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トレーニング現場におけるデータ取得とそのフィードバック方法#1 ~選手やコーチの主観も生かした情報抽出のあり方~

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掲載日:2018.08.15
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特定非営利活動法人NSCAジャパン ストレングス&コンディショニングフォーラム2018より、鹿屋体育大学教授 鹿屋体育大学スポーツトレーニング教育研究センター センター長、山本正嘉氏の講演をレポート。
最初にまずは自分のことを少しお話させて頂きます。
およそ35年間、体育大生への講義を続けておりますが、学生一人一人が本当に満足する授業とはどういったあり方が必要かを考えてきましたが、うまくいかずに悩むこともありました。

講義を受ける学生はそれぞれのスポーツ種目やレベルが違うので、特定の競技だけを深く掘り下げていくわけにもいきません。だからといって教科書的なことだけをやっても面白くない。

耳寄りな新情報を言うと、聞いてくれはしますが聞くだけで終わってしまう。長きにわたる試行錯誤の末、「学生自身がどうやったら強くなれるか」ということを教えていかないといけないという結論に至りました。

その一環として辿り着いたのが本日させて頂く話で、データを自分に役立てていくということです。
データは他の人のためだけではなく、自分自身のパフォーマンスを上げることにも活用できます。

データはすぐに取れる

「データを得る」と言うと何か難しくて高価な機械を使わなければ得られないものというイメージがありますが、今日からでも明日からでも、やろうと思えばすぐにできるものだと言うことを教えるようになってからは、学生も話を良く聞いてくれるようになりました。
講義中に寝なくなったし、話もしなくなりました。

本日お集まりの皆様は、関わっている種目も内容も全く異なっていますので、どこに焦点を合わせていくかと考えた時に、皆様一人一人が各々の現場でデータを取り、より強くなっていくということを目的にお話をさせて頂ければと思います。

データで表すことがなぜ必要か、どんなメリットがあるのか。
機械を使った測定だけでなく、主観によるものも非常に重要なデータになります。
そしてそれらのデータが集まってくると、その先もある程度予測することもできるようになります。

弱点を見つけて改善した自転車競技選手の例

自分のゼミで自転車ロード競技をやっている選手の論文で、本人は一生懸命にやっていたが、成績が不本意に終わってしまったということがありました。

そこで、その時の心拍数や、その時期の典型的なトレーニングメニュー実施時の心拍数を測ってみると、レースで重要な高強度領域での運動時間が不足していたことがわかりました。これではレースに勝てない。
そのため、高強度トレーニングの増加を目的として小規模なレースに積極的に参加をしていったところ、秋のインカレでは心拍数を高強度領域で長時間維持することができて優勝しました。

この一連をまとめて整理しますと、選手は漠然と問題を抱えています。練習は一生懸命に行っているが、結果が良くならない。

そこで、以下の「記述、説明、予測、操作」の4つの流れに基づいて考えていきます。

・レース練習中の心拍数を測ってみる(記述=データ)

→練習中の心拍数は試合時のレベルと全くマッチしていなかった(説明)

→両者がマッチする練習を増やしてみると良いのでは?(予測)

→成果が出て優勝(操作が成功)

後ほど紹介しますが、この「記述、説明、予測、操作」という部分が非常に大事になります。
データを活用すれば、こういう4段階を経て自分で自分のパフォーマンスを上げることが可能になるのです。

GPSを活用して動きを可視化したサッカー選手の例

次に、大学のサッカー選手においてゲーム中の複雑な動きを可視化して確認することで改善につながった例も紹介します。

最近ではGPSの技術が発達していて、装着したベストにキーケースくらいのGPSを入れて試合を行うと、移動速度やフィールド上の位置が記録されます。
対象の選手はフォワードなのですが、移動軌跡を可視化した結果、ペナルティエリアに入ることが少なく、結果として得点を入れるチャンスも少ないことがわかりました。これでは得点は入らない。選手、コーチともに共通認識とすることができました。
その後、試合や練習時のデータを毎回フィードバックしながら、とにかくペナルティエリアに高速で走り込むようにコーチが指示し、選手もそのように努力した結果、同大学との対戦において前期では1得点だけだったのに対し、後期では3得点を入れることができました。
この場合、「フォワードで頑張っているつもりなのに思うように点が取れない」と漠然と抱えていた問題点に対して以下のようになります。

フォワードとしての動きがちゃんとできているかをGPSで調べてみよう(記述=データ)

→フォワードにとって重要なゴールへの走り込みが少なかった(説明)

→とにかくペナルティエリアに走り込むことを意識すれば改善するのでは?(予測)

→フォワードらしい動きができるようになり、得点数が増加した(操作が成功)

これはGPSの技術をスポーツに活用することで問題の所在が明確になり、それを選手とコーチが共有して改善ができた例です。


続き:トレーニング現場におけるデータ取得とそのフィードバック方法#2