込みながら、不本意な結果に終わり、ガックリと肩を落してしまう人もあろう。それでも再び来年のコンテストを目指してトレーニングを再開する。

 このような過程を考えた場合、ボディビルディングは一つの「道」として捉えられるように思えてくる。刹那主義的な現代の若者気質では、その道を歩むことは容易ではあるまい。だからカッコよく表現すると「ボディビルディングとは、知る人ぞ知るきわめて高尚な自己鍛練の道である」と言えないこともないであろう。

 若者はブルース・リーの映画を観て「カッコイイ!」と思う。中年のオジサンは新国劇を観て狂喜する。老人は歌舞伎の「勧進帖」を観て、涙を流して感激する。出演者のきわめつきの演技を「素晴らしいものだ」と云う。

 しかし、武士はこれら「芸能」をひじょうにさげすんだ。サムライは芸能人を嫌ったのである。というのは、いかに「勧進帖」が素晴らしい一世一代の名演技であっても、その感激は日に何回も公演され繰り返される。ブルース・リーのカッコよさも、1日に何回となく上映されて同じ興奮を観客に与える。

 「芸能の本質は決定的なことが繰り返され得ることだ」と三島由紀夫は指摘している。「葉隠」の山本常朝は、「武士道というは死ぬことと見つけたり」とするが、死ぬことは人生にたった一度しかない。2度も3度も死ぬことは出来ない。しかし、映画や演劇では何度でも死ぬことができる。そこに虚がある。だから「葉隠」は芸能を認めなかった。ただ一つ、能楽だけを認めたのである。それは、能楽の公演はただの1度をたて前としており、たった1回のためにすべての精力を打ち込むから、実際に“真剣”な行動になるのである。

 私は思う――「葉隠」武士に、たった一度のコンテストのためにひたすら努力するボディビルダーの姿を見せたら、強い感銘を与えるだろうと……。いろいろなスポーツ活動があるが、フィジーク・コンテストを目指すボディビルディングほど、徹底した「1回性」をもつものも少なかろう。ここらあたりに、ボディビルディングは能楽に通ずる厳然たる「道」を感じるのである。
月刊ボディビルディング1977年1月号

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