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1976年度第6回
パワーリフティング世界選手権
<講評とその周辺>

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月刊ボディビルディング1977年4月号
掲載日:2018.07.22
JPA理事長'76世界大会団長兼チーフ・コーチ
アスレティック・せき会長 関ニ三男
 前号では大会第1日目、ライト・へビー級の試合を終ってホテルに帰ったところまでを書いた。今回は私の出場したミスター・ワールド・コンテストとミドル・へビー級以上の重量級の模様、それにこれからのパワーリフティングの課題といったような点について書いてみたい。

 第1日目の試合が終ってホテルに帰ったのが午前2時。白くふやけている足をバスルームでマッサージして寝たのは午前3時近かった。くたくたに疲れた私は、ベッドに横になるなり、すぐ寝入ってしまった。

 午前8時、頼んでおいたモーニングコールで目を覚したのだが、昨日の疲れですぐには起きることが出来なかった。何とか自分を奮い立たせ、急いでビルダー・パンツやらウォーミング・アップ用具やらをそろえ、朝食をとりミスター・ワールド・コンテストのプレジャッジが行われるヨーク・バーベル・クラブへ向った。日本からこのコンテストに出場するのは私と昨日パワーリフティング選手権に出た中川、中尾の合計3名である。

 コンテストは本誌1月号に報ぜられたように、イギリスのバーテル・フォックスが部門賞全部と総合をさらって完全優勝をなし遂げた。私はショートマン・クラスで念願の3位入賞を果すことができた。なお、中川選手がベスト・アーム・コンクール5人の中に選ばれ、腕囲50cm級の4人とベスト・アームをかけて善戦したのにはびっくりした。やはり中川選手のアームは世界に通じるらしい。

 プレ・ジャッジも無事に終り、午後からミドル・へビー級以上のパワーが行われるウイリアム・ペン・ハイスクールへと急いだ。

 今日は100キロ級に仲村昌英選手、へビー級に足立東雄選手が出場する。会場に着いたときは、すでに仲村選手のスクワットが終っており、ベンチ・プレスが始まっていた。仲村選手は背筋を痛めていたため、あまり奮わなかった。続いてデッド・リフト、これも背筋の関係で残念ながら良い記録を残すことができず6位となった。仲村選手にとって、今後、コンディションづくりが課題であろう。

 最後のへビー級に出場した足立選手は、最初の種目スクワットは290kgで終ったものの、この記録は充分に世界に通用する記録であった。しかし、次のベンチ・プレスとデッド・リフトで外国選手に差をつけられ、総合では5位となった。外国選手と戦う場合、足立選手の今後の課題はベンチ・プレスとデッド・リフトの強化である。ここ数年、国内大会のへビー級では、この足立選手と仲村選手だけで競っておりその他にライバルとなるような選手が出てこないのが残念である。軽量級のように選手数が多ければ、お互いに刺激され、それが記録の向上につながってくるのである。

 へビー級と同時に行われたスーパーへビー級では、アメリカのドン・ラインホルトがトータル1.010kgをマークして優勝。カ持ち世界ナンバーワンの座をがっちり守った。

 すべての競技が終り、日本チームは前年度大会(第5回世界選手権大会5位、於イギリス)よりさらに1位あがり4位となった。今年秋、オーストラリアのパース市で行われる第7回大会ではなんとしても団体戦3位をとりたいものである。そのためには、選手だけではなく、選手団をリードする役員の陣客も強化しなければならない。ここで改めてこの大会の陰の功労者であった三浦和夫氏の大活躍を特筆しておきたい。

 今大会を参考として、今後世界選手権大会に眺む日本選手団役員としては最低3人が必要だと思う。その中の1人に英語の堪能な人がいれば申し分ないが。そして願わくば、代表選手の強化合宿等もしたら、さらに日本選手団は充実するであろうと思う。今回10名の代表選手中、5名の選手が勤務先の会社側から深いご理解をいただいて出場したが、今後、10選手全部が何らかの形で同じような状況のもとに出場できるようになれば強化合宿なども夢ではなくなり、成績の上でも一段と飛躍することが出来ると思う。
〔ミスター・ワールドで完全優勝したバーテル・フォックス〕

〔ミスター・ワールドで完全優勝したバーテル・フォックス〕

これからの問題点

 フライ級からスーパー・へビー級までの10階級をとおしてみて、ミドル級までの軽量5階級は実力的に世界のレベルと大差がなく、技術的にもう少し研究すれば充分3位入賞は可能であろう。しかしライト・へビー級以上の5階級にいたっては、技術とかレベルとかいえるものではなく、根本的にやり直さなければ、とても表彰台に登ることは不可能である。

 その根本的な問題とは、先ず人材である。たとえばそれがスーパー・へビー級であっても、我々日本人の中に決していないというのではない。たとえば力士などはほとんどがスーパー・へビー級に該当するだろう。ただし彼ら力士はプロスポーツ選手なのでアマチュア・スポーツには出場できないが。私は月に一度か二度、西国分寺駅から中央線に乗って都心に出るが、そんなとき、電車の中、あるいは街頭で「これは仕込めば良い選手になるなあー」と思われる大型の日本人をよく見掛けることがある。

 それではその有望な人達に、どうしたらこの素晴らしいパワーリフティング競技に目を向けてもらえるか。それはパワーリフティングそのものを、もっともっと大々的にアピールして、我々ボディビル界以外の一般大衆に認めてもらえるスポーツとして、現時点では想像もつかないくらいポピュラーなものにしなければならないと思う。

 これはボディビル界全体のこれからの課題であり、それが解決したときにはじめて、重量級の選手層が厚くなりレベルの向上にもつながるのではないかと思う。その次に、競技3種目について、技術的にも精神的にも、もっともっと研究を重ねれば、さらに記録の向上につながるものが把握できるのではないかと思う。

 そこで、過去3回、世界選手権大会に参加して感じたことを種目別に述べてみたい。そしてこれが、技術の向上のキッカケになれば私としてこんなうれしいことはない。


◇スクワット
 昨年11月の第6回世界選手権大会から帰国早々、先月号でもちょっと触れたジム移転問題の真最中に、新方式スクワットのヒントを得た。その新方式スクワットを私自身が先ず試してみたところ、2ヵ月近くの間、ほとんど練習していなかったにもかかわらず、1週間で3年前に練習中に出した私のべスト記録192.5kgを上回る195kgが可能になった。さらに、この方法をジムの会員たちにやらせてみたところ、全員がわずか1ヵ月で15~20kgと大幅に自己記録を更新し、私のジムはいま、ある種の興奮状態が起こっている。しかしまだ研究中なので、これだという決定的なことはいえないが、もう少し時間をかけて研究し、結論らしいものがでたらせひ本誌を通じて紹介したいと考えている。

 さらにこの原稿を書いている今日現在、また違った方法が見つかった。私自身まだはっきりとしたことがつかめていないが、あるいは、日本選手の中にも、この方法を自分自身では知らない内に行なっているのではないかとも思われるので、いま、「ボディビルディング誌」のバックナンバーを全部ひっくりかえして、各選手の試合中の写真等を研究中である。

 私の研究を素直に取り入れている渡部春治選手や中川幸雄選手はすでに自己記録を更新しており、この伸び率でいくと、私のジムでは現在10名いるスクワット180kg以上出来る者が、6月までには新しく5人がこの仲間に入ると思われる。そして私自身も、ボディビルをはじめて23年間、夢にまで見た200kgスクワットを完成させたいと思う。
〔トータル1010kgで優勝したスーパー・ヘビー級のドン・ラインホルト〕

〔トータル1010kgで優勝したスーパー・ヘビー級のドン・ラインホルト〕

◇ベンチ・プレス
 この種目は、従来から日本選手にとって得意な種目だといわれてきたが、事実、富永選手、伊集院選手、出川選手等の実力は世界の最高レベルに達しており、外国選手から学ぶというよりも、これらの選手のやり方をもっと研究したいと思う。前記3選手とも、非常に類似点があり、ふだんの練習から大会における試技までの技術的な解明ができれば、日本選手の記録はさらに伸びると思う。


◇デッド・リフト
 軽量級のごく一部の選手を除いて、この種目は日本選手のもっとも見劣りする種目である。外国選手との体型の違い、背筋力の弱さなどに原因があると思われるが、もっと研究がなされたなら、まだまだ記録は伸びると思う。

 いまアメリカでは我々日本選手の行う、両足を開いたスタンスで行うデッド・リフトを重要視して「スモウ・スタイル」と名付けて研究中とか。第6回世界選手権大会の時、私が米国コーチのクレイ・パターソンに「スモウ・スタイル・デッド・リフトは私が考え出したものだ」と云うと、彼は何年前から始めたのか、そして記録の伸びはどうだったか、としつこく聞かれた。彼らアメリカ人は、とくにパイオニア精神に富み、他の人が先に始めたということと、それも意識的に行なっていたことにびっくりしたらしい。


◇トータル
 最後に入賞の基準になるトータルについて触れておきたい。ではいったいどのくらいの記録を出せば、世界選手権大会の表彰台にのぼることが出来るのだろうか。現在の世界のレベルから判断して次にあげる記録なら3位以内に入賞が可能と思われる。

 フライ級 470~480kg以上
 バンタム級 500~510kg〃
 フェザー級 520~530kg〃
 ライト級 590~600kg〃
 ミドル級 670~700kg〃
 Lへビー級 780~790kg〃
 Mへビー級 790~800kg〃
 100キロ級 800~820kg〃
 へビー級 850~870kg〃
 Sへビー級 900kg以上

 以上のように、年々、世界のレベルは高くなってきている。我々日本選手としては一丸となって諸問題と取組み技術を研究し、記録の向上をはかっていかなければならない。これらの問題を解決するには、選手およびバーベル愛好家の謙虚な姿勢が最も大事な要素の1つであると思う。

 現状況では選手の強化合宿等ができないため、お互いに技術の交流や研究をするチャンスも少ないが、将来、パワーリフティングが世に認められればこれらも可能とろう。その結果、選手個々の長所、短所も把握でき、試合時に充分実力を発揮させられることになる。

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 なお、前号で富永選手がこの大会で出したベンチ・プレス155kgの記録の世界記録認定証が届いてないと書いたが、これはIPFの手違いで3月初めに届いたことを報告します。
月刊ボディビルディング1977年4月号

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