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トニー・パガーノが提唱する-----
たった週1回のトレーニングで大きな効果をあげる方法

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月刊ボディビルディング1978年10月号
掲載日:2018.08.10
国立競技場指導係主任 矢野 雅知

スキー・キチガイの悩み

 私事で恐縮だが,私は毎年,今頃になると,初雪の便りを今か今かと首を長くして待つスキー・キチガイの1人である。スキー・シーズンともなれば鼻先にツララを垂らして滑っている夢を見るほどで,出来うれば,シーズン中,ズーッとスキー場で生活したいと思っている。

 残念ながら,暇はあっても軍資金が乏しいために,やむなく都会の騒音の中でくすぶり続けているのが実情である。それでも毎シーズン,なんとかやりくりして40日間近くは滑るので,必ずといってよいほど,シーズン中は体重がガクッと落ち込んでしまう。それもムッチリとたまった皮下脂肪が減ってくれるのなら一挙両得だが,明らかに筋肉が削りとられてしまう。

 つまり,春夏とトレーニングを続けて,秋頃になってようやく肩や上腕や大腿が盛り上がってきたな,と思ったら,ひと冬おえると,まったく“ただの人”にもどってしまうのである。

 この点について何とかならないものかと,スキー場に行ったときは,せめて現状を維持しようと,風呂に入りながらアイソメトリック・トレーニングなどを試みたが,ほとんど救いとはならなかった。

 かといって,プッシュ・アップやディップスをやろうと思っても,1日に9時間近くも滑っているのだから,私のようなトシになると,それだけでかなり疲れてしまって,その上,さらにからだにムチ打ってトレーニングしようなんて気は起こらない。

 それでは,東京にもどったとき,うんとバーベルを持ち上げて以前のレベルにもどそうと考えてもみるが,すぐまたゲレンデが恋しくなって,どうもうまくいかない。うまくいかないからといって,こんな状態をこれから先も続けているのでは,からだのコンディションはアップ・ダウン,アップ・ダウンをくり返していくだけで,いつまでたっても“元の木阿弥”である。

 1週間に1度のトレーニングで,わずかでも確実にコンディションが向上していく方法があれば,春夏秋冬,逞しく発達しつづけることが可能となり,もしかしたら,10年後にはミスター・オリンピアにでも挑戦できるようになるかも知れないのだ。だが,現実は……そうは甘くない。

 1週間に1度ぐらいのトレーニングでは,せいぜい現状維持が精一杯。ましてや,朝から晩まで滑りまくって,グッタリしているようでは,疲労が大きすぎて現状維持もおぼつかない。何かウマイ方法はないだろうか。

パガーノが提唱する週1回の練習で確実に効果をあげる方法

 わずかの刺激でも,グングン発達していく初心者ならともかく,長い年月トレーニングをつづけて,急激な発達はあまりのぞめないようなものには,1週間に1回程度のトレーニングで,大きな効果を得ることなどとても「無理!」と思うに違いない。

 ところがである。ここにトニー・パガーノなる御仁がいて

 「無理なことなどあるものか。現にこの私は,週1回のトレーニングで,大きな効果を上げておる」

 と主張する。

 しかも彼は「それによって,物凄い体格に発達させることも可能だ!」とさえ言い切っているのだ。

 「私を信じよ。それは絶対に事実なのだから………」

 と,ここまで言うなら,あるいは彼の言葉に耳を傾ける価値があるやも知れぬ。たとえ,それが現実とかけ離れたものであったとしても,少なくとも心理的な救いにもなろうし,それならそれで効果もあるだろう。そう思って彼の論旨を紹介してみることにした。

 以下,パガーノ氏の言葉である。気楽に読んでいただきたい。

  ――×――×――×――

 まず,私が諸君に言っておきたいことは,1週間にたった1回だけのトレーニングに熱中するだけで,天から授かった我々の肉体は,必ず発達していくということである。

 私自身,週1回のトレーニングを実施して,大きな効果を上げているし,諸君も,むろん同様の効果が得られるものと信じている。

 さて,私のトレーニングの目的には次のような3つのファクターがある。

①ストレングス――筋力の獲得
②健康とスタミナ
③バルクとデフィニション

 これらのファクターを十分に発達させるためには,1週間のうち,1日だけはトレーニングに集中しなくてはならない。ゲラゲラ笑いながらトレーニングするのではない。とにかく,この1日だけはトレーニングに全力を注ぐのである。

 私の場合,この1回のトレーニングに2時間を費やしている。これだけで先にあげた3つのファクターのすべてを十分に身につけようというわけである。

 では,それぞれの目的を達成していくための秘伝(ちとオーバーかな?)なるものを伝授しよう。

◇ストレングス――筋力の獲得

 筋力を養なうためには使用重量が大きく影響する。私は,私の最大負荷,すなわち正確な動作でたった1回しか持ち上げることのできない重量よりもさらに2.5kg重いウェイトを使用する。たとえ,わずか2.5kgであっても,自分のベストよりも重いものであるから,完全な動作ではウェイトを扱うことがむづかしいが,できる限り動作はストリクト・スタイルで行うように努力するのである。

 この方法で,諸君はたった3回やるだけでよい。1セット3回ではない。1セット1回の計3回持ち上げるのである。

 バーベル・カールを例にとって説明しよう。諸君が現在,ストリクト・スタイルで50kgのバーベルを1回持ち上げられるとしよう。つまり,50kgが君にとっての最大負荷だとすると,これに2.5kg加えて52.5kgのウェイトを使用する。これで全力をしぼって1回だけカールを行う。

 とにかく最大負荷を越えているのだから,1回持ち上げるだけで,全力をつくしてもオール・アウトにまで追い込まれてしまうだろう。くり返すが,このときの動作は,できるだけチーティング・スタイルを用いないで,正確な動作で行うようにしなくては効果がなくなってしまう。

 次に君は,1分間の休息をとる。そして再びバーベル・カールを行う。それからもう一度,1分間の休息をとって3セット目を行う。これでバーベル・カールは終了である。

 最大負荷より2.5kg重いウェイトを用いる,というところが,このトレーニング・メソッドのキーポイントなのである。わずか2.5kg越えているということは,決して君が持ち上げられないウェイトではない,ということである。つまり,数週間以内で,君は52.5kgのバーベル・カールが出来るようになるということである。

 だが,諸君がベスト記録よりも2.5kg以上――すなわち,5kgとか10kgも重いウェイトを用いたとしたら,とてもまともには出来ないので,必ず大きなチーティング動作をともなってしまって,主働筋に十分に力が集中されないことになってしまう。それに,あまりに重いウェイトならば「よーし,いっちょうやってやろうッ!」なんて気を起こす前に「こりゃとても持ち上がらんヮ!」という気が先に立って,とてもダメであろう。

 ちょっとここで,私は若い諸君に申し述べておきたいことがある。

 ウェイト・トレーニングのエライ先生方の中には「あなたの80%の力でトレーニングをやりなさい」という人がいる。ベストの80%の力を発揮するだけで,しばしばオール・アウトになってしまう場合もある。

 だが,最大,もしくは最大能力を越える力を発揮しなくては筋力を最大限まで発達させようという目的のためには,全てのトレーニングがムダになってしまう,ということを,私はヨーク認識しているのである。
[バーベル・カールの最大重量より2.5kg重くして,1回×3セット行うだけでよい。]

[バーベル・カールの最大重量より2.5kg重くして,1回×3セット行うだけでよい。]

◇健康とスタミナ

 健康とスタミナ(持久力)のためのトレーニングは,我々にとって,まず第一に必要とされるものである。健康であるにこしたことはない。いや,誰でも健康であるべきだ。そして,心肺機能の向上は,全身持久力を向上させるし,健康にも大きな影響力を与えるといわれている。

 そこで,私が推薦するスタミナを向上させ,健康を増進させるためのベストの運動,それはスクワットである。

 スクワットといっても,重さ300gものバーベルを背中にかついでやるヘビー・スクワットのことではない。何も背負わずに,ノー・ウェイトでやるスクワットがよろしい。つまり,フリー・ハンド・スクワット(ヒンズー・スクワット)である。

 そして,それをスーパー・ハイ・レピティションで,およそ1時間もの間つづけるのである。間違わないでほしい。1分間ではない,1時間である。スタミナを向上させようというのに,「ワッショイ!」の一声かけて「ハイお疲れさんッ」ていうんじゃ,とてもとても。1時間はみっちりとやらねばなるまい。

 とにかく,このスーパー・ハイ・レピティションのフリー・ハンド・スクワットは,心肺機能にはきわめて有効である。諸君のスタミナは間違いなく向上する。しかも,これは外に出て運動する必要もないし,道具もいらず,場所もとらない。炎天下のトラックを走るだけがスタミナを向上させると思ったら大間違いである。

 ただし,ここで注意しておきたいことは,始めっからいきなり連続して1時間ものスクワットをやろうなんて気を起こさないことだ。

 まず,最初の段階では10~20回ほどやっては休みをとりながら,1時間続けていく。そして,5回ずつ増やしていきながら,最終的にはノン・ステップで1時間のスクワットができるようにしていくのがよかろう。
[フリー・ハンド・スクワット(ヒンズー・スクワット)]

[フリー・ハンド・スクワット(ヒンズー・スクワット)]

◇バルクとデフィニション

 では,もう1つの目的であるバルクをつけ,デフィニションをよくして,逞しい体格をつくり上げるためのトレーニング法を紹介しよう。

 この目的のためのトレーニングでは2つの条件,つまりレピティションとセット間の休息について注意しなくてはならない。

 諸君の採用すべきレピティションは1セット15~20回である。それ以上でも以下でもいけない。そして,セット間の休息は45~60秒間である。これもそれ以上でも以下でもいけない。このハイ・レピティションと短いセット間の休息によるトレーニングが,大きくてシャープで,素晴らしいデフィニションのある筋肉をつくるうえで,ものすごい効果がある。

 私の場合は,セット間の休息を短縮して,トレーニングのスピード化をはかるために,セットごとに2.5~5kgほど減らしていくウェイト・リダクション・システムを採用している。

 たとえば,スタンディング・プレスでは,最初のセットは80kgで15回行なったら,2セット目は75kgに減らして同じく15回行う。3セット目は,さらに70kgに減らして15回やる,というようにして,これを6セットを越えるまでつづけるのである。

 もし,80kgのウェイトのままで,スタンディング・プレスを6セットつづけようとすると,もう1つの条件である“短いセット間休息”がむづかしくなってしまう。あるいは短いセット間休息が満たせたとしても,今度は15~20回という“ハイ・レピティション”の条件の方が,6セット目ぐらいにはとてもムリになってしまう。

 また,このトレーニング・システムは,とにかく筋肉を太くして,同時に皮下脂肪を減少させるという点でも,大きな効果をもたらしてくれよう。

 以上,私の推薦する週1トレーニーのためのシステムは,だいたいおわかりいただけたであろう。

 では,筋力の養成,バルクとデフィニションの獲得,スタミナの向上といった。3つのファクターを満足させるためには,週1回のトレーニングをどのように行なっていったらよいのだろうか?

 この点については,諸君の好きなようにやってもらってもかまわない。週1回のトレーニングで,3つのファクターを同時に満足させられるようにコースを組みたててもよいし,どれか1つのファクターに集中した方法を採用してもよいわけである。

 参考までに私の行なっている方法を紹介しておこう。

 私は毎週1回,2時間のトレーニングを行なっているが,前半の1時間は持久力のトレーニング,後半の1時間はバルクとデフィニションのトレーニングをやる。そして次の週は,前半の1時間を筋力トレーニングとし,後半はバルクとデフィニションのためのトレーニングとする。こうして前半の1時間は,持久力と筋力のトレーニングを1週間ごとに交互にくり返し,後半は毎週バルクとデフィニションのためのトレーニング,すなわちボディビルディングを全力で行うというわけである。

 ところで諸君。私は週1回のトレーニングを強制するつもりはないのだがしかし,中途半端なトレーニングをダラダラと何の進歩もみることなく続けているような人たちは,改めて週1回のトレーニングというものについて考え直してみることも必要ではないかと思う。そこで,この週1回のトレーニングについて,メリット,デメリットをつぎに挙げてみよう。

<デメリット>
①ミスター・ユニバースのような体格や,世界的なウェイトリフターのようには発達させることが出来ない。

<メリット>
①週1回のトレーニングなので,残りの6日間は自由だし,楽しい週末を迎えることもできる。

②1回のトレーニングに,いくらエネルギーを消耗しても,残りの6日間で充分これを補充できる。

③週1回だと,トレーニングが待ちどおしくなり,実に楽しく充実したトレーニングができる。それは趣味にさえなって,毎日いやいやからだにムチ打ってトレーニングするといった苦痛がなくなる。

④週1回のトレーニングなら,少しくらいの旅行に行っても,トレーニングに何の支障もなく,心の底から旅行を楽しむことができる。

⑤疲労が少なく健康的である。私の例を述べると,週に4日,あるいは5日のトレーニングをやっていたときは(恐らく疲労からなのだろうが)つねにカゼ気味であった。週に6日間のトレーニングやっていたときは翌日は小さな手さげカバンを持ち歩くことさえ大義であった。これなどは明らかにオーバー・ワークが原因であったと思われる。

⑥思考力がよりシャープになる。睡眠不足,あるいは過度にトレーニングした翌日というものは,頭がボーッとして,考えるのさえイヤになる。これは,肉体がもっと休養を必要としている証拠である。そんな状態でトレーニングをやったとしても,肉体はおろか,精神まで不活発になってボケてしまうかもしれない。

⑦仕事の効率がさらにアップするだろう。なぜなら,より多くの時間がとれるし,エネルギーもありあまっているからだ。だから,仕事に集中することができる。

⑧友人のサークルも増えるだろう。仲間と楽しむ時間もふえて,様々なことに興味をもつことができるし,新たな趣味をもつこともできよう。ボディビルディング以外のことを知って,改めて自分自身を見直すことができるかもしれない……

 まあ,ザッと思いつくだけで,これだけのメリットがあるのに対して,デメリットはほとんどない。

 ことわっておくが,私がボディビルディングに反対しているなどとは早がってんしないでもらいたい。私はボディビルディングが好きだし,これからも愛しつづけるだろう。私はつねに,逞しい肉体と筋力の世界チャンピオンを高く評価しており,彼らは世界で最も偉大な競技者であるとさえ思っている。他のスポーツで抜きんでるよりもミスター・ユニバースになろうとする方が,さらにハードなトレーニングをつんで生活の全てを集中させなくては,とても勝利を得られないからであ

 ともかく,私の提唱する週1回のハード・トレーニングを,チャンスがあったらぜひ一度ためしてもらいたいと思う。そして,自分自身を改めて見直してもらいたいと思う。

  ――×――×――×――

 以上がパガーノ氏の言葉であるが,気楽に読んでいただけたであろうか。真剣に読んだ方は,どうぞ真剣にパガーノ氏に見ならって,週1回のトレーニングに切り替えてみるのもよいし,あくまで気楽な方は自分の現在のトレーニング方法を信じて続けていかれるのもいいだろう。

 所詮,トレーニングというものは,自ら試行錯誤しながら,自分に最も適した方法を見つけていかなくてはならないものなのであるから……。
月刊ボディビルディング1978年10月号

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