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ステロイドホルモン剤を“告発する”
―第四回健康体力研修会より―

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月刊ボディビルディング1978年7月号
掲載日:2018.08.23
健康体力研究所 野沢秀雄

6.男性ホルモンの作用

[図9] 男性ホルモンの働き

[図9] 男性ホルモンの働き

(図9)は男性ホルモンが、どのような作用をするか、わかりやすく示したものです。この図でわかるように、性器の発育以外に、「ひげや体毛をこくする」「メラニン色素を沈着させ浅黒い肌の色をつくる」「筋骨をたくましく発達させる」「脂肪のないひきしまった体をつくる」「声帯を太くして低音の声になる」という、いわば男らしい男をつくる作用を支配するわけです。とくに「たんぱく質同化作用」「筋肉肥大作用」「体重増加作用」は一連の関連あるものとして理解してください。

 もし男性ホルモンの量が少ないと、ここにあげた作用はきわだって現われません。中国ではその昔「官がん」といって、睾丸を切りとった男性を宮庭にはべらす習慣がありました。少年時代にバッサリと切り落してしまうわけです。すると性欲もおこらず、体つきや顔つきが子供や女性のようになり、「男おんな」になるわけです。にわとりを使った実験でも、睾丸をとると、雄のシンボルであるトサカが伸びないことが証明されております。つまり男性ホルモンが分泌されず性的に未成熟になるわけです。

7.適正分泌量と体内合成

<表3>に年令別・性別の男性ホルモン量を示します。上段は分解物のDEASの量です。下段にテストステロンの数字を示します。
<表3>血液中の男性ホルモン量

<表3>血液中の男性ホルモン量

 この表から次の点が判明します。

①子供のときは男性・女性の差がないが思春期に急激にふえ、年をとるにつれ枯れてくるように少なくなる。

②上段は男性ホルモン・女性ホルモンを合わせたものの分解物として示されており、傾向は男性も女性もよく似ている。

③テストステロン(男性ホルモン)の数字は男性と女性で大きな差がある。

④女性でもわずかずつ男性ホルモンが分泌されているが、問題にならない量である。

⑤平均値プラスマイナスいくつという範囲が大体決まっているので、これを超えた数字が出たときは、薬剤の使用が疑われる。

 さて、体内で何を原料にして男性ホルモンが作られるか知りたいと思いませんか?

 実は血液中に含まれるコレステロールが原料です。もっとさかのぼれば、脂肪やレシチン、カンゾウ、バニラなども「ステロイド」をつくる物質です。

 男性ならば、睾丸・副腎・肝臓などの場所で、その人の年令・活動量・精神など状況に応じて、必要なだけ、じゅうぶんに毎日つくられています。

 適性ホルモン量の調節は[図10]のような「フィードバック機構」によって正確におこなわれています。
[図10] ホルモン量調節メカニズム

[図10] ホルモン量調節メカニズム

 つまり、不足しているときは矢印にしたがってテストステロンがつくられるのに対し、満タンになって不必要になれば、自動的に「生産量」がストップするわけです。

 脳や性器の障害で、このフィードバックがうまくゆかないと、たいへん深刻な事態になるわけです。

8.男性ホルモン剤の効用と害

 前述のように、昔はたいへんな苦労をして抽出した男性ホルモンも、化学技術の進歩により、最近は簡単に大量に生産されるようになりました。

 臨床応用を次表にまとめました。
<表4>男性ホルモン剤の治療分野

<表4>男性ホルモン剤の治療分野

 <表4>でわかるように、遺伝的、もしくは不慮の事故などで、男性ホルモン分泌機能が損われている人や,手術などで「男性ホルモンがどうしても必要」と認められたとき、医師の手でホルモン剤が投与されます。

 しかしながら、化学物質を体内に多量に与えると、さまざまな副作用がおこります。男性ホルモンの害作用を<表5>に示します。
<表5>男性ホルモン投与による副作用

<表5>男性ホルモン投与による副作用

9.たんぱく同化ステロイド剤とは?

 スポーツマンや病人にとって魅力の大きい男性ホルモン剤も<表5>のような副作用があるので、なんとかこれに代わるものをと、化学者が合成したのが「たんぱく同化ステロイド剤」です。前述のように化学構造式が、ほんのわずか異なるだけですが、目的とする「たんぱく同化作用」(つまり筋肥大作用や体重増加作用)は男性ホルモンより大きく、逆に副作用や性作用は少なくなっています。

 この理由のため、スポーツ選手たちは、男性ホルモンより、たんぱく同化ホルモン剤を使用するわけです。

 ところが「従来よりも安全」というものの、化学物質である点は変りありません。そのうえ構造が男性ホルモンによく似ているため、体内で同様の作用をおこします。

 そのうえ、「安全な量はどれくらいか」「どう飲むのがいいか」「飲みすぎるとどうなるか」について、正確なデータは判明していないのが実状であります。次にこの点をくわしく説明しましょう。
<表6>たんぱく同化剤効力比較表

<表6>たんぱく同化剤効力比較表

10.ステロイド使用上の問題点

[図11]

[図11]

 飲んだり、注射したりしたホルモン剤が、どのくらいの期間、体内に存在して効果をあげるか、[図11]に示しました。これでわかるように、飲用の場合24時間で最高に達し、徐々になくなり48時間後には元のレベルに戻ってしまいます。この点を逆に利用して、「オレは続けて飲んでいるが、試合の1週間前にやめてしまうんだ。そうすると検査をされてもわかんねえや」とうそぶく人が出てくるわけです。

 そして、もし一定のレベルに維持しようとすれば、[図12]のように毎日毎日飲みつづけることになります。注射薬の場合は、すぐに効果を現わすかわりにすぐになくなります。(この方面の研究も日進月歩で、2週間に1回用いると効果が持続する製品が発売されている)いずれにしろ、好奇心で1回や2回使っても効果はなく、欠かさずに高価な薬剤を投与しないとダメということになります。
[図12]体内ホルモン量は一定となる

[図12]体内ホルモン量は一定となる

 第2の問題点は「安全な最少量がどのくらいか」についてです。[図13]はあるホルモンの「効果がある最低量」を示します。このホルモン剤は0.02mgから0.035mgの範囲にありますが、たんぱく同化ホルモンの場合、種類によってまちまちです。
[図13]

[図13]

 恐ろしいことに「自分が使用しているホルモン剤は、この位が最適量だ」という説明をきかずに、勝手に飲んでいる選手が多いのです。本当は1回に5mgなのに「100mgくらいのまないと効かない」と誤って教えられ、ガバガバ飲んでいる例を私自身知っています。

 第3の問題点は、本来、生れながらに持っている「フィードバック機構」が働かなくなることです。

 「現在のホルモン量は少し不足してから、睾丸よ、もう少し作りなさい」と指令がゆき、性殖器官が機能を発揮するのが自然です。ところが人工的にいつもホルモンを与えていると、生産指令が来ず、睾丸はやがて仕事を忘れてしまい、小さく萎縮してしまいます。

 薬の投与を中止したのに、本来の合成はおこなわれず、廃人になってしまうわけです。(そうでなければ一生涯危険なホルモン剤を用いつづけねばならなくなる)

 第4の問題点は「体重がふえればいい」と服用したのに、逆に減ってしまうことがあります。最初はやや体重がふえますが、ホルモン剤の飲みすぎのため、徐々に食欲がなくなり、体重が減ってきます。とくにホルモン量が多ければ多いほど、逆に体重が減ってきます。

11.悲惨な失敗例

 私が知っている実例をいくつかお話します。

 まず海外ではトムサンソンというすぐれたボディビルダーがおりました。1958年~59年にかけて、今までにない筋肉量とデフィニションのすごさで有名になり、ミスターUSAのタイトルをとりました。内外の雑誌の表紙になり、「マスキュラー・ポーズは彼が始めて完璧におこなった」といわれるくらい有名な選手です。

 その彼が40才の若さで「肝臓がん」になりあっけなく尊い生命をなくしてしまったのです。

 「彼を殺したのはステロイドホルモンだ」と公然のように語られています。

 第2は空手映画で有名なブルース・リーの体です。「死亡遊戯」が公開され、死因は「脂肪をとる電気機械にかかりすぎ、脳の血管が切れた」と発表されていますが、さまざまな種類の薬剤を多量に用いて、その中にステロイドホルモンがあったことが明らかにされています。本当はそのための死亡だともいわれます。

 第3は東ドイツの女子水泳選手たちの発達しすぎた筋肉です。東ドイツでは化学薬剤の研究がもっとも進歩しており、「何をどう使うか」大切な秘密として国家で管理しているわけです。

 国内に目を転じましょう。あまり生ま生ましくて、名前をあげると差しさわりがあるので、略して話します。

 西日本の有名なA選手は「これは効くぞ」とホルモンの入った健康食品を友人からすすめられました。この製品は高価でしたが、「体のためなら」と多い目に飲みました。最初は新陳代謝がよくなり、体重もふえたのですが、顔がまんまるに腫れあがり、体調が悪くダウンしてしまいました。「肝臓がすっかりダメになっている」と医師は診断し、入院したり、自宅療養したりで、たいへんなことになりました。

 東京のB選手は、やはりビルダー仲間の選手からステロイドホルモンをわけてもらい、かなり長期間使用しました。ところがセックスのほうがまるでダメになり、同時に仕事に対する意欲がなくなり、奥さんと離婚する破目になりました。今どうしているか、誰にもわかりません。

 東京のC選手、D選手も以前からステロイドホルモンを使っていることで知られています。「肌のブツブツしたニキビ状の吹出物は明白な証拠である」と専門家は明言しています。

 肌が荒れる原因はいくつかあり、いちがいに決めつけることはよくありませんが、当の選手たちが使用をはっきり認めているので、これはまちがいありません。

 以下、ステロイドホルモンの検査法や結論、みなさんからの質問事項について述べます。
月刊ボディビルディング1978年7月号

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