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ウエイ卜卜レーニングがもたらす競技スポーツにおけるパフォーマンス向上への効果

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掲載日:2016.09.12
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ウェイトトレーニングのパフォーマンス向上への効果

①ウエイトトレーニングによる一般的筋力の向上は、関連する他の体力要素や専門的体力の向上に好影響をもたらし、パフォーマンスの向上に役立つ
②ウエイトトレーニングを競技特性を考慮した条件で実施すれば、パフォーマンスに直結した身体能力の向上を図ることができる。
③より高度な技術や戦術が身に付けやすくなる
④効率よくパワーを発揮する能力や効率の良い動作の習得に役立つ
⑤悪条件下でのパフォーマンス低下の抑制
⑥身体組成の改善
⑦心理的効果

ウエイ卜卜レーニングのパフォーマンス向上への効果

ウエイトトレーニングによる、基礎的な筋力(ベーシックストレングス)の強化は、スポーツ選手のパフォーマンスに、非常に多くのメリットをもたらします。しっかりとした筋力基盤をつくることによって、筋力に関連する他の体力要素(パワー、スピード、アジリティー、筋持久力など)や、各スポーツの専門的体力を向上させやすくなります。また、ウエイトトレーニングを各スポーツの競技特性に即した条件やフォームで実施すれば、パフォーマンスに直結する専門的体力の向上を図ることもできます。これらの効果は、より高度な技術や戦術を身に付けるためにも役立ちます。

その他、ウエイトトレーニングには、筋力やパワーを無駄なく効率よく発揮するための動きづくりの効果、雨でぬかるんだグラウンドでのプレーのように悪条件下でのパフォーマンスの低下を抑える効果、低い体脂肪を保ったり、筋肉量を増やすといった形態や身体組成を改善する効果、プレーに対する自信をつけたり、ポジティブで前向きの姿勢を養う効果なども期待できます。

一般的トレーニングが専門的トレーニングの効果や可能性(トレーナビリティー)に影響を与える
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スポーツ選手は、競技力の向上に直結した即効性のあるトレーニングを好む傾向にありますが、長期にわたって技術練習を中心に行ってきた選手の場合、競技の中でよく使用される部位とそうでない部位の筋力差が顕著になっているケースが多くみられます。

例えば、右利きの野球選手の場合には、常に右腕でボールを投げ、バッティングのときには常に右から左へと状態をひねっており、からだの各部位の左右の筋力に差が生じていることが考えられます。このような選手が、協議でよく使用される部位や動きの筋力強化だけを実施した場合、各部位の筋力差(筋力のアンバランス)をさらに助長してしまうことにもなりかねず、このことが傷害の発生や競技力の頭打ち減少などの可能性を高めることも懸念されます。

特に、中学や高校期の選手については、専門的なウエイトトレーニングよりも基礎的(一般的)なウエイトトレーニングを優先させて、身体各部位をまんべんなく強化し、競技力の基盤としてのからだづくりや筋力アップを図ることが重要であると考えられます。

一般的筋力の要請は他の体力要素にも好影響を与える
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スクワットやベンチプレスの挙上重量の向上が、すぐに競技パフォーマンスに役立つわけではありません。
しかし、ウエイトトレーニングの基本的なエクササイズによって養成された一般的筋力は、競技に必要な専門的パワーを伸ばすための基盤となり、
一般的筋力が専門的パワーにうまく転換されることによって、競技パフォーマンスの向上に大きく役立つようになります。

パワー=力×スピード
スピードの要素は遺伝的影響に左右されやすいが、力の要素はウエイトトレーニングによって大幅な改善が可能
パワーは力×スピードで表されますが、筋肉の収縮スピードは遺伝的な要素に左右されやすく、トレーニングによる大幅な改善はむずかしいと言えます。
一方、力の要素については、ウエイトトレーニングを計画的に正しく行うことによって、ある程度まで比較的容易に向上させることができます。
スポーツ選手に要求されるパワーを向上させるためには、パワー発揮の基盤としての筋力を向上させることが非常に有効であると考えられます。
身体を移動させる際には、体重が負荷になる。体重負荷をたやすくコントロールできるようにするためには、一定以上の筋力を身に付けることが必要
(特にジャンプ力を向上させるためには、自分の体重に見合った筋力が必要)
垂直跳びのようなジャンプ力は、爆発的なパワー発揮能力の指標となるものですが、体重が負荷になるために、ジャンプに関連する筋群の筋力を体重に見合ったレベルまで強化することが重要な要素となります。爆発的パワーを向上させるためには、様々なジャンプトレーニング(特にプライオメトリックトレーニング)が有効ですが、基礎的な筋力強化を図らずに、これらを単独で行っただけでは、十分な効果を得ることができませんし、傷害を引き起こす可能性も高くなります。
静止した状態から動作を起こす際のスピードや加速力(ローギアパワー)を高めるためには最大筋力の向上が必要
スポーツにおける「スピード」は、選手が動作を起こす際の初速と加速力、加速がついた後の最大スピードとこれを維持する能力などを意味しますが、特に、制した状態から動作を開始する際やその後の加速過程においては、負荷に打ち勝ちながら素早い動作を行うことが要求されるため、最大筋力を向上させることが必要となります。このような方向転換やストップの動作の際には、からだに大きな衝撃が加わりますが、動作を急激に行おうとすればするほどより大きな衝撃が加わります。

このような能力を高めるためには、動作中の衝撃に耐えられるだけの筋力を養うことが重要であると考えられます。

一方、反復横跳びのように、狭いスペースの中を素早く切り返す動作においても、切り返しを素早く行おうとするほど、脚部に強い衝撃が加わります。これに持ちこたえるだけの筋力が養成されていない場合には、切り返しの動作にロスが生じたり、状態の姿勢が崩れたりしがちです。

アジリティー(敏捷性)の養成のためには、ラダーやミニハードルを使った専門的なドリルが良く行われていますが、基礎的な脚筋力の向上なくしては、アジリティーの向上も頭打ちになりがちです。実際、スクワットの挙上重量が伸びることによって、反復横跳びの記録が向上する選手が多く見られます。
筋力が強ければ一回の衝撃によって受けるダメージが少なくて済む(筋力向上によるパワーのスタミナ温存効果)
ダメージを受けてスタミナを失う場面

・ジャンプからの着地
・急激な方向転換、ストップ
・坂下り走
・コンタクトプレー
バレーボールのスパイク動作では、ジャンプからの着地時に大きな衝撃が身体に加わるため、これに持ちこたえるだけの筋力を養うことが必要

バレーボールのスパイク動作では、ジャンプからの着地時に大きな衝撃が身体に加わるため、これに持ちこたえるだけの筋力を養うことが必要

ジャンプからの着地や急激な方向転換などの動作を繰り返して行うと、衝撃によって筋肉が疲労したりダメージを受けたりして、発揮できるパワーの大きさが徐々に低下していきます。筋力の弱い人は強い人に比べて1回あたりの衝撃によって受けるダメージが大きいため、これが何回も反復されると大きなスタミナの消耗に繋がると考えられます。
例えば、バレーボールのエーススパイカーは1試合あたり50~100本のスパイクを打つといわれていますが、試合における最初のスパイクの打点の高さと試合後半の勝負所でのスパイクの高さを比較した場合、後半は疲労や着地衝撃による筋肉へのダメージによって打点の高さはどうしても低下しがちです。

しかし、筋力が強く、着地時の衝撃吸収能力がすぐれた選手ほど、1回あたりのダメージが少なくて済むため、打点の高さの減少率を抑えることができると考えられます。
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技術練習だけでは体力向上は頭打ち
古くから、「スポーツに必要な体力は、そのスポーツの技術練習を行っていれば自然に養える」という考え方があります。確かに、体力の低い選手の場合には、技術練習だけでもある程度の体力を養うことができます。しかし、ある一定のレベルまで体力が向上すると、そこから先は技術練習だけでは体力の向上が頭打ちになってしまうと考えられます。野球を例に挙げると、バッティングに必要な筋力やパワーは、小中学生の段階では、バットの素振りをするだけでもある程度まで向上させることができますが、プロレベルの選手の場合には、素振りだけではバッティングに必要な筋力やパワーを向上させることが難しくなります。

なぜこのようなことが起こるのでしょうか?

トレーニングの最も基本的な原則として、あるレベル以上の条件でトレーニングを行わないと効果が得られないという意味の、「オーバーロード(過負荷)の原則」があります。体力が弱いうちは、技術練習だけでも体力を向上させるのに十分な負荷がかかって、体力を強化することができますが、何年も技術練習を継続すると、技術練習による負荷だけでは体力を向上させるレベルのオーバーロードがかからなくなってしまうのです。また、技術練習を行う過程においては、動作がうまくなって効率的になっていくため、少ないエネルギーで大きなパワーを発揮することができるようになります。

このために、技術練習では一層、筋力やパワーを高めるためのオーバーロードがかかりにくくなると考えられます。
  • 競技スポーツのためのウエイトトレーニング2001年6月30日初版発行
    著者:有賀誠司
    発行者:橋本雄一
    発行所:(株)体育とスポーツ出版社