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ビキニの女王 ブリジット・ギボンズ物語<後編>

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月刊ボディビルディング1979年11月号
掲載日:2018.09.05
(財)スポーツ会館トレーナー 早稲田大学ボディビル部監督
岸 正世史

過ぎ去りし日々・想い出・青春

 3年あまり前、無名でコンテストに出場、華々しいデビューを飾って世間をアッと言わせた少女も、すでに22歳になった。

 はたちでユニバースを制し、国内外のビッグ・タイトルをことごとく手中にしてきたブリジットにとって、ここ2~3年というものは、文字どおり、青春の真ただ中であった。

 コンテストをとおして、様々な人々にめぐり逢い、様々な人生を送っている人々を知ることができたことは、女王になった幸福感とはまた違った意味でのひとつの確かな喜びであった。

 私は、ブリジットに、今までボディビルをやって来てどんなことが良かったかを聞いたことがあるが、そんな時ブリジットは、まず健康で明るい生活を送って来られたことと、良い友達がたくさんできたことをまずあげた。コンテストで栄光をつかんだことについては次のように語っている。

 「素直に言って、自分が最も美しいと認められたことは、この上なく嬉しい。私たち女性にとって美しいということは非常に価値のあることだ。私にとってなお嬉しいことは、自分が生まれつき美しい体を持っていて、何もしないでコンテストでタイトルを取ることができたというのではなく、一生懸命努力した結果、それが認められたという点です。」

 私はその後、ブリジットが、本人の言うとおり、いかに多くの時間をトレーニングに費やし、食事を変え、生活を変え、努力してきたかを知り、これがブリジットのまことのthe bloom of youth(青春)に違いないと思った。彼女自身、「私のbloom of youthの大半は、トレーニングとコンテストで終わるでしょう」と言っている。

 ブリジットの郷故はボルトン。町の中心は噴水のある市庁舎前広場だ。石畳のこの広場のベンチに腰かけて日なたぼっこなどをしていると、北欧の小都市、コペンハーゲンあたりにいる錯覚がする。夏でも日ざしの弱いこの町は、同じイングランドでも、ロンドンあたりとは多少違うようだ。

 町の中心から車を5分もとばすと、もう郊外に出る。そんな町はずれの小高い丘の上に、日本で言うなら、さしずめファッション・パブといった酒場が一軒ポツンと建っている。私がブリジットと一緒によく飲みに行ったパブだ。山のロッジ風のしゃれた造りが女性に人気があると見え、行くといつもボルトン娘でいっぱいになっている。ややなまりのあるこの地方の英語は、私にも時々わからぬことがある。

 私は、ブリジットとここに来るたびに、いろいろな話をした。最初は、仕事柄、トレーニング法やらダイエットやらについての話が主であったのだがそのうちブリジットの気さくな性格が私のフィーリングにもマッチし、友達として、日常の話題から時には恋愛論までをも話し合うようになった。

 ブリジットは、じつに素朴な女の子だ。様々なコンテストで注目され、第一人者のレッテルを貼られてきたこの女性が、今も変わらずこんなに謙虚で素朴にいられることに、むしろ私は驚かざるをえなかった。肉体の天性の素質もさることながら、この精神的なブリジットの資質こそ、彼女が自らをいつまでも新鮮で美しく保つことができる秘訣に違いないと思った。

 そして、そんなブリジットを育てたのが、このボルトンの町だ。町の真ん中にある自然のままの広大な公園、さわやかな空と河の流れ、パブのある丘から望む美しい夕陽。これらは皆、ブリジットの心意気そのままだ。この環境こそ、18歳の少女がトレーニングに打ち込むために、大いなる助けとなったものと思う。

 「こうして毎日が過ぎ去り、そのひとつひとつが想い出となる、そして、あとで振り返ってみると、それが自分の青春の全てだったと気づく」

 ブリジットは、ワインを傾けながら本当にきれいな目で、こう語る。
ボルトン・ヘルス・スタジオでブリジット・ギボンズをコーチした女性トレーナーと私

ボルトン・ヘルス・スタジオでブリジット・ギボンズをコーチした女性トレーナーと私

記事画像2

ブリジットのトレーニング法

 ブリジットの”戦績”を知る者は誰でも、彼女のトレーニング法に興味を覚えることだろう。「いったいどのようなトレーニングをしているのだろうか」といった思いは、当然のことながら、私も大へん興味を持っていた。それをここにご紹介しよう。
 
 彼女のトレーニングは、週に6日、月曜日から土曜日まで組まれており、日曜日は原則として、休養をとることにしている。6日のうち、隔日、すなわち、月・水・金は、スケジュール通りの完全なボディビルをやり、あとの火・木・土は、フリー・スタンディングのトレーニングを行なう。

 フリー・スタンディングとは、ブリジットの説明によると、その時々に自分の体が要求している運動を、自分のフィーリングに従って選択して行なうというもの。これには、ウェイト・トレーニングばかりではなく、ランニングから縄とび、ダンスのようなものまで、思いつく運動の全てが含まれる。ボディビルの日は、トレーニング後、短い時間サウナに入ってから、その日を終える。

 トレーニング・スケジュールは、おおむね1~2ヵ月経過したら、新しいものに組み替えることにしている。この点について、ブリジットは、自分の体がその運動に慣れきってしまったら新しいものに替えると言っていることから、1~2ヵ月という期間も単なる目安と考えるべきだろう。要は、ブリジットの体次第ということになるのだが、女性の身でこれができるあたり、彼女のトレーニングに対するひたむきな気持ちが察せられよう。

 ブリジットのトレーニングの特徴はいくつかあげられるが、総じて言えることは、体重50kgの女性が行なう運動としては、普通では考えられないくらいのハードなものだということ。途中の休息の点については言うに及ばず、重量においてもしかりである。重い重量を使用し、かつ、セット間の休息はもちろんのこと、種目間のそれすらも短くしている。さらに、スーパー・セット法、ジャイアント・セット法、シークェンス・トレーニング法等をふんだんにとり入れてトレーニング・コースを作成、実行しているあたりは、男性ボディビルダーと変わりがない。

 私もひと頃、ボルトン・ヘルス・スタジオでブリジットと一緒にトレーニングをしていたことがあるが、彼女のトレーニングににつき合うたびに感じることは、そのすぐれた集中力である。日本の私の美容体操教室で、これほどの集中力を持った生徒は、もちろんいなかった。ボルトン・ヘルス・スタジオのオーナー、ケン・ヒースコート氏は、この辺のことを、いみじくも次のように表現している。

 「ブリジットの徹底したトレーニング・スケジュールは、イギリスの多くのトップ・ビルダーのそれらと同じくらいのものだ」

 ヒースコート氏は、ブリジットのために、彼女専用のトレーニング場を与えている。と言っても、ブリジットがボルトン・ヘルス・スタジオの看板スターであり、目玉商品であるとのことから、特別の優遇をしてあげているなどと言うのでは、さらさらない。一般の女性トレーニング・ルームの器具では間に合わないのだ。同じバーベルやダンベルでも、他の女性とは使用する重量が違い過ぎるというのだ。かと言って、男性会員の中に紛れ込んで一緒にトレーニングするというわけにもいかず、やむなく専用の部屋を設けたというわけなのだ。

 そんなわけで、ヘルス・スタジオの元の倉庫が”ブリジットの部屋”となった。シャフトやプレートはみな使いふるしで、マシンなども、ポンコツに手を加えて修理したものばかり。だがトレーニング熱心なブリジットにとってみれば、器具の新しい古いなどはどうでもいいことだった。スペースだって結構広い。むしろ、恵まれ過ぎたトレーニング・ルームだと彼女はよく言っていた。

 男子禁制のこの地下室も、ブリジット自身の進言によって、ヒースコート氏の特別の許しを得ることができた私は、その後、何回となくお邪魔することになった。

 表向き、ブリジットの部屋に男が入り込んで、一緒にトレーニングをしているなどということが世に知られてはまずいとの配慮から、ブリジットとヒースコート氏は、部屋の秘密の出入口を私に教えてくれた。ヘルス・スタジオの裏にある狭い路地を入ると、この部屋がある建物の壁に当たる。そこに天窓のような小さな木戸があり、そのわずかな隙間から私が、「ヘイ、ブリジット!」と声を殺して叫ぶと、彼女が中からハシゴをかけ、木戸の鍵をはずしてくれるというしかけだった。

 男の私にとっては、やはり器具の重量不足は否めなかったが、二人でやったこの地下室での秘密トレーニングは愉快なものだった。

 ところで、ブリジットのトレーニング・スケジュールの中で、、ボディビルの日はサウナに入るということを述べたが、この点について少しふれておこう。

 サウナの発祥地が北の寒い地方であることでもわかるように、日常あまり汗をかかない気候風土のところで、暖まることによって体の血行をよくするために入るというのが、そもそものサウナの意義であった。7~8月の最も暑い時に、冷房装置のない地下の穴ぐらで、かくのごときハードなトレーニングを消化すれば、さぞや汗びっしょりになり、その上サウナでまたまた汗をしぼり出すとなれば地獄の苦しみに違いない、と読者の方たちは考えると思う。

 イギリスでトレーニングをした経験のある方はご存知のとおり、8月の最も暑い時期でもあまり汗をかくことはない。ロンドンより北の地方であればなおさらである。半袖のTシャツにタイツをはいて、スクワットなどの全身運動を長時間やっても、私などはうっすらと汗がにじむ程度であった。イギリスには、冷房装置なるものは始めからない。真夏の地下の穴ぐらにおいても必要がないというわけだ。そんなイギリスの風土に育ったブリジットにとってのサウナの意味は、おのずと理解できよう。

 以下は、ブリジットのある一日のトレーニング・コース例だ。

<脚>
①スクワット
②レッグ・エクステンション
③ライイング・レッグ・プレス
④アップサイド・ダウン・レッグ・プレス

◎それぞれの種目の1セット当たりの反復回数は20回。これらを3ジャイアント・セット行なう。

<腹>
①シーテッド・レッグ・タック
②ツイスト
③レッグ・レイズ
④ローマン・チェアー

◎上記<腕>の種目と同様の方法で4ジャイアント・セット行なう。

<上体>
①フライヤー
②ベント・オーバー・ローイング
③ハイパー・バッグ・エクステンション
④ダンベル・プレス
⑤ショルダー・シュラッグ
⑥サイド・ベンド
⑦ベンチ・プレス
⑧デッド・リフト
⑨ラットマシン・プルダウン

◎フライヤーとベント・オーバー・ローイングは、それぞれ12回、他は全て15回を1セット当たりの反復回数とし、これらをシークェンス・トレーニング法にて3循環行なう。
トレーニング中のブリジット・ギボンズ

トレーニング中のブリジット・ギボンズ

 以上をこなしたあと、ヘルス・スタジオ内の地階と1階をつなぐ階段(ステップが25段ある)での昇降運動を、かなりのスピードで繰り返す。そして、サウナでのしあげは前述のとおりである。

 さて、これが、ビッグ・コンテストの直前になると、トレーニング・スケジュールにどのような変化が施されるのだろうか。次にあげるものは、1978年のユニバース1か月前のある1日のトレーニング・スケジュールである。この時期には、週6日のトレーニングのうち、その全てがボディビルで占められるようになるのだ。

<脚>
①ライイング・レッグ・プレス
②アップサイド・ダウン・レッグ・プレス
③レッグ・エクステンション
④レッグ・カール
⑤カーフ・レイズ
⑥スクワット
⑦ストレート・アーム・プルオーバー(呼吸調整)

◎各種目1セット当たり20回、これらを2ジャイアント・セット実施。

<腹>
①シット・アップ
②シーテッド・レッグ・タック
③トランク・カール
④ツイスト

◎上記<脚>の種目と同様の方法で、2ジャイアント・セット行なう。

<胸A・腰背A>
①インクライン・ベンチ・プレス
②ハイパー・バッグ・エクステンション

◎双方1セット当たり20回、これらを2スーパー・セット行なう。

<胸B・腰背B>
①ラタラル・レイズ
②デッド・リフト

◎上記<胸A・腰背A>と同様の方法で、2スーパー・セット実施。

<広背・肩・側腹>
①エンドバー・ローイング
②ダンベル・プレス
③サイド・ベンド

◎各種目1セット当たり20回、これらを2トライセット行なう。

 以上をほとんど休みなしに行ったあと、すぐ例の階段昇降運動に移り10分間、上へ下へと走り続ける。

 これが終われば、ブリジットの1日のトレーニングは終了だ。サウナは、コンテスト直前と言えども、週4日以上は入らないことにしている。いたずらに体を疲労させてしまうことを避けるためだ。

 ブリジットのトレーニングを取り入れられているシステムをあげると、以下の様になる。

1.スーパー・セット法
2.トライ・セット法
3.ジャイアントセット法
4.シークェンス・トレーニング法
5.ノンストップ・トレーニング法
6.不規則トレーニング法
7.チーティング・スタイルの導入
8.バーンズの確認
9.ハイ・レピティション・システム
10.フル・レインジ・ムーブメントとパーシャル・レインジ・ムーブメントの双方採用
11.フラッシング・システム
12.マッスル・プライオリティ・システム

 この他、ブリジットがダイエットを履行していることは言うまでもない。ブリジットのダイエットの特徴は、料理をあまり複雑にしてしまわずに、できるだけシンプルな形で食べられるものにする、ということだ。ステーキ、サラダ、果物、それに若干の穀類。ただし穀類は、朝食時にオート・ミールやコーン・フレークのようなものでとる。また、プロティン・パウダーをミルクなどに混ぜて飲むことも毎日欠かさない。

 さらに、ブリジットは、ジャーム・オイル(小麦胚芽油)の摂取の必要性を説く。激しいトレーニングに耐え得る体をつくり、女性としての生理機能を健康に保つには、ビタミンEなどが含まれているジャーム・オイルが有効であると考えている。

 ブリジットの計画的なダイエットもトレーニングに休みがあるのと同様、1週間に1回はこれを行わない日がある。トレーニングの休みに合わせて、通常、それは日曜日。この日、ブリジットは、気の向くままに食べたいものを食べ、リラックスするのだ。だから、私と例のパブに飲みに行くのも、たいていはこの日曜日というわけだ。時には、チョコレートを山ほど食べてしまったこともあると言う。

 私は、この話を聞いた時には、思わず笑ってしまったが、考えてみれば、ブリジットのあの厳しいトレーニングに象徴される完璧なまでの自己管理のエネルギーは、まさにこのチョコレートから出ていると言えそうである。休む時には、身も心も完全にリラックスさせ、はげむ時にはまことにハードなトレーニングをする。この気持の切り換え、自己管理は、見事と言う他ない。

 ブリジット・ギボンズという女性は一口に言って、どんな女性かということを私はよく聞かれるのだが、そんな時の私の答えは決まっている。「美しい女性だ」である。私は、全てをわかってこう答えるのだが、聞く方にとってみれば、これでは答えにならぬらしい。話し方はどうで、性格はどうで、といったふうな答えを期待するらしい。

 ブリジット・ギボンズという女性は頑張り屋と楽天家が見事に同居した女性だ。そして、また言わねばならぬ。「美しい女性だ」 

 <完>
月刊ボディビルディング1979年11月号

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