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一般運動指導 ~運動指導のリテラシー~#1 新潟大学名誉教授 NSCAジャパン理事長 篠田邦彦

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掲載日:2018.12.07
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2018年10月13日に作新学院大学にて行われた、特定非営利活動法人NSCAジャパン 北関東・東北地域S&Cシンポジウムにおける新潟大学名誉教授 NSCAジャパン理事長 篠田邦彦氏(PhD ACSM/EP-C CSCS,*D)の講演をレポート!

運動を指導するということは、他者の人生に介入してライフスタイルを変えるよう働きかけることです。その方の価値観や方向性を変えてしまうわけですから大きな責任があります。

NSCAでは研究で明らかになったことをエビデンスとして現場で活用できるよう提供しています。そして研究者は現場の問題を研究して解決策を現場へ戻す。それらの責任を全うし、橋渡しをする役割を担っています。

グッドコーチに向けた7つの提言

1.暴力やあらゆるハラスメントの根絶に全力を尽くす
2.自らの人間力を高める
3.常に学び続ける
4.プレーヤーのことを最優先に考える
5.自立したプレーヤーを育てる
6.社会に開かれたコーチングに努める
7.コーチの社会的信頼を高める


スポーツに関わる全ての人々が「7つの提言」を参考にして新しい時代にふさわしい正しいコーチングを実現することを期待します。

アントラージュとは

フランス語で取り巻きや環境等の競技環境を整えることを意味する言葉で、アスリートがパフォーマンスを最大限発揮できるように連携、協力する関係者のことを指します。

平成25年6月28日に選手たちの最善の環境を提供し支援することを目的として、竹田恆和会長より以下の4つの役割を担うアントラージュ専門部会を設置することが提案され、高橋尚子部会長を中心に活動を行っています。

・選手に最善の環境を提供する活動に関すること
・選手の健康、社会的発展と倫理の保護に関すること
・選手を支援するすべての関係者の連携及び連絡調整に関すること
・選手、コーチ及び選手を支援するすべての関係者の教育・研修に関すること

運動指導をめぐる諸問題

昔から「スポーツをすれば健康になる」と言われることが少なくなかったのですが、「健康度を上げてからスポーツをする」ように考え方を変えることが大事です。
そのときの「健康」という目標は人によって異なるので、その人のニーズに合致した「ニーズマッチド・プログラムデザイン」が求められます。

昨今では70~80歳代の体力が高まったというデータがありますがこれは体力が高まっているというよりは、元々健康だった人が70~80歳になってきたと考えるのが妥当です。データの読み方にも気をつける必要があります。

昨今、国民は全体的に体力が低下傾向にあり、特に子供においては顕著です。

カナダのゴルファー育成長期プログラムの一例

ここで育成長期プログラムの一例を紹介します。入門をしたら、最初は楽しみながら基本を学んで行きます。まずは第一に楽しくなければ続きません。しかしもちろん面白おかしくやればいいというわけでもありませんので、やり方を常に工夫して進めていくことが必要です。

その次にプレーの仕方や作法、習慣を学ぶ。そしてようやく競技の仕方を習得していき最後にそれらを研ぎ澄ますための作法や手順を学んでいきます。いきなり専門性の高い練習方法からは入らず、楽しむという運動の本質的な要素を取り入れています。

長期育成プログラムを成功に導く10の要因

①10年ルール
一流選手を調べた結果によれば、国際エリートレベルの競技力に到達するには約10年、あるいは10,000時間が必要である。

②基礎づくりを楽しく
低年齢における基礎的動きづくり、スキル形成は遊びの要素に基づく楽しい運動・身体活動で行うことが大切である。
楽しいスポーツスキルづくりにはあらゆるスポーツスタイルに共通する要因である、走る、跳ぶ、投げるに通じるもので構成することが求められる。

③種目特化
スポーツ種目には、比較的早期に特化戦略をとる種目と、ゆっくり特化を図る種目の2つに分けられる。
早期:技術的、アクロバティック種目(ゴルフ、体操競技、フィギュアスケートなど)
ゆっくり特化との違いは成長期終了後に習得しようとすることが困難な、複合スキルを早期に習得させるという点にある。
この点に関しては早期特化で一つの競技に専念するよりも、より多様性のある多くの動きのほうが将来的なリスクやパフォーマンスにも良い影響を与える事がわかっています。

④発育年齡の問題
いつ開始し、本格的トレーニングをいつから始めるかは身体的(肉体的)、精神的、認知的、そして情緒的成熟度を考慮して決定すべきである。

⑤トレーナビリティと適応
トレーニングとパフォーマンスの基本となる5つの「S」

Stamina:スタミナ(持久力)
Strength:ストレングス(筋力)
Speed:スピード
Skill:スキル(技術)
Suppleness:しなやかさ(柔軟性)

⑥身体的、精神的、認知的、情緒的発達
長期育成プログラムの主要な目的は競技選手を包括的アプローチにより育成することである。その際に、従来から行われている身体的、技術的、戦術的トレーニングに加えて精神的、認知的、情緒的発育を考慮に入れる事が重要である。その中で特に倫理的側面、すなわちフェアプレイと性格形成が大切。

⑦ピリオダイゼーション(期分け)
長期的展望に基づき、育成計画や時間配分を考えることが重要。
今はものすごく試合の量が多くなってきています。毎週のように休み無く試合があるチームもありますので、リカバリをしっかりと考えるようにしたいものです。

⑧競技までのカレンダー
競技会に出場するまでの計画、出場することで何を得ようとするかを考える事が大切。

⑨育成システムの協働
学校、競技団体など様々な組織の協働を図ることが重要。

⑩継続的なシステムの協働
科学的研究成果、選手、コーチ、保護者などの意見により全体的な改善を図る。

成長期にみられる整形外科的疾患の傾向

・小中学生の障害
骨端付近の外傷・障害が多く見られる

・中学生の障害
筋腱付着部の骨軟骨障害

・高校生の障害
軟部組織障害:筋肉、腱、靭帯、神経

成長期は年齡により整形外科的疾患の発生しやすい部位や状況が変わるので、それぞれの年代に合わせたリスク管理が重要になります。

生活習慣の修正 3つの「8」

・腹八分目
・8時間睡眠
・夜8時以降ものを食べない


生体リズムが働くことで初めて運動や栄養摂取の効果が十分に発揮されます。本日この会場にも昨夜8時以降にものを食べた方も多いかと思いますがぜひできるだけ留意してみてください。

基本原理はシンプル!4色の運動

身体を活動させる機能の維持向上のために、特性別に4色に分類した考え方を紹介します。

赤-持久性-小さい力(長時間の運動)-動き続ける力

白-筋力・パワー-大きな力発揮-身体を支える、物を持つ

青-柔軟性-関節の可動範囲-動きやすい身体

緑-神経-筋 協応能-動きを調整 巧みさ-思い通りに動く

これらをどれか一つに偏ることなく、バランスよく行うことが理想です。


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