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JBBAボディビル・テキスト㊿
指導者のためのからだづくりの科学
各論Ⅲ(生物学的事項) 3.筋

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月刊ボディビルディング1977年11月号
掲載日:2018.07.27
日本ボディビル協会指導員審査会委員長 佐野匡宣

3-2-3 収縮のメカニズム

 前号に掲載した参考図A.B.C.のいずれを見ても分るとおり、筋原線維は非常に細い2本の蛋白分子の線維が筋の全長にわたって束になっている。
 細い方の線維をアクチン、その倍くらいの太さの方をミオシンと呼ぶ2つの蛋白からなり、対称的に構成されている。
 個々のフィラメントは数百の蛋白質分子の環として作られている。そして中間膜(Z膜)が分節構造を作り出しており、これが横紋の縞模様を作り出すもとになっている。
 アクチンの線維が、ミオシン繊維の方向、すなわちH帯方向に向って引き合わされる(スライディングする)のが筋収縮の機構の本体である。(前号の[参考図C]参照)
 Z膜はアクチン繊維にくっついているため、アクチン繊維のスライディングに伴って筋の分節が短縮する。 [参考図D]参照
 このようにして、数百という筋の分節が同時に短縮するので、肉眼的に筋自体の短縮として認められる。
 最大収縮時には、Z膜は隣接した2つのA帯の末端まで接触するようになり、結局、各フィラメントはわずかに重なったり、ねじまがったようになったりする。このような強い等張性収縮の際にはI帯はほどんど見えなくなる。
 これに対して等尺性収縮の際には、フィラメントの長さが不変で、A帯とI帯の長さは一定のままである。休息時の140%の長さから60%の長さの間では、I帯の長さだけが変って、A帯の長さが変わらない(H.E.ハックスレによる)ということや、筋の張力の大きさは、概ねフィラメントの重合した部分の長さに比例する(F.E.ハックスレによる)ということが次第に解明されてきている。
 このような、微細構造の変化を含む様々な筋収縮のメカニズムは、実験的には筋に電気刺激を与えることによって明らかにされてきた。しかし、骨格筋が収縮するためには、神経系を介して、神経衝撃が与えられることが必要である。すなわち、実際における筋の収縮は、筋を支配している神経によってひき起こされる。
 神経線維は、はじめは束になっているが、末梢にいくにしたがって次第に分れ、1本ずつになる。1本の神経線維はさらに枝分れして、それぞれの筋線維につながる。[参考図E]
 この1本の運動神経と、それに支配される筋線維のグループのことを運動単位とか、神経筋単位と呼んでいる。ふつう1個の運動単位に100本以上の筋線維が含まれており、この運動単位は、筋運動を行う最も基本的な要素である。筋と神経との連絡するところは前号で述べたとおり終板である。
 解剖学的には、個々の筋線維は筋内膜によって隣接の線維と分離されている。したがって、1個の筋線維を活動単位と考えることもできるが、しかし1つの筋運動の機能的単位は、1個の運動神経線維により支配される筋線維群である。
 たとえば、上腕二頭筋は、大部分がその終末で腱と結合している筋束群である。すなわち、上腕二頭筋という大きな筋束は、その外表を筋外膜という線維性結合組織の筋膜でおおわれており、内部の各筋束は、筋周膜と呼ばれる結合組織の鞘に別々に包まれておりその筋束は数千の筋線維からなり、その各々は結合組織の薄層(筋内膜)に埋めこまれている。
 このようにして結合組織の各鞘は、その端で腱に混入しているもので、ここに機能的単位として見た筋線維群としての上腕二頭筋が理解される。
 以上のような神経や筋細胞は、細胞内外(細胞内液と細胞外液)の間に、ある種の塩類(イオンともいう)の濃度に相違があるが、これが活動するために必要なことである。すなわち、細胞の内外の間に一定の電圧差が存在しなければ活動は起こらない。この電圧差は何十ミリボルトという程度のものである。
 細胞膜にある化学物質(ホルモンの1種)が作用し、膜の性質が変化して荷電を帯びたイオンが膜を通ることができるようになる。そこで、神経線維や筋の表面に沿って放電現象が拡がる。次いで、細胞内の化学変化によって、細胞外に放出されたイオンと、細胞内に入ったイオンの交換が起こり、イオンの分布が元の状態に戻る。
 このような現象は、すべて何分の1秒という短い時間に起こり、筋や神経は新しい活動に対処できるように準備が整えられる。
 筋の活動に伴って電流が発生するのは他の生体組織におけると同様であるが、筋が刺激されると活動する部分が不活動の部分に対して負に帯電する。このようにして発生する電流を、活動電流とか、活動電位と呼び、あるいは陰性波ということもある。故に電流が1つ起これば、これに対して筋収縮が1つ起こる。
 このような電圧の変化は、体液によってよく伝えられるので、皮膚の上からその電気活動を捉えることができ、この電気活動を利用して、オシロスコープに電極を結合し、活動電位を観察したり記録したりすることもできる。心電図、筋電図、脳波等がその例である。
[参考図D]フィラメント模式図

[参考図D]フィラメント模式図

「参考図E]運動単位(ミレディ1962)

「参考図E]運動単位(ミレディ1962)

3-2-4 筋収縮の刺激伝播

 インパルス(神経衝撃)が神経末端に到達すると、小胞体からアセチルコリンが遊離され、これが終板の間隙を跳び越えて筋の膜面に達し、そこに興奮を起こして筋の膜面を伝播する。この興奮を脱分極という電気的な現象として説明されている。
 筋線維は、構造的にはZ膜を小管系が貫いており、これが筋原線維周辺の小胞体と筋鞘の外に連絡しており、筋線維の膜を伝播してきた刺激は、この小管系を介して、小胞体に含まれるカルシウムイオンを放出させ、この作用により高エネルギーの燐酸化合物であるATPがADPに変わる分解反応を起こし、エネルギーを発生する。このエネルギーが筋原線維内のアクチンとミオシンのスライディングの引き金となり、必要なエネルギー供給へとはたらく。
 神経の活動電位がとだえると、ATPからADPへの分解反応も終り、ミオシンとアクチンの結合もとけ、ついで両線維がはなればなれとなり、筋の短縮または緊張がゆるむ。
 このように、筋収縮における最初のインパルスは、神経を通じての電気的な現象であるが、シナプスや終板における伝達の機構は化学過程によるもので、電気的、化学的、さらに物理的過程が関与して、筋原線維における張力の発生とか短縮となる。[参考図F]
 筋小胞体という用語が出てきたが、筋小胞体という構造は、収縮物質そのものを支持し、調節し、また興奮させる筋の配管、および燃料系であると考えてよい。すなわち、骨格筋の収縮活動に関係して、糖質代謝の調節に最も重要な役割を果たしているもので、筋小管とも呼ぶ。
 以上、いろいろの受容器、神経細胞からの神経衝撃(神経電流)が筋の活動をうながす概要を述べた。
 最後に、刺激の伝播から筋収縮開始にいたるまでの経過を、もう少し個条書的に要約してみると、次のような順序となる。
 ①活動電位が神経終板に脱分極を起こす。
 ②化学過程が起こり、アセチルコリン放出。
 ③筋肉側面にアセチルコリンが付着し、ナトリウムイオンとカリウムイオンの透過性が増す。
 ④筋の膜面で脱分極が起こる。
 ⑤活動電位が筋線維にそって伝播。
 ⑥活動電位が小管系を通して筋原線維周辺の小胞体を刺激し、カリウムイオンを放出。
 ⑦ATP分解によるエネルギー発生
 ⑧筋原線維内のフィラメントのスライディングが起こる。
 ⑨張力の発生と収縮が起こる。
 以上、それぞれについての生化学的な詳細は省略し、その過程の主なものだけを整理した。
 次回はATPの合成、ネルギーの産生とその変換について記す予定。
[参考図F]

[参考図F]

月刊ボディビルディング1977年11月号

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