フィジーク・オンライン

<ボディビル入門講座>その2
トレーニング・スケジュールの作り方、考え方

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1977年4月号
掲載日:2018.08.27
国立競技場指導主任 矢野雅知

<3>経験者のトレーニング

ここでいう経験者とは、少なくとも半年以上のトレーニング経験を有しており、かなりの体力のある人を指している。何年間もトレーニングを続けてきた人でも、初級トレーニング・コースのような基本的な運動だけでも十分にトレーニング効果をあげることができるだろう。しかし、それだけではマンネリ化したり、伸び悩んでしまう場合もある。
そのような場合は、次のようにもっと強い刺激を筋肉に与えることのできるトレーニング・システムに変える必要があろう。

<トレーニング・コース作成の基本的なシステム>
初級者用のトレーニング・コースでは、各筋群につき、基本的な運動を1種目ずつだけ選び出したが、ここでは2種目以上で構成する。では次に各ボディ・パーツの代表的な運動を2種目ずつ選んでみよう。

〔肩〕
①スタンディング・バック・プレス
②サイド・レイズ

〔腕=上腕二頭筋(屈筋)〕
①ツー・ハンズ・カール
②スコット・カール(プリーチャー・ベンチ・カール)

〔腕=上腕三頭筋(伸筋)〕
①ライイング・トライセプス・プレス
②ラット・マシーン・プレス・ダウン

〔胸〕
①ベンチ・プレス
②ストレート・アーム・ラタラル・レイズ

〔上背〕
①チンニング
②ワン・ハンド・ローイング(・モーション)

〔下背〕
①デッド・リフト
②バック・エクステンション


〔大腿〕
①スクワット
②レッグ・エクステンション

〔下腿〕
①カーフ・レイズ・ウイズ・カーフ・レイズ・マシーン
②ドンキー・カーフ・レイズ

〔腹〕
①シット・アップ
②レッグ・レイズ
これらの種目を組み合せてトレーニング・コースを作ってみると次のようになる。なお、セット数は各ボディ・パーツで5セットになるようにしてある。
〔上体〕

〔上体〕

〔下体〕

〔下体〕

このコース例では、1日でこれを全て行うにはかなりのトレーニング時間と体力がなくてはならない。そこで、次に説明するスプリット・ルーティン(分割法)を採用してトレーニングを進めていくのがよかろう。

<スプリット・ルーティン>
トレーニング・コースを2つ、もしくは3つ用意して、日を変えて交互にトレーニングしていく方法である。この方法だと、より多角的に筋肉に刺激を与えることができる。
すでに述べたように、筋肉を発達させるためには、休養期間をもうけて超回復を起こさせなくてはならない。そのためには、各筋群を1日以上休ませてやる必要がある。そこで、1週間のトレーニング頻度を4~6回に増やしても、各筋群を交互に休ませるようにトレーニングを分割して実施していけば、うまく超回復を起こすことができるのである。
たとえば、上体のトレーニング・コースと下体のトレーニング・コースの2つに分けた場合には、上体のトレーニングを月曜・木曜と行なったら、火曜・金曜は下体のトレーニングをするというように分割する。これだと上体と下体は1週間に各2度ずつトレーニングされることになる。
 これを1週間に3回ずつトレーニングする場合には、月曜・水曜・金曜に上体のトレーニングを行い、火曜・木曜・土曜に下体のトレーニングをして日曜は休みとする。
また、上体と下体というふうに分割しないで、上腕三頭筋の使用を伴う筋群と上腕二頭筋の使用を伴う筋群に分けるという方法もある。たとえば、月曜・水曜・金曜(または月曜・水曜)に上腕三頭筋、胸、肩、大腿、腹を、火曜・木曜・土曜(または火曜・木曜)に上腕二頭筋、広背、下背、下腿、腹という具合に分割する。
あるいは(胸・広背・脚)と(肩・腕・脚)というように分割する方法もある。あとは「個別性の原則」から、各人で試行錯誤しながら自分にもっとも適したスプリット・ルーティンをみつけていかなくてはならない。
では、世界のトップ・ビルダー、アーノルド・シュワルツェネガーの採用したスプリット・ルーティンを参考までに紹介しよう。しかし、これはあくまでも参考である。トップ・ビルダーのトレーニング・コースをそのままそっくりマネしてみたところで、必ずしもいい結果が得られるわけではない。彼らのトレーニング・コースの作り方とか考え方を参考にして、自分に最も適したものを作っていかなくてはならないのである。
<月曜・水曜・金曜>

<月曜・水曜・金曜>

<火曜・木曜・土曜>

<火曜・木曜・土曜>

-X-X-X
1週間に6回(または5回)トレーニングする場合には、3つのトレーニング・コースからなるスプリット・ルーティンを採用してもよい。つまり、(月曜・木曜)に胸、広背をトレーニングして、(火曜・金曜)に脚、肩、腹を行なったら、(水曜・土曜)に腕と腹をトレーニングする、という方法である。
この方法だと、各ボディ・パーツはそれぞれ1週間に2回トレーニングされ、そして2日ないし3日間の休養をとることができるので、各筋群にもっと強い多角的な刺激を与えることができる。かなりトレーニングを積んだボディビルダーなどでは、この3つに分けるスプリット・ルーティンを採用しているものが多い。
その具体例として、ボイヤー・コーがとったトレーニング・コースを示してみよう。
<月曜・木曜>

<月曜・木曜>

<火曜・金曜>

<火曜・金曜>

<水曜・土曜>

<水曜・土曜>

〔注〕この他に、腹筋と下腿三頭筋(ふくらはぎ)は毎日実施している。
-X-X-X-


<フラッシング・システム(充血法)>
シュワルツェネガーやボイヤー・コーのトレーニング・コースをみてわかるように、胸なら胸、肩なら肩というように、1つの筋群をまとめてトレーニングしてから、次の筋群に移るというシステムを用いている。これをフラッシングという。このフラッシング・システムが、筋肉を肥大させるためのボディビルディングの基本と考えてよいだろう。
1つの筋群に対して、何種類かの運動を何セットも連続してくり返していくと、その筋群はひじょうに充血してくる。これはパンプ・アップと呼ばれており、このパンプ・アップして筋肉の血液量が増大することが、代謝を促進すると考えられているので、結果として筋肉が太くなるといわれている。

-X-X-X-
 これまでに述べてきたトレーニング法は、1つのエクササイズを数セット行なってから次の種目に移るというセット法であった。このセット法ならば1セットごとに十分な休憩時間をとれば重いウェイトを使用できるので、筋力やバルクを獲得しようとするときなどに好んで用いられている。たとえば筋力の向上を追求するウェイトリフターやパワーリフターは、おおむねこのセット法を中心にトレーニングしている。
しかしこのセット法だけで多種目、多セットを短時間で行うのはたいへんである。そこで経験者が好んで採用するトレーニング・システムには、スーパー・セット法がよく用いられることになる。

<スーパー・セット法>
2種類のエクササイズを休みをおかずに連続して行なって、1スーパー・セットと数えるやり方である。たとえばベンチ・プレスとチンニングをスーパー・セットに組んだ場合、ベンチ・プレスを行なったら休みをおかずに直ちにチンニングを行なって、そこではじめて休憩をとるというようにするのである。
スーパー・セットの組み方には次の3つが考えられる。

①別個の筋肉群のエクササイズをスーパーに組む方法
たとえば、スクワットとストレート・アーム・プルオーバー、あるいはスクワットとベンチ・プレスをスーパー・セットに組むというのがそれである。とくに後者の場合、スクワットを行なってかなり呼吸が乱れたところで、ベンチ・プレスで胸の運動をするのでキツイものであるがそれだけ胸部には強い刺激を与えることができる。

②拮抗筋のエクササイズをスーパーに組む方法
拮抗筋(互いに反対の動きをする筋肉)をスーパーに組むことが最も多い。たとえば上腕部では、上腕二頭筋(屈筋)上腕三頭筋(伸筋)が拮抗筋となる。そこで、上腕二頭筋のエクササイズとしてツー・ハンズ・カール、上腕三頭筋のエクササイズとしてフレンチ・プレスを選ぶのも1つの方法である。
そのほかの拮抗筋のエクササイズをスーパー・セットに組む例を挙げておく。
記事画像8
③同ーの筋肉のエクササイズをスーパに組む方法
たとえば、上腕二頭筋のエクササイズにはツー・ハ ンズ・カールやスコット・カールなどがあるが、これらの種目でスーパーを組む方法である。これはイクステンデッド・セット法ともいわれており、上級のボディビルダーなどがよく好んで用いるシステムである。
このスーパー・セットの例をあげてみると次のようなものがある。
記事画像9
シュワルツェネガー(左)やボイヤー・コーなどの世界トップ・ビルダーたちも、フラッシング・システム(充血法)を用いている。

シュワルツェネガー(左)やボイヤー・コーなどの世界トップ・ビルダーたちも、フラッシング・システム(充血法)を用いている。

<トライ・セット法>
スーパー・セット法では、2種類のエクササイズを連続して行なったが、このトライ・セット法は、3種類のエクササイズを連続して行う。それで1トライ・セットを終えたことになり、1分間程度の休憩をとって再び2回目のトライ・セットに移るというシステムである。
トライ・セットは原則として同一の筋肉部を鍛えるエクササイズで組まれるので、前項のスーパー・セット法の③のいわゆるイクステンデッド・セット法をさらに一歩進めたものであるといえる。
トライ・セットのコースを作る例として広背筋の場合を考えてみよう。
 チンニング、ベント・オーバー・ローイング、ベント・アーム・プルオーバーの3種類の運動でトライ・セットを組むときには、チンニングは比較的きつい運動なのでトップにもってきてすぐにベント・オーバー・ローイングを行い、かなり疲れてきたところでベント・アーム・プルオーバーで胸を十分に広げて広背筋を伸ばす、というのが一般的なやり方である。チンニングを最後にもってくると、疲れているので十分な回数を行えなくなってしまうからである。
また、胸の筋肉をトライ・セットで鍛えようとして、ベンチ・プレス、ディップス、ダンベル・プルオーバーの3種目を選んだときは、重いウェイトを使えるべンチ・プレスをトップにもってくるのがいいだろう。ベンチ・プレスをラストにもってくると重いウェイトが扱えなくなってしまうので、プルオーバーで胸を開いて最後の仕上げをする、というように組まれることが多い。
このように、その他の身体各部についても、練習者が自分に最も適した、最も効果的な組み方を見つけ出すように研究すべきである。

<バーンズ>
フラッシング・システムが、代謝を高めて筋肉を太くするボディビルディングの基礎的なものであるならば、1つの筋肉部位が「焼けつく」ような感じになるまで鍛え込むバーンズ・システムというのも効果的である。
 たとえば、バーベル・カールで、連続10回持ち上げると、それ以上は完全な動作でウェイトを持ちあげることができなくなった場合、ここでさらにヒジを完全に伸ばしきらないショート・レインジの動作をつけ加えて、筋肉が「焼けつくような感じ」になるまでトレーニングするのである。
このバーンズは、初代ミスター・オリンピアのラリー・スコットが好んで用いたという。ラリー・スコットはとくに腕のトレーニングにこのバーンズを多用している。
たとえば、彼はトレード・マークの上腕二頭筋を鍛えるとき、スコット・カールとシーテッド・ダンベル・カールをスーパーに組んだとすると、まずスコット・カールを完全な動作で6回くり返したら、4回ほどのバーンズを行う。そして、ただちにシーテッド・ダンベル・カールに移って、同じく完全な動作で6回くり返したら、ここでさらに4回ほどのバーンズを入れる。このようにして、徹底的に筋肉をパンプ・アップさせてしまうのである。

<経験者のレピテーションとセット数について>
①レピテーション
経験者のトレーニングでは、筋肉を太くして、きれいなカットをつけることをめざすであろう。とくに、フィジーク・コンテストに出場するような場合には、バルクとデフィニションの調和が重視されるので、この両者とも発達させなくてはならない。
 一般にバルクは重いウェイトで行うロー・レピテーションで獲得されデフィニションは軽いウェイトを用いるハイ・レピテーションで獲得されるといわれている。しかし、世界のトップ・ビルダーをみると、胸や肩・腕などのトレーニングでは、1セット当り20回以上も繰り返すようなことはない。ほとんどがセット当り6~10回程度であるようだ。
もちろん、ミスター・ユニバースのサージ・ヌブレのように、ベンチ・プレスを25回×20セットというようなトレーニングをするボディビルダーもいるが、それは例外に近い。むしろトップ・ビルダーの多くはデフィニションを獲得するためにはハイ・レピテーションを採用するのではなくて「食事」への依存度が大きいようである。
そのようなことから、最終的には各人が判断しなければならないことであるが、レピテーションは15回以内にするのがよいといえよう。それも5~10回ぐらいのものが一般的である。

②セット数
初心者の段階では、各筋群にはそれぞれ2~5セットぐらいを中心にトレーニングをすることが多いが、経験者の場合、とくにバルクと筋力の向上を図るときには重いウェイトを用いる5回×5セット方式がすすめられる。筋力の向上をさらに望むのであれば、最大重量に近いウェイトで3回×5セット方式を採用してもよい。
 また、かなり経験を積んだボディビルダーになると、セット数もエクササイズもさらに多くなる。トップ・ビルダーなどでは各筋群に30セット以上もトレーニングをすることもある。しかし、一般のボディビルダーがやみくもこのような多セットのトレーニングをすることは、オーバー・ワークに陥ってしまい、筋肉が発達するどころか、かえって体調を崩してしまうことにもなりかねない。
そこで、セット数も「個別性の原則」から一概には断定できないにしても、経験者のとる通常のめやすとなるのは、ビンス・ジロンダのいうように「1つの筋肉部位には10~12セットぐらい行うのが適している」ということになろう。
たとえば、胸のトレーニングのために、3つのエクササイズを用意した場合には、①ベンチ・プレスを5セット、②インクライン・ベンチ・プレスを3セット、③ダンベル・プルオーバーを3セット、合計11セットとするようにするのが一般的だ、ということになる。
このようなフラッシング・システムでは、パンプ・アップさせることが大切であるが、10~12セット行なってもパンプ・アップしない人がいる。彼らに対してビンス・ジロンタは「10セットで充分にパンプ・アップしない人は、集中力が足りないのである」といっている。味わい深い言葉である。
このことは裏を返していうと、たとえ5セットしか行なっていなくても、それで充分にパンプ・アップしたと感じたら、5セットでもよいということになる。また、最高のパンプ・アップを得られるようにするといっても、毎回毎回そのような状態になるとは限らない。疲労が蓄積されているような場合には、あまりパンプ・アップしないことが多い。それに筋肉部位によっては、パンプ・アップしなくても効果が得られることもある。したがって、セット数やレピテーションはトレーニングを長く体験して、自分で決めていくしかないのである。
月刊ボディビルディング1977年4月号

Recommend