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トップ選手のトレーニング ”バスケットボール” #3 日本バスケットボール協会 スポーツパフォーマンス部会長 アスレチックトレーナー 佐藤 晃一

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掲載日:2018.03.26
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選手の育成・強化に広く関わることになる中核的な部門であるスポーツパフォーマンス部会の部会長として、NBAをはじめ世界のトップチームで長年経験を積み多くの実績を残してきたアスレチックトレーナーの佐藤晃一氏に、「バスケット×フィジカルトレーニング」をテーマに話を伺った。

代表強化のための取り組み

JBAのスポーツパフォーマンススタッフは、選手のメディカル面を主に担当するアスレチックトレーナー、トレーニングを主に担当するスポーツパフォーマンスコーチで構成されていますが、選手育成・強化のために、役割や男女の垣根をなく協力して仕事に取り組んでいます。

アメリカでも日本でも、メディカルとトレーニングの間にはまだ壁があるように思います。あの選手は自分が担当しているとか、この分野は自分が任されているというように暗黙のうちに自分の領域というのができてしまうようです。
少々おこがましいですが、自分としてはそういったことよりも選手やチーム全体が良くなればなんでもいいのではないかと思います。また、チームや選手のためにそれぞれの視点からアイディアを出せる環境は、チームや選手だけでなく、スタッフ同士にとっても学ぶ場になります。
自分でやり方がわかっていても、あえて他のスタッフに頼んで自分とは違った方法を学ぶ場にすることもできます。もちろん、自分がわからなければどんどん他の人に頼ります。

我々は、メディカルとトレーニングの壁を超えて、一般的にバスケコーチが担当するバスケ練習の場にも介入しています。
選手があるバスケスキルをなかなか習得できない時、我々の専門分野の立場からスキル向上に手を差し伸べるという形です。例えば、先日行われた女子A代表、ユニバ、U19合同合宿では、トレーニングの時間を使って、インサイドピボットの動き作りを行いました。インサイドピボットは、A代表の監督が日本の女子がさらに競技力をあげるために向上する必要のあるスキルの一つとしてあげているものです。

「これがインサイドピボットです。はいやってみましょう。」というものではなく、インサイドピボットを行うために必要な姿勢や可動域、それを出すためのストレッチ、必要な筋力等をスライドを使って説明して、その後にインサイドピボットの下地となる基礎的なエクササイズを行い、徐々に形を作っていき、最終的にボールを使った練習に繋げるというものでした。

技術コーチへの提案

このような取り組みは、ユースの技術練習中には自分からより積極的に行っています。

これは、これまでの活動を通じて、技術コーチに我々の取り組みの効果を認めていただき、信頼関係が確立しているゆえの活動です。

何かの技術を練習している時、先程のインサイドピボットのように、これを教えたら動きが良くなると思うエクササイズがあれば、練習中であってもコーチに一旦練習を止めてもらってエクササイズを実施します。

バスケのスキルを専門に教えているコーチにとっては非常に余計なお世話かと思いますが、今までさじを投げていた選手の解決方法がわかったというフィードバックをコーチから頂いています。

我々はバスケスキルの指導において、体の動きを治療的、フィジカル的な面からスキルコーチとは別な視点からアプローチすることができます。例えば、バスケに限らないかと思いますが、ディフェンスの時によく腰を落とせと言う指示が出ます。

腰を落とせない選手を見て指導者は、単純にこの選手はやる気がない、もしくは指導者のいうことを聞こうとしていない、と思うかもしれません。しかし、その選手は一所懸命腰を落とそうとしているにもかかわらず、関節や骨格の構造が理由でできないかもしれません。
その場合、我々の視点から選手を評価し、腰を落とせるようにできるエクササイズを提供してあげることができると思います。

このような流れができると、選手が我々に直接アドバイスを求めてくることもあります。例えば、バスケットにドライブするスピードをあげたいという選手がいました。彼の場合、ドライブの一歩目が大切、という意識が大きく、一歩目を大きく出し過ぎていました。
結果として一歩目がオーバーストライド(大股)になり、二歩目が出にくくなりスピードが遅くなってしまっていました。彼は、一歩目をいつもより小さめに出してすぐに足を地面に叩きつけるようにドライブするように指導したところ、スムーズに加速ができるようになりました。

意見の聞き方、提案の仕方で大きく変わる

チームには様々なスタッフが関わっているので、当然のことですがコミュニケーションは重要です。選手がコーチの指導を素直に受け入れる姿勢が必要なように、我々指導者にも同じ姿勢が必要だと思います。

何か提案があった時の反応として「あ、そんなやり方があったんだ」、「それはおもしろい、やってみよう」というように感謝の気持ちをもって自分の技術として吸収する。
あるいは同じ提案を自分のやり方へ対する批判としてとるか。単純なアドバイスや意見の捉え方により、その先が大きく変わってくると思います。自分で学ぶチャンスを削ってしまうともったいないです。

選手の前だったりすると「このコーチはこれを知らないんだな」と思われたくないということもあると思います。これは常に意識しています。

同時に、提案する際も上手な伝え方を心がけています。その場ですぐに言わなくても、練習が終わった時に「そう言えばこういうやり方もあるみたいです」くらいの言い方から入るなど、タイミング、言葉遣い等々、素直に受け入れてもらえるように心がけています。

最後に

NBAでの経験があるので、NBAを目指している学生さんに将来のアドバイスを求められることがあります。私は「NBA」という目標が明確にあったわけではないし、NBAで働いている人にはそれぞれそこにたどり着いた道のりがあるので、これ、という方法は提示できないのですが、「知的好奇心と美的感受性を養う」ことを薦めています。
これは私が、NBAを含めて素晴らしい経験を重ねることができたのは、知的好奇心をもち、多くの人に出会い、ジャンルを問わず様々な事に興味を持ち情報収集をして見識を深める過程で、次のステップや挑戦へのきっかけを感じるための感受性を持ち合わせていたからだと思うからです。

数学界には「美しいものは正しい」という言葉があるそうです。数字で物事を扱う数学で「美しさ」という数字では表せない表現を使う。
物事の判断をする際、論理ではなく直感が大事である、というのはこういうことであり、その直感は美的感受性に関係しているような気がします。
そして、美的感受性は人工的な美しさではなく、自然の美しさを感じる力だと思います。また、その感受性はきっかけに気づくために不可欠だと思います。

映画監督のスティーヴン・スピルバーグ氏は「夢は正面からあなたにこうなりなさい、こうすべきだとは話しかけない。夢は背後から囁いてくる。その囁きを聞く準備ができているか、囁きに気がつけるかが大事。」と述べています。
日常生活で自分をより良い方向へ導くきっかけに気づけるかは、この感受性を持ち合わせているかにかかっているような気がします。

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