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◆ボディビルディングの革命理論<その11>◆
筋力トレーニングの要因

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月刊ボディビルディング1979年12月号
掲載日:2018.09.27
国立競技場指導係主任 矢野 雅知
 筋肉における大きな論争課題となっているものに「ストレングス・カーブ(筋力曲線)」がある。

 ストレングス・カーブを得ることは簡単である。ベンチ・プレスをやるときに、可動範囲全般にわたって、グラフに各10ポイントの力の大きさを記せば、そのリフトでのストレングス・カーブを得ることができる。

 さて、疑問点とは次のことである。ストレングス・カーブで表わされるように、各ポジションでの力の比率に合った筋力を獲得することが、つまり弱いポジションは弱くても、全体の力の比率を大きくすることが、結果として全体の筋力を増大するために、より有利なものになるのだろうか?

 あるいは、どんなポジションであろうと、可動範囲全般にわたって大きな力を獲得することが、つまり、弱いポジションも強くすることが、結果として全体の筋力を高めることになるのだろうか?

 どのポジションにおいても、筋肉のサイズに見合っただけの筋力を獲得しなければならないというのであれば、ストレングス・カーブに表わされる各ポジションの比率に合った筋力が十分に発揮されるだけで、より重いウェイトを挙上できることになる。

 しかし、筋肉のサイズに比例することなく、あるポジションで著しい筋力の向上が起ったとしたら、それはより良いものとなる。なぜなら、筋肉のサイズが大きくなるということは、体重が増えることになり、スーパー・ヘビー級以外は体重が増えることは好ましくない。つまり、体重は変わらなくとも、筋肉のサイズからみて、当然弱いポジションであるところが強ければ、それだけ有利となるからだ。

 まず、ベンチ・プレスなどのリフティング動作に、最もマッチした筋肉の働きに伴うストレングス・カーブを向上させることがベターであるように思われる。つまり,ベンチ・プレスのリフティング能力を大きくするには、通常のベンチ・プレスを行なうのが、やはり基本となるのである。

 だが、筋肉のサイズを大きくすることなしに、リフティング能力が向上する多くのファクターをすでに挙げたが、リフティング動作における各ポジションで、できるだけ大きな筋力を持つことができれば、それは全体の挙上能力を向上するためには有利となる。

 つまり、リフターは、弱いポジションでは動作のスピードは鈍っても、強いポジションでは、ウェイトを加速して持ち挙げられるので、最も弱いポジションでも、それ以上のウェイトを挙上することができる。言いかえれば、ストレングス・カーブで示されるような弱いポジションでも、強い力を獲得すれば、同じ筋肉のサイズであっても加速して持ち挙げられるので、さらに重いウェイトをリフティングすることができることになるからである。

 このことは、パーシャル・レインジ・エクササイズを行なうことは、筋力にどういった影響を与えるのか、という疑問を導き出す。

 パーシャル・レインジの運動は、腱と靭帯を非常に強化する。それはサポーティング構造を強化することになるのであるから、リフターはすべて行なうべきものとなる。

 しかしながら、パーシャル・レインジの運動は、フル・レインジのエクササイズのように、筋肉のもつ能力の最大限まで筋力をつくるほど効果的ではない。つまり、各ポジションでの最大能力まで筋力を高めることはないのである。だが、パーシャル・レインジ・エクササイズの利点は、フル・レインジ・エクササイズで扱えるウェイトよりも、もっと重いウェイトを使用することができる、ということである。

 これは、筋肉は距離が短いほど大きな仕事ができるからである。すなわち可動範囲が小さいほど、大きなウェイトを持てるということである。ついでながら、このことはテコにおける変化でもある。もし、テコの働きが正確に同じであるとしても、ショート・レインジの動作は、フル・レインジの動作よりも、もっと大きな力を発揮することができる。
 

 筋肉にとって、さらに重いウェイトでのパーシャル・レインジのエクササイズを行なうことと、それよりは当然扱える重量は少なくなるが、フル・レインジのエクササイズを行なうことでは、どちらが強烈に筋肉に刺激を与えるのか、ということは、まだ議論の余地がある問題点であろう。

 パーシャル・レインジの運動を行なうには、各ポジションにおける最大の重量を用いることになる。ベンチ・プレスにおいて、胸の上から持ち挙げるところでは、非常に大きな力を発揮することがきる。中間点ではそれよりも重量は小さくなり、持ち挙げたところのポジションでは、再び大きなウェイトを用いて行なう。

 欠点は、パーシャル・レインジのトレーニングばかり行なっていると、それ特有のトレーニングとなってしまうことである。たしかに、パーシャル・レインジ・エクササイズでのリフティング能力は向上するが、フル・レインジ・エクササイズの能力は低下してしまう。というのは、パーシャル・ムーブメントのベストの効果は、パーシャル・ムーブメントでの能力をつくり上げることになるからである。

 そこで、リフターは実際にリフティングできるよりも、さらに重いウェイトを用いることになる。そして、トレーニング・パートナーにアシストしてもらいながら、1回ごとに全動作を完全に行なうようにして、可動範囲のすべてのポジションで、できるだけハードに筋肉を刺激することがベストの結果を生むことになるはずである。(このメソッドについては、このシリーズで詳しく述べた)

 ここでもう一度指摘しておきたいことは、この種のメソッドが全般的には、まだあまり試みられていないということである。

 ジム・ウイリアムスの名前をご存知の方も多いであろう。彼は通常のトレーニングでは、ベンチ・プレスのベスト記録よりも45~70kg以上もあるウェイトを用いていた。まず、自分の力でバーを胸におろしてゆき、持ち挙げるときには、バーが動き続けるに十分なだけの力をアシスタントが加えるようにして、ウイリアムスは、全動作をできるだけ大きな力を出して行なった。ともかく、これによって彼は、ベンチ・プレスに304kgという、とてつもない記録を樹立したのである。

筋肉のサイズをつくる

 これは、おそらく筋力トレーニングにおける最も論争のマトとなるものであろう。ベンチ・プレスやスクワットなどの基礎種目におけるベストのメソッドとは何か?

 筋肉のサイズを大きくすることは、より大きなリフティングを可能にするのだろうか?

 ほとんどのリフターは、その種目のトレーニングを週2~3回行なっている。そして、リフティング能力を向上させるベストの方法は、その種目自身を行なうことであると考えている。こういった考え方を否定することは難しい。それを否定できる根拠がないからである。だが、その種目のメソッドを続けていて、筋肉の反応が小さくなり筋力レベルがプラトー(停滞)になってしまったときに、いったいどうしたらよいのだろう。

 ベンチ・プレスを例に挙げよう。君は数年間というものベンチ・プレスをやってきた。最初の頃は発達が著しくベンチ・プレスの効力が非常に大きかったのだが、この数ヵ月間というものは、ほとんど発達を示さなくなった。そこで君は、パーシャル・レインジ・エクササイズを用いて、各ポジションに強い負荷をかけるようにし、同時にインクライン・ベンチ・プレスやディップスも行なうようにした。

 こうして再び筋肉の発達が始まったのだが、それも長い期間は続かなかった。さて、君はどうする?再び他のメソッドを試みるのか、それともギブ・アップするのか。

 こういう時期こそ、バルクとパワー・アップを図るときである。「バルクとパワー・アップの要約」で述べたアイソレーション・エクササイズによって、筋肉のサイズを大きくすることが1つの解決法になるだろう。

 忘れてならないことは、アイソレーション・エクササイズを用いても、ベンチ・プレスという基本種目のトレーニングは継続しなくてはならないということである。それは,神経と筋肉のコーディネーションを維持するために非常に重要であるからだ。

 それに、アイソレーション・エクササイズを行なっても、それでは十分に刺激を受けない小さな筋線維がある。基本種目というものは、その筋群全体を刺激するので、見落されている小さなところにも効果を及ぼすと考えられているので、これは省いてはならないのである。事実、基本種目をまったくやらないで成功したというルーティーンは、ほとんどない。

 基本種目のリフティングは最初に行なうようにする。そのあとで、アイソレーション・エクササイズを行なう。もしアイソレーション・エクササイズからトレーニングを始めると、基本種目を行なうためのコーディネーションが身につかないだろう。


 現在の世界的なリフターは、非常に引きしまった筋肉を持っている。イワンチェコ、ジェーソー、ジョーンズ等みな同じである。フランコ・コロンブあたりはその最たるものであろう。リフターとして、コロンブのように見えることは非常に好ましいことである。というのは、リフターは体重制であるから、できるだけ余分な皮下脂肪はつけない方が良いからである。

 脂肪はテコ作用を助ける・・・・・etcというようなタワ言をいう人もいるが、決して耳を傾けてはいけない。最も素晴らしい今日のリフターは、脂ぎった男ではない。体重制限のないスーパーヘビー級にしても,過剰な脂肪をもた

 ないようになってきた。そして将来はますますその傾向が強くなるだろう。制限体重内で、できるだけ多くの筋肉をつけるために、多くのトップ・リフターはボディビルダーのように筋肉が浮き上っている。これは、将来には当然のことになるだろう。

 それで、能力いっぱいまでリフティングを向上させようとすれば、強固な筋肉を形成するために、トレーニングと食事の両者を適切に関連づけるようにしなくてはなるまい。


 よく理解されてないもう1つのことは、直接、筋肉の発達を刺激するという、筋肉の収縮によって生じる疲労物質についてのことである。

 これについてはすでに何度も述べたように、トレーニング終了後に、ただちにランニングや次のボディ・パートの運動に移ったりすると、疲労物質が除去されてしまうから、筋肉のサイズを大きくするという面からみると不利となる。

 また、からだの小さな筋肉の部位に疲労物質を強烈に生み出すことは比較的容易であるが、ほとんどの人にとって、一度にからだ全体に疲労物質をこのレベルにまで生み出すことは不可能である。

 このことをスクワットを例にとって説明すると、疲労物質はスクワットに最も適した筋肉に発達する、ということである。それは同時に、神経システムもそのリフティングに適したパターンで発達するということでもある。

 しかし、からだの全体的に異なったリフティングをやったとしたら、最初に行なった筋群から疲労物質が部分的に除去されてしまう。それゆえ、筋肉の発達が停滞したり、ゆっくりしたものとなってしまう。

 あるリフターは,デッド・リフトとベンチ・プレスをスーパー・セットに組んでやっている。たしかにこれは、非常に高いコンディションを与えるけれども、筋肉の発達ということでは、最も悪いコンビネーションである。それはデッド・リフトとベンチ・プレスでは、完全に異なった筋肉部位を働かせるからである。こういったメソッドで成功したというのであるならば、そのリフターはかなりイージー・ゲイナーなのであろう。だが、地方レベルでならよいが、決して国際レベルには到達できないであろう。


 食事は、リフター各人各様に最も適したものでなくてはならない。将来の最も進歩したリフターが、どういった食事を摂っているかを正確に予想することはできない。これは現在、驚くべき進歩をとげているからである。だが、疑いもなく、それには炭水化物、プロティン、脂肪は含まれるであろう。しかしながら、プロティンは現在考えられているよりも、もっと量は少なくなるかもしれない。

 いずれにせよ、能力の最大限まで筋力を引き出すには、食事はきわめて大切なファクターとなるであろう。


 さて将来、リフターが1000ポンドのベンチ・プレスに挑戦するような時代が来るとき、彼らは、果たしてどのようなトレーニングを行なっているのであろうか。今まで論じてきたことからここでまとめて推論してみると、それは次のようなものとなる。

 最初にベンチ・プレス、スクワットのような基本種目のリフティングを行なう。それは当然、ヘビー・ウェイトを用いた低回数制のものである。これは基本種目のリフティングにおけるコーディネーションを高めることから、不可欠のものとなる。

 そのあとで、何かアシスタントを必要とするエクササイズを行なう。これによって筋肉のサイズを大きくして、パワー・アップをはかる。筋量の増加は、つねにそれに見合った以上の筋力を発揮できるように、基本種目のリフティングで、コーディネーションを高めていかなくてはならない。これは、可動範囲すべてのポジションにわたって、できるだけ1回ごとにハードにトレーニングすることになる。

 あるいは、パーシャル・レインジのエクササイズを用いて、非常に重いウェイトを扱うことによって、筋肉の各ポジションごとに強い刺激を与え、サポーティング構造を強化するようにする。そして、最大重量の試技を行なうときには、メンタルな要素がきわめて大きくなるので、精神を集中して、最大の能力を発揮できるようにしておかなくてはならない。

 セット間の休息は、通常のレベルかそれに近い呼吸に回復するまでとし、すべての筋線維を十二分に動員するようにしなくてはならない。しかし、トレーニングの量は、筋肉に最大の負荷を与える最少の量にとどめなくてはならない。その量は、各人によって個人差があるので、各自で見い出さねばならないが、必要以上にエネルギーを消耗することだけは避けなくてはならない。大きな筋力をつくりあげるためには、できるだけ多くの体エネルギーを残さなくてはならないからである。全エネルギーの80%が、からだの維持および超回復に用いられているのであるから、余分なエネルギー消費は、大きな超回復を引き起さない要因となってしまう。したがって、エネルギーの供給源となる食事は、トレーニングと密接な関係が生じてくる。注意すべきことは、炭水化物は全般的に除外してはならないということである。そうしないと、十分なハード・トレーニングを行なうためのエネルギーが供給されないからである。


 以上のようなことであるが、この他に、新しいマシーンの開発やテクニックの向上なども将来のリフターが加味してくれるだろうし、神経システムに影響を与える薬物の問題等、もう少し論じておきたいこともあるが、これは省くことにした。いずれにせよ、ルイス・シアー、ポール・アンダーソンといった、脂肪がのったからだをしておりながら、ズバ抜けた力技を示したストロング・スターの座は、将来は脂肪のあまりない、筋肉質のビルダー・タイプの中から輩出するようになってくると思われるので、ビルダー諸兄は、さらに一段と筋力向上に意を注いでもらいたい。そういった意味でも、チャック・サイプスやフランコ・コロンブなどは歴史に残る大スターであろうし我が国からもかっての若木竹丸氏のように、肉体だけではなく筋力においても世界的レベルに到達するような大ビルダーが出現してもらいたいと思う。

 (おわり)
月刊ボディビルディング1979年12月号

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