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★スタミナ栄養シリーズ特集版★
フットボール選手と体力

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月刊ボディビルディング1977年10月号
掲載日:2018.07.21
野沢 秀雄(ヘルス・インストラクター)

1. 鷹ブームついに最高潮

 少年マガジンに連載中の「フットボール鷹」
元全米リーグでならしたボブに出あって開眼した少年鷹が、
つぎつぎとむずかしい技術を身につけ、世紀の大スターになるストーリーだ。
手に汗をにぎって毎週読んでいる読者も多いだろう。

 フットボールの人気が沸騰してきたのはここ2〜3年のことだ。
日本では、プロ野球や高校野球に国民の興味と関心が集中しているが、
アメリカでは圧倒的にフットボールの人気が高い。
テレビ視聴率をみても野球中継の2〜3倍というからすごい。
映画「パニックインスタジアム」の興奮ぶりはまさに本当なのである。
日本もこれからだ。

2.花やかさNo.1

 街にアスレッチックルックが広まり、テレビのCMに花やかなフットボール選手が登場している。
フットボールの専門雑誌も数種類発行され、チーム数や試合数がうなぎのぼりだ。

 サッカーやラクビーとちがって、攻撃と守備の交替時間があり、
超ミニのチアガールたちが応援合戦をくりひろげる。
選手と観客がいっしょになって「ワッセ、ワッセ」と
独自のコールソングをかけるのもインディアン部族を思わせて愉快である。

 試合ぶりがまるでケタ外れ。
他のスポーツならボールをもっている選手に攻撃をかけることは許されても、
持たない選手を倒したりすることはできない。
ところが、フットボールは攻撃(オフェンス)に際して、
マークする相手を倒して味方のボールキャリアに進路をひらいてやれる。
だからまさに力と力の肉弾戦。
怪我をする率も格段に高く、救急車が常に待機しているゲームも多い。
「男だけのスポーツ」といわれるゆえんでもある。

3.まるで電線のような体

 危険から身をまもるために、選手たちはヘルメット、ショルダーパット、ヒップパット、サイドパット、ニーパットなど
部厚いクッションを体につけている。
だから肩巾がいかにも広くて大きくたくましくみえる。
実際にアメリカの選手たちは防具をとって裸になっても堂々とした体格である。
たとえば1040人のNFL(全米プロリーグ)登録選手は「平均身長188cm・体重101Kg・
40ヤードダッシュ4秒台・ベンチプレス170Kg」と報告されている。
またノートルダム大学選手は「平均身長187cm・体重97Kg」といわれ、
大型のたくましい選手が多い。
 ところが残念なことに、歴史が浅い日本の選手たちは体格そのものが貧弱で、
全身的に筋肉不足だ。
実際にあるチームの練習後に、パットをはずして出てくる選手の体つきをみたが、
どの選手も体が細くて頼りなく、逆に腹の周囲に意外なほど脂肪がたまっているではないか……。
「過剰包装のみやげ物」を想像するくらい、外観と中身はちがっていてびっくりする。
これではもう練習でへばってしまうのも当然だ。

4.千里の道も一歩より

 日本のスポーツ選手は全般に「体づくり」や「栄養の大切さ」について無関心すぎるようだ。
表面の花やかさを追うばかりで、裏方にある地道な努力を忘れがちである。
スタートして活躍する裏には、かくれた本当の苦労を人一倍しなくてはならない。
努力!努力!努力!この努力が最後に物をいうのだ。
安易ではない。
楽をしてうまい結果を得られるものはこの世に一つもない。

 現にアメリカの各大学やプロチームの場合、「アスレチックセンター」と呼ばれる設備(ジム)があり、
本格的なウェイト・トレーニングをおこなったり、トレーナーがテーピング(ケガ防止のために特殊な包帯を巻きつけること)やスポーツマッサージを指導しているのだ。
重いバーベルはもちろん、最新のノーチラスマシンまで備えられ
全員が懸命に筋力づくりのトレーニングを実行する。
「フットボール鷹」にもマシン室でベンチプレスやプルダウンを練習する光景が描かれている。
 日本の場合はどうだろうか?
 「この部にバーベルはあるかなあ」
 「はいあります。どうぞどうぞ」といわれ、部屋の奥へ案内されると、
奥のすみにサビついて、ほこりまみれのバーベルが出てくる。
重さはせいぜい40Kgどまり。
ベンチプレス台すらない。

 つまり本格的に練習しようとする選手はいないし、
またコーチできる指導者もいないのだ。
これでは強いチームになれるわけがない。
 だが光明はある。東大のケースだ。
「野球30年ぶりに4位へ」「関東学生テニスダブルスで優勝」「ヨット部関東リーグで総合優勝」
「ボート部女子好成績をあげる」と報道されているように、各チームの躍進がいちじるしい。
 その理由が「他大学にさきがけて筋力づくりのためのウェイト・トレーニング、サーキット・トレーニングを指導してきたため」といわれ、実際に体格や体力が向上しているという。
体育館のボディビル練習場には、部員ばかりでなく、ラクビー部、フットボール部、野球部、
ボート部など、他の競技種目の選手たちが集まり、熱心にバーベルやダンベルと取り組んでいる。
凄絶なアメリカン・フットボールの試合(ベースボールマガジン社提供)

凄絶なアメリカン・フットボールの試合(ベースボールマガジン社提供)

5.この注目すべき成果

 全国各地の大学にボディビル部がつくられ、コツコツ練習する仲間がふえるのはうれしいことだが、
さらに考え方を広めて、アメリカのように「ボディビル部、イコール、是運動部員の体力づくりセンター」になれないだろうか?
実績が上がれば体育会や学校側に器具や設備の増強を求めることもできよう。
ボディビルこそ体格向上の基本である。
実際にバーベルを握ってトレーニングし、
本誌などで練習法や栄養のとり方を研究しているビルダーはきっと正しく指導できる立場にあるにちがいない。
今までの自分の経験を謙虚に語れば、どのスポーツマンも耳をすまして聞いてくれるだろう。

 私自身、2〜3のフットボールチームにアドバイスした経験がある。
リーグ戦で7戦7敗のある大学チームの例はこうだ。
 このチームでは、「体重70Kg」を境界線として、70Kg以上の選手は相手にぶつかって
倒すことを目的とするラインズメンとして、また70Kg以下の選手はボールをとってすばやく走りぬけるバックスとして、分業化体制をすすめている。
体重がないと相手にぶつかったり、ぶつけられたときふっとばされて役に立たないため、
主にラインの選手に体重増加を目的として、ベンチプレスやスクワットをはじめとする
ウェイト・トレーニングとたんぱく質中心の栄養改善をおこなった。

するとどうだろう、2か月足らずのうちに若手選手をはじめ平均2Kg〜3Kgの体重(筋肉)増加に成功したのだ。
これに力を得て、チームの対戦成績が急によくなり、
「うえー、これが昔のD大チームだろうか!」と周囲の人々を驚かせたものだった。
全員の士気があがり、はげしくぶつかってゆく姿は実にたのもしい。
 連戦連勝をつづける京大アメフト部も、大型選手を集めてウェイト・トレーニングを課しているところに
「強さの秘密がある」といわれている。

 自分自身強い選手になり、またチームの戦力を高めたいと思ったら、
まず積極的に新しいトレーニング法や食事法の改善にとりくんでほしい。
また本誌の読者であるビルダーは広くスポーツマンたちに、
自分の持っている技術や知識を広めてほしい。
これがボディビルを盛んにする一挙両得の方法だと私は確信している。

 最後に全国各地のジムやセンターもスポーツ選手たちが訪れるのを待つと同時に
近くの学校や職場に「説明」や「勧誘」してまわることが役立つのではなかろうか?
 意外に知られていないことが多いので、効果のあることを話すと喜ばれるだろう。
 「フットボール鷹」がたのもしく飛躍してゆくように、
われわれも新しい技術をマスターして、新しい人間へ、新しい境地へと進歩していきたい。
月刊ボディビルディング1977年10月号

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