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★自分でつくる栄養料理シリーズ★⑫
“とうふ料理A・B・C”

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月刊ボディビルディング1978年11月号
掲載日:2018.07.21
野沢秀雄(ヘルス・インストラクター)

1.とうふは江戸の昔から

 「自分でつくる料理シリーズ」は好評のうちに12回目をむかえた。本誌だけでなく、社会一般に男性自身による料理作りがブームになっている。
 「ビッグコミックオリジナル」(小学館)の別冊増刊号は「クックブックFORMEN」としてNo.1、No.2と2冊も料理の本を発行し、ベストセラーになっている。映画評論家・萩昌弘氏の書いた「男のだいどこ」も大好評でむかえられている。
 サントリーウィスキーの新聞広告に「とうふ百珍」という江戸時代の料理づくりの本が紹介されている。とうふ一つに対して100種類もの料理法があり「昔の人は味覚豊かに楽しんでいたんだなあ」と述べられている。
 今月は「とうふ料理」についてチャレンジしてみよう。お役に立てば何よりである。

2.とうふの栄養、プラスとマイナス

 とうふ1丁200gに含まれるたんぱく質は平均12gだから、牛乳2本分に相当する栄養価を持っている。しかも「消化吸収率」は96%で、煮た大豆よりもはるかにすぐれている。
 カルシウムが1丁につき240㎎も含まれるので、これも牛乳2本分以上に相当する。そのほか、鉄・りん・ナトリウム・ビタミンB1・B2・ニコチン酸などが含まれ、栄養的にすぐれた食品である。
 「坊さんは肉・魚を食べなくてもスゴーイスタミナを持っている」とよくいわれるが、その秘訣は、とうふ・納豆・油揚げなどの植物性たんぱく食品にある。おまけにゴマやニンニクなどの強壮食品を食べているから、荒修行をおこなったり、「坊さんカンザシ買うを見た」とひやかされるようにセックス面でもなかなかの威力を発揮していたようだ。(昔は寺の前にたいていとうふ屋が店を構えていて、坊さんたちに納めていた)
 ところがとうふにも泣き所がある。ウィークポイントは「たんぱく質の中味」の問題である。つまり含まれるアミノ酸の割合が凸凹で、メチオニンやシスチンなどの含硫必須アミノ酸が少ないのだ。
 必須アミノ酸は人間の体内で合成することができないので、8種類の必須アミノ酸のうちどれか一つでも不足していると、せっかく他のアミノ酸が豊富に含まれていても、もっとも少ないアミノ酸の量により、利用率が制限されてしまう。このアミノ酸を「制限アミノ酸」と呼び理想的な割合でバランスよく含まれている状態を100としてそれぞれの食品の「制限アミノ酸」が何%になるかを計算する。こうして得られた数字が「プロティンスコア」なのである。
 とうふの制限アミノ酸は含硫アミノ酸(メチオニンとシスチンを合計したもの)で、プロティンスコアは51。つまり含まれている全たんぱく質のうち51%しか体に利用されないことを意味する。
 大豆を原料にした諸製品は、大豆たんぱくのプロティンスコアが低いのでそのまま食べるのでは栄養的に効果が少ない。加工段階で不足している栄養素を補うか、調理するときに混合したり、あるいは食べるとき組合せを考えて、互いにプロティンスコアを高めるように工夫しないと、せっかくのたんぱく質もムダになってしまう。

3.プロティンスコアを高める知恵

 この点、昔から伝わっている食事法は心にくいばかり配慮がされている。
 たとえば「冷やっこ」にはかつをぶしをパラパラふりかけて食べるのが一般的だが、実はかつをぶしには、とうふに不足しているメチオニンやシスチンなどの必須アミノ酸が比較的多く含まれている。それがためトータルするとプロティンスコアが高まり、栄養的に好ましいわけだ。
 「科学的に正しい」と昔の人が学問的に勉強したわけではないが、伝統を受けついだ体験と知識で、賢明な食べ方を身につけているのだ。
 がんもどきを発明した人もえらいと思う。油揚げの中にニンジン・ゴボウ・ゴマなどを加えると、たんぱく質・脂肪・炭水化物・ビタミン・ミネラルなど栄養的なバランスが飛躍的に向上して、それだけで完成度の高い食品になっている。もちろんプロティンスコアも高くなって、体内に利用される割合もよくなる。
 そもそも「ごはんにみそ汁」という日本食のパターンは、プロティンスコアの点からみると実にすばらしく、合理的であることがわかる。すなわち、米に不足しているリジンをみそが補い、逆にみそに不足しているメチオニンを米が補って、トータルすれば相互のプロティンスコアが高まり、栄養効果が大きくなっているのだ。
 もちろん、卵やレバーなどのように、単品でプロティンスコアの高い製品がよいにこしたことはない。
 以上から、単純にとうふだけを食べるのではなく、同時に「かつをぶし」「ちりめんじゃこ」「ネギ」などを用意し、ごはんと共に食べれば、健康増進によいことが理解されるだろう。

4.とうふ料理ベスト5

 体をつくるたんぱく質に富み、しかも消化吸収率のよいとうふを活かした料理法を5つ紹介しよう。

<冷やっこ>

 買ってきたとうふを水や氷で冷たくして食膳にのせるだけ。インスタント食品のルーツのようだが、工夫すればさらにおいしく栄養満点に食べることができる。かつをぶし(花かつをでよい)・レモン・しょうゆを用意し、さらに青じそやネギをきざんで添える。これだけで一挙にプロティンスコアやビタミンC・ビタミンAがふえ、体力づくりに好都合になる。一人前とうふ1/2丁として、62カロリー・たんぱく質6.6gとなる。

<みそ汁>

 これも簡単。なべに水を入れ、かつをぶしを加えてグラグラ火にかける。
 煮えたったら、大さじ1~2杯のみそを加えて均一にとかす。適当な大きさに切ったわかめ(もしくはネギ・玉ネギなど)と一緒にとうふを加えればもうできあがり。かつをぶしのかわりに煮干しを加えて、ダシをとってもよい。栄養価は約60カロリー・たんぱく質6.8g。

<湯どうふ>

 すき焼き・たらちり・ふぐちり・かきなべなどの鍋料理は、栄養があり、しかもからだが暖まるので寒い冬にぴったりの料理だが、これにも、パートナーとして必ず参加するのが「とうふ」や「焼きどうふ」。焼きどうふはとうふを火にあぶって水分を少なくしたもので、加熱変性のために組織が固くなっている。くずれにくいので鍋物料理によい。
 京都の禅寺で名物料理になっている湯どうふ。なべにこんぶを敷いてグラグラ煮たった中に、とうふ・ゆば・春菊・ネギなどを順に入れて、サッと食べる。だし汁はしょうゆとミリン。かつをぶしやネギ・ユズの切片を薬味として加えて、京風にいただく。一人前約60カロリー・たんぱく質6.3g。

<いり豆腐>

 一人前、とうふ1/4丁(50g)、卵1/3個(15g)、砂糖小さじ軽く1杯(3g)、植物油小さじ軽く1杯(3g)の割合で材料を用意する。
 とうふはふきんでくるんで水分をなるべく除去しておく。
 とうふ・卵・砂糖をどんぶりの中でよくかきまぜて均一にする。
 フライパンに油をひいて暖まったら上記のまぜたとうふを入れて、はしでかきまぜながら水分が少なくなるまで加熱をつづける。ボロボロと固まってきたら終了である。
 好みにより、しょうゆ・レモン・塩などをかけて食べる。一人前約90カロリー・たんぱく質4.9gである。

<マーボどうふ>

 「おどろきおどろき桃屋のマーボどうふの素ですよ」とのり平がコマーシャルしているが、むづかしかったマーボ豆腐がいとも簡便につくれるようになったのはありがたい。(とうふ組合からのり平に感謝状が贈られるかもね?)
 もともと、ひき肉にとうがらしをピリッときかせた「あんかけ豆腐」のようなもので、中国の四川料理の代表的なもの。この料理を発明したのがアバタだらけのお婆さんだというのがおもしろい。
 安いサラリーに泣く官吏の老妻、陳夫人が「家族のために値段の安いとうふを使って、しかも栄養のある料理はできないものか?」と頭をひねって作りあげたのがマーボどうふ。ひと口食べると「うまい。いけるぞこれは!」と大評判。作り方がつぎつぎと広まり、日本にも上陸。「アバタ婆さん」の料理はすっかり定着した。
 さて、作り方は、とうふ1/2丁100gにひき肉50gを用意し、フライパンでグツグツ煮る。調味料はインスタントのマーボどうふについているもので間に合う。煮えてきたら最後にカタクリ粉をまぜてトロミをつける。
 インスタント製品には肉が入っているが、植物性の大豆製品が混合されているケースが多いので、パワーをつけたいときは、別にひき肉を買って加えるのがコツ。こうして作れば約200カロリー・たんぱく質27gとなり、立派なおかずになる。

5.よいとうふの求め方

 「きぬごしどうふ」とは製造工程で孔のあいていない箱型に濃い豆乳を入れて全体を固めたもので、柔らかく舌ざわりがよい。「ゆ」という固型剤で固まらない物質を流さずに加えているのでビタミンB1・糖・たんぱく質の一部が多く含まれ、栄養価が高い。その反面、くずれやすいので慣れないと使いづらい。
 最初はふつうにつくられた「もめんどうふ」(表面に布目がついている)が組織が固くて使いやすい。
 さて同じ豆腐でもスーパーで買ったものと近所の豆腐屋で買ったものと味がちがうのに気づいている人がいるのではなかろうか。
 スーパーでパックに包装されている豆腐は大量生産方式で、脱脂大豆粉を原料にしていることが多い。つまり食用油をとったあとの粉末からつくっているのだ。
 これに対して街で朝早くから起きてつくっている方法は、丸大豆を蒸すところから始めるので、自然の大豆油が適量残っていて、おいしい味になっている。同じ食べるなら、こんな店でつくられたとうふがよいことはいうまでもない。
月刊ボディビルディング1978年11月号

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