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これぐらいは知っておきたい
やさしい栄養シリーズ 1979年4月号

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月刊ボディビルディング1979年4月号
掲載日:2018.11.07

レモンの丸かじりは危険

<身体が要求している>

大会の当日、出場選手たちがレモンを皮ごとかじっている姿をよく見かける。
激しい運動のあとに、クエン酸、リンゴ酸、酢酸などの酸が筋肉中の疲労物質を分解して除去するので、たいそう都合がよい。
ふつうの人なら「うわあ、すっぱいや」と顔をしかめて食べられないようなレモンを、平気な顔でうまそうにかじっている姿は非常に健康的なのだが……。
店頭で販売されるミカンやレモンが最近は腐らなくなった。これは表面にワックスがかけられて、中味を保護しているためだが、同時にさまざまな化学薬品で処理されている。
その1つは微生物の腐敗を防止するためのジフェニールである。
カネミ油症のときに問題になったPCBと構造がよく似た物質なので、人体に有害ではないかと問題になっている。
ジフェニールは厚生省で一応許可されている防黴剤であるが、最近はオルト・フェニールフェノールという、まだ未許可の化学薬品で処理されていることが分って、大量のレモンとグレープフルーツを海上投棄したことは記憶に新しい。
このように、レモンなどの柑橘類の表面には農薬・殺虫剤・防腐剤などが浸透しているので、皮ごと食べるのはもってのほかである。
ママレードにしたり、輪切りにしてレモンティーにすることさえ、やめる人がふえている。

<なぜ酸が疲労によいか>

食物がエネルギーに変わり、炭酸ガスと水に分解する過程TCAサイクルという回路がある。
激しい筋肉運動をしたときは、筋肉中にできたピルビン酸が乳酸に変わり、筋肉のこわばった感じをつくる原因になる。「パンプ・アップ」と呼ぶ筋肉のコリはこのためだ。
肉ばなれやけいれんをおこすのはこのようなときであり、パンプ・アップ状態になったら練習をやめて、休憩してマッサージをしたり、酸を補給したりするとよい。
酸はTCAサイクルの働きを促進し乳酸を分解して再びエネルギーに再使用する働きをする。
興味あることに、酸の種類はTCAサイクルに現われる酸ならどのようなものでもよいという。
レモンやグレープフルーツのワックスは水洗いしても落ちにくいので、皮ごと食べることはよしたほうがよい。
レモンに代わるものといして、梅干しや酢が有効だ。また、カルピスや炭酸飲料で酸味の強いものもおすすめできる。薬局でクエン酸やクエン酸ソーダを買い求め、果糖やぶどう糖と配合するのもよい方法だ。

炭水化物の功罪

<ごはんは敵か味方か?>

「太りすぎはいやだから、ごはんは食べない」というヤングが最近急激にふえている。年ごろの女性はもちろん小学生でさえ、スタイルを気にしてごはんを敬遠するという。おかげで米の消費量は減るいっぽう。「もっとごはんを食べよう」と政府(農水産省)は懸命になっているのだが……。
たしかに、米・いも・麦・豆などには「でんぷん質」が多く、食べすぎると体内で脂肪に変化して、体のあちこちに貯まることになる。その典型的なのが力士、すもうとりの「大めしぐらい」はあまりにも有名だ。
肥満が引きがねになって、糖尿病・高血圧・心臓病などをおこすのも事実である。「うまい、うまい」といってつい食べすぎることは危険だ。

<エネルギー源として重要>

強い力は筋肉が収縮したときに発揮され、筋肉の断面積が大きいほど強いパワーがでることが知られている。筋肉をつくりあげる材料は、ビルダーならだれでも知っているように「たんぱく質」であるが、筋肉が収縮するエネルギー源は「ぶどう糖」、つまり炭水化物なのだ。
ごはん・パン・うどんなどの主な成分は、このぶどう糖が数多く連結した「でんぷん」である。でんぷんはツバに含まれるプリアチンという酵素が働いて、かんでいるうちに、ぶどう糖の数が少ない物質にかわる。ごはんが甘く感じられるのは「麦芽糖」のためである。さらに胃でぶどう糖に分解されて、小腸から体内に吸収される。そして「たんぱく質」と同様に肝臓を通過して筋肉や内臓や大脳に運ばれる。
筋肉に運ばれたぶどう糖は、そのまますぐに運動エネルギーとして消費されるほか、グリコーゲンに変化して体内に貯蔵される。グリコーゲンはぶどう糖が多数連結したもので、でんぷんと構造は同じと考えてよい。
グリコーゲンは全身の筋肉に約250グラム、肝臓に約250グラム貯蔵することができる。そして、空腹になったとき、少しずつ分解してぶどう糖を補給してくれる。全身で合計約500グラムのストックができ、いざというときに血液中にぶどう糖が不足しないように働いているのである。
以上のように、体を動かす原動力として、炭水化物は大事な役割を果たしているのである。

<多すぎると脂肪にかわる>

だが何でも過剰はよくないのだ。炭水化物がいくら重要な栄養素だといっても「うまい、うまい」といってごはんを山盛り食べたり、空腹になるたびにラーメンやパン、中華まんじゅうなどをガツガツ食べるとたいへんなことになる。
ぶどう糖は、そのまますぐにエネルギーになったり、グリコーゲンとして約500グラムまでは体内に蓄積されるが、それ以上多い場合は、肝臓で脂肪に変化して、各臓器や筋肉と筋肉の間、あるいは皮膚の表面に脂肪細胞となって付着する。
「ビール腹」「たいこ腹」とよく言われるように、とくに腹のまわりに脂肪がつきやすい。ヘソの横2~3センチの部分を両指ではさんで、厚みがどれくらいあるか調べてみるがよい。鍛えた男子スポーツマンなら10ミリ以下のはずだ。

<適量はどのくらいか?>

では、炭水化物はどのくらいの量を食べればバランスがとれるだろうか。人によって毎日の生活ぶりがちがうので、いちがいには言えないが、重労働やスポーツをする人は多く、事務や家事的な仕事をする人は少なくてよいのが当然だ。
一般のビルダーなら、筋肉をつくるたんぱく質を第一重点にして(いつもいうように体重1キロあたり2グラムの純たんぱく質を食べるとよい)、炭水化物の量はカロリーとなる栄養素の60~70%を占めるように食べるのがいい。
といっても、栄養士でないとくわしい分析はむずかしいので、「ごはん・パン・めん類・菓子・いもなどは今までよりもやや少な目に食べる」ことを心掛ければよい。ごはんを3杯食べていた人は2杯に、間食や夜食にラーメンを食べていた人はチーズ・卵・ピーナッツ・納豆・魚の缶詰などを食べるようにすればいい。

<忘れてはならないポイント>

トレーニングで汗をかいたあと、のどがかわいて水を飲みたくなるのは人間の生理現象として当然だ。そんなとき、よくコカコーラやサイダーなどをおいしそうに飲みほす人を見かけるが、清涼飲料には問題がある。
というは、たいていの場合、「水とあまり変わらない、かわいたのどをいやしさえすればいい」と深く考えないで飲んでいるが、これが大きな間違い。コーラ1缶の中には、なんと25~28グラムもの砂糖が含まれている。喫茶店でコーヒーに入れるとき、スプーン2杯半で10グラムだから、その約2.5~3倍の砂糖を口に入れていることになる。

ドリンク栄養剤の効能

<ドリンク剤と栄養ドリンク>

朝のあわただしいラッシュアワー。駅の売店で「チュー」と一気にドリンク剤を飲んで電車にかけ込むサラリーマンをよく見かける。テレビや新聞の広告のおかげですっかり国民生活に定着したドリンク剤。このドリンク剤に医薬品扱いのものと、食品(清涼飲料水)扱いの2種類があることや、またどんな栄養物質や薬効成分が含まれているかについては、あまり知られていない。
ドリンク剤の需要は年間500億円に達し、その8割までが全国300社あまりの医薬品メーカーの手で生産されている。しかし、薬効成分を含有し「肉体疲労」「病中病後」「滋養強壮」「虚弱体質」に効果があると宣伝できる、”医薬品タイプのドリンク剤”は半数程度で、残りは医薬品メーカーが製造していても、薬事法で規定された薬効物質を含まず、”清涼飲料水”という文字を入れて販売されている”一般食品”である。区別を明らかにするため前者を「ドリンク剤」、後者を「栄養ドリンク」と呼んでいるが、一般のわれわれには、どっちがどうなのか実際に飲んでみても分らない。
厚生省の通達によると、牛黄、イカリ草、鹿茸、女貞子、マタタビ、アロエ、クマザサ、ヨクイニン、動物ホルモンなどを含有しているものは「ドリンク剤」とみなされ、朝鮮人参、ローヤルゼリー、クコ、クロレラ、コンフリー、オットセイ臓器の抽出液、八ッ目うなぎ、マムシ胆乾燥物、にんにくなどを配合したものは、「栄養ドリンク」になるという。
なぜアロエやクマザサが医薬品とみなされ、朝鮮人参やマムシが食品であるのか、おそらく薬理効果が明らかで即効性が期待できるものと、できないものとに分けたと思われるが、同時に次のような表示上の規制がなされており、これと対応しているようである。

◆「ドリンク剤」ならよいが「栄養ドリンク」ではいけない表現例
疲労回復、二日酔、深夜作業に、スタミナ活力、ファイトを飲もう……。

◆「栄養ドリンク」でも使ってよい表現例
健康維持、栄養補給、夜ふかし、スポーツに、美容に、スタミナをつけよう、元気を出そう、マージャンに……。

<朝食がわりに飲んでもダメ>

結局、効いたと思えば効いた気分になり、どちらにしろ同じようなものである。忘れてならない重要な点は、ごく微量な成分にとらわれて、蛋白質、糖質、カロリーなどがほとんど含まれておらず、実態は「栄養ドリンク」という名称からはほど遠い製品であることだ。
「朝ごはんを抜いた代わりにドリンク剤を飲んでいるから安心だ」と思い違いをしている人が多いが、私の計算では、せいぜい80カロリー、蛋白質2グラム程度しかない。ビタミンやミネラルなどの補助燃料がいくら含まれていても、基本となる主燃料がなければスタミナも精力もつくはずがない。
朝食として、300カロリー、蛋白質10gがどうしてもほしい最低線だ。ドリンク剤は、アルコールが効いていたり、独得の苦味や香りが強いので、いかにも精力がつくような錯覚をうけるが、これに頼りすぎるとかえって体調を損なうことさえある。商品の性質を理解したうえで、あくまでも補助的に用いるべきだろう。
[健康体力研究所・野沢秀雄]
月刊ボディビルディング1979年4月号

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