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★内外一流選手の食事作戦⑧★
“超人ハルク”大ヒットで人気急上昇
ルイ・フェリーノの食事法

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月刊ボディビルディング1979年9月号
掲載日:2018.04.02
健康体力研究所・野沢 秀雄

1.超ジャイアンツ・“ビッグ・ルイ”

 先月号に身長わずか157cmながらすばらしい筋肉をつくったパディラの食事法を紹介したので、今月は対照的に大男も大男、身長約2メートル、体重122キロのルイ・フェリーノの食事法を検討することにしよう。
 ご存知のようにTV映画「ハルク」の主役を演じて、アメリカはもちろん世界的に「すごい体の持主」として知られている。
ボディビルの普及に役立っていることはいうまでもない。
 「ハルク」はアメリカの人気まんがで、これを映画化する企画は1977年の初めに立てられた。主役を誰にするか映画社のスカウトたちがいちばん頭を悩ませた点だ。
というのは「身長7フィート(212cm)・1000ポンド(453kg)の怪物人間に変身する」というまんがの設定になっており並の俳優やボディビルダーではとうていイメージにあわない。
 ニューヨーク住いのフェリーノを呼び寄せ、ゴールドジムで彼の体とトレーニングを見せたのは、ゴールドジムの経営者ケンスプラーグ氏であった。
「おう、彼こそこの役にぴったりだ」とその場で決定され、かくて撮影にすぐ入ることになった。当時彼は1977年度ミスター・オリンピアに出場のため連日きびしいハード・トレーニングに励んでいた。
「コンテストでシュワルツェネガーを破ることも念願だが、自分は25才でまだ若い。ボディビルダーに活躍の場が開かれるのなら、それもチャンスだ。コンテストは後の機会にゆずり、映画に出演しよう」と喜んで大役を演ずることになったわけである。
その年の11月4日、CBS系列(アメリカ3大ネットワークの一つ)で放映開始された「超人ハルク」は予想以上の好視聴率をあげた。
「おとな向けの物語として製作したんだが、子供はもちろん、女性やお年寄りまで、TVにかじりついてみてくれる」と担当者は大喜び。
かくて1978年、1979年とシリーズが延長され、巨大漢フェリーノはどこにいっても大へんなモテようだという。
 「ハルク貯金箱」「ハルクカレンダー」「ハルクゲーム」「ハルク人形」とキャラクター製品も多数発売され、今アメリカでは「シュワルツェネガーを追いこして人気No.1ビルダー」というもっぱらの評判だ。

2.代役が3人いるわけは?

 外国雑誌の「マッスルマグ」1979年3月号と「マッスルビルダー」1979年6月号に相ついで「ハルク」の特集記事がのせられている。
 まず映画の撮影がハード・スケジュールで午前4時半に起床し、スタジオ入りし、メイキャップ。
あの緑色のドーラン(フランス製)を全身に均一に塗り、白色のコンタクトレンズを目に入れ、顔にはバターのような油性の塗料をぬる。
 頭髪は650ドル(13万円)もするカツラでボサボサの感じをつけ、さらにお面の鼻と顔をつけて完成。ここまでにたっぷり2時間半を要する。
 「森で格闘するシーンをとりたい」と監督がいい、わずか数秒のシーンなのにロッキー山のふもとまでゆき、数時間も反復する、といった大へんなこりようである。
(アメリカ映画はこれだけエネルギーと費用をかけるから、迫真力がちがうわけだ)
 「ハルク」の役を演じるのはフェリーノのほかにマニュエル・ペリー(ミスター・アメリカ・コンテストに優勝「ケンタッキーフライドムービー」に出演し話題)、ビル・ナッコルス、ペーター・グリムコフスキー(この2人もミスター・アメリカ・コンテストに常に上位入賞)と3名の代役(スタンドイン)がいて、入れかわり立ちかわり登場している。
もちろんこの3名も緑色のドーランを全身に塗られて、フェリ一ノと同じメイキャップをおこなう。
 どの場面で起用されるかというと、雑誌「ポパイ」には「遠景の場面」と紹介されているが、実はそうでなく、激しいなぐりあいや格闘でころげまわるようなシーンに、フェリーノに代って出演している。
 どうしてスタンドインを使うかというと、「フェリーノの体が大切でケガをしたら大変」という理由もあるが、フェリーノは小さい頃体が弱く、細くて病気ばかりしていた。
そのとき医薬品や注射を打ちすぎて、「耳が遠い」というハンディキャップを負う身になってしまったのだ。
そのため相手の話す言葉がききとれなかったり、逆に彼の発音が明瞭でなく、話をすることに劣等感を持っていたのだ。
 「カット!」と映画の撮影中に、監督が俳優やスタッフに声をかけるが、耳が不自由な彼には、格闘中は夢中なので「カット!」という声がきこえない。
それで特にこんな場面を代役の3人にかわるがわる演じてもらっているというのが真相だ。
 考えてみると、フェリーノは小さい頃の苦難を乗りこえて、よくぞこの体と地位を得たものだと感心する。
いや劣等感がこんなに強かったから、よけいにボディビルに熱心に打ちこみ、成功したのだろう。
 「ハルク」の撮影が夜10時までかかることもある。「そんな日でも帰宅後黙々とトレーニングを深夜までやります。
そうしないと筋肉がおちて、みんなをがっかりさせるから」と彼は語っている。すごい精神力である。

3.フェリーノ自身の食事法

 ではいよいよ本論の食事法を述べよう。体が大きいことや、筋肉のバルクを維持してゆく必要上、かなり多い量を毎日食べているのは事実である。
 今から約1年前に、スーという名の美しい奥さんと結婚しており、スーは「彼に空腹を感じさせてはいけない」とたいへん気を使っている。
ルイの朝食は「生オレンジジュースたっぷりと目玉焼・コーヒー」といったところだが、なんとフライパンに6個の玉子を同時に料理して食べるのだから驚きである。
 次表に示すのは本誌1973年6月号に高山勝一郎さんが訳して紹介した食事法を再録したものだ。
当時彼は21才で「なにがなんでもバルク・アップして体を大きくしたい」と必死になっていた時期である。
身長・体重は現在とほとんど変らず、胸囲145cm、上腕囲56cm、大腿囲74cmという数字も、当時とほぼ変っていない。これだけの体を少しも衰えさせず、維持していることが立派である。
<フェリーノの食事法>(5年前)
記事画像1
[スー夫人のつくった卵6個のジャンボ目玉焼を食べるフェリーノ]

[スー夫人のつくった卵6個のジャンボ目玉焼を食べるフェリーノ]

[5年前のルイ・フェリーノ]

[5年前のルイ・フェリーノ]

<考察>
①シュワルツェネガーが全盛期のころ「5000カロリー・たんぱく質500gとることを目標にしている」と語り、評判になったことがある。ちょうどフェリーノの食事内容がこの数字に近い。
②1日に多いときは9食、少なくとも5食は食べる。牛乳は1日に2~3ℓ、卵は1日に少なくとも8個、もしくはそれ以上とる――と当時フェリーノは語っている。基本的には現在も変っていない。
③たんぱく質は体重1キロ当り約4gに達しており、これはかなり過剰である。「コレステロールなんか平気。トレーニングを激しくやれば消耗されるさ」と語っているが、必要以上に無理に食べることはマイナスである。
 卵やステーキは半分に減らしてもいい。牛乳も1/2にしても筋肉に影響は出ないと考えられる。
④炭水化物(でんぷんや糖質)は極端に少ない。せいぜい「野菜」や「ジュース」に含まれる程度である。
コンテスト直前なら良いが、ふだんのトレーニング期なら、運動時のエネルギー補給をスムーズにおこなうため、もう少しとった方が体は楽である。
⑤栄養素をどれだけとるかは、自分の体格・年齢・トレーニング量により変化することは当然である。フェリーノは1週間に6日、3分割法で、1回に2時間強のトレーニングをしている。
使用重量は8回前後を4~6セットやれることを目安にヘビーウェイトでおこなっている。彼の練習量にして、この食事法が対応しているのであり、そこまでゆかない人が単に食事法だけをそのまま採用してもうまくゆかないことは当然である。
⑥学ぶ点は、このように徹底して「高カロリー・高たんぱく質・低炭水化物」に徹していることだ。この心意気を感じとっていただければ充分である。
 ビタミンやミネラルなどのサプルメントフーヅの記載がないがこれについては次項でくわしく述べよう。

4.栄養補助食品のとり方

 食事法を述べる際に、プロティンやジャームオイルのことを抜きに語ることはできない状態になっている。
世界的にトレーニング法や食事法が高度になってきて、トップビルダーを目指す者は専門的な食品をとることが必要不可欠になっているからである。
 フェリーノも例外ではなく、すでに5年前の時点で、プロティン製品やビタミン剤・ミネラル剤を多く利用している。(たんぱく同化剤は決して使用していない)
 「市販されているプロティンやジャームオイルは高価であり、現在のようなムダをいましめる時代には不用でないか」と思う人があるかもしれないがこれは逆である。
 たとえば筋肉の発達に必要なたんぱく質を、肉や魚・牛乳・チーズなどからとろうとすれば、費用が膨大にかかるうえ、余分な脂肪や炭水化物を同時にとらざるをえない。
この点たんぱく質が80~90%以上含まれるプロティン・パウダーやプロティン・タブレットを採用すると、目的の栄養素を効率よく、しかも安価にとることができる。
したがって「省エネルギー・省資源食品」ということができる。

5.USAビルダーの最新食事法

 フェリーノの部屋には、食事や栄養学の本がドッサリ積まれて、日ごろから食事法の研究はおこたりないと紹介されている。
 さて5年前でなく、最新の食事法の情報を最後に述べておこう。次表はアーノルド・シュワルツェネガーの食事法を指導したジョン・バリー氏(先月号のパディラの食事法に登場した人物)が発表しているものだ。
アメリカのボディビル界は大体このような考えが主流で多くのビルダーがこれに従っている。
USA最新ビルダーの栄養摂取法(サプルメントフーヅ利用方法、1日当り)

USA最新ビルダーの栄養摂取法(サプルメントフーヅ利用方法、1日当り)

<考察>
①コンテストが8月末にあるとする。
 これを起点にして、3ヵ月ずつ区切って、1年間のトレーニング計画、および食事計画を立てるわけだ。
例えば、シーズンが終ったばかりの9月~11月の3ヵ月間を第1期、12月~2月を第2期、3月~5月を第3期というように。
そして第4期は6週間ずつ2等分して、それぞれ上記の表にしたがって、サプルメントフージをとる。ひじょうに考え方が明解である。
②とくにコンテスト直前期と、ふつうのトレーニング期とで、食べる内容をはっきり変えていることは注目に値する。
③とはいえ、コンテスト前に100粒以上もの錠剤やセプセルをとることはなかなか大変で、異常なことである。それというのが、ふつうの食事を極端に制限するので、不足する栄養素をやむを得ず、このような形でとることになるのだ。
④日本ではここまでゆくとゆきすぎの感がある。ましてコンテストを目指すビルダー以外ならば、せいぜいプロティン、ジャームオイル、レバーくらいで良いだろう。むしろ食事内容を充実させて、野菜や小魚などを多く食べることが好ましい。
⑤コリンやイノシトールは脂肪除去効果があると言われているが、このことについてはまだ研究途中ある。
月刊ボディビルディング1979年9月号

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