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第58回男子・第30回女子日本ボディビル選手権大会講評 JBBF審査委員会委員長大会講評 中尾尚志の目

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中尾尚志(なかお・たかし) 1945年京都市生まれ (社)日本ボディビル連盟一級指導員・一級審査員 IFBB(国際ボディビルダーズ連盟)国際審査員、 日本体育施設協会トレーニング指導士 (社)日本ボディビル連盟専務理事 (社)日本ボディビル連盟審査委員会委員長 京都府ボディビル連盟理事長 アキレストップジム代表写真/徳江正之[ 月刊ボディビルディング 2013年1月号 ]
掲載日:2017.06.21
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東京と大阪で、隔年に開催される日本ボディビル選手権大会が、今年は大阪に帰ってきた。7年ぶりに元チャンピオンの田代も帰ってきた。開催される前から色々と話題に事欠かない今大会が、例年通り、午前に日本ジュニアボディビル選手権大会と全国高校生ボディビル選手権大会を終え、午後から満を持して開催された。

男子33名女子21名のエントリー、残念なことに男子から一名の欠席者が出たが、全国から集まった53名の選手達が繰り広げる我が国最大にして最高峰のボディビルイベント・第58回男子日本ボディビル選手権大会並びに第30 回女子日本ボディビル選手権大会は、10月7日の日曜日メルパルク大阪にその幕が切って落とされた。

今年度JBBF主催大会のボディビル部門で、審査システムに二つの変更点があった。一つは、日本クラス別選手権大会を除き、決勝審査で規定ポーズをしないこと。もう一つは、男子日本選手権大会の一次ピックアップ審査に、前年度のファイナリストは出なくてもよいと云うこと。前者は、8月5日に行われたジャパンオープンボディビル選手権大会から実施してきているので周知の如くであるが、後者は、今日の男子日本選手権大会からと云うこともあり、少し説明しなければならない。

男子日本ボディビル選手権大会のラインナップで、全員が一同に介して居並ぶ様は、それはそれで見ごたえのあるものである。久しぶりにお目当ての選手の雄姿を見つける楽しみもある。しかしながら、前年度のファイナリストが、よほどのことが無い限り、一次ピックアップの20名から外されることは有り得ないことであり、当然のようにピックアップされる選手が、一度の規定4ポーズをとったきり延々と待たされている様は、選手にとって結構退屈で辛い時間だとおもわれる。反対に、よほど頑張らないとピックアップされないような選手にとって、前年度の入賞者と同時に比較されること自体余計目立たなくなってしまう結果となる。そこで、前年度のファイナリス以外の選手をじっくり見るために、今回から審査システムの変更に踏み切ったのである。

一次ピックアップで全選手から20名を選出していたのを、前年度のファイナリストを除いた全選手から12名を選出することにまた、二次ピックアップでは、20名から12名に絞っていたのを、前年度のファイナリストと一次ピックアップで選ばれた12名を合わせた全選手から12名に絞ることに変更したのである。これは他のスポーツで、トーナメント方式による競技の際に採用されるシード制のようなもので、男子日本ボディビル選手権大会においては、前年度に結果をのこした選手とそれ以外の選手とに良い意味での差別化を図りまた、それ以外の選手達が、前年度のファイナリストに影響されることなく真価が発揮できることを期待する意図が含まれている。久々に出場した元チャンピオン田代の仕上がりの良さを、一次ピックアップから見られたことは、ある意味サプライズであったのかも知れない!?

例年より遅く8月より始まった今年のJBBF主催大会も、今日の日本選手権大会で幕を閉じる。最後にして最も盛りあがりを見せてくれた今日のこの大会で、男子世界選手権の代表候補選手も選考されることになっている。一方女子世界選手権は、折しも同じ時期にポーランドで開催されていて、ボディビル部門で山野内里子がまた、ボディフィットネスの部では中村静香が奮闘中である。女子ディフェンディングチャンピオン不在の今大会で、どんなドラマが繰り広げられるか興味津々といったところであるが、この先は、タイムスケジュールにそって私の感じたところを述べてみたいとおもう。

男子一次ピックアップ審査

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(上)一次ピックアップファーストコール。左より重岡、溝口、松本、猿山。重岡は今年ジャパンオープンで8位、日本クラス別65kg級では優勝している旬な選手だ
(下)一次ピックアップセカンドコール。左より山田、岩尾、佐藤(弘)

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(上)一次ピックアップサードコール。左より佐藤(弘)、岩尾、松本、中武、猿山。中武は過去にミスター日本入賞経験を持つ実力者だ
(下)一次ピックアップフォースコール。左より玉井、溝口、猿山、佐藤(弘)。猿山と佐藤は4度の比較で3回コールされている


昨年のファイナリストのなかで、唯一出場しなかったのが下田である。そのかわりと云ったら語弊があるかも知れないが、元チャンピオンの田代が7年ぶりに出場してきた!!

審査システムが変更された年にカムバックして、一次・二次ピックアップ共に懐かしい姿を見られたことは、ボディビルファンにとっては幸いだったかもしれない!?
 
21名から12名を選ぶ一次ピックアップ審査で最初に呼ばれた4名は、日本クラス別65kg級1位重岡、同じく60kg級2位溝口、マスターズ40才以上70kg超級1位松本そして、日本クラシック171cm級3位猿山。

次に呼ばれたのは3名で、過去に日本クラス別で優勝経験のある山田頼一、日本クラス別60kg級4位岩尾そして、昨年日本クラシック175㎝級で優勝している佐藤弘
人である。

3度目は5名と多く、佐藤弘人、岩尾、松本、ジャパンオープンの優勝経験者で過去に日本選手権のファイナリストにもなっている中武そして、猿山。

ラストとなった比較に呼ばれたのは4名で、関西で活躍している玉井、溝口、猿山そして、佐藤弘人。9名の選手が4度の比較に登場し、結果二次ピックアップ審査に進むことができたのは、岩尾、重岡、猿山、佐藤弘人そして、溝口の5名であった。

女子ピックアップ審査

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(上)女子ピックアップ審査ファーストコール。左より秋山、大林、深作、勝、田中
(中)女子ピックアップ審査セカンドコール。左より廣田、神田、田中、秋山
(下)女子ピックアップ審査サードコール。左より廣田、秋山、石澤、田中、島田


3度の比較審査が行われた。1度目で呼ばれたのは5名で、日本クラス別46kg級1位秋山、同2位大林、同3位深作、日本マスターズ40才以上級1位の勝そして、今年東京を制した田中。

2度目は4名。日本クラス別58kg級2位廣田、今年度の大会歴は無いものの昨年この大会で3位であった神田、田中そして、秋山。

ラストとなった比較に呼ばれたのは廣田、秋山、石澤、田中そして、日本クラス別55kg級2位島田。21名中9名の選手が比較審査に呼ばれ、予選審査に進むことができたのは神田、廣田、田中、秋山の4名で、田中と秋山は初めてのファイナル進出である。昨年の入賞者で、山野内、相馬、佐々木、水間の4名が不出場で、かわって入賞したのが高原、佐藤、湯澤、田中、秋山。日本選手権でファイナリストが5名も入れ替わることは、大変珍しいことである。昨年の
入賞者では石澤が、唯一人残れなかった。

男子二次ピックアップ審査

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(上)二次ピックアップファーストコール。左より山崎、林、井上、近藤、高梨
(中)二次ピックアップセカンドコール。左より福田、高梨、林、井上
(下)同点審査となった近藤(左)と山崎。僅差の末、近藤が決勝へ進んだ


二次ピックアップ審査に登場してくるのは、昨年のファイナリスト11名に、一次ピックアップ審査を勝ち抜いてきた12名をあわせた23名である。実績のある選手ばかりのなかから12名を選ぶには、さぞ何度も比較審査があるとおもっていたが、意外にも2度しか行われなかった!!

1度目は山崎、林、井上、近藤、高梨の5名。2度目は福田、高梨、林、井上の4名。2度の比較審査で6名の選手が呼ばれ、ファイナルに進出できたのは林と近藤だけ!!
 
しかも近藤のファイナル進出は、山崎との同点決勝を制しての結果である。この二人の対決も、良く絞れてはいるが厳しさに欠ける近藤vs十分なマッスルにもかかわらず絞り切れていない山崎と云う図式で、大方の見方では山崎が有利に見えたのではないか!?

近藤がいつものような厳しさが前に出る仕上がりなら当然のように山崎を退けただろうが、今年の近藤にはその迫力が感じられない。ファイナルに進んでもたぶん苦戦しそうだ!?

山崎も、今後日本選手権のファイナリストになるためには、絞り方とポージングに工夫が要るだろう!!

2度のピックアップ審査を勝ち抜いた田代と佐藤貴規が、一次ピックアップを免除された昨年のファイナリストの合戸、須江、近藤、鈴木、山田、谷野、相川、木澤、須山、林と合流して次の予選比較審査へ進むことになった。日本選手権のファイナリストに初めて名を連ねた佐藤貴規は、今年日本クラス別70kg級1位、ジャパンオープン2位であった。いずれの大会よりも数段充実した仕上がりで入賞した今日の佐藤貴規は期待大である。一方高梨は、二次ピックアップ審査から出た中で唯一予選落ちの選手となってしまった。

女子予選審査

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結果トップ5の比較となったセカンドコール。左より高原、足立、今村、清水、惠良。今年ジャパンオープン、日本クラス別の二冠となった高原だが、今回はバックに甘さが窺えた。清水はたるみのないミッドセクションが全体の美しさを際立たせていた

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予選審査フォースコール。左より惠良、神田、高原、佐藤、廣田。全体的に甘い仕上がりの神田だが、バルクを評価されてか、トップ6に入りそうな気配を漂わせていた

予選審査フィフスコール。左より久野、神田、湯澤、佐藤

予選審査フィフスコール。左より久野、神田、湯澤、佐藤

予選審査シックスコール。左より廣田、湯澤、久野、田中、秋山。

予選審査シックスコール。左より廣田、湯澤、久野、田中、秋山。

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予選審査最後に行なわれた清水(左)と今村二人だけの比較。実質優勝者を決める比較と言って良い。きめ細かく仕上げてきた今村に対し、上体の広がりに勝る清水。予選審査では1点差で清水が勝っていた


足立、今村、清水、惠良の4名にファーストコールがかかり、女子の予選審査が始まった。4名すべて素晴らしい仕上がりである。なかでもきれいに仕上げてきたのは清水で、タルミの無いミドルセクションが目立っている。バックダブルバイセプスでひときわ良く見えたのは足立。

セカンドコールは高原、足立、今村、清水、惠良の5名。ファーストコールに高原が入っただけである。今年高原は、ジャパンオープンと日本クラス別58kg級の二冠を制しているが、今回は少し厳しさに欠けるようだ。特に背中に甘さが見えるのは高原一人だけだった。2回の比較で呼ばれた5名が、そのまま上位に入ることは間違いなさそうだ!!

サードコールで呼ばれたのは神田、惠良、足立、高原の4名。神田がここに来てどうやらベスト6に入りそうな気配であるが、相変わらず甘い仕上がりとアブドミナル&サイの重心が後ろにかかり過ぎが気になった。

フォースコールは惠良、神田、高原、佐藤、廣田の5名。佐藤と廣田が、惠良、神田、高原に続きそうである。この組は、5名ともアブドミナル&サイで重心を後方の足へかけ過ぎていた。

フィフスコールで呼ばれたのは、久野、神田、湯澤、佐藤の4名。フォースとフィフスどちらにも入っている佐藤がどうやらベスト6に次ぐポジションのようだ!?

ところで、サードコールから連続して3回の指名を受けているのが神田。神田の評価に迷っている審査員の気持ちが良くわかる。

シックスコールで呼ばれた廣田、湯澤、久野、田中、秋山の5名が、どうやら下位を占めそうである。湯澤と久野が、廣田に続きそうだが、規定ポーズを見る限りでは湯澤リードか!?

清水と今村の2名が、ラストコールで再度呼ばれたが、頭を決めるダメ押しの比較のようにもおもえた。細部に亘りきめ細かく仕上げてきた今村に対してミドルセクションのきれいな仕上がりと、上体の広がりに勝る清水の一騎討ちは、この先のフリーポーズ審査まで持ち越しそうな雰囲気である。予選審査では1点差で清水の勝ち!!

男子予選審査

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男子比較審査ファーストコール。左より合戸、田代、鈴木、須山。新旧の日本チャンピオン3名によるバトルは圧巻だ。合戸は明らかに下半身が弱い。少々甘く感じられる鈴木に対し田代は完璧に仕上げてきたようだ。須山は昨年と比べるとかなり良い状態であった


ファーストコールは合戸、田代、鈴木、須山の4名。優勝争いをしていた頃の合戸と田代の対決が蘇ったようで、観ている側にも熱いものが伝わってきた。ここに鈴木が加わって、新旧3名のチャンピオンによるバトルが始まった。この3名が揃うと、それぞれに良さ悪さが見えてくる。やはり合戸に下半身の弱さが出ている。田代のバックの良さは以前と変わらないが、完璧なダブルバイセプスにくらべてラットスプレッドは、少し反りを入れた方が良いだろう。トライセプスの質感も田代がリードしている。ミドルセクションの状態は、田代・鈴木共に良いようだが、昨年度まで持続していた鈴木の緊張感が今一つ伝わってこない。仕上がりも以前ほどの厳しさは感じられない。須山は、昨年と違い上手く仕上げてきているが、フロントでみせるダブルバイセプスは、肩甲骨を寄せているためにワイド感が殺されていた。
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予選審査セカンドコール。左より山田、田代、鈴木、合戸、木澤。山田は重量感を増したものの、相変わらず大腿部のカットが鈍い。木澤は例年よりかなり良い状態だ

サードコール。左より須山、田代、山田、合戸

サードコール。左より須山、田代、山田、合戸

フォースコール。左より須山、木澤、佐藤、山田、相川。佐藤の充実した仕上がりに目がいく

フォースコール。左より須山、木澤、佐藤、山田、相川。佐藤の充実した仕上がりに目がいく

セカンドコールは、山田、田代、鈴木、合戸、木澤。ファーストコールの須山にかわって山田と木澤が指名された。二度の比較で、本日のベスト6がほぼ出揃った感じである。昨年ベスト3入りこそは叶わなかった山田だが、今回は重量感を感じる。しかし、残念なことに相変わらず大腿部のカットが鈍い。ネックからショルダーラインにかけての弱さも気になる。サイドチェストをとった時の大腿部の充実感は、鈴木が文句なくベストだが、山田も田代も木澤もそれぞれに素晴らしい。木澤の状態がいつになく良く見える。上体の仕上がりでは田代だろう!?

サードコールで須山、田代、山田、合戸が指名されたと云うことは、この比較をリクエストした審査員は、鈴木をトップにもってきたようだ!?

合戸と須山のカーフがやはり弱い!!

須山のアブドミナル&サイのポーズは、肩甲骨を寄せているせいか腹が出っ張って見える。フォースコールになって佐藤と相川が初めて登場して須山、木澤、佐藤、山田、相川の比較となった。軽量でありながら、佐藤の充実した仕上がりが目を惹く。闘志がみなぎっている!!

相川はいつも通り悪くはないが、何かインパクトに欠ける。

フィフスコールで指名されたのは須江、近藤、谷野、林の4名。ここに来て須江の名前を初めて聞こうとは誰も予想しなかったことだろう。あまりにも甘すぎた。谷野も、昨年6位だったことをおもえば今日の仕上がりには不満が残る。大腿部にいつもの迫力が無かった。近藤は、二次ピックアップの同点決勝で山崎を破ったとはいえ、いつもの厳しさには程遠いものであった。林はいつも通りきれいに仕上げてはいたが、少し嵩が落ちた感じがする。フィフスコールで呼ばれたメンバーでは、谷野だけが唯一ピックアップ満票であった。

シックスコールが事実上ラストコールとなって、谷野、佐藤、相川、須江、林が指名された。ここに近藤が入って来ないのは、予選審査で入賞ラインに最も近い選手同士の同点決勝に残ったものが、当然最下位になるからである。近藤には決勝フリーポーズの頑張りに期待したい。

最後にダメ押しとも思える指名が、田代、鈴木、合戸の3名にかかった。この瞬間少なからずショックを受けたのは、山田か、須山か、木澤か…。ディフェンディングチャンピオン鈴木の肌に、いつもの厳しさがみられない。一方田代には隙がない。弱点が見え隠れする合戸は、田代と鈴木には少し水をあけられているようだ!!

予選審査を観終わった限りでは、7年のブランクを感じさせないほど見事な蘇りをみせた田代のリードかとおもわれたが、意外にも1名の審査員を除いて全て鈴木に1位票が入っていた。合戸は、全ての審査員に3位の評価を受けた。
フィフスコール。左より須江、近藤、谷野、林。須江の仕上がりの甘さにはびっくりさせられた

フィフスコール。左より須江、近藤、谷野、林。須江の仕上がりの甘さにはびっくりさせられた

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シックスコール。左より谷野、佐藤、相川、須江、林。昨年は復活の兆しを見せた谷野であったが、今回は不満の残る仕上がりだった。相川、林は良い仕上がりではあったが、何かインパクトに欠ける

最後に行なわれただめ押しの比較。左より田代、鈴木、合戸

最後に行なわれただめ押しの比較。左より田代、鈴木、合戸

女子フリーポーズ審査

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1位今村。見事に焼き込まれた上に、完璧に仕上げられた今村のシャープに刻まれた上半身のカットには、優勝にたいする執念のようなものが感じられた。フロントやサイドでみせるポーズには、それなりに充実したフレームをみせていたが、バックではいつもよりワイド感がみえず、不用意に脱力したときなどはまったく広がりの無い背中に見えた。大腿部のボリーム不足もあまり改善されていない。フリーポーズの出来次第で、予選2位をひっくり返せるかどうか微妙なところであったが、フリーポーズでは、いつも通りのアピールができて辛うじて清水を退けて1位になった。予選2位、決勝1位、合計点が同点、規程により決勝点で決着こそついたものの、今村には際どい勝利であったと言える。

2位清水。予選1位、決勝2位そして、ベストアーティスティック賞を獲得したうえでの2位。今村に一歩も譲らない意気込みが災いしたのか、少々力んだところがあって時にバランスを崩していたが、それ以外ではいつもの清水らしい感情のこもった表現ができていた。また、女子の部でベストアーティスティック賞を獲ったことは、言い換えれば女性らしさの表現もできていたと云うことである。皮膚感がきれいで、仕上がりは今村同様素晴らしく、今村が細かいカットで厳しさをだしていたのに清水は、セパレーションの良さを前面に出してあくまでもエレガントさを表現していたようにみた。ワイド感のある上体もさることながら、大腿部にも張り出しがあり、そのためにアウトラインにメリハリを感じさせた。フリーポーズ審査で決着がついたと云うことは、今村のポージングの方が、少々インパクトが強かったと云う程度のものか?昨年は4位だった。1位と2位が同点と云う接戦であったが、共通して言えることは、世界で通用するにはもう少しボリュームがほしいところである。

3位足立。今回の出来は、筋量を感じさせる過去最高のように見えた。オーソドックスなポージングながらバランスがとれてキメがしっかりしているために、アピールするところを正確に見せていた。特に背中の仕上がりが良く、絞り過ぎなかったために、マッスルの厚みを残すことに成功していた。清水と共に上体のワイド感や大腿部の張り出しがあり、ビルダータイプの典型とも言えるアウトラインをもっている。絞り過ぎるとマッスルに厚みが無くなる方なので、今回の調整で良かったともおもえるが、1位今村、2位清水と比べると、全体的な厳しさに差があったのか!?

予選・決勝ともに3位。昨年の8位から一気にランクアップ!!

4位惠良。仕上げたうえでの筋量は、今回一番だったのではないか!!

マッスルの各ブロックが大きいために、セパレーションがはっきりしている。軽やかな曲に小気味よいポーズを次々と繰り出してテンポよくポージングしていたが、時に向きの悪いものがあった。フロントサイドのポーズでは、横を向き過ぎてワイド感が無くなり、ウエストをことさら太く見せてしまった。前半単調だったポージングも、後半は曲に乗ってしっかり決めていた。恵良のように、見た目に力強い印象を与えるタイプは、時として男性ぽく見えるものだが、笑顔を絶やさず、力まないポージングによってかえってキュートな味を出していた。3位足立とは、予選で3点差、決勝では1点差であった。昨年の7位から今年は予選・決勝ともに4位。

5位高原。相変わらずスケールの大きさを感じさせる。どちらかと云えば男ポーズで、飾らないポージングであるが、これが高原流である以上持ち味と云わなければならないだろう。1つ1つのポーズも曲に良く合っていたし、キメのしっかりしたバランスのとれたポーズは、気持ちよく観ていられた。広背筋が正面・背面共にきれいに見えるので、どのポーズにもワイド感があり、大腿部の広がりと相まって、西本朱希を彷彿とさせるものを感じた。のけ反っているポーズがいくつかあるので修正することと、下半身に上体ほどの厳しさがあれば、一気に上に行きそうだ。昨年の予選敗退からの5位は見事!!

6位神田。今年も期待外れに終わってしまった。昨年は、不十分な調整にもかかわらず3位を獲得しているので、山野内不在の今年は、きっと優勝争いに絡んでくれるとファンも思っていたのではないか!?本人は、目標をあくまで世界にもっていると云うが、今のままではナショナルチャンピオンですら無理だ!!女子ビルダーとして要求されるものは、全てと云っていいほど持ち合わせているのだから、後は本人の自覚だけ!!年齢・キャリアを考えると、大会時に近い状態を維持しながら、無駄に体重を増やすことだけは避けた方が賢明だ!!途中で固まってしまったポージングにしても、納得のいかない仕上がりで出場したことへの迷いの表れであったのかも知れない!?来年正念場を迎えることになりそうだが、そろそろ期待に沿う結果を出さなければ手遅れになってしまう。予選・決勝共に6位。

7位佐藤。今年のポージングには、今まで以上に情感がこもっていた。しなやかさのなかにもメリハリを感じさせるポージングは、勝敗にこだわって力んでいた以前より数段見やすくなった。手先の滑らかな動き、足の流す方向への気配り、表情、どれをとっても曲の流れにのってスムースに流れていた。一番の魅力である大腿部のボリュームも、女性らしさを表現するに十分な手助けになっている。日本クラス別49kg級並びに日本マスターズ50才以上級の優勝も頷ける。日本選手権のような大柄な選手が多いオーバーオールの大会で、ファイナルに結果を残すことは、小柄な佐藤にはかなり厳しいと言える。昨年の予選落ちからすれば大健闘である。予選・決勝共に7位。

8位廣田。タルミのないミドルセクションは、いつもながら見事である。正確に決められたポーズを、淡々とこなしていく様は、「これぞベテラン」 と云う言葉が最も似合うのかも知れない。以前よりややボリュームが落ちたことで順位を下げてしまったが、まだまだマスターズだけでは勿体ない。ただ最近のポージングを観ていると、少々単調過ぎるようにもおもえてならない!?

昨年の10位より少し順位をあげて、予選・決勝共に8位。

9位久野。絞り過ぎない健康的な仕上がりが、皮膚感までもきれいに見せていた。難しいとはおもうがこの先は、このままでもっと厳しさを出してほしい。肩の張り出しも今後の課題である。曲のアクセントを上手く使って小気味の良いテンポでポーズを進めていたが、今回のルーティンを決定してからの練習時間が短かったのか、ところどころぎこちない動きをしていた。左右をつかうポージング自体はだいぶ練り込まれてきているが、ポーズの繋ぎはもっとスムースに出来るはずだ!!予選10位・決勝9位であったが、ぎりぎり入賞した昨年と比べれば評価できる。
 
10位湯澤。ジャパンオープンの2位から日本クラス別49kg級4位と、なかなか結果が出せなかった年であったが、昨年の日本選手権で一票のピックアップしかもらえなかったことをおもえば大きな成果と言える。絞り過ぎないようにし出した昨年から徐々に力をつけてきているので、今後もう少しマッスルに丸みが付けば結果もついてくるはずである。ポージングには、格調の高さのようなものが感じられるようになってきて、表情からも和やかな雰囲気が漂っていた。予選9位・決勝10位。
 
11位田中。今年のジャパンオープン6位で東京の1位。どちらかと云うと男ポーズをとっている。マッスルがしっかり付いていて力強さはあるが、平面的なポーズが多く、その上重心の高いポーズが目立って全体的に硬い印象を受ける。ポーズにひねりをいれたり、膝を少し曲げたりしてしなやかさが出せたら、持ち前のマッスルがもっと活かせる。予選・決勝共に11位。
 
12位秋山。ジャパンオープンでは5位そして、日本クラス別46kg級では優勝。昨年の日本選手権のピックアップで一票ももらえなかったことをおもうと大躍進である。昨年気になった変なポーズの癖もなくなって、単純なポージングではあるが、決めた時のバランスはとても素晴らしかった。絞り過ぎない調整の仕方が功を奏したのか、上体は昨年よりかなり充実して筋量も増えたようだが、下半身の甘さ故に全体的な厳しさに欠ける結果になってしまった。佐藤と同様大きな人に交じってファイナルに入賞したのは立派なものである。予選・決勝共に12位。
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男子フリーポーズ審査

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1位鈴木。審査結果は意外なことになっていた。予選・決勝を通じて、鈴木の優勝に異を唱えた審査員が唯一人であったからだ!!今年の鈴木は、無難な調整で臨んで来ていて、初優勝した一昨年、連覇の年の昨年に比べて、研ぎ澄まされたような緊張感は伝わってこなかった。以前は、張りつめたような皮膚感から厳しい仕上がりをみせていたが、今年は肌のハリも今一つのように見えた。しかし、6名の審査員は、鈴木に1位をつけたのである。その差は、2位の田代と10kgという体重の差があったとしか説明がつかない!!

一昨年鈴木と合戸が、優勝をかけて激しく競り合ったことがあった。双方ベストに近い出来であったから結果は体重差で出た。オーバーオールの大会では当然の結果として受け止めなければならないが、私のみたところ、今年に限っては逆のように見えた。ポージングも意識して質を変えたようだが、結果に繋がらず、いつもの隙のない完成度には遠かった。日本の中重量級を代表して世界に結果を残すなら、今回の優勝に甘んじることなく精進してほしい。それだけ期待されているのだから!!

2位田代。私が見たところ、連覇していた頃より完成度は高くなっていたようだ!!以前弱点がないことからミスターパーフェクトと呼ばれていたが、皮膚感には厳しさは出てなかった。今年の田代は70kgを切っていたらしいが、以前より厚みが感じられて安定感もあったし、厳しさも群を抜いていた。田代は、ポージングの技巧派ではないが、決まった時のバランスは素晴らしい。あまり膝を使わないので重心が高く、ポーズによって棒立ちに見えてしまうことっもある。かわらないのは舞台上の様子で、不安そうに落ち着きが無いように見えることである。舞台にあがったら最後、体に似合う凛とした威厳をもってほしい。細かいことは抜きにしたら、今年は見事なカンバックであった。2位と云う結果を、本人がどのように受け止めたかは知る由もないが、まずは拍手を送りたい。予選と決勝でそれぞれ1位が一票あったが、それ以外は全て2位。

3位合戸。フロントやサイドで見せる胸筋に、特に筋量を感じた。選曲が良かったのかポージングにも臨場感が表れて、以前のようにマッスルのみを強調するところが無くなっていた。しかし、ポージングテクニックが上がったと思ったのも前半だけで後半は、腕の位置だけを変えてマッスルを強調するいつものポージングに戻っていた。鈴木・田代と比べれば、弱点はあることはあるが、それ以外では例年通りの仕上がりで悪くはなっていない。強いて言えば、皮膚感に厳しさが足りなかったのではないか!?予選では全て3位であったが、決勝では山田に3位票を1つ持って行かれた。今後の課題は、何かアピールポイントを見つけることだとおもう。合戸も田代同様、舞台上でやや落ち着きなく見えるところがあるので、元チャンピオンらしくどっしりとしてほしい。

4位山田。今年の日本クラス別80kg級では須山に後れをとったが、負けたとはいえこの時の山田のポージングは素晴らしかった。ポーズのイリ、キメ、ヌケ、どれをとっても無駄がなく、最高の出来であった。その時と比べると少々不安定さはあったが、やはり魅せるポージングは出来ていた。日本選手権と云う特別な舞台で、100パーセントの力を発揮することのむずかしさは、経験したことのある者だけが知るところである。フリーポーズで見せた今回のポージングは、一つの欠点も見せることなく、気が付いたら終わっていた。上手いポージングには感心するが、魅せるポージングには引き込まれるものがある。フリーポーズ審査でもっと順位が上がると予想したが、山田のフリーポーズを評価したのは2名の審査員だけだった。日本クラス別の雪辱は果たしたものの、昨年と同じ4位に終わったことには悔しさが残るだろう!?

5位須山。昨年は、全くの失敗だったにもかかわらず入賞したことに、批判の残るところもあったが、今年は須山らしい仕上がりで期待を持たせてくれた。リラックスしている時には平和な表情を見せているが、いざ戦闘モードになると凄まじいまでに豹変する不思議なマッスルは、他には見られないものである。刃物で刻んだような鋭いカットがありながら量感ももっている。仕上げてこの状態は、オフでもよほど除脂肪体重が多いのだろう!?ここまでは良い面だけを述べてきたが、依然腕と脚の先細り感は否めない。ポージングにもバランスの悪いものがいくつかあった。正面と背面のポーズでは、両肩の位置が前後逆のとり方になっていたり、おおかたのポーズで重心が高く感じるのに、サイドポーズだけは必要以上に低くとり過ぎていたりしていた。今後鈴木や木澤と云った30代の選手が一丸となって、日本のボディビル界を牽引していくことになるだろうが、須山もその一人である。昨年の8位から盛り返して予選・決勝共に5位。

6位木澤。今年はいつになく充実していた。仕上がり、ポージング、舞台マナー、どれをとっても過去最高のように思えた。何よりも落ちついてとれていたポージングは、曲のアクセントにも上手くシンクロして滑らかなものであった。確かにポージングは上手くなっている。この先山田、須山との競り合いには目が離せないようになってきた。今後木澤に必要なものは、上体の張り出しである!!それには、肩や腕のボリュームアップだけでなく、姿勢にも工夫が必要だろう。日々のトレーニングでは、両肩をひろげることに留意してエクササイズしてほしい。昨年から一つ上がって、予選・決勝共に6位。

7位佐藤。今年の佐藤には、鬼気迫るものがあった。すごい集中力から繰り出されるポーズには、以前の佐藤にはなかった迫力を感じた。今年は、ジャパンオープン2位、日本クラス別70kg級優勝と結果も出して来たが、昨年ピックアップで2票しか取れなかったことを考えると大躍進である。今年のファイナリストのなかではけっして大きい方ではないが、仕上がりが素晴らしいとここまで充実して見えるものかと感心させられた。ポーズを1つ1つ正確に決めていく隙のないポージングは、鈴木が初優勝した時のような緊張感が漂っていた。全体的にあと少しボリュームが付き、その上腕が太くなれば上位も望めるだろう。予選・決勝共に7位であったが、背中のカットの鮮明さに感心させられたことを付け加えておきたい。

8位相川。7位の佐藤とは、予選で1点、決勝で3点の差であった。僅差であったことは確かだが、一気に上がってきた佐藤とは、気迫の差が勝負の分かれ道になった。ポージングは昨年と違って落ち着いていたし、無駄なところも無かったが、どこかアピールポイントが足りないように思える。以前胸筋が弱いと指摘したことがあるが、昨年よりまた見やすくなったし、どこが悪いと云うことではないが結果に繋がってない。バランスがとれていることがかえってアピールポイントを失くす結果になっているかも知れない。徹底的に絞るとか、1部位(例えば腕)をことさら大きくするとか、ポージングのテクニックが劇的に良くなるとかと云ったイメージチェンジも一つの方法かも知れない。昨年の順位こそ一つ上げたが、予選・決勝共に8位。

9位谷野。全体的な筋量は落ちてないが、昨年より部分的に甘いところがあった。昨年は、それまでの低迷を払拭するような活き活きしたポージングを見せてくれたが、今年は、ことさら腕を強調したり、ワイド感をだすべきバックポーズで上手く見せられなかったり、ポーズの選び方に問題があったのではないか!!魅せ方は相変わらず上手いが、弱いところまで上手く見せようとすることが、かえってマイナスになってしまったようだ!?昨年の6位から3つ落として予選・決勝共に9位。

10位林。昨年のファイナリストで、二次ピックアップで指名されたのは、林と近藤だけである。いつも通りきれいな皮膚感で仕上げてきたのは立派であるが、嵩が少し小さくなったような感じがするのは、上体の厚みが落ちたからか!?ポージングはオーソドックスながら、1つずつ正確に決めていく几帳面さには好感が持てる。バックの仕上がりに自信を持っているのか、数回とったバックポーズでは、ダブルバイセプスに拡がりが出ていなかった反面、サイドバックポーズの角度は正確にとられていた。昨年は12位だったが、2つ上げて予選・決勝共に10位。
 
11位須江。須江ファンにはショックな結果になってしまったが、二次ピックアップではずした審査員が二人もいたことからもわかるように、今回の調整は悪過ぎた。映像や遠くから見た目にはもっと良く映ったことだろうが、間近で見ている審査員には全てが見えている。しかし、今回の仕上がりにもかかわらず、ポージングを始めた途端観ている者が魅入ってしまうテクニックはさすがである。曲のアクセントに上手くあわせるタイミングも絶妙で、エンディングにいたっては感動さえ覚えた。正直なところ、万全な仕上がりでこのポージングを観て見たかった。昨年の5位から6つ落とした原因は、本人が一番知るところだろう!?予選・決勝共に11位。
 
12位近藤。山崎と、12番目の入賞をかけて同点決勝をあらそった結果最下位になったことはやむを得ないし、二次ピックアップでは、4名の審査員がはずしていたのである。フリーポーズの名手なればこそ1つでも2つでも挽回してくれるかと期待はしていたが、やはり、厳しさの足りない仕上がりでは無理だった!!いつも通りの上手いポージングのようにみえていたが、自信がある時の近藤には程遠かった。
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今年のJBBF主催大会のラストを飾る日本選手権のすべての審査を終了し、表彰される選手達には、さぞかし悲喜こもごも複雑な思いが巡っていることだろう!?いよいよ最後のモストマスキュラー賞とベストアーティスティック賞の発表を待つばかりとなり、少しの間をおいて鈴木のダブル受賞が発表された。この結果をどう見るかは観る側の想いもあるだろうが、結局ディフェンディングチャンピオンの強みを活かした鈴木の完全勝利という形で幕を閉じたのである。

世界選手権派遣選手選考委員会では、70kg級に田代と合戸、80kg級には鈴木が、それぞれ選ばれた。世界選手権に田代と合戸が同階級に出場した場合、何故か合戸が評価されて来た。田代に負けた悔しさを、世界の舞台で晴らしてきた合戸の心意気が、今回も見られるのか? また、三連覇を達成した鈴木にいたっては、世界でどこまで通用するのか、興味はつきないところだが、この号が出るころにはすでに結果も判明しているはずである。
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  • 中尾尚志(なかお・たかし)
    1945年京都市生まれ (社)日本ボディビル連盟一級指導員・一級審査員
    IFBB(国際ボディビルダーズ連盟)国際審査員、
    日本体育施設協会トレーニング指導士
    (社)日本ボディビル連盟専務理事
    (社)日本ボディビル連盟審査委員会委員長
    京都府ボディビル連盟理事長
    アキレストップジム代表

写真/
徳江正之
[ 月刊ボディビルディング 2013年1月号 ]

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