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★内外一流選手の食事作戦⑥★
マイク・メンツァーの食事法

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月刊ボディビルディング1979年7月号
掲載日:2018.12.01
健康体力研究所・野沢 秀雄

1.知性派ビルダーの代表選手

 テレビの連想ゲームではないけれど「マイク・メインツァー」という名前からあなたはどんなイメージを思い浮べるだろうか?

 「医学を勉強している大学院生でミスター・アメリカになった人」「ふだんはメガネをかけ、ひげを生やした高貴な顔」「すばらしく発達した脚の持主」「少ない労力と時間で最大の効果をあげる方法をあみだした人」「アナボリックステロイドの研究者」・・・さまざまな要素が浮んでくるが、共通して言えることは「頭のいい、勉強家のビルダー」というイメージだ。

 成功したボディビルダーを分類すると2つのタイプがある。

 一つはセルジオ・オリバー、ロビー・ロビンソン、ケン・ウォーラーのように、豪放で、先天的な体格と素質に恵まれ「がむしゃら」といっていいほどトレーニングをおこない、トップになったビルダーたちである。

 もう一つのタイプは正反対で、家柄は上流階級であるが、骨格が細く、どちらかというと理論的に体づくりを考え、コツコツ努力して大成したビルダーたちである。フランク・ゼーンやマイク・メンツァーらがこのタイプであることはいうまでもない。

 前者が野生動物のような強さを持ち実践型・体験優先型のビルダーとすれば、メンツァーらの後者は近代的な知性派であり、学問主導型のビルダーといえよう。

 もちろんこれからのボディビルには双方の要素が必要である。どんなに素質や体力に恵まれても、運動理論や栄養のことなど広く勉強しておかないと時代に遅れるし、逆にインテリビルダーで頭だけの勉強で勝てるわけがないだろう。「メンツァーの時代だ」とアメリカで広く言われているのはこのような理由のためである。
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2.試行錯誤をくりかえして

 アメリカの一流ビルダーの練習法やエピソードを満載した写真集「3REPSMORE」(あと3回反復しろ)によるとメンツァーがボディビルに遭遇したのは彼が12才のとき。書店に並べられていた「マッスルビルダー」誌をひらきスティーブ・リーブスの肉体美にガーンと強烈な印象を受けたという。このとき「よーし、オレもボディビルダーになろう!」と強く決意し、早速、腕立て伏せや懸垂を始めたわけだ。
 
 当時の彼は骨格がきゃしゃな少年で、ちょっとやそっとでは成果があがらなかった。しかし、10代の前半にトレーニングを開始したことが、将来の立派な体をつくる布石になったことはいうまでもない。

 「両親を説得してバーベルセットを購入したときは嬉しかった」と今でも彼が語っているのが面白い。

 今でこそミスター・アメリカ(1976年)、ミスター・ユニバース(1978年)と輝やかしいタイトルを得ているが、その道のりは決して一本調子で成果を順調にあげてきた、というわけではなく、次に述べるような失敗を何度もやってきた。ここがいかにも人間味あふれるところである。

 「はじめた当時、3セットずつやって効果が現われたので、6セットにすればもっと効果があるだろう」と体の一部分につき各24セットもあてて、へとへとになってのびてしまった、とか、「雑誌にのっている一流選手と同じトレーニングを週に6日、各3時間やって、全然効果があがらなかった」とさんざんな目にあったことを彼は語っている。おまけに1972年、ダンベルフライのトレーニング中に肩を痛めてしまい、22ヵ月間というもの、練習ができず、この間に体中に脂肪がついてしまい、「1週間に1日は全然食事をしないですごす」というきつい減量法をせざるを得なかったという。

 こんな苦労を味わい、ノーチラスマシーンの発明者アーサー・ジョーンズや、その実証者ケーシー・ビアターと親交を重ねて、ついに「最少の時間と労力で、最大の効果をあげること」を目的とした、“Heavy Duty System”(高負荷制トレーニング法)を完成させたのだ。

 8ミリフィルムで彼の方法をみたが一つ一つの動作をゆっくりていねいにおこない、とくにネガティブ・ワーク(下ろすときの動作)を大切にしていることがよくわかる。

3.メンツァー自身の食事法

 さてメンツァー自身が、私の食事法のアンケートに答えて、彼が実行している食事を公開してくれたので、食事分析をしてみよう。(別表参照)

 彼は表のようにふつうの練習時も、コンテストを目指しているとき、食事内容は共通で、一般の人とそれほど変っていないことがわかる。

 気付いたことをまとめてみよう。

①体重95kg・胸囲130cm・上腕囲52.7cm・前腕囲40.6cm・腹囲73.7cm・大腿囲68.6cm・カーフ47.0cmと体格が発表されているが、その割にカロリーが少ない。余分な脂肪がつかないように極力セーブしていることが分る内容だ。

②たんぱく質は体重1kg当り2gが確保されていて、さすがよく研究されている。他の一流選手と同様にプロティンパウダーを積極的に採用している。(ステロイドは禁じている)

③炭水化物は全体の46%で、これも体内で脂肪に変わるのを心配して、相当に減らしていることがわかる。

 ただフランク・ゼーンのように極端にカットするのでなく、練習中のエネルギーとして作用する必要最低限度は必ずとろうとしていることは好ましい。

④野菜・果物・ナッツ類・ヨーグルトなど微量栄養素に対する配慮もすぐれている。

 コーヒーやワインなど嗜好飲料も適度にとっており、「○○を食べてはいけない」と禁止するビルダーが多いなかで、彼は良識的に食生活をエンジョイしているようだ。

⑤総合評価として、日本人を基準にした判定表で点数をつけると85点となる。彼の体格や国情(脂肪が多くなりすぎる傾向)を考えると90~95点と考えてもさしつかえない内容である。
◆メンツァーの食事法◆

◆メンツァーの食事法◆

4.意外に食事量が少ない理由

 彼の食事内容をもとに、たんぱく質・脂肪・炭水化物の比率を計算すると38%・16%・46%になっている。

 彼は一般スポーツマンなら25%・10%・65%が適当と手紙に書いている。ボディビルダーの場合は、この比率よりもいっそう「高たんぱく・低炭水化物」になるように意識して食品を選ぶことが必要な条件といえよう。

 ところで、前号に紹介したロビー・ロビンソンと同様に、メンツァーの食事量はそれほど多くない。ロビンソンは「私の体はこの少量の食事だけで充分に維持できる」と語っているが、メンツアーも大体同じ意見のようだ。

 ただし、次のことを頭に入れて考慮することが大切である。

 ロビンソンにしろ、メンツァーにしろ、現在の体格や体型が完成して数年にもなり、したがって食事量のバランスがこの程度で成り立っている。つまり彼ら自身、トレーニングを始めて時期がそれほどたたず、ぐんぐん体が成長発達しているときは、とうていこんな少食ではなかったということだ。

 実際にメンツァーの体重の変化を調べると、ここ5年間くらい、100kgを前後していて、それほど体重がふえているわけではない。ロビンソンも同じである。

 このレベルに到着するまで、つまり体重が60kg、70kg・・・・・という時点ではカロリーもたんぱく質も、もっともっと多くとってゆかないと体は成長・発達してこないのだ。

 メンツァーもこのことに気付いており、「初級者で体が完成しつつある者は、いっそう多くカロリーやたんぱく質をとる必要がある」と手紙に補足的に述べている。

 したがって、他の選手の食事法を学ぶときに「ロビンソンはこれだけだから」「メンツァーがこの量だから」と単純に考えて、自分の量をやたら減らしてしまうことは賢明とはいえないだろう。その選手の体がどのレベルになっているかを判断し、同時に自分の状態や年令などを考慮して、適当な食事量を決めるのが正しいやり方だ。

 初級者でろくな食事を食べていない人が多いが、(たとえば昼食に菓子パンとコーラを食べて、たんぱく質はほとんどない食事が意外に多い)こんな人は食事法にもっと関心をむけて、よい内容の食品をたくさん食べていただきたい。

 その反面、ベテラン選手にみられることだが、「年令的にも体力的にも、体の発達状況からみても、すでに飽和状態に達している」と思われるのに、「栄養をたっぷりとればいいだろう」とやたらごちそうやプロティン製品を大食する例も多い。10代や20代のビルダーなら、たんぱく質・ビタミン・ミネラルなど、牛のように逞しくどんどん食べていいが、ピークに達している人なら、かえって胃腸や肝臓・腎臓などに負担をかけるので得策ではない。

 このような人はロビンソンやメンツァーにならって「少な目に食べる」ということを実行してみてはどうだろうか?
月刊ボディビルディング1979年7月号

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