フィジーク・オンライン

★スタミナ栄養シリーズ特集版★
水泳選手とバーベル運動

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1977年11月号
掲載日:2018.07.27
ヘルス・インストラクター 野沢秀雄

1 アスレチック・クラブの宿命

 建物が立派で入会金や会費がバカ高いために「アスレチック・クラブは高級で、もうかるところ。ボディビル・クラブは金のない者がゆき、ジムはもうからないところ」と一般に思われているが、必ずしもそうとはいえない。
 その中にあって、戦後いち早く社会体育の立場からアスレチック・クラブを開設し成功しているのが大阪の淀川善隣館。長野県大町に野外センターをひらき、来年は東京池袋のサンシティに大きなへルスプラザをオープンすることが決っている。
 この善隣館も実はこれまでに試行錯誤をくりかえし、四苦八苦してきた。「ゆきつくところ、中高年はランニング。子供と青少年はスイミングプールです。これがわかるまでに20年もかかりました」と、担当された部長が語っている。
 昔は卓球、バレーボール、バスケットボール、バーベルやダンベルのトレーニング、二人一組の体操などさまざまなプログラムをおこなってきたが、人びとを長つづきさせ、かつ経営としてうまく成りたたせるのはたいへんだったという。

2 タブーが多すぎる

 一つには公立の体育館が各地にできて、スポーツを安くできるように推進しており、民間のアスレチック・クラブやトレーニング・センターは、独自の特徴をうちださないと存在自体がきびしくなっている。
 アスレチック・クラブの多くが採用している水泳は、確かに健康増進にプラスであり、時間的な余裕があればぜひやりたいスポーツだ。しかし競技選手のレベルになると、練習が高度なためアスレチック・クラブや公営プールで教えるには限度がある。イトマン・スイミング・クラブや広島のフジタ・ドルフィン・クラブなどのエリート養成施設か、各大学や高校の水泳専門部でないと第一線のトレーニングは無理のようである。
 結局のところ、アスレチック・クラブや公営プールでは、一般的な水泳指導しかおこなわないが、不思議なことに「水泳をやる者はバーベルを持ってトレーニングしてはいけない」「水泳以外のスポーツをやることはマイナスだ」などと、一般の人びとに対しても、おかしなタブーをおしつけることが多い。
 私はかねてから、スポーツ界全般にこのようなせまい心の人がいて、あれもいけない、これもいけないと禁止することに疑問を感じていた。ジャイアンツの名補手であり、現在解説者に転じている森昌彦氏が指摘しているように、米国の大リーガーたちはもっとゆとりを持っている。シーズンオフになるとバスケットボールやフットボールの選手になって活躍している。

3 筋肉・筋力をつけるのが先

 板橋区の金子哲也さんから「水泳とウエイト・トレーニングを実行しているが、体重増加は可能かどうか。また「赤筋・白筋問題に関して〝水泳研究〟誌に記事が出ているので検討してはどうか?」と親切にコピーを同封して送っていただいた。この中で気になる点についてとりあげてみよう。
 J・カンジルマンの意見はこうだ。「水泳選手は決して一般的なボディビル練習をおこなうべきではない。もし無差別に筋力トレーニングをおこなうなら、水泳に関係のない筋肉をつけることになる。7~13kgも筋肉がついて水中で余計な仕事をすることになるので、スピードの原動力となる筋肉はひじょうに早く疲れ果ててしまう。持久力の低下につながるので余分な筋肉はマイナスだ。だから重量挙選手のようなスイマーをほとんどみないし、また重量挙選手が持久的な運動を困難とする理由でもある」と。
 さあ読者のみなさんの意見はどうだろうか?ある人は「水泳選手の体の筋肉がいちばんのびのびとしていて良い筋肉だ」と語っているが、ボディビルダーのような筋肉のボリュウムやきわだったカットなどとは次元のちがうものである。むしろ水泳選手の理想とする体型は流線型で、水に対する抵抗力が少ないタイプだ。肩巾はせまく、もちろんモリモリ、ゴツゴツした筋肉はついていないほうが良いとされるようだ。
 だが私の考えでは、バーベルやダンベルをもっと有効に使用して、大胸筋・三角筋・腹筋・大腿四頭筋・二頭筋など積極的に鍛えあげるべきなのだ。体型がどうこう論ずる前に、体全体を大きくしておく必要があるのだ。筋肉質の大きな体をつくっておかないと、水中でパワーを生みだす原動力そのものがつかない。持久力もまず筋肉自体のボリュウムがあってこそ得られるものである。
 バーベルでトレーニングすると、逆三角型のへラクレス・タイプの体にすぐなるように書かれているが、筋肉は決して一朝一夕でつくられるほど簡単なものではない。多くのビルダーは何年もかかって、苦労してつくりあげているのだ。

4 現在の水泳部では

 金子さんのように一般人が健康管理として考える場合、水泳とバーベル運動を併用してもまったくかまわない。
 というよりも、体重をふやしたい希望があるなら、むしろウェイト・トレーニングを集中的におこない、スクワットで脚をきたえたり、ベンチ・プレスで胸や背中を鍛えることが有効だ。水泳はむしろ酸素消費型の運動で、エネルギー消耗のほうが大きい。体重をふやすにはバーベルで漸増的に重さを増す方法が適切なのだ。
 さて現在第一線の水泳選手はどんな練習をしているのだろうか?
 私が知る限りでは、水泳選手たちのトレーニングはいささか物足りない。たとえば水泳界の名門として知られる立教大学では「きびしい練習はゴメンだ」と選手が集まらず、プールは閑古鳥が鳴いている。また早稲田大学水泳部では、プールの中で布バケツを体にくくりつけて、水の抵抗力に打ち勝つトレーニングをしているが、バーベルやダンベルのトレーニングとなるとまだまだ不足のようだ。
 東ドイツ水泳チームを視察した日本水連の宮下氏は「東独の強さの秘密は筋力トレーニングを徹底的におこなったため」と語っている。選手にはパワーと柔軟性と持久力が要求され、そのためには心肺機能の向上とたくましい骨格筋の発達が共に望まれるのだ。にもかかわらず、バーベルやダンベルを否定する監督やコーチが多いのはどうしたことだろうか?
 アメリカのように、選手の体そのものものが大きくて、すでに水準に達している場合はウェイト・トレーニングの比率は少なくてもかまわないが、体そのものが未発達な日本の選手たちは、体づくり、筋肉づくりからまずスタートするのが正しい道ではないだろうか?

5 食事方法もこれからの課題

 「フジヤマのトビウオ」と恐れられたように、水泳競技は日本がもっとも得意とする種目であった。ところが近年の不振ぶりはどうだろう。日本を代表するトップクラスの男子選手でさえ外国の女子選手の記録に及ばないというから無念である。
 反面、スイミング・プールにはチビっ子が押しかけて、水泳人口はふえるばかりだ。層が厚いのだから正しい鍛え方をすれば、一流の大選手が育ってゆくと思われてならない。骨格が発達する中学生後半~高校生くらいから、バーベルやダンベルのトレーニングをとりいれてゆき、同時に食事法の指導をじゅうぶんおこなう。どんぶりめしやラーメン、菓子パン、コーラ、ソーダなどを減らし、かわりにチーズ、牛乳、納豆、魚の缶詰、プロティン製品など筋肉や骨格をつくるたんぱく質をふやしてゆく。
 身体の成長期には三度三度の食事だけでは栄養補給が不足なので、自然に「間食」を体が要求する。間食に甘い菓子やジュースを食べるか、筋骨をつくるたんぱく質が主成分の食品をとるかによって、大きな差がでることはいうまでもない。最近の研究では、筋肉を使ったあとの補強として、優先的に食事中のたんぱく質が使われることが証明されている。
 このようにトレーニングと食事法を再検討して、基礎体力をつくることが先決であろう。欧米人なみの体格と体力ができたら、欧米人なみの記録がでることも夢ではない。
 アスレチック・クラブや公立の体育館、ホテルなどにスイミング・クラブがどんどんふえてゆく時代だ。「水泳こそ体力づくりの王者だ」という声もきかれるが、ぜひ同時に若い青少年たちに、バーベルやダンベルの基礎体力づくりと食事法の正しい指導をおこなっていただきたい。輝やかしい栄光がふたたび日本にくることを信じてペンを置こう。
(筆者は健康体力研究所代表)
月刊ボディビルディング1977年11月号

Recommend