フィジーク・オンライン
  • トップ
  • スペシャリスト
  • 1977年度ミスター日本5位、サン・プレイ・トレーニング・センター会長 宮畑 豊選手のコンテスト3カ月前のトレーニング法と食事法

1977年度ミスター日本5位、サン・プレイ・トレーニング・センター会長 宮畑 豊選手のコンテスト3カ月前のトレーニング法と食事法

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1978年8月号
掲載日:2018.07.02
<川股 宏>
 宮畑選手のトレーニング法を紹介する前に、彼のボディビルに対する考え方、歩んできた道などについて簡単にふれておきたい。

 成功の最大の条件、それは、ある1つの物事を馬鹿になりきり、情熱をもって継続することだ。その意味では、宮畑選手はボディビルダーの範となる人物といえよう。

 過去11年間、ミスター日本に連続出場。とくに近年、年令のハンデを克服して、4位、5位と安定した実力を発揮している。西の知名、東の宮畑、この両雄の恐るべき花の中年パワーには敬服せざるを得ない。ポージングひとつとってみても、鍛え抜かれた筋肉をマキシマムに発揮し、流れるような芸術的な技量は、その道の奥義を極めた達人を想わせる。

 そしていま、宮畑選手は、東京・秋葉原の近くにサン・プレイ・トレーニング・センターを開設し、会員の指導に余念がない。

 ジム開きの日、南海ボディビル・センターの荻原会長は、目を細め、旧南海三羽烏の活躍ぶりを我がことのように喜んだ。萩原会長に育てられた重村、杉田、宮畑の三羽烏は、ともに一流ビルダーとなり、そしてともにジムの経営者となったからである。結果的には同じであるが、素質の重村、実力の杉田、努力の宮畑の歩んだ過程は、三者三様であった。

 とくに、“努力の宮畑”を裏づける彼の言葉がある。

 「ただガムシャラにトレーニングすればいいというものではない。いくら素質に恵まれていても、必ずどこかに欠点があるものだ。一流といわれるビルダーは、研究し、努力して、その欠点を1つずつ克服している。一流と言われたかったら、その欠点を直せ」と。

 これを裏づける事実がある。彼が東京に来た当初、松戸ボディビル・センターにお世話になった。

 彼は明けても暮れてもチンニング・バーとラット・マシーンにしがみついていたという。つまり背筋の運動に専念していたのである。こんな宮畑を見て、ジムの仲間たちは「サルの宮畑」と呼んだ。

 なぜ、彼が背筋の運動に専念したのか、これについて宮畑選手は次のようにいっている。

 「ちょうどその頃はシーズン・オフだったんです。私はこの時期は欠点を直すことにしているんです。私の欠点は、肩幅が狭く、広背筋がつきにくいことです。だから冬から春にかけてはこの部分を集中的にトレーニングするんです」

 また、以前の宮畑は、どちらかというとバルク型の選手だった。165cmの身長でシーズン・オフには軽く80kgを越えてしまう。これをしぼってコンテストに臨むのだが、筋量を落とさずに10kg近くの減量をするのは並大低ではできない。ハード・トレーニングと徹底した食事法でこれを克服したのだ。これが一昨年、昨年のミスター日本4位、5位につながったのである。

◎コンテスト3カ月前のトレーニング・スケジュール

 宮畑のコンテスト3カ月前のトレーニング・スケジュールは次のようである。

 まずコースとしてはAコース(脚・胸・肩・背・腹)、Bコース(肩・背・腕・脚)、Cコース(肩・背・胸・腕)の3コースがある。週間頻度は週6日(日曜日は休み)だが、もともと不規則的トレーニング法なので、どのコースをやるかは、その日の気分によって決める。だから同じコースを2日も3日も続けるということも珍らしくない。また、このコースの他、月・水・金の3日間は会員にサーキット・トレーニングを指導しているので、当然、一緒に実施することになる。
[月・水・金の3日は、必ず会員の指導を兼ねてサーキットトレーニングを実施する(左端が宮畑選手)]

[月・水・金の3日は、必ず会員の指導を兼ねてサーキットトレーニングを実施する(左端が宮畑選手)]

 A・Bコースは約90~120分、Cコースは約60分である。何かの都合で練習時間が少ないときはCコースを実施する。さらに、10分とか20分くらいしか時間がとれないときは後述の短時間トレーニングを実施する。
記事画像2

<Aコース>

①スクワット 5~10回×10セット
②レッグ・イクステンション 10~20回×5セット
③レッグ・カール 10~20回×5セット
④片足ジャンピング (左右各)200回×2セット
⑤ベンチ・プレス 10回×10セット
⑥ベント・アーム・ラタラル・レイズ・ライイング  10回×5セット
⑦インクライン・ベンチ・プレス 10回×5セット
⑧チンニング 10~20回×10セット
⑨ラットマシーン・プルダウン 10~20回×5セット
⑩ワン・ハンド・ローイング 10回×5セット
⑪シット・アップ 20~30回×5セット
⑫レッグ・レイズ 20回×5セット

<Bコース>

①シーテッド・ダンベル・プレス 6~10回×6セット
②フロント・レイズ 6~10回×5セット
③シーテッド・バック・プレス 6~10回×6セット
④シーテッド・サイド・レイズ 6~10回×5セット
⑤ツー・ハンズ・スロー・カール 6~10回×10セット
⑥インクライン・ダンベル・カール 10回×5セット
⑦アイソレーテッド・カール 10回×4~6セット
⑧リバース・カール 10回×3セット
⑨ラット・マシーン・プルダウン(逆手) 10回×5セット
⑩スクワット 10回×6セット
⑪レッグ・カール 10~20回×2~3セット
⑫レッグ・イクステンション 10~20回×2~3セット

<Cコース>

①ラット・マシーン・プルダウン 10セット
②ベンチ・プレス 10セット
③インクライ・ベンチ・プレス 5セット
④インクライン・カール 5セット
[スクワット]

[スクワット]

[アイソレーテッド・カール]

[アイソレーテッド・カール]

<短時間トレーニング>

 これは、いままでに記したA・B・Cのコースとは違い、練習時間が10分~20分程度しかとれないときに、身体部分のどこか1カ所だけを集中的にトレーニングしようとするときの方法である。

―広背・胸―

 チンニングとディップスをスーパーセットで行う。なるべくインターバルは短くして。

―腹―

 1段~10段までのシット・アップ。あらかじめ回数を20~30に決めておき、1段から順々に10段まで上げてインターバルはいくぶん長くなる

―胸―

 ダンベル・ベンチ・プレス。あらかじめダンベルを35kg、30kg、25kg、20kg、15kgの5種類くらいを用意しておき、はじめに一番重い重量でできるところまで繰りかえしたら、休むことなく次の重量に移り、最後に一番軽い重量で実施する。

―背―

 ラット・マシーン・プルダウン。20kgから開始し、30、40、50、60kgと軽い重量からだんだん重くしていく。繰り返し回数にはあまりこだわらず、できるところまでやったら、短いインターバルをとって、だんだん重い重量に移っていく。そして時間のある限りこれを1巡、2巡と進めていく。

―肩―

 ダンベル・プレス。35kgから開始し、30、25、20、15、10kgと、重い重量から軽い重量へと、インターバルをほとんどとらずに進めていく。

―上腕二頭筋―

 集中力に重点を置いて行う。カール運動を1~2種目選び、軽い重量から重い重量へ、あるいはその逆というように、1巡~2巡する。

―上腕三頭筋―

 フレンチ・プレス、ナロー・グリップ・ベンチ・プレスをスーパーセットで、極限まで繰り返し、それを1巡~2巡する。もちろん、インターバルは短い。

 以上が、コンテスト3カ月前のコースだが、Cコースと短時間コースは別にして、最も多く採用しているA・Bコースを見ると、脚・肩・背を鍛える種目の多いのがわかる。これは体形的にこの部分が彼の欠点であるからだ。しかし、最近の宮畑選手の脚をみればわかるように、欠点どころか、長所へと変身している。

 コンテストの10日ぐらい前からは、カットと迫力を出すために、部分的トレーニングを重視する。たとえば、腹筋の場合も、皮下脂肪を見ながら、この部分のトレーニングだけに1日かけることもある。

 とにかく、どの運動でも使用筋に意識を集中して、1回1回の動作を正確に実施していく。

◎コンテスト前の食事法

 宮畑選手は、意外と自分の体を客観的に観察する。あれだけのキャリアがありながら、率直な人の意見には真剣に耳をかたむける。また、鏡をみたり写真をみたりして、筋肉の状態、カットなどを入念に観察し、トレーニング法や食事法を変化させる。

 次に紹介するのは、宮畑選手が昨年のミスター日本コンテストの前にとった食事法である。

 コンテストの3ヵ月前から、米、うどん、パン等の炭水化物を止める。
<朝食>バナナ、にんじん、ピーマンなどを生で食べるかジュースにして飲む。ゆで玉子2個、チーズ少々、プロティン大さじ3杯~4杯を牛乳にとかして。

<昼食>玉子5個、鳥肉100~200g、カンヅメ(さば、つな)、レモン2個、プロティン大さじ3杯~4杯を牛乳にとかして。

<夕食>生野菜、肉200g、レモン2個、チーズ、海藻類、もやし、プロティン大さじ3杯~4杯を牛乳にとかして。
 以上のように蛋白質中心の食事法に切りかえ、トレーニングと十分な栄養で筋量増加をはかりながら脂肪を落としてカットを出すことに努める。こうして、約2ヵ月で80kgあった体重が75kgに落ちる。

 コンテストの1カ月前になると、あと何kg減量すれば最高の状態でコンテストに臨めるかをさらに綿密に計算する。昨年の場合は71kgで出場を決意。その1カ月間の食事法としては、前記3カ月前の食事からバナナと牛乳を減らしプロティンも水で溶く。そして10日前になると、にんじん、ピーマンも減らし、プロティンを大さじ5杯~6杯に増やす。さらにビタミンEを多くとるためにもやしの量をふやしたりビタミンの錠剤を飲む。

 こうしてトレーニングをしながら体脂肪を落とすのであるが、毎日、鏡を見ながら仕上がり状態を観察し、さらに食事法を変化させる。

 もちろん、この食事法の目的は単なる減量が目的ではない。いかに筋量を落とさずに、カットを出すかがポイントになる。そのところを技術者の目でたしかめるのである。

 次に、食事法とは関係ないが、大切なのは日光浴である。皮ふを黒く焼くことは、迫力を増すのに役立つばかりでなく、皮下脂肪を落とすのにも役立つ。

 宮畑選手はトレーニングを休む日曜日には、ほとんど海に行って1日中、肌を焼くようにしている。ジムを閉めてから最終電車で海に行く。もちろん食事は計画どおりのものを持参するのはいうまでもない。どうしても海に行けないときはジムの屋上等を利用して日光浴をする。その他、トレーニングの休憩時間や、会員の指導の合間をみて、屋上で日光浴をする。

 この日光浴も、ただ海辺に寝そべっているというだけではない。シット・アップとかプッシュ・アップ、あるいは波打際のダッシュなど、いろいろ工夫して実施する。

 こうしてコンテストの前日には体重71kgと、計画どおりの仕上がりになった。ところがコンテスト当日、どうした訳か、しぼりにしぼった体重が、一夜にしてさらに2kg減ってしまった。

 会場で見ていた審査員や見物客が、宮畑選手は少ししぼりすぎではないのか、腹筋などデフィニションというよりシワに見える、といった声が聞こえたのはこのためである。一夜のこの体調の変化は、宮畑選手にも計算できなかったし、また、結果的には良い経験ともなった。

 というのは、昨年は、永年勤めた会社を退職して、ジムをつくるために、いろいろ苦労もあったし、そのうえ、2月には隣家の火事さわぎ、つづいて子供の出産と、とにかく心身ともに忙しすぎて、じっくりとコンテストの準備などしている暇がなかった。そのため、トレーニングや減量にも無理が重なり、予定の71kgにしたつもりが、さらに落ちて、体脂肪だけでなく筋肉まで少ししぼんでしまったからである。
月刊ボディビルディング1978年8月号

Recommend