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ブルース・リーの食事法

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月刊ボディビルディング1974年11月号
掲載日:2018.07.09
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野沢秀雄

<ドラゴン大ヒット>

 タツ年でもなんでもないのに今年はドラゴンが大活躍。空手をテーマにしたドラゴン映画が大ヒットして以来、似たような作品が続出したり、フランチャイズの中日球場の経営がゆきずまったにもかかわらず、中日ドラゴンズがセ・リーグの首位になったり、ともかくすごい人気だ。とくに正月に封切られた「燃えよドラゴン」は全世界で大当たり。少なく見積もっても30億円の収入をあげたという。

<すばらしいデフィニション>

 主演のブルース・リーは香港の出身で32才。すばらしいスピードと、それをささえる鍛えた筋肉が評判を呼んでいる。全身にムダな脂肪がなく、切れがいい体で、いわゆる“デフィニション”にすぐれているが、たまたま「文芸春秋」8月号に彼のトレーニング法が紹介されている。

 もちろんバーベルやダンベルを用いてウェイト・トレーニングをやるのだが、特徴は決して重量をふやさず、軽い重さで何百回となく、疲れ果てるまで同じトレーニングをくりかえすという。驚いたことに、体育室だけなく、彼の居間はもちろんのこと、寝室にも浴室にも、トイレットの中にさえも5キロぐらいのダンベルが置かれており、イヤでも応でもトレーニングしなければすまないように生活ができている。これらを使って、休むまもなくトレーニングをしていたのだが、「人間は意志が弱いのでこうせざるを得ないのか。この大スターにしてこの努力があるのか」――と感嘆の文章がのせられている。

<怪死のなぞ>

「ボディビルで作った体は、はっきりと筋肉が大きくなるのでそれとわかるのに対し、自分の体はただ外から見ているだけではわからない。だが自分の筋肉は力を入れたときと、そうではないときの差が大きいのだ。そこがいいんだよ」とブルース・リーは語っているが、ボディビルのポージングのようなこともしょっちゅうやっていたらしい。その健康にあふれたリーが、ある晩、突然に愛人のアパートメントで死体となって見つかり、ミステリーめいた謎の死ゆえに、よけい人気が高まったようだ。

 彼の死因として、①あまりにもはげしいトレーニングをしすぎた、②麻薬中毒だった、③てんかんの発作をもっていた、④うらみで毒殺された等、いろいろな噂さが伝わっている。

 そのうえもっとも不思議なのはリーの食事法であろう。毎日ステーキや卵などのスタミナ食をとっていたこと以外に、いつもある種の粉末をステーキにふりかけて食べていたという。そのビンにはラベルが無く、何か分からないが、他人がそれを使おうとすると恐ろしい顔をして取り上げるというから、よほど大切な薬物と考えられる。

 ある人は麻薬だというが、麻薬ならワザワザ食事中に人前で食べることはあるまい。ひょっとするとホルモン剤、とくに筋肉の同化を助けるステロイドホルモンかタンパク質同化ホルモンかも知れない。このような薬物は体に有害であり、ある日パッタリと倒れることもありうるのだ。注射にしても同じこと。ホルモン系のバランスをくずすことになるので、このような物質の使用は厳にいましめなければならない。こんなものを使って良い体になったとしても、何の価値もないといえよう。自分で汗を流して苦労してつくりあげることに、大きな意義があるのだから……。

<体をいたわらなくては>

 スポーツが人間の限界に対する挑戦であり、そのためには苦しい努力や、人間の限界とも思えるような、はげしいトレーニングがどうしても必要になる。このつらくて苦しいトレーニングを克服してはじめて、スポーツの記録は更新されていく。ベストセラーになった「かもめのジョナサン」はそのような内容を考えさせられる作品だが、限界に挑戦する姿は、きびしく、孤独で、しかも美しい。

 問題はそんな激しいトレーニングのあと、体をどういたわるかにある。ミスター日本のタイトルをとったある有名なビルダーから、「トレーニングがあまりにもきついので自分は死んでしまいそうだ」と本気でいわれ、とまどったことがあるが、健康づくりを目指すビルダーが、逆に体をこわすようではなんにもならない。はげしいトレーニングをするビルダーなら、体をいたわる方法についても、もっと勉強してほしい。たった一つの、かけがえのない自分の体なのだから。

 だが現実に、どのスポーツ選手でも、重要な栄養についてあまり関心を持っていないことが多い。ラグビーやバレーボールの合宿中の食事をみても、予算は少なく、おばさんや女子大生まかせで、カロリーやタンパク質があまりにも貧しいのに驚く。そうかと思えば次の例のように、ぜいたくをしすぎて早死にすることもある。ブルース・リーもひょっとすると、このぜいたく食が原因で死んだのかもしれない。

<悪い方法、良い方法>

 ろくに栄養をとらない場合は論外として、逆に栄養を付け過ぎて失敗する場合がある。テレビタレントの小島正雄氏は、激しい勤務で疲れた体をタマゴでいたわっていた。朝食に卵4個でつくった特製オムレツ、昼食にも3つの卵焼き、そして夜にも食事のあと生タマゴをのんだりして、1日に6~10個のタマゴを食べ続けていた。ある日突然、バッタリと倒れて慶応大学病院へ運ばれたが、血中コレステロールや血中脂肪が健康人にくらべて5割以上も多く、それから1週間もしないうちに53才の若さで死亡してしまった。(五島雄一郎博士の報告)

 こんな悲劇にならないよう、心がけたい食事法として次のようなものがある。
①自分の練習量に対して、カロリー、タンパク質、脂肪などが、ちょうどいいぐらいにつりあってるかどうかチェックする。
②肉・卵・納豆などタンパク質だけでなく、ある程度の米飯やうどん・パンなども食べる。玄米や麦飯もよい。
③植物性のタンパク源として、大豆製品や落花生、ゴマなどを食べる。
④バターの代わりにマーガリンを使う。またチャーハンなどにも植物性のサラダ油や天ぷら油を使用する。
⑤疲れをすぐにとる果糖やぶどう糖を使ってみる。果糖は値段が高いが、3~7倍の速さでエネルギーにかわり、疲れをいやすのに効果がある。
⑥コーラやファンタ、レモンライムなどの代わりに牛乳や豆乳を飲む。
⑦生野菜・フルーツ・海藻・のり・こんぶなどをふんだんに食べる。
⑧レモン・梅干し・酢などを食べる。
⑨なるべく新しい材料のものを使い、着色料・保存料・殺菌料などを使用しないものを用いる。
⑩健康食品のうち信頼できるものを使ってみる。朝鮮人参やローヤルゼリーなどは、アメリカの雑誌「マッスルビルダー」などにのっているように、人によってはとても良い効果をもつ。反対におすすめできないものは、酵素や酵母のあるものやクロレラ・コンフリーのほか、やたらに高価なものや、配合のよくわからないものである。

 これら以外に研究の結果を本誌を通して報告してゆくので、参考になれば幸いである。
月刊ボディビルディング1974年11月号

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