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何をどのくらい食べればいいか
やさしい栄養シリーズ(最終回)

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月刊ボディビルディング1971年2月号
掲載日:2018.07.28
明治製菓食料研究所 野沢秀雄

平均的な日本人の場合

 「水30リットル・石けん6個分の脂肪・エンピツ9千本分の炭素・マッチ2千本の硫黄・一服分のマグネシウム・ノミ一匹殺せる程度の硫酸・・・・・」人間の体を分析するとこんな結果になるという。けれども人間は、けっして単純な物質の集合体ではない。生命があり、エネルギーがある。意志があって大きな仕事をすることもできる。この体を維持するのが毎日の食事、すなわち栄養ということになる。
 現在日本人のエンゲル係数は約40という。国民全体の総消費量から割り出すと、43年度で8兆3434億円という膨大な金額が食事に使われたことになる。また農業・漁業・畜産業・食品工業に従事している人の数は1400万人。流通関係や、料理店・喫茶店などで働く人を含めると実に2100万人。国民5人に1人の割合で「栄養」に関する仕事をしている計算になる。
 ところで第1表は、国民一人当りが1日に何をどのくらい食べているかを調査した結果である。
 時代が進むにつれ、摂取量が増えているが、なかでも、肉・タマゴ・乳製品・野菜類の伸びはいちじるしい。近年、日本人の体格、とくに若い人たちの身長がめざましく伸びているが、その増加の割合と、第一表の結果とがよく一致していて興味深い。
 しかしながら1968年の項目を栄養素グループに分けてみると、炭水化物が984gで76%、たんぱく食品が289gで22%、脂肪食品22gで2%、合計1295g、100%で約2400カロリーとなる。日本人はまだまだ穀物類に依存しているようだ。欧米の水準は1日1800~2000g食べ、その約50%が肉・乳製品油脂。また総カロリーは2800~3200カロリーに達するという。西欧型の体格に近づくためには、まだもう少し時間がかかりそうである。
第1表 最近の日本の食料需給(1人1日当り消費量・単位g)

第1表 最近の日本の食料需給(1人1日当り消費量・単位g)

スポーツマンの場合

 第1表は老人も乳児も、男性も女性もひっくるめたデータである。食事の量は年令・性別・職業によって大きく変わるのが当然である。第2表は厚生省が発表した日本人の必要栄養量である。
 たんぱく質の量は純たんぱく量を意味する。したがって第1表のたんぱく食品の量とはイコールでない。興味の深い点は、15~17歳で最も高い栄養を必要としていること、および重い労働では軽労働に比べて5割も多くカロリーを要求していることである。体の発達する年代とよく一致しているし、またボディビルのような激しい運動には高い栄養が必要なことを示している。陸上自衛隊では3300カロリー、大学の多くの運動部で3500~4500カロリー、南極調査隊で5000カロリーをそれぞれ目標にあげているようだ。
 このような目標を達成するための食事例を次に示す。いずれも大学のボート部の合宿のために作成されたものである。(第3表参照)
第2表 日本人(男子)の栄養所要量(昭和45年)(1人1日当り)

第2表 日本人(男子)の栄養所要量(昭和45年)(1人1日当り)

第3表 ボート選手のための食事

第3表 ボート選手のための食事

シリーズの終りに

 まとめとして栄養を考えるときのポイントを2~3述べてみたい。
(1)「大びん一本のビールは、305カロリーで、卵4個・牛肉150g・魚600g・牛乳3本・バナナ350g・米85g・パン80gなどに匹敵する」こんなPRをよくきく。同じように「板チョコ1枚(100g)は512カロリーある。だから卵7個半や牛肉250gに相当する」と人びとに説明することがある。さてこれらは正しいだろうか?
 たしかにビールにはカロリーがあり満腹になる。チョコレート1枚で7日間も命をつないだ登山者もいた。けれどもそうかといってビールやチョコレートを食べるだけでは筋肉は発達しない。必要とするたんぱく質はビール1本にわずか3.65g、チョコレート1枚に6.8gしかない。栄養を考えるときには、カロリー(量)だけでなく、たんぱく質・脂肪量など(質)も合わせて考慮しなければならない。

(2)ビルダーに必要なたんぱく量は純たんぱくに換算して、最低120gと考えられる。日本人の平均値70gとくらべるとかなり大量である。外国のコンテスト・ビルダーたちは200~240gをとるという。牛肉ならば1キロ買わないと達成できない量だ。
 日常の知恵から、魚・干物・豆類など、日本特有の食事を工夫すれば、それほど無理をしなくても可能なはずである。本誌45年11月号を参照願いたい。

(3)ビタミンとミネラルに関しては過剰にとっても体内に吸収されないことを、このシリーズの第4回・第5回に紹介した。1日に吸収できる限界量は次の通りである。ビタミンB1・B2は1~1.5㎎・ビタミンC60㎎・ニコチン酸10~15㎎・カルシウム0.6~0.7gりん1g・鉄10㎎である。そして普通の食事をしていれば、ほとんど心配はいらない。

(4)よくかむこと。おいしく食べること。運動して空腹にすること。これらの心がけで、ずっと多くの栄養を吸収することができよう。また日光浴・風呂・マッサージ・指圧などの刺激によって体内にカルシウムイオンができ体調をよくするという説がある。気分を爽快に保ち、精神的にも健康であることが成功するための第一歩であろう。
 本シリーズを終るにあたって、読んでくださった皆さんおよび激励の便りをくださった方々に厚く感謝いたします。
記事画像4
(イラスト)
亀山芳信
月刊ボディビルディング1971年2月号

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